検証:WHOは中国寄りか?(2)

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    WHO130日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。この過程を検証してみます。

     

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    120日、中国は一転して、ヒト-ヒト間の感染を認めることになります。武漢市の感染拡大は深刻化していました。中国共産党もようやくこの事態に危機感を抱くようになり、123日の武漢市封鎖につながっていきます。

     

    122日、WHOで緊急委員会が招集されました。新型ウイルスの感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に当たるかどうかを検討するためです。PHEICとは、WHOが定める国際保健規則(IHR)において、疾病の国際的拡大により、他国に公衆衛生上の危険をもたらすと認められる事態、および緊急に国際的対策の調整が必要な事態のことを指します。これまで、2009年の新型インフルエンザ、2014年の野生型ポリオウイルス、2014年のエボラ出血熱、2016年のジカ熱、2019年のエボラ出血熱でPHEICが宣言されています。

     

    この時、中国国内の感染者は合計309人。武漢市の270人の他に湖北省各地、北京、上海など中国各地で感染者がではじめていました。また、タイで2人、日本で1人、韓国で1人の感染者が発生していました。感染が武漢市から中国各地へ、そして海外へと広がりはじめていたのです。WHOが患者発生を最初に報告してから3週間。SARSに近縁なウイルスの出現、ヒト-ヒト間での感染確認、武漢市での感染拡大、武漢市以外への感染の広がりという状況からすれば、WHOは迅速に動き、世界に警鐘を鳴らすべき時期にきていました。

     

    しかし、中国からの報告で始まった会議は紛糾しました。PHEICを宣言すべきという意見に対して、中国は「ヒトからヒトへの感染が発生しているが、どのくらい効率よく感染するかは明らかではない。感染力はそれほど強くないかもしれない。データが不足しており、PHEICを宣言するのは時期尚早」と強硬に主張しました。面子にこだわる中国は、中国発のウイルスでPHEICを出したくないと考えていたのです。委員会参加者の半分は中国に同調。この日の会議で結論は出ず、翌日、改めて会議がもたれることになりました。

     

    会議の後の記者会見で、テドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は次のように述べています。

     

    「私は中国代表者のプレゼンテーションの詳細さと深さに非常に感銘を受けました。また、私がここ数日直接話し合った中国の保健大臣の協力にも感謝します。彼のリーダーシップ、および習近平国家主席と李克強首相の強力な指示は非常に貴重です」

     

    この日、緊急委員会は中国へのアドバイスとして、集団感染の封じこめと緩和のための公衆衛生対策を強化すること、春節の休み中に中国全土で監視と積極的な症例発見体制を強化すること、州の国際空港と港で出国の際のスクリーニングを実施し、発熱している旅行者を早期に発見して、国際交通への影響を最小限に抑えること、必要に応じて国内の空港、鉄道駅、長距離バスの駅でのスクリーニングを行うことを奨励しました。

     

    しかし、インフルエンザの流行に際していかなる移動制限も推奨しないという立場を以前からとっているWHOは、新たなウイルスの出現に際しても、春節の休みの大移動で感染が中国国内さらには国外にまで広がることを防止するための、移動制限を含む積極的な対策を中国側に強く求めることはありませんでした。こうして中国は春節をむかえ、感染は世界に広がっていったのです。

     

    23日の会議でも、結局意見は真っ二つに分かれたままで、PHEICを宣言するという結論には至りませんでした。WHO内での中国の影響力が大きいことがわかります。

     

    テドロス事務局長は10日以内にもう一度会議を開くことにしました。しかし、その間にも感染拡大は続き、127日には中国の感染者数は4537人、死者106人となり、海外でも14か国で合計56人の感染者が確認されました。

     

    テドロス事務局長は128日に北京に飛び、習近平国家主席と会見しました。「中国の指導者から感染拡大に関する対応について説明を受け、WHO側から技術支援を提供するため」とされていますが、実際には、中国の国際的イメージをダウンさせるPHEICを宣言せざるを得ない事情を習近平国家主席に説明することが目的だったとみられています。WHOの専門家チームは1週間前の12021日に武漢を訪問して情報収集を行っており、この時期に改めで中国を訪問して情報交換する必然性はありませんでした。テドロス事務局長は2017年、WHO事務局長のポストをイギリスのデイビッド・ナバロと争い、中国の支援を得て選挙に勝ったという経緯があります。

     

    129日、ジュネーブに戻ったテドロス事務局長は、記者会見で以下のように述べました。

     

    「私は習近平国家主席が今回のアウトブレイクについて詳しく知っており、対応に自ら関与していることに非常に励まされ、また感銘を受けました。たぐいまれなリーダーシップです。習国家主席は、彼らが取っている措置は中国だけでなく、世界の国々にとっても良いことだといっていました」「ご存じのように、現在全世界で6065人の感染者がおり、このうち中国は5997人で、世界中の全感染者のほぼ99%を占めています。中国では132人が命を落としましたが、中国以外では死亡例はありません。これまでに中国国外では68人の感染者しか見られず、死者も出ていないという事実は、中国政府が感染を国外にもち出さないためにとった異例ともいえる措置によるものです。中国の行動は私たちの感謝と尊敬に値するものです。中国は彼らの経済や他の要素を犠牲にしながら、それを行っているのです」

     

    つまり、中国が犠牲をはらってウイルスと戦っているがゆえに、世界への拡散は食い止められているのであり、世界は中国に感謝すべきというわけです。テドロス事務局長の楽観的な見通しとは裏腹に、世界各国での感染はその後急速に拡大し、中国がウイルス封じ込めに失敗したことが明らかになっていくのですが。

     

    テドロス事務局長に同行したWHO健康緊急プログラムのエグゼクティブ・ディレクター、マイケル・ライアンも、「中国への旅行中、私たちはあらゆるレベルでの中国政府の関与に非常に感銘を受けました」と、中国の対応を賞賛しました。ライアンはまた、「中国はこの疾病について透明性を持っていると思いますか」という記者からの質問に、以下のように答えました。

     

    「中国は私たちに毎日症例を報告することに非常にオープンです。透明性の欠如は見られません。私は2002年と2003年にSARSに関与しましたが、その時の経験から、当時の中国の行動と現在の中国の行動を比較することはできないと考えています」「中国を指差す前に、私たちは新しい疾病に関するデータ共有にはセンシティブな要素があることを認識する必要があると思います。今回のケースでいえば、ウイルスに感染した国々は、中国を含めて非常に透明性が高いと思います」

     

    200211月に広東省でSRASが発生した際、WHOは中国政府に対して、詳細な情報の提供と現地への調査チームを受け入れるよう要請しました。しかし、中国政府はこれを拒否。中国政府がWHOに情報を提供し、調査チームを受け入れたのは20034月でした。当時、煮え湯を飲まされたはずのライアンは、今の中国は違うと主張していますが、今回の感染でも、武漢市でのアウトブレイク直後には当局によるかん口令がしかれたことが今では明らかになっています。また、新型コロナウイルスの感染者や死亡者の統計にも不透明さが指摘されているのは、周知のとおりです。

     

    130日、緊急委員会が開催され、WHO1週間遅れでPHEICを宣言しました。テドロス事務局長は記者会見で以下のように述べました。

     

    「私が北京から帰国して以来何度も言ってきたように、中国国民に深刻な社会的および経済的影響を与えているにもかかわらず、中国政府がウイルス封じ込めのためにとっている並外れた措置は賞賛に値するものです。中国政府が自国民と世界の人々を守るために行った対応がなければ、これまでに中国以外でもっと多くの症例が見られたでしょう」「新しいコロナウイルスの世界的なアウトブレイクに対して、私は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。この宣言の主な理由は、中国で起こっていることが原因ではなく、他の国で起こっていることが原因です」「この宣言は中国への不信任投票ではありません。それどころか、WHOは中国のアウトブレイクを制御する能力に対して確信をもっています。私はほんの数日前に中国で習近平国家主席と会談しました。私は中国が透明性を保ち、今後も世界の人々を守る取り組みを続けることにまったく疑いをもっていません」

     

    テドロス事務局長はさらに、新華社の記者からの「この宣言後に各国がとりうる極端な措置は何ですか。それに対してWHOはそれにどのように対応しますか」という質問に、以下のように答えました。

     

    「私たちは中国が行っていることに対して敬意と感謝の意を表明すべきです。中国は他の国へウイルスを広めないよう信じられないほどのことをしています。どこかの国が何か措置を講じようとするなら、それは間違いです。WHOは中国に対する旅行や貿易の制限、あるいはその他の中国に対する措置を推奨しておらず、実際には反対します」

     

    中国は新型コロナウイルスの感染拡大によって世界からシャットダウンされ、中国経済に大きな影響が出ることを懸念していたのですが、WHOPHEIC宣言後も、中国への渡航制限、および中国からの旅行者の入国制限に反対する立場を改めて表明したわけです。

     

    この頃から、各国は中国にいる自国民を本国に帰還させる措置や中国への渡航制限措置を取りはじめます。次第に中国は世界から切り離されていきます。こうした動きに対して、WHO211日に「新規コロナウイルスの発生に関連した旅行者の本国帰還と検疫に関する重要な考慮事項」を発表しました。この中では本国への帰還や中国への渡航制限に関し、以下のように述べられています。

     

    2020130日、WHO事務局長は国際保健規則に基づく緊急委員会の助言にもとづいて、新規コロナウイルスの発生を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)と宣言した。その決定にしたがい、WHOは現在の情報に基づいて旅行や貿易の制限を推奨しないとした。24時間を超えて国際交通を著しく妨害するような措置は、アウトブレイク封じ込めの初期段階では、公衆衛生上意味をもっていると考えられる。そのような措置は、感染の影響を受けた国にとって対策をとるための時間をもたらし、まだ感染してない国にとっては防御の準備をする時間をもたらすからである。ただし、このような制限は期間を短くすべきで、状況の変化に応じて定期的に再検討する必要がある。

     

    テドロス事務局長のあまりの中国寄りの発言に対して、やがて記者から質問が出るようになりました。212日の記者会見では、ユーロニュースの記者から「中国政府はWHOに対して、中国がしていることを賞賛するように圧力をかけているのですか」という質問が出ました。これに対してテドロス事務局長は10分以上にわたって熱弁をふるいます。その主な内容は以下の通りです。

     

    「理事会において、ほとんどすべての加盟国が中国の功績を称賛しています。中国の行動が私たちをより安全にしていると言っています」「中国がしていることに対してWHOが感謝することに、多くの圧力があることを私は知っています。しかし、私たちは圧力に屈して真実を語らないわけにはいきません。私たちは真実を語るべきです。中国は賞賛されることを要求する必要はありません」「もう一つ追加します。私たちは習国家主席に会いました。私たちは感染発生について彼がもっている知識のレベルを知りました。私たちは、彼が直接感染拡大を防止する対策を率いていることを直接知りました。私たちが常に政府の関与、政治的なリーダーシップを要請していることをあなたもご存知でしょう。それを私たちは見たのです。あなたはそのようなリーダーシップに感謝しないのですか?」「これは非常に深刻なウイルスです。中国はウイルスの拡散を遅くするために多くの良いことを行っています。事実がそれを物語っており、私たちはそれを考えなければいけません。感染者数を見ると、中国では4万人以上ですが、世界の他の地域では400人程度です。1人しか死んでいません。ですから、真実を語り、世界が判断できるようにしましょう。世界の他の地域は武漢や湖北省に比べて安全です」


    検証:WHOは中国寄りか?(1)

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      トランプ大統領はWHOが中国寄りだとしてWHOへの資金拠出を停止。一方、中国は約320億円の寄付を表明しました。ここにきて、WHOはコロナ後の世界のヘゲモニーをかけた対立の場となった感があります。はたして、トランプ大統領の主張は正しいのか、主にWHOの記録を用いて検証してみました。3回に分けて掲載します。

       

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      結論を先に述べると以下のようになります。

      ・テドロス事務局長だけでなく、WHO全体が中国の影響下にある。

      WHOは中国によってマイナスになるような発言や行動をしない。

      ・長い経験をもつWHOの専門家もテドロス事務局長の意向に非常に敏感で、おそらくWHO内部にはテドロス体制とでも呼ぶべきシステムができ上がっている。

       

      中国はアメリカと対決するため、国連や国際機関での影響力を強めています。現在のWHOの状況は、そうした中国の世界戦略の中で理解すべきと思います。

       

      まず、新型コロナウイルス発生時のWHOの初動について、みていきましょう。

       

      WHOが武漢市での肺炎患者の発生を中国側から最初に報告されたのは、20191231日のことでした。これまでの調査から、未知のウイルスによる肺炎患者の発生は1117日までさかのぼることができるとされています。また、武漢市の華南海鮮市場でのアウトブレイク以前に、2つのクラスターが発生していたことも分かっています。武漢市の医師の間で、未知のウイルスによる肺炎患者の発生がもっと早い時期から知られていた状況下で、WHOの中国事務所がその情報をまったく知らなかったのかどうかは、今後検証すべき課題です。

       

      1231日に武漢市の衛生健康委員会が発表した内容は、「武漢市の海鮮市場で27人のウイルス性肺炎患者が発生。うち7人は重症。明らかなヒトからヒトへの感染は確認されておらず、医療関係者も感染していない。専門家が病原ウイルスを調査中」というものでした。

       

      同委員会は13日には、「患者は44人に増え、うち11人が重症。濃厚接触者の追跡調査が行われている。ヒトからヒトへの明確な感染は確認されておらず、医療関係者も感染していない。病因の調査が進行中であるが、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス感染などの一般的な呼吸器疾患は除外されている」と発表しました。

       

      さらに15日には、「患者は合計59人でうち7人が重症。これら59人の患者の発症時期は、最も早いものは20191212日、最も新しいものは1229日。163人の濃厚接触者の追跡調査が進行中。ヒトからヒトへの明確な感染は確認されておらず、医療関係者の感染もない。病原となるウイルスの調査が行われているが、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などのウイルスは除外されている」という発表がありました。

       

      すなわち、11月中旬には原因不明の肺炎患者の発生がみられ、患者数は年が明けた頃には急速に増加していました。症状も原因ウイルスとしてSARSMERSのウイルスが疑われるほど深刻だったわけです。

       

      中国側からの報告を受け、WHO11日にIMST(インシデント管理サポートチーム)を設置して対応を開始。14日にはツイッターに「湖北省武漢市で肺炎患者のクラスターが発生、死亡例はなかった」と投稿しました。さらに15日に、以下のような内容の、新たなウイルスによる疾病発生のレポートを発表しました。

       

      20191231日、中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎の症例がWHOの中国事務所に報告された。202013日の時点で、原因不明の肺炎患者は44人、うち11人は重症で、残りの33人は安定した状態。原因ウイルスはまだ特定されていない。すべての患者が武漢市の医療機関に隔離され治療を受けている。症状は主に発熱、数人の患者は呼吸困難で、胸部レントゲン写真では両方の肺に侵襲性の病変がみられる。予備調査によると、ヒトからヒトへの感染のエビデンスはなく、医療従事者の感染も報告されていない。120人の濃厚接触者が医学的観察を受けている。ウイルスの同定作業が進行中である。

       

      WHOの発表は中国側の発表そのものでした。

       

      このレポートにおいて、WHOの各国へのアドバイスは、インフルエンザおよび重症急性呼吸器感染症に関する勧告が適用されるというものでした。旅行者のための特定の対策は推奨しておらず、「WHOは中国への旅行または貿易の制限を推奨しない」と述べられていました。

       

      その間にも、中国では原因ウイルスの特定作業が続いており、19日、新型のコロナウイルスが原因であることが発表されました。SARSMERSのウイルスと同じ仲間だったわけです。

       

      WHO110日に、以下のような内容のトラベル・アドバイスを発表しました。

       

      20191231日、原因不明の肺炎のクラスターが中国湖北省武漢市で報告された。19日、中国当局は、このウイルス性肺炎の原因が、これまでのヒトコロナウイルスとは異なる新しいタイプのコロナウイルスだと発表した。報告された患者の症状は主に発熱で、数人の患者は呼吸困難、胸部X線写真は両肺の浸潤を示している。予備調査では、ヒトからヒトへの重大な感染はなく、医療従事者の感染も発生していない。

       

      海外旅行者は武漢市に出入りする際、以下のようなリスク軽減策をとることを勧告する。すなわち、急性呼吸器感染症の人との密接な接触を避ける、病気の人や環境に触れた後は手を洗う、生きているまたは死んでいる家禽や野生動物との接触を避ける、急性呼吸器感染症の症状がある旅行者は咳エチケットを行う。国際的な移動を制限しないことを推奨する。武漢市は国内および海外旅行の主要ハブである。現在、武漢市以外での患者の報告はない。1月の最後の週からはじまるの中国の旧正月の休み中に大幅に増加すると予想される人口移動を考えると、他の場所から患者が報告されるリスクが増加するであろう。WHOは旅行者に特定の健康対策を推奨しない。入国の際のスクリーニングのメリットはほとんどないと考えられる。WHOは中国への旅行または貿易の制限を推奨しない。

       

      このように見てくると、「感染は武漢市に限られている。死者はいない。ヒトからヒトへの感染はない。中国あるいは武漢市への旅行に問題はない」というWHOの発表は、意図的であるか、結果的にそうなったのかは別として、武漢市のアウトブレイクをそれほど重大なものではないという情報操作を行っていた中国側の意図に沿ったものだったといえるでしょう。

       

      当時、武漢市では1月6日から10日まで、武漢市の人民代表大会および政治協商会議が行われており、11日から17日まで湖北省の人民代表大会と政治協商会議が開かれることになっていました。さらにその先には35日からの北京での全国人民代表会議が予定されていました(224日に延期が決定)。これらの重要な政治日程のさなかにアウトブレイクの深刻さを表沙汰にしたくないという意図が、少なくとも武漢市や湖北省の共産党幹部に働いていたことは、想像に難くありません。

       

      112日、中国は新型コロナウイルスの遺伝子配列を公開しました。13日にはタイで患者が発生。中国国外での最初の患者でした。

       

      この時期、中国側がこだわったのは、「ヒトからヒトへの感染がない」ということでした。もしも新型のコロナウイルスがヒトからヒトへ感染するものであれば、爆発的な感染拡大という重大な局面が懸念されます。一方、ヒトからヒトへの感染がなければ、2013年から何度か起こっている鳥インフルエンザAH7N9型)の感染のように、大規模には至りません。中国としてはこの時期、どうしても「ヒトからヒトへの感染がない」としたかったのでしょう。

       

      しかし、武漢市の医師たちは新型コロナウイルスがSARSウイルスと似ていることを知った時から、このウイルスがヒトからヒトに感染すると考えていました。そして実際、この時期に患者から医師への感染が始まっていたのです。濃厚接触者の追跡から、家族への感染もすでにこの頃に確認されていました。

       

      おそらくこうした状況が背景にあると推測されますが、WHO114日の記者会見において、WHOで新型コロナウイルスのテクニカルリードをつとめるマリア・ヴァン・ケルコーフは、「限定的ではあるが、主に家族間でヒトからヒトへの感染があったとみられる。感染が拡大するリスクがある」と述べました。ところがその日のうちに、WHOのツイッターに「ヒトからヒトへの感染を示す明確なエビデンスはない」という投稿がなされました。この投稿はWHOの中間管理職クラスの人物による指示で行われたもので、ヴァン・ケルコーフの発言を否定することが目的だったといわれています。WHOの中に、中国への明らかな忖度を行う人たちが存在することを示す例といえます。

       

      SARSMERSの専門家であるヴァン・ケルコーフやその他のWHOの専門家は、新型ウイルスがヒトからヒトに感染することを最初から認識していたと思われますが、この時期、WHOはこの問題に深入りすることはありませんでした。WHOの情報発信は総じて中国側が提供する情報の通りでした。


      新型コロナウイルスは環境中に長時間残存

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        新型コロナウイルスが環境中にどのくらい残存するかに関する新しい論文が、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表されました。

         

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        論文では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とSARSウイルス(SARS-CoV-1)を比較しています。これによると、新型コロナウイルスとSARSウイルスの残存性は同じ性質を示す場合と異なる場合があるようです。

         

        新型コロナウイルスがどのくらい残存しているかについては以下の通りです。銅の上では10時間くらいで消滅しますが、ボール紙上では50時間くらいは残存しています。

         

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        ステンレス鋼やプラスチック上ではさらに長く、ステンレス鋼では80時間くらい、プラスチック上では80時間以上残存します。

         

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        したがって、ウイルス感染を防ぐには手洗いだけでなく、日常生活で触れるものについて、できるだけアルコール消毒をする必要があります。

         

        さらに、新型コロナウイルスは空気中にエアロゾルの状態で数時間残っていることもわかりました。

         

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        上は、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された別の論文に掲載されている画像で、会話をしている際に飛び散る細かい飛沫を可視化したものです。飛沫は想像以上のスピードで広範囲に飛び散ります。

         

        したがって、閉ざされた空間あるいはそれに準じる密接した状況での会議、食事会、飲み会などでは新型コロナウイルスを含む飛沫やエアロゾルに持続的にさらされる可能性があり、非常に危険であるといえます。

         


        新型コロナウイルス:100年に1度のパンデミック

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          緊急事態宣言が発令され、日本の新型コロナウイルスとの戦いは新たな段階に入りました。人権を無視してまで感染を封じ込める中国式でも、国家の権限で強制的に感染防止対策を進める欧米型でもなく、国民全員の自覚と団結力でウイルスに立ち向かう日本型の対策が成功するかどうかが問われています。

           

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          すでに欧米の専門家の間では、今回の新型コロナウイルスの流行が100年に1度のパンデミックであるという認識が広がっています。私たちは4度のインフルエンザのパンデミックを経験しています。1918年のスペイン風邪、1957年のアジア風邪、1968年の香港風邪、そして2009年の新型インフルエンザです。これらのうち、100年前のスペイン風邪は規模がけた違いに大きく、世界で5000万人以上が死亡したといわれています。

           

          下の画像は私がアメリカ国立健康医学博物館から提供を受けたものです。1918年のパンデミックで一番有名な写真といっていいでしょう。カンザス州のアメリカ陸軍キャンプ・ファンストンに設置された臨時病床の写真です。

           

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          第二次世界大戦中の19183月にアメリカで始まった感染の第1波は大西洋を渡り、ヨーロッパで拡大しました。第2波の流行は1918年夏に始まりました。第2波のウイルスの感染力は強く、症状が重篤で、世界中に多数の死者をもたらしました。このため、第二次世界大戦が早く終わったともいわれています。

           

          人類は今、この大流行に匹敵するパンデミックと戦っています。上の写真と同じような光景が世界の大都市で見られます。下はマドリッドに設置された臨時病床です。

           

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          ロンドンのエクセル展覧会センターにも臨時病床が設置され、ナイチンゲール病院と命名されました。

           

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          ニューヨークのジャヴィッツ・コンベンション・センターも臨時の病院となりました。

           

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          日本では病床の圧倒的不足という事態はまだ起きていません。今後、このような状況にならないよう最大限の対策を取る必要があります。

           

          海外主要国と日本の医療の状況を比較するために、新型コロナウイルスによる現在の死者数から人口10万対死亡率を計算してみました。イタリアとスペインは28.0、フランスが13.7、イギリスが8.2と、医療の現場が非常に厳しい状態に置かれていることを示しています。アメリカは全土の統計では3.0となりますが、ニューヨーク州のみで計算すると、28.1となります。一方、ドイツは2.0でもちこたえています。

           

          これらに対して日本の人口10万対死亡率は0.06(クルーズ船を除く)と非常に低い水準です。しかし、今後、爆発的な感染拡大が起こってしまえば、日本の医療体制も崩壊の危機に直面することになります。

           

          感染源がわからない孤発例が増えている現在の状況は不気味です。私たちが11人、他人との接触機会を8割削減し、R01以下にしない限り、感染拡大は続いていきます。


          新型コロナウイルス:WHOがパンデミック宣言

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            WHO311日、新型コロナウイルスの流行を「パンデミック」と宣言しました。パンデミックとは「世界的な大流行」を意味します。

             

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            WHOの発表によると、311日現在、113の国と地域で新型コロナウイルスの感染が確認されています。感染者数は全世界で118322人(うち中国8955人、中国以外37367人)、死者は全世界で4292人(うち中国3162人、中国以外1130人)となっています。

             

            20世紀以降、人類はインフルエンザで4回のパンデミックを経験しています。1918年の「スペイン風邪」(スペイン・インフルエンザ)、1957年の「アジア風邪」(アジア・インフルエンザ)、1968年の「香港風邪」(香港インフルエンザ)、2009年の新型インフルエンザです。インフルエンザ・ウイルス以外の流行でWHOがパンデミックを宣言するのははじめてです。

             

            ウイルスの流行を食い止めるための対策は、大きく3つに分けられます。

             

            1つ目はウイルスの侵入を遅らせる水際作戦です。湖北省や浙江省などからの入国制限、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の検疫は、このための措置でした。水際作戦はウイルスの侵入を完全に食い止めることはできません。あくまで、ウイルスの侵入を遅らせて、結果として感染者の数を抑えることにその目的があります。

             

            2つ目は、感染の拡大を遅らせるための早期封じ込めです。イベントや集会の自粛要請や小・中・高の休校はそのための措置でした。早期封じ込めも感染の拡大を完全に食い止めることはできません。しかし、この措置を取ることによって、感染の機会は明らかに減ります。

             

            3つ目は医療の介入です。水際対策と早期封じ込めによって、感染の拡大は抑制され、感染者数のカーブはピークが低くなり、なだらかな山になります。流行の開始とともに医療体制を強化し、なだらかな山となった流行に対して必要な医療サービスを行うのです。流行のピークを下げることは、医療への負荷を減らすという重要な意味をもっています。

             

            以上の対策をできる限り早い時期から行うことによって、流行を最小限にとどめることができます。下の図は「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(2013年閣議決定)に掲載されているもので、この考え方を図式化したものです。

             

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            政府の対策にはその内容や時期について様々な批判もありますが、大筋としては、以上の考え方に則った対策がとられてきました。そのため、日本では爆発的な感染拡大は見られていません。

             

            しかしながら、今後の世界での流行を考えた場合、日本と同じように感染拡大を抑えられる国がどれだけあるか心配です。アメリカやヨーロッパ諸国でさえ、十分な医療サービスを提供できない事態も考えられます。参考までに、2009年の新型インフルエンザのパンデミックの際の人口10万対死亡率を見てみると、カナダ1.32、メキシコ1.05、オーストラリア0.93、イギリス0.76、シンガポール0.57、韓国0.53、フランス0.51、ニュージーランド0.48、タイ0.35、ドイツ0.31に対して、日本はわずか0.16でした(資料・岡部信彦氏)。

             

            今回のパンデミックにいたる過程を見ると、WHOの対応にかなり問題があったといえます。130日の緊急事態宣言はもっと早く出すべきでした。しかも、この緊急事態宣言においても、「旅行または貿易の制限を推奨しない」としていました。そのため、各国の水際作戦が遅れた可能性があります。

             


            新型コロナウイルス:発症初期あるいは無症状でも感染

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              新型コロナウイルスは発症初期あるいは無症状でも他人を感染させる可能性があることを、ウイルス量の解析で明らかにした速報が発表されました。

               

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              新型コロナウイルスが発症初期あるいは無症状でも他人を感染させるのではないかという指摘は以前からありましたが、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の219日付けオンライン版に、これに関して中国CDC(中国疾病予防コントロールセンター)で行われた感染者のウイルス量の解析結果が”TO THE EDITOR”として掲載されました。

               

              この解析は17人の新型コロナウイルスの発症者、およびウイルスに感染したが無症状だった1人について、鼻と喉からサンプルを採取して、ウイルス量の経時変化を見たものです。その結果が以下の図です。

               

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              黒い線が発症した人の喉のウイルス量、青い線が鼻のウイルス量です。これによると、両者とも発症時にすでにウイルス量が多く、その特徴は鼻で顕著です。さらにこの図は、発症以前に感染者の体内でウイルス量が増加しており、発症前に他人にウイルスを感染させている可能性があることを示しています。

               

              また、無症状のまま終わった1人のウイルス量も同じ傾向を示しました。すなわち、新型コロナウイルスは無症状でも他人を感染させている可能性があることを示唆しています。

               

              新型コロナウイルスがこうした特徴をもっているのではないかという点は、ここに書いた通りです。

               

              新型コロナウイルスはSARSウイルスに近縁ですが、発症してから数日経過してから感染能力が高くなったSARSウイルスとは異なる特徴をもっていることになります。こうした解析がさらに進み、新型コロナウイルスの感染プロセスが解明されることを期待したいと思います。

               



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