東日本大震災:地震学者の責任(2)

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    1965年にはじまった地震予知計画には、東北地方太平洋沖地震が起こる前の2008年まで(新第2次計画終了まで)で、約3000億円が使われました。これだけの税金を使いながら、ただ1つの地震も予測することはできなかったのです。この金額が防災研究にまわされていれば、東日本大震災や阪神・淡路大震災をはじめ、日本各地の地震被害はもっと少なくてすんだでしょう。

     

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    東北地方太平洋沖地震発生後、日本の地震学者の中には、それまでの地震研究のあり方を反省する人たちもいました。しかし、日本の地震学の重鎮の中には、地震を予知できなかった社会的責任を追及されることをおそれたのか、責任逃れや言い訳、自己保身とも受け取れる行動をとる人が現れました。その典型的な人物が、当時、地震予知連絡会の会長だった島崎邦彦氏でした。その内容は以下に述べますが、実はこれにはもう1つ伏線となる出来事があったのです。

     

    200946日にイタリア中部で大地震が発生し300人以上の死者がでました。これに関し、2010年に「予知に失敗した」として地震学者が起訴される事態が起こり、日本の地震学者をあわてさせていたのです。実際は「予知に失敗した」ではなく「リスクに対し適切な評価をすることを怠った」責任を問われたのでしたが、いずれにしても、「予知」を標榜する以上、地震学者の行動には社会的責任が伴うことを改めて思い起こさせる出来事だったのです。

     

    島崎氏は地震発生から1か月後の512日、日本記者クラブで地震についての説明を行いました。この説明をしばらくしてからYouTubeで見た私は、驚きを禁じ得ませんでした。島崎氏は説明の冒頭、地震と津波で亡くなった方々に対するおくやみと、被災者へのお見舞いを述べましたが、地震を予知することができなかったことに対する謝罪は一切ありませんでした。

     

    島崎氏は、地震を予測できなかった理由について「基本的な考え方が間違っていた」と、アスペリティ・モデルを盲信していた当時の地震研究に対する反省の念を述べました。ところがこの後、驚くべき発言が飛び出します。マグニチュード9の巨大地震を予測するまで「実はあと一歩だった」というのです。

     

    島崎氏が「あと一歩だった」という根拠は、当時、地震調査委員会の委員長をつとめていた阿部勝征氏の論文でした。島崎氏の歯切れの悪い説明によると、この論文では、東北沖でたびたび発生するマグニチュード78クラスの地震よりも大きいマグニチュード8.6の地震の可能性にふれているが、このマグニチュード8.6は実はマグニチュード9だった。しかし阿部氏は「マグニチュード9は過大評価ではないか」と考え、8.6にしたというのです。

     

    つまり島崎氏は、マグニチュード9という巨大地震が発生する可能性があることに、日本の地震学者は気が付きはじめていたと言いたいのでしょう。しかし、1本の論文を根拠にそのような論理を展開するのは無理があります。地震の専門家ではない記者会見場の人たちを煙に巻き、想定される厳しい質問に対する予防線を張ったといわれても仕方がないでしょう。

     

    島崎氏もマグニチュード9の地震を「想定外」「意外なこと」と認めざるを得ませんでした。この件に関しては会場から鋭い質問がでました。311日の本震の2日前、39日にマグニチュード7.2の地震が発生しており、その後もマグニチュード56の地震が頻発していました。質問は9日に前震が発生していながら、なぜ本震を予想できなかったかというものでした。答は明らかです、島崎氏も認めたように、9日のマグニチュード7.2の地震が起こった時、日本の地震学者はそれを本震だと考えてしまったのです。マグニチュード9の地震が起こることなど、頭の片隅にもなかったからです。

     

    世界的にいえば、マグニチュード9の地震はカムチャツカ、チリ、アラスカなどで観測されており、絶対に発生しないわけではありません。その可能性をまったく考えず、50年近くにわたって地震予知計画を進めてきた日本の地震学の限界が、東北地方太平洋沖地震によって露呈したといえるでしょう。

     

    大震災発生直後に巨大地震の予測まで「あと一歩だった」と述べた島崎氏の発言は、非常に重いものです。震災から7年たち、「それでは日本の地震研究はどこまで進んだのか?」と、改めて島崎氏に問いたいと思います。


    東日本大震災:地震学者の責任(1)

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      7年目の311日が来ました。日本の地震学者がマグニチュード9の巨大地震を予知できていれば、これだけの大災害にはならなかったことを忘れてはいけないと思います。1962年の「地震予知−現状とその推進計画」いわゆる「ブループリント」によって開始された地震予知計画には、東日本大震災が起こるまでに、3000億円以上の税金が投入されました。それでも、東北地方太平洋沖地震を予知することはできなかったのです。

       

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      東北地方太平洋沖地震において、地震学者はマグニチュード9という地震を想定することさえできなかっただけでなく、自分たちが考えていた地震発生モデルがまったく間違っていたことを知ることになったのです。

       

      北海道から房総沖にかけての太平洋沖では、ユーラシアプレートの下に太平洋プレートが1年間に約8cmのスピードでもぐり込んでいて、同じような場所でくり返し地震が起こっています。このくり返し地震がおこる仕組みは「アスペリティ」によって説明されていました。アスペリティとはプレート同士の摩擦が大きく、すべりにくくなっている場所のことです。プレートの移動にともなって、アスペリティにはひずみのエネルギーが蓄積されていきます。アスペリティが破壊されると、大きなずれが生じ、地震となります。

       

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      東北地方沖のアスペリティについては、それまでに多くの研究がありました。例えば下の図は、東京大学地震研究所の山中佳子らによって作成された東北地方沖のアスペリティ・マップです。

       

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      これらのアスペリティをよく理解することによって、地震活動の予測さらには地震の予知が可能になると、当時の地震学者の誰もが考えていました。しかし実際に起こった地震は、そのようなアスペリティ・モデルでは説明することが不可能な巨大地震でした。震源域はそれぞれのアスペリティを超えて広がり、岩手県沖から茨城県沖まで長さ約400km、幅約200kmにおよんでいました。木を見て森を見ないアスペリティ・モデルは欠陥モデルであり、地震学者は明らかな誤謬をおかしたのです。

       

      「ブループリント」の提言を受けてはなばなしくスタートした地震予知計画は、19951月の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を予知できませんでした。その後「見直し」が行われ、1998年からは「地震予知のための新たな観測研究計画」(新計画)と名称を変え、計画は存続しました。結局、東北地方太平洋沖地震が起こる前の2008年まで(第1次〜第7次、新第1次〜新第2次)だけで、約3000億円が使われたのです。2012年は大震災の翌年であると同時に、ブループリント50年の年でもありました。同年10月の地震学会では当然のことながら地震予知について議論がありました。しかし驚くべきことに、今後も予知を目指すという意見が大勢を占めました。2014年からは「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の中で「地震予測」の研究が行われています。

       

      私はブループリント自体を評価しています。これを立案した坪井忠二、和達清夫、萩原尊礼には、日本の国土を地震災害から守りたいという強い情熱がありました。ブループリントでは、全国に観測網を整備すれば、10年後には「地震予知がいつ実用化するか」の答が出ると書かれていました。しかし、10年でその答は出ず、いたずらに時間だけが過ぎていきました。予知の手がかりさえ得られなかった以上、地震予知計画はどこかで中止すべきだったでしょう。

       

      現在では「予知」と「予測」を区別して使うようになっていますが、社会的には「予知」が広く使われています。そのため、科学的に根拠のない「地震予知」が誤った情報を流し続けているという問題も生じています。「地震予知は不可能」と明言することは、地震学者が果たすべき責任といえるでしょう。



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