NASAのアルテミス計画:その背景に中国の影

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    Artemis:A New Cold War with China?

     

    ペンス副大統領の3月26日の演説は、NASAの有人月着陸計画のゴールを4年も早めました。

     

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    なぜ、アメリカはそれほど有人月着陸を急ぐのでしょうか? すでにここにも書きましたが、その背景には中国の存在があります。

     

    中国は有人月着陸用の巨大ロケット、長征9号を開発中です。長征9号は2028年に初打ち上げの予定です。したがって、中国が有人月着陸に挑むのは2030年代前半と考えられています。しかし、アメリカは「中国はNASAが目標としている2028年より前に、中国の宇宙飛行士を月に送る計画をもっている」と判断したのでしょう。21世紀最初の有人月着陸で中国に先を越されることは、アメリカにとって絶対にあってはならないことです。

     

    ソ連との月着陸競争に勝利したアポロ計画を思い出してみましょう。1961年5月25日、ジョン・F・ケネディ大統領は議会で演説し、「1960年代が終わらないうちに人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と宣言しました。

     

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    当時、アメリカとソ連は冷戦の時代にありました。宇宙での競争がはじまった時期で、ソ連は1957年10月の世界最初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げや1961年4月のユーリー・ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行を行っており、アメリカはソ連に先を越されていました。ケネディ大統領は宇宙におけるアメリカの優位性を確立するため、不可能とも思える目標を設定し、「この計画以上に完遂が困難であり、費用がかかるものはないでしょう」と語りました。ケネディのこの日の演説は、ソ連という名前は出さないものの、世界には「自由」に挑戦する動きがあるとし、自由という大義を守るためにアメリカが何をすべきかを述べたものでした。いくつもあげられた具体的な政策の最後に、月着陸競争に勝つことが必要と述べたのです。

     

    このケネディ演説のもととなったのが、当時の副大統領リンドン・ジョンソンが4月28日にケネディに送ったアメリカの宇宙政策に関するメモでした。そこには宇宙においてソ連に先行されている事実が述べられており、「他の諸国は、われわれの理想的な価値観を歓迎はするものの、将来世界のリーダーになるだろうと彼らが考える国、すなわち長期的な競争の勝者の側につく傾向があることを、われわれは認識しなくてはならない。宇宙における劇的成果は世界のリーダーであることの重要な指標になりつつある」。

     

    つまり、世界のリーダーの地位をかけて、アメリカがソ連にしかけた宇宙での競争がアポロ計画でした。

     

    最近の中国の宇宙への躍進は目覚ましく、2016年9月にはアメリカ議会で「われわれは中国との宇宙競争に負けつつあるのか?」という公聴会が行われたほど、アメリカでは危機感が高まっています。ペンス副大統領は2018年10月4日、アメリカのシンクタンク、ハドソン研究所での演説で、民主主義や市場経済のルールを無視して拡張を続ける中国をきびしく批判しました。

     

    そのように考えると、3月26日のペンス副大統領の演説は、ソ連と中国と競争相手は違うものの、1961年5月25日のケネディ大統領の演説と非常によく似ていることがわかります。ペンス副大統領はNASAが「どのような手段を用いても」ゴールを達成することを求め、「歴史は大きな夢をもち、不可能を成し遂げるものによって書かれる」と、演説をしめくくりました。

     

    奇しくもアポロ11号の月着陸からちょうど50年の今年、アメリカは宇宙での覇権を狙う中国に対して、アルテミス計画で競争をしかけたのです。その目的は、宇宙において、中国が絶対に追いつけないだけの差をつけることです。この競争は地上での米中の関係を反映したものです。米中間では「新たな冷戦」ともいえる対立の構図ができつつあり、この構図はしばらく続くと考えるべきでしょう。


    NASAのアルテミス計画:2024年の有人月着陸を目指す

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      ArtemisSending American Astronauts to Moon in 2024

       

      2024年の有人月着陸を目指すNASAのアルテミス計画が始動しました。

       

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      NASAはかねてから有人月着陸用の宇宙船「オライオン」と巨大ロケットSLSを開発してきました。さらに国際宇宙ステーション(ISS)計画のパートナー国が建設する月周回ステーション「ゲートウェイ」を月着陸の拠点とすると発表していました。

       

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      NASAはこれまで2028年の有人月着陸を目指していました。以下がそのスケジュールです。

      2020

      EM-1Exploration Mission-1):SLSとオライオン宇宙船による最初の飛行。無人の月周回ミッション。

      2022

      EM-2Exploration Mission-2):SLSとオライオン宇宙船による2回目の飛行。オライオン宇宙船に宇宙飛行士が搭乗し、月を周回する。

      ゲートウェイ組み立て開始。最初のエレメント「電気推進エレメント」を打ち上げ。

      2023

      月面無人探査ローバーによる月探査。特に水の存在を探る。

      2024

      EM-3Exploration Mission-3):SLSとオライオン宇宙船による3回目の飛行。ゲートウェイへ宇宙飛行士を運ぶ最初のミッションとなる。

      有人月着陸技術の試験。

      2026

      ゲートウェイ組み立てフェイズ完了。月面着陸に向けた次のフェイズに移行。

      有人月着陸の無人試験。

      2028

      有人月着陸。アポロ計画以来、人類は再び月に戻る。

       

      ところが今年の326日、ペンス副大統領はNASAのマーシャル・スペース・フライト・センターで行われた国家宇宙会議での演説で、「アメリカは5年以内にアメリカの宇宙飛行士を月に着陸させる」と述べました。すなわち、2024年の有人月着陸がアメリカの国家目標となったのです。

       

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      NASAはこれを受けて、有人月着陸計画を「アルテミス計画」と命名、2024年のターゲットに向け新たなスケジュールを発表しました。大きな変更点は、2024年に予定されていたEM-3(ゲートウェイまでの有人飛行)を有人月着陸ミッションとする。⇒人月着陸にゲートウェイは必須。そのため、ゲートウェイの組み立てを2つのフェイズに分け、2024年にはミニマムの構成を完成させる、というものです。

       

      なお、「アルテミス」はギリシア神話に登場する月の女神ですが、NASAではEM-1EM-2の名称としてすでに使われており、それぞれ”Artemis 1”および”Artemis 2”とよばれていました。

       

      2020

      アルテミス1SLSとオライオン宇宙船による無人月周回ミッション。

      2022

      ゲートウェイ組み立て開始。最初のエレメント「電気推進エレメント」を打ち上げ。

      アルテミス2:オライオン宇宙船に宇宙飛行士が搭乗し、月を周回する。

      2024

      ゲートウェイ組み立てのフェイズ1(ミニマムの構成)完了。

      アルテミス3:有人月着陸。

      2028

      ゲートウェイ組み立てのフェイズ2完了。ゲートウェイ完成。

      宇宙飛行士の軌道上での長期滞在と月面での継続的な活動が実現される。

       

      新たな目標を達成する上で大きな課題となったのが月着陸船です。

       

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      当初の計画では、NASAは時間をかけて月着陸技術を開発する予定でした。しかし、あらたな計画では、月着陸船をわずか5年間で開発・運用しなければならなくなりました。そこでNASA517日に、月着陸システムの詳細検討・プロトタイプ製作を行うアメリカ企業11社を選定しました。

       

      エアロジェット・ロケットダイン

      ブルーオリジン

      ボーイング

      ダイネティクス

      ロッキード・マーチン

      マステン・スペース・システムズ

      ノースロップ・グラマン

      オービットビヨンド

      シエラ・ネバダ

      スペースX

      スペース・システムズ/ロラール

       

      長い間宇宙にかかわってきた巨大企業と、ニュースペースの雄が名前を連ねています。アメリカの宇宙技術の実力が問われています。


      『ファンタジーランド』:アメリカのキリスト教の500年

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        Fantasyland by Kurt Andesen

         

        『ファンタジーランド(上・下)』(カート・アンダーセン、玉田美明・山田文訳、東洋経済新報社)を読みました。

         

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        アメリカのキリスト教について調べていたので、たいへん参考になりました。また、アメリカという国について知る上でも参考になる本でした。

         

        とはいえ、この本で書かれている内容は、すべて自分なりの評価と検証が必要です。なぜなら、この本は、下巻最終章「トランプ政権を生んだ国」で展開される執拗なトランプ批判のために書かれたものだからです。

         

        それさえ認識していれば、非常に面白い本だと思います。


        Hen2-104:南のかに星雲

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          Hen2-104Southern Crab Nebula

           

          ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したケンタウルス座の惑星状星雲Hen2-104(南のかに星雲)です。

           

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          Hen2-1041960年代に発見されたときは普通の恒星と考えられていましたが、1989年のESOでの観測によって、カニの形をしたガスの広がりが観測され、惑星状星雲であることがわかりました。今回の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡打ち上げ29周年を記念して20193月に撮影が行われたものです。

           

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          ハッブル宇宙望遠鏡の画像から、Hen2-104の微細な構造が分かります。

           

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          Hen2-104の中心は赤色巨星と白色矮星の連星系です。2つの星は非常に近接しているので、この画像では見分けることはできません。そこからガスが美しい砂時計の形に広がっています。過去数千年のガスの流れです。その外側にはかつて噴出していたジェットのなごりが見えています。中心に近いところに明るいリングが2つ見えています。これは最近のガスの噴出によってできたものです。


          世界で初めてブラックホールを撮影

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            First Image of a Black Hole

             

            EHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)によるブラックホールの初画像が発表されました。

             

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            地球からの距離約5500万光年のおとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールです。画像の中心の暗い部分にブラックホールがあります。その周囲の明るいリングはブラックホール周辺の超高温プラズマで、温度は60億度以上です。このような超高温プラズマが存在するのはブラックホール近傍のみです。ブラックホールの質量は太陽の65億倍もあります。

             

            ブラックホールはその強力な重力によって、物質も光も脱出できない「事象の地平面」(イベント・ホライズン)をつくります。この事象の地平面の近傍には光子球とよばれる領域が形成されることがアインシュタインの一般相対性理論で予言されていました。今回発表された画像で暗く見えているのは、ブラックホールそのものではなく、この光子球の形をした「ブラックホールの影」(ブラックホール・シャドウ)です。

             

            EHTは地球規模の電波望遠鏡のネットワークを用いて精密観測を行う国際プロジェクトです。EHTM87のほかに、もう1つ、われわれの銀河系中心にある巨大ブラックホール、いて座Aスターの観測も行っており、いずれその画像も公開されることになります。

             

            EHTは今後、さらに観測精度を上げていくことが計画されています。事象の地平面により近い領域の観測が可能になり、巨大ブラックホールの形状や回転、ジェット噴出の様子などがわかってくると思われます。


            ペンス副大統領、2024年までに有人月着陸を表明

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              Pence Calls for Human Return to the Moon by 2024

               

              アメリカのペンス副大統領は326日にアラバマ州ハンツビルで行われた国家宇宙会議において、「アメリカは5年以内にアメリカ人宇宙飛行士を月に着陸させる」と述べました。

               

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              NASAが提唱していた月を周回する宇宙ステーション、「ゲートウェイ」の建設は今年の連邦予算で認められ、NASA2022年に最初のモジュールを打ち上げるべく動きはじめました。ゲートウェイはアメリカだけでなく、日本、ヨーロッパ、ロシア、カナダの国際パートナーが協力して建設することになっており、2026年に完成予定です。

               

              NASAはこれまで、2026年のゲートウェイ完成後、2028年に宇宙飛行士を月に着陸させることを目標にしていましたが、ペンス副大統領は「NASAはもっと急ぐべきである」と述べました。5年以内ということは、2024年までに有人月着陸を果たすことになります。

               

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              ペンス大統領がここまでNASAの計画を急がせる背景には、月を舞台にした中国との覇権争いがあります。中国は月の有人着陸を目指していることを表明しており、そのための超大型ロケット、長征9号を開発中です。しかし、月着陸を具体的な日程にのせるまでには至っておりません。そのような状況であるにもかかわらず、トランプ政権がここまでアグレッシブな政策をとるのは、「万が一にも中国に後れをとってはいけない」ということと、「中国が絶対に追いつけないだけの技術の差をつけたい」と考えているからです。特に後者は、アメリカの軍事技術開発戦略の根幹となっている考え方です。

               

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              かつて冷戦下のアメリカとソ連が月着陸競争を展開し、アポロ計画によってアメリカがこの競争に勝利してから、今年でちょうど50年です。まさにその年に、「宇宙強国」を標榜して宇宙の覇権を狙う中国に対し、アメリカは宇宙を舞台にした新たな競争を展開することを決意したわけです。月をめぐる米中競争の時代がはじまったことになります。

               



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