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今年の科学10大成果:『サイエンス』誌アルバーツ編集長のコメント
『サイエンス』誌は12月23日号で、恒例の「今年の科学の10大成果」を発表しています。その中で Breakthrough of the year for 2011 に選ばれたのは、アメリカ、ノースカロライナ大学医学部のマイロン・コーエン所長らによる抗レトロウイルス治療(ART)でした。

Science

コーエン所長のチームは、どちらかがHIV に感染している1700以上のカップル(ほとんどは異性愛カップル)を対象に、「HPTN 052」という薬剤を用いた大規模な臨床試験を行いました。その結果、HPTN 052 はHIV 感染者に対する治療効果を発揮しただけでなく、カップルの相手のHIV 感染を防止することがわかりました。この結果は『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌の2011年8月11日号で発表されました。

この成果は、HIV の感染拡大防止に希望の光を与えるものです。『サイエンス』誌編集長のブルース・アルバーツさんは、EDITORIAL 欄で「この成果はAIDS の世界的流行を終わらせる努力を活気づけるものです」と述べています。

10大成果には、このほか「はやぶさ」の初期成果、光合成で働くタンパク質の詳細構造、マラリア・ワクチン、系外惑星などが選ばれました。

Science

アルバーツさんは「この中で私が好きなのは、小惑星イトカワへの英雄的な、かつトラブルに苦しめられたミッションの成果です」と書いています。「はやぶさ探査機が持ち帰った小惑星ダストの素晴らしい分析結果は、日本にとって大きな成功であり、3月に日本を襲った地震と津波による今年最大の悲劇のバランスをとる助けとなりました。」

アルバーツさんはカリフォルニア大学サンフランシスコ校の生化学・生物物理部門の教授を長くつとめ、全米科学アカデミー会長をへて、『サイエンス』誌の編集長になりました。下の写真は、アルバーツさんがカリフォルニア大学時代に来日した折、京都を案内したときの写真です。

Kyoto

アルバーツさんも私も若かった。
太陽活動と気候(4):宇宙線とCLOUD 実験
太陽活動によって変動する宇宙線の量が地球の気候を決めているという説があります。宇宙線(銀河宇宙線)は銀河系内および銀河系外からやってくる高エネルギーの粒子で、その約8割は陽子です。

宇宙線の一部は大気内で空気分子と反応して雲の核をつくり、これが雲に成長します。太陽活動が活発な時期は、太陽の磁場によって地球は守られ、大気内に進入する宇宙線は少なくなるので、雲は少なくなります。その結果、地球表面に届く日射量は増えて、気温が上昇します。一方、太陽活動が低くなる時期には、太陽磁場のシールドは弱くなり、大気内に進入する宇宙線量は増えます。すると雲が多くなり、日射量が減って、気温は低下します。これが宇宙線説です。

私はこの説にきわめて懐疑的ですが、現在、CERN(ヨーロッパ原子核研究機構)では、この説を確かめるためのCLOUD(Cosmics Leaving Outdoor Droplets)実験が、CERN の物理学者であるカークビーらによって行われています。実験結果の第一報は8月25日の『ネイチャー』誌に掲載されました。この実験はチャンバー内の模擬大気に、宇宙線のかわりに高エネルギーの陽子ビームをあて、雲ができるかどうかを調べるというものです。

CLOUD

雲粒というのは、種となる凝結核のまわりに水蒸気が凝結したもので、直径は100分の1メートル程度です。凝結核自体は塩化ナトリウムや硫酸、細かいちりなどからなる直径1万分の1ミリメートルほどの粒で、エアロゾルともよばれます。これまでのCLOUD 実験でできたのは、ナノメートルサイズの微粒子です。このサイズの微粒子はCLOUD に先立つ予備実験でも確認されており、新しい成果はまだでていないようです。このナノメートルサイズの微粒子がある一定の時間安定に保たれ、凝結核のサイズにまで成長しなければ、雲をつくることはできません。

8月24日のオンライン版のNature News ではこの実験が取り上げられ、「現時点では、宇宙線が雲や気候に影響を与えているという可能性について何もいえません。しかし、これは非常に重要な一歩だと思います」というカークビーのコメントが紹介されています。一方、宇宙線説に懐疑的な立場をとっているイギリス、リーディング大学のマイク・ロックウッドは、「つくられた小さな粒は、雲をつくるまでに成長できないだろう」と語っています。

そもそもこの宇宙線説は、デンマークのスベンスマルクが1997年に発表した論文がきっかけになっています。彼の論文では観測データの都合のいい部分だけを取り出され、宇宙線と雲の関係が述べられていますが、今日にいたるまで、宇宙線の変動と雲の量に関する有意な関係は見出されていません。

私はソランキ教授に、スベンスマルクの説についても聞いてみました。ソランキ教授は、スベンスマルク・モデルを興味深いアイデアであるとした上で、「しかしながら、このモデルには物理学的な基礎と、実験室での厳密な実験が必要です」と語っています。「後者については現在CERN で実験が行われており、最初の結果が発表されましたが、結局結論はでませんでした。したがって、このモデルが真剣に検討すべきものであるかどうか、彼らが結論を出すまで、もう少し辛抱強くCERN での実験結果を待つ必要があります。」

宇宙線が雲の発生や気候に影響を与えている証拠は何一つ見つかっていないにもかかわらず、スベンスマルクの説が今でも生きているのは、科学的興味以外に、温室効果ガスによる地球温暖化を否定する材料に使われている面があることは否定できません。

その典型は、丸山茂徳先生が2008年に出版した『「地球温暖化」論に騙されるな!』(講談社)でしょう。この本には基本的なミスや観測データの誤解などが数多くみられ、これがプルーム・テクトニクスを提唱した丸山先生の本かと考えると悲しくなってしまいます。おそらく口述筆記によってつくられ、丸山先生は原稿の最終チェックをしていなかったのではないでしょうか。この本では「二酸化炭素を含む温暖化ガスの働きよりも、雲のほうが気温に圧倒的に大きな影響を与えているということがすでにわかっています。そして、雲の量を支配するのが宇宙線の量なのです」と書かれ、「スベンスマークの理論が正しい」としています。ただし、丸山先生が今でもこんな説を本気で信じているかどうかは、私にはわかりません。
太陽活動と気候(3):温暖化か?小氷期か?
マウンダー極小期のようなグランド・ミニマムが来るかどうかが話題になっている要因の1つは、17世紀の「小氷期」のような寒冷な気候の時代が訪れるかもしれないという懸念にあるでしょう。もっとも、小氷期が地球規模で起こったかどうかははっきりせず、北半球を中心にした局地的なものであった可能性もあります。

しかしながら、太陽活動が地球の気候に影響を与えていることは事実で、これからの太陽活動が、温暖化が進む地球の気候にどのような影響を与えていくかは、きわめて興味深い問題です。

ソランキ教授にあてたそのような質問に対して、教授はまず、次のように答えてくれました。「今後20〜30年間、太陽活動が静かであるかどうかは、誰も予測できません。しかし、何が起ころうと、太陽は過去と同じレベルで地球温暖化に影響を与えていくでしょう。」

その「レベル」とはどのようなものでしょうか? 地球が受ける太陽からのエネルギーはTSI(太陽総放射照度)というもので示されます。TSI は「太陽定数」として私たちになじみが深いもので、その値は1平方メートル当たり1362ワットです。TSI は地球大気の外側で計測した値で、ここには可視光の領域だけでなく、赤外線や紫外線、さらにはその他の電磁波も全部含まれます。太陽活動の11年周期の極大期と極小期では、TSI は0.1%程度変化することが知られています。

「TSI が1平方メートル当たり1ワット増加すると、地球の気温は0.1〜0.2度C 上昇します。」とソランキ教授は述べています。これが上の「レベル」というものに該当する数字です。したがって「今後、太陽活動が与える影響がどのくらいの規模になるかは、今後、TSI がどのくらい変動するかにあります。」

それでは、マウンダー極小期と現在では、TSI はどのくらい違っていたのでしょうか。これについてソランキ教授は「TSI が長いタイムスケールでどのくらい変動するかについてはいろいろな推定があります。マウンダー極小期と現在でどのくらいTSI が違っていたかにいては、研究者によって1平方メートルあたり0.6〜6ワットの幅がありますが、私たちは、1〜2ワットが正しい値と考えています。」と述べています。

ソランキ教授のグループは、いくつかの方法でマウンダー極小期から現在までのTSI の推移を復元し、論文を発表していますが、いずれの方法でもマウンダー極小期に比べて現在のTSI は1平方メートルあたり1〜2ワット高いという結果が得られています。下の図は「群黒点数」を用いて1610年から現在までのTSIを復元したもので、黒い線は毎日のデータ、灰色の線は11年平均でなめらかにしたものです。この結果では、現在のTSI はマウンダー極小期より1平方メートルあたり1.3ワット増加しています。

TSI

なお、黒点数という場合、通常はウォルフ黒点数を意味しています。ウォルフ黒点数は相対黒点数ともいわれ、黒点の数と、黒点群に重みをかけた値から計算されます。これに対して、群黒点数は黒点群の数だけで黒点数をあらわすものです。群黒点数はまだ一般的ではありませんが、太陽活動の指標としては、こちらの方が適していると考えられています。

TSI が1平方メートルあたり1.3ワット増加したとすると、地球の気温は17世紀から現代まで0.13〜0.26度C 上昇したことになります。IPCC 第四次評価報告書によれば、過去100年間(1906〜2005年)で、世界平均気温は0.74度C 上昇したとされています。とすると、世界平均気温上昇における太陽活動の寄与は3割程度というところでしょうか。今後、太陽活動が静穏になり、仮にグランド・ミニマムが到来したとしても、太陽活動による気温低下は、マウンダー極小期以来上昇した分にしかなりません。地球温暖化がこれからも進む中で、小氷期のような時代が来るとは思われません。

「そのようなわけで、」とソランキ教授も述べています。「気候変動において太陽は今後も些細ではない役割を果たしますが、次第に温室効果ガスによる影響の中に埋もれていってしまうでしょう。」
太陽活動と気候(2):グランド・ミニマムの可能性
マウンダー極小期のように、長い期間にわたって太陽黒点がほとんど出現しないグランド・ミニマムの時代は来るのでしょうか? これについて、マックス・プランク太陽システム研究所のサミ・ソランキ教授は、『サイエンス』誌の11月18日号で、グランド・ミニマムが来ないとは言い切れないが、その可能性は低いのではないかと述べています。

下の図で説明しましょう。

Solanki

B のグラフは1600年以降の太陽活動を示しています。オレンジ色が太陽黒点数(ウォルフ黒点数)です。17世紀のマウンダー極小期に、黒点がほとんど出現していないのがわかります。黒点数のピークは大きな周期で変動しており、1800年代はじめや1900年前後には、マウンダー極小期ほどではないにしても、太陽が静かだった時代があります。一方、20世紀は全体的には活動が活発な時代で、これをグランド・マキシマムとよぶこともあります。とくに第19活動周期は、観測史上最も活動がはげしかった時期でした。一番右のオレンジ色の丸印は、2011年の最初の9か月の平均黒点数です。ソランキ教授は、現在の第24活動周期のピークの黒点数は60〜100と予想され、前回の第23活動周期の120にくらべると低くなるとした上で、第24活動周期のこれまでの黒点数の推移は、20世紀初頭の第14活動周期に似ていると指摘しています。それがC のグラフです。

C のグラフには、観測史上もっとも活発だった第19活動周期の黒点数の推移が青色で、20世紀でもっとも活動がおだやかだった第14活動周期の推移が緑色で、第24活動周期のこれまでの推移が赤線で示されています。これを見ると、今回の活動周期の立ち上がりは、たしかに第14活動周期と同じ傾向をたどっています。今後も第14活動周期と同じように推移するとすれば、太陽黒点数はこれからあまり多くなることはなく、なだらかなカーブを描くことになるでしょう。第14活動周期のピークの黒点数は63.5でした。2011年の最初の9か月間の平均は45.5です。ソランキ教授はまた、現在の黒点数は、マウンダー極小期直前の2回の周期の黒点数である20よりも多い点を指摘しています。こうしたことから考えて、グランド・ミニマムが到来する可能性は少ないというのが、ソランキ教授の考えです。

ソランキ教授はベリリウム10 や炭素14 を用いて、過去1万1000年間の太陽活動を復元し、グランド・マキシマムやグランド・ミニマムが過去に何度も繰り返していることを明らかにしています。そのデータによると、グランド・マキシマムが終わった後、40年以内にグランド・ミニマムになったケースは8%、200年以内にグランド・ミニマムになったケースは40〜50%とのことです。グランド・マキシマムが終わった後、約半分のケースでは、1つないしいくつかの準極大期が訪れていました。

また、グランド・マキシマムが終わってから次のグランド・マキシマムがはじまるまでの平均期間は318年。グランド・ミニマムが終わってから次のグランド・ミニマムがはじまるまでの平均期間は349年。グランド・ミニマムの中央値間の平均は240年でした。マウンダー極小期は300年前に終わっていますから、そろそろグランド・ミニマムが来てもおかしくないともいえますが、今から5000年〜3000年前の時代では、グランド・ミニマム間の平均間隔は1420年もありました。

太陽の活動が今後どうなるかを予測するのは難しいと、ソランキ教授は述べています。太陽活動を変動させている原因は太陽の磁場にありますが、その太陽磁場を発生させている内部のダイナモの動きが非線形ではないからです。

グランド・ミニマムが来るにしても、来ないにしても、今後数十年間は太陽活動が低下する時代となるでしょう。その場合、太陽活動は地球の気候にどのような影響を与えるのでしょうか? ソランキ教授にメールで質問してみました。ソランキ教授からの返事は、次の回で。
太陽活動と気候(1):マウンダー極小期の再来?
太陽活動は最近ようやく活発になり、JAXA の太陽観測衛星「ひので」やNASA のSDO(Solar Dynamics Observatory)は大規模フレアやCME(コロナ質量放出)などのはげしい現象をとらえています。下の画像はSDO がとらえた最近の太陽表面の様子です。

CME_SDO

しかしながら、太陽の活動をもう少し大きなタイムスケールでみると、現在の太陽活動は静穏な時期にあるということができます。太陽活動は約11年の周期をもっており、活動の活発さの度合いは、出現する黒点数が1つの目安になります。活動が活発になるほど、出現する黒点数も多くなります。活動周期には1755年にはじまった周期を第1として番号がふられており、現在は第24活動周期に入っています。第23活動周期は2006年末には終わり、2007〜2008年には太陽活動は回復するとみられていました。ところが、黒点がほとんど出現しない時期がそれから約2年続き、活動がようやく活発になってきたのは2010年になってからのことでした。下の図は、SIDC(ベルギー王立天文台太陽黒点データセンター)による2000年以降の太陽黒点数の推移です。黄色は毎日の黒点数、青色は毎月の黒点数、赤い線は毎月の黒点数をならしたものです。2008年から2010年にかけて、黒点がほとんど出現していないのがわかります。

Sunspot

第24活動周期の立ち上がりは、20世紀のほとんどのサイクルよりも遅いものでした。また、第24活動周期のピーク時の黒点数はそれほど高くならないと予測されています。17世紀には、約70年間にわたって太陽黒点がほとんど現れない「マウンダー極小期」とよばれる時代がありましたが、太陽の研究者の中には、今後20〜30年の間に、マウンダー極小期と同じような「グランド・ミニマム」の時代がくるのではないかという考えもあります。

太陽活動は地球の気候に影響を与えています。マウンダー極小期の時代は、ヨーロッパでは寒冷な気候が記録されており、「小氷期」とよばれることもあります。17世紀のオランダの画家ヘンドリック・アーフェルカンプが描いた冬のオランダの風景画には、そのような当時の気候が反映されています。

Little_Ice Age

太陽黒点は北半球と南半球に同じように現れ、対称性が良いのですが(そのために「蝶型図」ができるわけです)、マウンダー極小期には南半球のみに現れたことがわかっています。現在の黒点の出現にも、同じような非対称性がみられるとのことです。
フォボス・グルント:1月に地球に落下
ロシア連邦宇宙庁は火星探査機フォボス・グルントが来年1月に地球に落下すると発表しました。落下する日は今のところ6〜19日とされていますが、いつ、どこに落下するかは直前までわからないでしょう。下の写真は11月29日に地上から撮影されたフォボス・グルントです。

Phobos_Grunt
R.VANDEBERGH

フォボス・グルントは11月9日にバイコヌール宇宙基地からゼニット・ロケットによって打ち上げられ、地球周回軌道に入りました。計画では2012年9月に火星周回軌道に入り、2013年2月にフォボスに着陸してサンプルを採取した後、2014年8月にサンプルの入ったカプセルを地球に帰還させる予定でした。

Phobos_Grunt

しかし、フォボス・グルントのMDU 推進ユニットによる軌道変更と火星への軌道投入のための2度のエンジン噴射は行われず、地球を周回する低軌道にとどまっています。

フォボス・グルントは通信途絶の状態がずっと続いています。ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のパース地上局が一時、フォボス・グルントからの信号を受信しましたが、地上との交信は確立されませんでした。火星に到達するためのウインドウはすでに閉じてしまいました。最近、RIA ノーボスチはフォボス・グルントを開発したNPO ラボーチキンのチーフデザイナー、ヴィクトル・カルトフの「ミッションは失敗」との声明を伝えており、ロシア連邦宇宙庁が正式にコメントを発表するのは時間の問題とみられていました。

フォボス・グルントの重量は約13t で、そのうち200kg 程度が大気圏内で燃えつきず、20〜30個の破片となって落下するとのことです。12月16日現在のフォボス・グルントの高度は近日点が201.3km、遠日点が275.7kmです。軌道傾斜角は51.4度なので、北緯51.4度から南緯51.4度までの地球上のどこかに落下する可能性があります。フォボス・グルントは約7.5t の推進剤を積んでいます。推進剤は毒性のある非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素ですが、アルミニウム製のタンクは大気圏内で破壊され、推進剤はすべて燃えてしまいます。また、観測機器に放射性物質であるコバルト57 が搭載されていますが、0.00001g ときわめて微量なので、人体に影響が及ぶことはありません。
CERN:ヒッグス粒子の探索に大きな進展
CERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)は12月13日、LHC(ラージ・ハドロン・コライダー:大型ハドロン衝突型加速器)で行われているヒッグス粒子の探索に関する最新成果を発表しました。LHC ではアトラス(ATLAS)とCMS という2つの大型実験装置でヒッグス粒子の探索が行われています。アトラス実験には日本の研究チームも参加しています。

ATLAS

今回の発表は、「ヒッグス粒子が存在するという結論を下すことはまだできないが、もしも存在するとすれば、その質量はアトラス実験によれば116〜130ギガ電子ボルト、CMS 実験によれば115〜127ギガ電子ボルトの範囲内にまでしぼりこまれた」というものです。

ヒッグス粒子は質量の起源と考えられている粒子で、1960年代にイギリスのヒッグスによって提唱されました。以来、世界の物理学者はこの粒子の探索を続けてきましたが、まだ発見されていません。ヒッグス粒子の質量が大きいため、これまでの加速器ではエネルギーが足りなかったのです。

LHC は陽子と陽子を衝突させる加速器です。陽子を加速させる地下100m のトンネルは円周が27km あり、その大きさはJR の山手線に匹敵します。2009年に本格稼働を開始し、2010年からは7テラ電子ボルトという世界最高エネルギーでの実験を続けてきました。今年の8月には、ヒッグス粒子の質量の範囲を115〜141ギガ電子ボルトまたは467ギガ電子ボルト以上と予想するところにまできていました。

20世紀の素粒子物理学がつくりあげた標準理論によれば、物質はクォークとレプトンからできています。クォークにはアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの6種類があり、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個からなっています。レプトンは電子やニュートリノの仲間で、これも6種類あります。これらの粒子の間ではたらく力には「強い力」「電磁力」「弱い力」「重力」の4種類があります。それぞれの力を媒介して粒子は、強い力がグルーオン、電磁力が光子(γ)、弱い力がウィークボゾン(W、Z)、重力を伝えるのが重力子(g)です。標準理論では、宇宙に「ヒッグス場」があまねく存在し、これにクォークやレプトン、ウィークボゾンなどが反応して質量をもつと考えます。ヒッグス場をつくっているのがヒッグス粒子です。

Higgs_boson

今回の発表によれば、ヒッグス粒子の質量は125ギガ電子ボルトあたりが有望のようです。LHC は2012年も7テラ電子ボルトでの運転を行う予定です。そこでさらにデータを集め、解析しなければ、最終的な結論にはいたらないようですが、2012年前半には結果が明らかにあるという観測が有力です。

ヒッグス粒子の存在が確認されれば、物質を構成している粒子とその間にはたらく力を説明した標準理論の正しさが証明されます。そして標準理論を超えた新たな物理学への道が切り開かれていくでしょう。私たちが観測することのできる物質は、全宇宙の質量のわずか4%しかありません。残りの23%はダークマタ―、73%はダークエネルギーです。つまり、標準理論では宇宙の96%は説明できないのです。ヒッグス粒子も、今問題になっているのは「標準理論のヒッグス粒子」であって、標準理論を超えた理論の中で、ヒッグス粒子は別の姿をとるという考えもあります。もしもヒッグス粒子が存在しないことがわかれば、それはそれで、新たな理論をつくらなくてはなりません。

2014年には、LHC は当初からの目標である14テラ電子ボルトという未踏のエネルギーを実現し、21世紀の新しい物理学を打ち建てるための実験を開始します。ヒッグス粒子の存在確認は、LHC での実験がこうしたゴールにいたるための、きわめて重要なステップなのです。
アノマロカリス:高度な視覚をもった捕食者
オーストラリアのニュー・イングランド大学、サウス・オーストラリアン博物館、アデレード大学、そして大英自然史博物館の研究者らは、オーストラリア、カンガルー・アイランドの5億1500万年前の地層から発見されたアノマロカリスの化石について報告しています。アノマロカリスはカンブリア紀初期、いわゆるカンブリア紀の大爆発の時代の最強の捕食者として知られています。体長は約1m あり、10cm ほどの大きさの三葉虫を食べていたことを示す化石も残っています。

Anomalocaris

今回発見された化石は保存状態が非常によく、直径2〜3cm もあるアノマロカリスの大きな眼が複眼であることを確認できただけでなく、その細部の構造までを調べることが可能でした。下の写真が、アノマロカリスの眼の部分で、右下の拡大写真には、複眼の各レンズの存在が明瞭に見えています。

Anomalocaris

この複眼を走査型電子顕微鏡で調べた結果は、『ネイチャー』誌の12月8日号で発表されました。それによると、アノマロカリスの複眼は少なくとも1万6700個の個眼をもっていました。六角形をしてびっしり並んでいるそれぞれの個眼は直径が0.07〜0.11mm、長さは約3cm もありました。

大英自然史博物館のGreg Edgecombe は、今回の発見はアノマロカリスが節足動物(昆虫やエビ、カニ、クモ、三葉虫などの仲間)と近縁であることが確認された点できわめて重要であると述べています。また「節足動物の進化の過程で、複眼は硬化した外骨格や脚などよりも早い段階で発達したのであろう」とも述べています。

リチャード・フォーティは『三葉虫の謎』(早川書房)の中で、三葉虫類の最古の仲間の1つで、その化石が5億4000万年前までさかのぼるモロッコ産のファロタスピスは非常に大きな眼な眼をもっており「カンブリア紀初期の最初の三葉虫がすでに精巧な視覚系をもっていた」と書いています。初期の節足動物がいつ頃、いかにして複眼を獲得したかは、硬い骨格がなかったために化石がほとんど残されていない先カンブリア時代にまでさかのぼるきわめて興味深いテーマです。

サウス・オーストラリアン博物館のアーティスト、カトリーナ・ケニーさんの描いたアノマロカリス(一番上のイラスト)は、論文が掲載された『ネイチャー』誌の表紙を飾りました。

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アノマロカリスは私たちと同じくらいの視力をもっていたと考えられています。しかもその視野は非常に広く、動くものを見つけ出すのに適していました。高度な視覚をもったアノマロカリスの登場は、カンブリア紀初期の捕食者と被捕食者間の軍核競争に大きな影響を与えたと考えられます。
新しいインフルエンザ・ウイルスが出現
すでに報道されていますが、アメリカのCDC(疾病管理センター)は新たな豚由来インフルエンザ・ウイルスの出現を報告しています。

最初の感染例はCDC の週報MMWR の2011年9月2日号で報告されました。インディアナ州とペンシルベニア州の幼児が、8月に豚由来のH3N2亜型インフルエンザ・ウイルス(A型)に感染したという報告です。下の写真は、そのとき分離されたウイルスです。

Influenza_A

アメリカでは過去2年間に豚由来のH3N2亜型ウイルスが8人から同定されていましたが、この2人から分離されたウイルスは、1つの遺伝子(M遺伝子)が、2009年に「新型インフルエンザ」として大流行した「インフルエンザ(H1N1)2009」に由来していることが、それまでのウイルスと異なっていました。ヒトのウイルス(インフルエンザ(H1N1)2009)と豚インフルエンザ(H3N2)のウイルスが豚に同時感染し、豚の中で遺伝子の入れ替え(これをリアソータントといいます)が起こったものと考えられます。

その後、同じような感染が5例発生しました。これらはいずれも豚との接触などによって、豚から直接感染したものです。MMWR の11月23日の速報(Dispatch)とMMWR の12月2日号では、さらにアイオワ州での3人の子供の感染例が報告されていますが、この3例ではじめてヒトからヒトへの感染が確認されました。いずれも症状は軽かったとのことです。

ヒトのインフルエンザ・ウイルスにはA型、B型、C型があります。このうち大流行するのはA型のウイルスです。A型インフルエンザ・ウイルスは直径が80〜120ナノメートルほどで、表面にはHA(ヘマグルチニン、血液凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)という2種類のスパイクがあります。HA はウイルスの細胞への侵入に、NA は細胞内で増殖したウイルスの遊離に関係しています。

Influenza_A

HA は16種類、HA は9種類あり、これらの組み合わせによってH1N1 あるいはH3N2などの亜型が生まれます。世界的に大流行した1918年の「スペイン風邪」のウイルスはH1N1亜型、1957年の「アジア風邪」はH2N2亜型、1968年の「香港風邪」はH3N2亜型でした。香港型は現在も流行しています。現在流行しているもう1つのウイルスはソ連型で、これはH1N1亜型です。

インフルエンザ・ウイルスの遺伝子は一本鎖のRNA で、8つの分節(HA、NA、PB1、PB2、PA、NP、M、NS)に分かれています。今回報告されている豚由来のH3N2亜型ウイルスでは、リアソータントによってM遺伝子が2009年に大流行したH1N1亜型ウイルスからもたらされました。それを示したのが下の図です。

Influenza_A

HA はHA スパイクを、NA はNA スパイクを、PB2、PB1 およびPA はRNA を合成する酵素であるRNA ポリメラーゼをつくる遺伝子です。M遺伝子(マトリックス遺伝子)は、M1 というタンパク質をつくるM1 遺伝子と、イオンチャンネル(ウイルスのエンベロープを貫いており、イオンを通過させる役割を果たす)をつくるM2 遺伝子からなっています。

豚にはヒトや鳥のインフルエンザ・ウイルスが感染します。そのため、豚の中では豚とヒトと鳥の遺伝子のリアソータントが起こり、新しいインフルエンザ・ウイルスが出現します。このウイルスは豚からヒトに、あるいは豚から鳥へ感染したものがヒトに感染したりして、ヒトの世界にもたらされます。

今回出現したウイルスが変異して、今後大流行するかどうかはわかりませんが、ヒトの世界にまた1つ、新しいインフルエンザ・ウイルスが侵入してきた現場を、私たちは見ているわけです。
コズミック!
大日本絵画から『Cosmic! 宇宙への旅』が発売になりました。宇宙をテーマにした仕掛け絵本(飛び出す絵本)です。翻訳の監修は私がしました。

Cosmic

最初のページを開けて、まずびっくりするのは大迫力のビッグバンです。

Cosmic

さらに太陽系や恒星、銀河の世界が次々と広がっていきます。ハッブル宇宙望遠鏡やアポロ宇宙船、惑星探査機などのメカ紹介のページもあります。大人でも結構楽しめると思いますが、これからの季節、やはりお子様へのクリスマス・プレゼントに最適です。

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