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イトカワ微粒子の初期分析結果
『サイエンス』誌の2006年6月2日号が、”The Falcon Has Landed”(もちろんこれはアポロ11号の “The Eagle has landed” からとられています)という編集部の紹介記事とともに、小惑星イトカワの特集号を組んだころ、「はやぶさ」は絶望的な通信途絶からようやく立ち直り、翌年のイトカワ出発をめざして準備を進めているところでした。その後の困難な旅の末に「はやぶさ」が地球にもち帰ったイトカワの微粒子について、『サイエンス』誌は8月26日号でふたたび特集を組みました。この号には、イトカワ微粒子の初期分析についての日本人研究者の論文が6編紹介されています。

Science_110826

どんなに小さな粒子であっても、小惑星からサンプルをもち帰って地上で分析すれば、多くのことがわかることを、イトカワ微粒子の初期分析の結果は示しました。改めてサンプルリターン・ミッションの重要性が証明されたといえるでしょう。

地上に落ちてきた隕石は小惑星からやってくると考えられてきましたが、S型小惑星であるイトカワ微粒子の酸素同位体比は普通コンドライトの1種ときわめてよく似ており、隕石が小惑星からやってきたものであることがはじめて証明されました。イトカワの母天体は直径20km ほどで、これが衝突によってばらばらになり、再集積してイトカワになったこともわかりました。イトカワ表面での宇宙風化についてもくわしい分析がなされ、宇宙風化によってイトカワ表面の物質が失われるスピードが推定されました。イトカワがあと10億年ほどでなくなってしまうことがわかったのは驚きでした。

また、PERSPECTIVES の欄では、ハワイ大学のAlexander N. Krot が「はやぶさ」ミッションの成果を簡単に紹介し、さらに「はやぶさ」以後の小惑星探査ミッションにふれています。

Science_110826

2014年打ち上げ予定の「はやぶさ2」は、C型の小惑星1999 JU3 をめざします。また、2016年打ち上げ予定のNASA のオシリス・レックスは、B型の小惑星1999 RQ6 をめざします。C型やB型小惑星の物質には、S型小惑星にはない水に関する情報が含まれていると考えられています。これらの小惑星の探査によって、地球のような天体の水に起源について貴重な情報が得られるであろうと、Knot は述べています。
百獣の楽園
京都国立博物館で開催されている「百獣の楽園」展を見てきました。架空の幻獣もふくめ、さまざまな動物が描かれた美術品が集められており、充実した内容に感動しました。また、この特別展が京都市動物園との連携によっているところは、意義深い点だと思います。

paradise

思わず立ち止まってずっと眺めてしまったのは、本展のパンフレットや図録の表紙にもその絵柄が使われている「百鳥文様内掛」でした。鮮やかな色づかいや99羽(裏地の鶴と合わせて100羽になるとのことです)の鳥の配置の妙は、素晴らしいとしか言いようがありません。明治初期の友禅染ですが、これだけ洗練されたデザインが可能になったのは、それ以前に、生き物を描く技法の長い伝統があったからでしょう。

大阪・久米田寺所蔵の「星曼荼羅」もきわめて興味深いものでした。平安時代の曼荼羅ですが、ここに描かれた12宮の星座は、西洋の黄道十二宮の星座です。インドの星占いに古くから西洋占星術が影響を与えていた証拠です。西洋の星座はどのようにしてインドに伝えられたのでしょうか。宿題がまた1つ、ふえてしまいました。
エレニン彗星と地球終末論
エレニン彗星が今年の秋に地球に衝突するとか巨大地震をひきおこすという荒唐無稽の話題が、ここ数か月、ネット上を飛び交っています。この種の話はもぐらたたきゲームのように、1つの話題が下火になっても、また次の新しいつくり話がもちあがってきます。天文現象を地球の終末と結びつけたいと考える人が存在する限り、こうした事態はなくならないでしょう。

エレニン彗星(C/2010 X1)は2010年12月10日に、ロシアのレオニード・エレニンによって発見された長周期彗星です。太陽系のはるか外側からやってきて、現在、太陽に接近中です。今年の10月16日には地球に最接近します。そのときの距離は約3500万km と予測されています。彗星は汚れた雪だるまにたとえられる通り、氷のかけらとちりのかたまりです。エレニン彗星の大きさはさしわたしが3~5km とされていますから、この程度の大きさでは質量はきわめて小さく、地球と月の距離の90倍も遠いところを通過したところで、地球にいかなる影響も及ぼすことはできません。

ところが、この彗星を地球の終末や大災害と結びつける話が広がったため、NASA はJPLのサイトで5月4日に、この彗星についての記事をアップし、地球に衝突する危険はないこと、太陽に接近してもそれほど明るくはならないことなどを説明しました。その後、8月16日に改めて、「エレニン彗星は地球にいかなる脅威もおよぼさない」というQ&A 形式の記事をアップしています。しかし、こんなことで、エレニン彗星にまつわるオカルト的な話が消滅するわけはありません。

この話にあたかも信ぴょう性があるかのような印象を与えているのが、Mensur Omerbashich という人物が4月11日に発表した「惑星直列がM6 以上の地震を引き起こす」という論文です。著者のOmerbashich はカナダ、ニューブランズウィック大学から理論物理学の学位を取得したとされています。論文はコーネル大学が運営する物理・数学などの分野のオープンアクセスの電子ジャーナルarXiv 上に発表されました。arXiv には査読制度はないので、悪く言えば誰でも論文をアップすることができます。もちろん、arXiv に掲載されている論文のほとんどは、査読制度のあるジャーナルに掲載されなかったものの科学的に価値が高い論文です。

arXiv にアクセスしてみたところ、Omerbashich の論文は、現在バージョン4 まで更新されているようです。この論文では、2010年に起ったM6 以上の地震はすべて惑星直列(太陽系天体の直線的配置)によるものであると述べられています。2000年以降のM8 以上の地震、および20世紀以降のM8.6 以上の大地震についても同じことがいえるとのことです。たとえば、2004年12月26日にスマトラ沖で起きたM9.1 の巨大地震は、下の図のように、地球と水星と金星が一直線に並んだために起ったとOmerbashich は述べています。

Comet_Elenin

さらに、地震観測が開始されて以来、現在までに起った計6回のM9 級およびM9 以上の巨大地震のうち3回は満月に起っており、大地震の発生には太陽と月と地球の配置も関係しているとも述べています。ここまで書けば、こんな話はおかしいと誰でも考えるでしょうが、Omerbashich はさらに、地震とエレニン彗星との関係を展開していきます。エレニン彗星は1960年代から地球の地震発生に影響を与え始め、2007年からはその影響がとくに大きくなっているとのことです。

2010年2月27日には、チリでM8.8 の大地震が起りました。これは下の図のように、エレニン彗星と地球と太陽が直線状に並んだためとのことです。

Comet_Elenin

そして今年3月11日の東北地方太平洋沖地震にも、エレニン彗星が関係しているとのことです。しかし、論文中のこの部分には少しおかしなところがあります。地震発生3日前の3月8日の天体の配置を示す下の図では、エレニン彗星と地球と水星が一直線に並んでいます。

Comet_Elenin

ところが論文中の表では、東北地方太平洋沖地震の際の配置は、エレニン彗星と地球と太陽(および地球と水星と天王星)が一直線になるとされています。論文中ではこの矛盾について触れられていません。

エレニン彗星は今年の10月に地球に最接近するため、8月から10月の間に非常に大きな地震が発生するとOmerbashich は主張しています。こうした論文が、かつてカール・セーガンが教鞭をとり、火星ローバーのサイエンスチームの本拠地でもあるコーネル大学が運営する電子ジャーナルに載るというのは、なんとも困ったものです。

ところで、この惑星直列と地震の関係というアイデアは、Omerbashich のオリジナルなのでしょうか。実はまったく同じアイデアを使って、「3月11日から15日の間に大地震が起る」と「予告」した映像が、ニューヨークに住む女性によって3月8日にYouTube にアップされていたのです。エレニン彗星と地震の話は、この映像によってネット社会に広まっていったわけです。

この映像をよく見てみると、世界の地震帯のどこかで大地震が起るといっているだけで、東北地方太平洋沖地震を予言したというわけではありません。それなりの規模の地震は世界のどこかで毎日のように起っていますから、「世界のどこか」と「11日から15日」という幅をもたせれば、どこかの地震がヒットするでしょう。アップした日が間違いなく3月11日以前なのであれば、この期間に東北地方太平洋沖地震が起ったのはまったくの偶然といえるでしょう。

この映像では、女性は3月11日からエレニン彗星、地球、太陽が一直線に、すなわち「チリ地震と同じ配置」になると述べています。アイデアはまったくOmerbashich と同じです。Omerbashich が論文発表前にこのアイデアを女性に教えたのでしょうか。あるいは逆に、女性がOmerbashich に教えてあげたのでしょうか。それともオリジナルのアイデアはどこか別のところにあり、女性はそれをYouTube 用の映像として表現し、Omerbashich は改めてそのアイデアを「理論化」したということなのでしょうか。

この女性も、ある種の終末思想の持ち主のようで、それよりも前にアップしたエレニン彗星関連の映像では、エレニン彗星を聖ヨハネの啓示と位置づけ、3月21日からは平和の時代がはじまるとしていました。それがなぜ急に大地震の予言になってしまったのでしょう。私にはわかりませんが、フォトンベルトと同じように、この種の話の背後には根強い終末思想が存在するようです。
南極大陸全域の氷の移動を可視化
NASA のジェット推進研究所とカリフォルニア大学アーバイン校の研究者は、南極大陸全域の氷の移動速度分布図を世界ではじめて作成し、『サイエンス』誌の電子版で発表しました。

南極大陸に降った雪は圧縮されて氷床となり、ゆっくりと海へ移動していきます。今回の成果は、国際極年(2007〜2009年)に行われた国際的な観測で得られた合成開口レーダーの画像をもとに作成されたもので、JAXA の「だいち」に搭載されていた合成開口レーダーPALSAR のデータも使われています。全部で約3000枚の画像が使われており、氷が川の流れのように移動していく様子が明らかになりました。下の図は、南極大陸の氷の移動速度を色分けしたもので、青から紫、赤色になるにしたがって、氷の移動速度は大きくなります。

Antarctica_Ice

氷が移動する様子は、アニメーションで見るとよくわかります。氷の移動速度は、大陸東側の東南極氷床では1年間に4〜5m のところが多く、海に面した氷河や棚氷の部分では1年間に250m ほどになっています。一方、西側の西南極氷床では移動速度がきわめて大きなところがあり、パインアイランド氷河やスウェイツ氷河では1年間に数km に達しています。また、ロンネ棚氷やロス棚氷でも移動速度は大きくなっています。

West_Antarctica

West_Antarctica

すでに南極半島では温暖化の影響で氷の量が失われていることが明らかになっており、西南極氷床の各所でも、温暖化の影響とみられる氷の融解が観測されています。今回発表された氷の移動速度分布図は、温暖化が進む中で南極の氷がどのくらい失われ、海面上昇がどのように進んでいくかを予測することにも役立つでしょう。
ペルセウス座流星群:鎮魂の流星
8月12日と13日の夜にはペルセウス座流星群が極大になります。下の写真はESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT とペルセウス座流星群の流星です。

Perseids_VLT

今年は満月の時期にあたるため、残念ながら観測条件はあまりよくありません。ペルセウス座流星群は周期約130年のスイフト・タットル彗星のちりがもたらすものです。

東北地方の方々にとって、今年のペルセウス座流星群は鎮魂の流星雨になるでしょうか。

星が好きだった宮沢賢治も、子供のころからペルセウス座流星群を見ていたにちがいありません。賢治が旧制盛岡中学の生徒だった1912年の『天文月報』11月号には「ペルセウス座流星群につきて」という記事が載っており、1901年からずっと多くの流星が観測されてきたものの、数年前から観測される流星の数が減っていることが報告されています。また、1919年(東京で発病した妹トシを花巻に連れて帰ってきた年です)1月号には「大正七年八月流星の観測」という1918年のペルセウス座流星群の観測報告が載っており、当時すでによく知られた流星群であったようです。
始祖鳥は鳥か、恐竜か?
今年は1861年にドイツで始祖鳥の化石が発見されてからちょうど150年目にあたります。始祖鳥の学名 Archaeopteryx は「古代の翼」というような意味です。国立科学博物館の『恐竜博2011』でも、有名なロンドン標本やベルリン標本など8つの標本の複製が展示されています。

Archaeopteryx

始祖鳥は系統樹の上で現生の鳥類には直接つながらないものの、最も原始的な鳥類とされています。始祖鳥が生きていたのは今から1億5000万年前のジュラ紀後期ですが、中国科学院の研究者らは最近のネイチャー誌に、始祖鳥よりも1000万年古く、始祖鳥と同じグループに属すると考えられる化石が発見されたと報告しました。この化石はシャオティンギアと名づけられました。

中国の研究者は始祖鳥やシャオティンギアは鳥類よりもヴェロキラプトルなどの恐竜に似ているとしています。この説によれば、始祖鳥は原始的な鳥類ではなく、当時生息していた羽毛恐竜の仲間ということになります。ただし、シャオティンギアの標本はまだ1つであり、年代についても不確定の部分があるとされています。今回の発見で、すぐに始祖鳥の系統樹上の位置が変わってしまうことはないでしょうが、恐竜と鳥類の関係については、これからもいろいろな展開がありそうです。
イスラム世界の科学の歴史
『失われた歴史――イスラームの科学・思想・芸術が近代文明をつくった』(マイケル・ハミルトン・モーガン著、北沢方邦訳、平凡社)を読み終えたところです。昨今の出版不況の中、内容に価値はあっても、それほどたくさんは売れそうもないこのような本が出版されていることは、非常に意義のあることだと思います。

LostHistory

グローバリゼーションが世界を席巻している間に、むしろ私たちは世界を一元的な価値観で見ることのあやうさに気がつきはじめました。世界を多様な価値をもつ文明の集まりとしてとらえ、文明と文明の間で、対立や葛藤ではなく、対話と理解を進めていくことは、今後ますます重要になってくるでしょう。

とはいえ、私たちが自分たち以外の社会について、その歴史や文化をどれだけ知っているかというと、心もとないところがあります。とくにイスラム圏についての私たちの知識はきわめて限られたものです。歴史的に日本とイスラム社会が直接接触する機会がほとんどなかったことに加え、私たちが世界の歴史を、主に西欧のキリスト教世界を中心に認識してきたことが大きな理由です。

キリスト教世界を中心にした歴史観からすると、学術都市としてのアレクサンドリアが滅亡して以来、知の世界は停滞し、中世は空白の時代でした。天文学でいえば、クラウディオス・プトレマイオスが天体に関する古代の知を『数学全書』(アルマゲスト)として集大成して以来、コペルニクスの時代まで、天文学の進歩はまったくなかったことになります。しかしながら、イスラムの世界から見れば、その間に科学は豊かな発展をとげ、その成果は近代の科学に流れこんでいるのです。

本書は、キリスト教世界からみれば空白の時代を「失われた歴史」としてとらえ、イスラム世界での天文学、化学、数学、医学、テクノロジー、さらには詩や音楽などの歴史を詳述しています。本書でも触れられているように、コペルニクスが地動説に至るには、13世紀の科学者アル・トゥシーの『天文科学覚書』が影響を与えているとする説があります。その事実は別としても、中世の暗黒時代にイスラムの世界で花開いた科学が、その後のヨーロッパ世界にさまざまな影響をもたらしていたり、近代ヨーロッパが発祥とされる科学知識や技術が、それ以前にイスラム世界で得られていた例が数多く紹介されています。

本書で書かれていることの検証は必要でしょうが、これまで私たちが知っていた科学の歴史を、別の視点から見直すことの大切を教えてくれる本です。

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