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生命の進化37億年
河出書房新社から出版された『生物の進化大図鑑』(監修:マイケル・J・ベントン他、日本語版総監修:小畠育生)を読んでいます。500ページもあり、重くて持ち歩きはできませんが、内容は充実しています。生命の歴史が通史として展開されており、各時代の大陸の配置や環境の変化など地学的歴史もおさえられています。最近の生命進化の出版物は、編集者が恣意的なバイアスをつけて特定の事象だけをとりあげる傾向が強く、本書のように生命の歴史の全体像を概観できる本は貴重です。

Prehistoric

原書の出版は2009年で、古生物学の最新の知見が盛りこまれています。細かいことですが、日本語版では第三紀と第四紀の境界が、国際地質科学連合(IUGS)の2009年の決定のもとづいて日本でも2010年1月から採用された新しい年代に改められています。

原書の出版社はドーリング・キンダースリー社です。同社は主に子供向け図鑑類の出版で有名で、日本でも多くの翻訳が出版されています。本書は一般読者を対象に、古生物学に興味のある読者にとっても読み応えのある内容になっています。多くの専門家を動員し、3000点以上もの画像を収録したこのような本ができたのは、同社が長い間つちかってきた編集力、図版制作能力、画像リサーチ力、そして自社内の画像データベースのたまものといえるでしょう。
JAXAi 最後の日
JAXAi の閉館日となった昨日は、朝からたくさんの方がJAXAi を訪れ、名残を惜しみました。日本の宇宙活動に気軽に触れることのできる施設として、これまで多くの方に愛されてきたJAXAi がなくなることは、とても残念です。

JAXA の情報はインターネットで得られますし、筑波や相模原などの施設には充実した展示場所があります。しかし、宇宙についてちょっと知りたいことがあるといった場合、JAXAi はとても便利な場所でした。スタッフが親切に説明してくれるところは、展示物や資料が置いてあるだけの施設とはまったくことなります。それほど広いスペースではありませんでしたが、ここでJAXA の動画を見たり、スタッフと話をしたりしているうちに、自分も日本の宇宙活動にかかわりをもっていることを実感させてくれました。6年後の軌道投入に挑戦する「あかつき」を応援するための「千のあかつき」キャンペーンでは、目標を上まわる2000個以上の「あかつき」のペーパークラフトが全国からJAXAi に届けられたとのことです。

JAXAi は子供たちにも人気でした。たくさんの子供たちがご両親と一緒にJAXAi を訪れましたし、修学旅行で東京に来た生徒たちも、自由時間に自主的に、あるいは先生に引率されてここにやってきました。JAXAi のような施設は未来をになう子供たちのために必要です。

事業仕分けでは、効果が不明という指摘がありましたが、宇宙や科学に対する国民の関心を深め、子供たちに大きな夢を与えたという点で、私は十分なコスト・パフォーマンスがあったと思います。場所が東京駅に近いため、確かに家賃は高かったでしょうが、JAXAi 内の展示パネルやイベントなどの際にもらえるお土産などは手作りのものも多く、お金はかけないけれど心のこもったそのような工夫が、JAXAi の魅力でもありました。

午後6時30分からは、1階の広場で特別トークセッションが行われました。ゲストは、再来年にISS で長期滞在が予定されている星出彰彦宇宙飛行士、「はやぶさ」のプロジェクトマネージャの川口淳一郎先生、そしてJAXA の立川敬二理事長という豪華な顔ぶれでした。ナビゲーターは私がさせていただきました。ゲストの方々からは2010年をしめくくる素晴らしいお話をいただき、最後に立川理事長が、JAXAi は閉館になるが、これからもいろいろな形で広報活動を積極的に進めていきたいと話されました。

JAXAi

午後8時、JAXAi 入口でJAXA の舘和夫広報部長が最後のあいさつをして、JAXAi は閉館となりました。閉館に際しての来場者やJAXAi スタッフ、関係者の涙は、この施設にたくさんの人の思いがこめられていたことを物語っていました。

JAXAi

JAXAi 閉館についての私の率直な気持ちは、「民主党はずいぶん馬鹿なことをしたものだ」ということです。税金の無駄を削ること自体は大事なことですが、事業仕分けの経緯を見ていると、その本来の目的が果たされているとは到底思えません。仕分けの対象となった事業の中には名前を変えて復活しているものもあると伝え聞きますが、JAXA は仕分けの結果を受け止め、大人の対応をしたと思います。JAXAi はなくなりますが、ここで得られた多くの人とのつながりや多数のノウハウは、これからのJAXA の広報活動に生かされていくと私は信じています。
はやぶさ、そうまでして君は
川口淳一郎先生の『はやぶさ、そうまでして君は』(宝島社)を読みました。川口先生が自ら語る「はやぶさ」の物語は興味深いものです。

この本の中で、川口先生は「はやぶさ」のようなハイリスクのプロジェクトも必要であることを述べています。日本人は自分で天井をつくってしまいがちだが、「天井を突き抜けられない限り、決して独創的な成果は得られません」と、川口先生は書いています。

惑星探査の分野では、先端的でリスキーなプロジェクトがときに必要です。「はやぶさ」はその典型といえるでしょう。これについては以前に書きましたが、多くの専門家があまりにリスキーであり、実現不可能と考えていたマーズ・パスファインダー計画と同じように、「はやぶさ」も提案当初は「開発要素が多すぎる」「あまりにもリスクが大きい」という意見があったと、川口先生は書いています。しかし、そのリスクの高さは認識されながらも、「工学実験機の新しい挑戦」として計画は認められたのです。

『はやぶさ、そうまでして君は』で、私が一番印象に残ったのは、「はやぶさ」の通信が途絶して、川口先生が台東区の飛不動尊に「神頼み」に行くところでした。「やれることはすべてやり尽くした。あとはもう、神仏の力にゆだねるしかない」という心境だったというのですが、その後に書いてある言葉が感動的でした。

「自分は神頼みしなくてはいけないほど、全力を尽くしたのか、それを自己点検するよい機会にもなったと思います。」

最後の最後まで、全力を尽くす。これが「はやぶさ」成功の最大の要因だったことがよくわかりました。
JAXAi での最後のマンスリートーク
JAXAi は12月28日で閉館のため、JAXAi でのマンスリートークは今日が最後となりました。今日はJAXA 有人宇宙環境利用ミッション本部の松尾尚子さんに来ていただき、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう実験棟」の2010年の成果と来年の話題を話していただきました。

2010年は、野口聡一宇宙飛行士のISS 長期滞在や山崎直子宇宙飛行士のスペースシャトルでの飛行など、話題の多い1年でした。「きぼう」内に設置されている流体実験ラックと細胞実験ラックでの科学実験は2008年8月にはじまっており、すでに数々の成果が出ています。来年1月20日に打ち上げが予定されている「こうのとり」2号機(HTV 2)では、さらに多目的実験ラック、温度勾配炉ラックが「きぼう」に運ばれます。また、船外実験プラットフォームに設置されたMAXI(全天X 線監視装置)は、新X 線天体をすでに2個発見しています。

来年には古川聡宇宙飛行士がISS で長期滞在の予定です。古川さんからは、今日のマンスリートークのためにメッセージ動画が送られてきました。医師としての経験をいかして、ぜひISS で頑張っていただきたいと思います。

JAXAi では28日18時30分からクロージング特別トークセッションが予定されています。
月からのクリスマス・メッセージ
それは1968年のことでした。12月21日に打ち上げられたアポロ8号は12月24日に月を周回する軌道に入りました。クルーはフランク・ボーマン(コマンダー)、ジム・ラベル(司令船パイロット)、ウィリアム・アンダース(月着陸船パイロット)の3名でした。人類初の月への有人飛行であり、月の地平線から青い地球が上ってくる、いわゆる「アースライズ」の写真を撮影したのも、このアポロ8号が最初でした。

Apollo_8

月を9周したところで、人類初の月からのTV 中継が行われました。「地球上のすべての人のために、アポロ8号のクルーからお送りしたいメッセージがあります」。そして、アンダース、ラベル、ボーマンは順番に旧約聖書の『創世記』の最初の部分を読み上げました。「初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。・・・」。生命の痕跡さえない荒涼とした月面をカメラで写しながら読み上げられるそれらの言葉は、宗教を超えて、宇宙への畏敬をあらわすものであったと、私は思います。

「・・・神は乾いた所を地と呼び、水の集まった所を海と呼ばれた。神はこれを見て、良しとされた」。そしてボーマンはアポロ8号からのメッセージを次にように締めくくりました。「グッドナイト、グッドラック、そしてメリー・クリスマス。良き地球のすべての人々に神の祝福があらんことを」。それはまさに、人類にとって特別なクリスマスイブでした。

当時、アメリカと旧ソ連は月有人着陸一番乗りを競っていました。1968年に入ると、アメリカでは開発していたサターンV 型ロケットが登場し、地球周回軌道での無人飛行に成功していました。一方、ソ連はプロトン・ロケットとゾンド宇宙船による無人での月周回飛行に2度成功していました。

12月上旬、ソ連に月への打ち上げウィンドウが開いていました。アメリカはソ連がこの機会に有人のゾンドを打ち上げられるものと考えていました。しかし、宇宙飛行士を乗せたゾンドが発射台を離れることはありませんでした。ソ連は月着陸競争には破れましたが、月周回一番乗りでは、わずかではあるものの競争に勝つ可能性がありました。しかしプロトン・ロケットにはトラブルが発生しており、ソ連はそのチャンスを逃してしまいました。

月への打ち上げウィンドウは、打ち上げの場所、月と地球の位置、ロケットと宇宙船の性能、さらに月着陸の場合には着陸地点の位置や着陸地点での太陽の角度などによって決まります。12月下旬、今度はアメリカに月への打ち上げウィンドウがめぐってきました。アポロ8号はサターンV 型ロケットに有人のアポロ宇宙船を乗せる最初の飛行でした。この飛行を地球周回軌道で行う案もあったのですが、NASA はアポロ8号を月周回軌道に送るという大胆な決断を下しました。ソ連の月周回飛行が近いというCIA からの情報が入っていたからです。こうしてアポロ8号は歴史的な旅に出発したのです。なお、この時点で月着陸船は完成しておらず、アポロ8号の打ち上げでは、月着陸船と同等の重量物がダミーとして搭載されました。
最近10年間の注目すべき科学的成果トップ10
『サイエンス』誌はここ10年間で最も注目すべき科学的成果トップ10を発表しています。以下の通りです。

ダークゲノム
ゲノム解析で発見された「ジャンクDNA」も、きわめて重要な役割を果たしていることがわかった。
宇宙論の精緻化
WMAP 衛星の観測結果などにより、宇宙論を詳細に展開できるようになった。
古生物のDNA
古い時代の動物や植物、あるいは昔の人類のDNA を抽出して解析し、研究することができるようになった。
火星の水
火星探査機による観測で火星初期の研究が進み、火星にかつて液体の水が存在していたことを示す直接的な証拠が得られた。
細胞のリプログラミング
ES 細胞やiPS 細胞の研究が進んだ。分化した細胞を未分化な細胞に変えるリプログラミングの技術が重要になっている。
マイクロバイオーム
人体内に常在する細菌に関する詳細な研究が進んでいる。
系外惑星
観測技術の進歩によって、すでに500個以上の系外惑星が発見され、惑星系の誕生や進化の研究に寄与している。
炎症
がんやアルツハイマー病、あるいは糖尿病や肥満症など多くの慢性疾患において、炎症が症状を進行させていることがわかってきた。
メタマテリアル
単位素子によって光の誘導や制御を高い解像度で行う技術が開発された。
気候変動研究
現在進んでいる地球温暖化は、人為的な要因によってもたらされていることが明らかになった。
世界初の量子機械
『サイエンス』誌の今年のブレイクスルー・オブ・ザ・イヤーに「世界初の量子機械」が選ばれました。この量子機械はカリフォルニア大学サンタバーバラ校のアンドリュー・クリーランドとジョン・マーティニスによってつくられた、きわめて小さな振動子です。

quantum_machine

クリーランドらはこの振動子を基底状態まで冷却し、単一の量子でエネルギーを励起しました。すると、この振動子は「小さく、同時に大きく」という量子論にしたがう振動をしたとのことです。つまりこの振動子は同時に2つの状態を実現したわけです。このような一見奇妙な振る舞いをする機械は、将来、量子論的世界での現象をコントロールする技術につながる可能性があります。『サイエンス』誌はこうした大きな将来性を評価し、2010年の最も重要な科学的進歩としたものです。
進む温暖化:最近の10年間
下の図は、NASA のGISS(ゴダード宇宙科学研究所)が発表した2000〜2009年の地球の気温上昇を示したものです。1951〜1980年の平均と比較したもので、赤茶色の最も濃い部分では2度C 上昇しています。一方、気温が低くなっているところは青色で示されています。

giss_2000_2009

これを見ると、地球温暖化が進行しており、北極圏、シベリア、中央アジアなど北半球高緯度地域で気温上昇が顕著であることがわかります。また、たびたび熱波に襲われているヨーロッパも気温上昇が著しい地域の1つです。

下の図は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書に掲載されている21世紀の気温上昇シミュレーションの1例です。2000〜2009年に近い2011〜2030年のシミュレーション結果を選びました。

2011_2030

シミュレーションでは1980〜1999年の平均に比べて、北半球高緯度地域で1〜2度C の気温上昇が予測されています。また、北極圏やシベリア、中央アジアの気温上昇が目立つなど、気温上昇のパターンが実測値と整合しています。気候モデルが予測しているように地球温暖化は進んでいるといってよいでしょう。ただし、南極半島や南アメリカ、南アフリカの一部での気温上昇など、シミュレーションでは予測されなかった地域での気温上昇が、GISS の図では明らかになっています。
Viva ELVIS
『Viva ELVIS』を聴いてみました。「21歳のエルヴィスが2010年にアルバムを録音したら、こんな風になるのではないか」というコンセプトのもと、エルヴィスの歌と現代の演奏だけでなく、エルヴィスにまつわる過去のさまざまな音源をミックスして新たに録音された「33年ぶりのニューアルバム」です。

viva_elvis

エルヴィス・ファンにとって、このCD の評価は分かれるところでしょうが、私は、エルヴィスの歌のこういう楽しみ方もあるのではないかと思いました。現代風にアレンジされたどんな演奏であっても、彼が歌いはじめると、40年以上前の彼の声がすべてを支配してしまうところは、キングのキングたるゆえんでしょう。That's All Right と Suspicious Minds はとくにおすすめです。

ところで、このCD のオープニングで「ツァラツストラ」が流れた瞬間から、これを聴く人は、彼が21世紀の華やかなステージで歌っている姿をいろいろ想像してしまうでしょう。とすれば、次は3D 映像でのエルヴィスの復活しかありません。彼の残された映像から3D データを構築し、今のラスベガスの舞台と合成することは、現在のデジタル技術で十分可能なはずです。世界のどこかに、そんなことを考えて、すでにエルヴィス復活プロジェクトを進めている人がいるかもしれません。
フォトグラフ51:ロザリンド・フランクリンとDNA
Photograph 51:Rosalind Franklin and DNA

コールド・スプリング・ハーバー研究所のネットレター12月号では、10月27日から11月21日までニューヨークのアンサンブル・スタジオ・シアターで公演された演劇『フォトグラフ51』が紹介されています。「フォトグラフ51」とは、ジェームス・ワトソンとフランシス・クリックがDNA の二重らせん構造を発見する上で決定的な役割を果たした、DNA のX 線回折写真のことです。

photograph51

DNA 二重らせん構造発見の経緯については、ワトソン自身の著書『二重らせん』(講談社文庫)に生き生きと書かれています。1951年、イギリス、ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所にやってきたワトソンは、自分に本来与えられた研究とは別に、クリックと一緒にDNA の構造を解明する研究をはじめます。一方、そのころロンドンのキングス・カレッジではモーリス・ウィルキンスがDNA を研究していましたが、1950年にキングス・カレッジにやってきた同僚のロザリンド・フランクリンとの人間関係がうまくいかない困難を抱えていました。フランクリンはX 線回折の専門家で、キングス・カレッジでDNA 結晶の鮮明なX 線回折写真を撮りはじめていました。

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フランクリンのX 線回折写真を見たワトソンは、DNA がらせん構造をもっていることを確信します。これが世紀の発見へとつながりました。

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DNA の二重らせん構造に関するワトソンとクリックの論文は『ネイチャー』誌の1953年4月23日号に発表され、1962年、ワトソンとクリック、ウィルキンスはDNA の構造決定の業績によりノーベル医学・生理学賞を受賞しました。そのときフランクリンは卵巣がんですでに他界していました。彼女があつかっていたX 線のためともいわれています。

1975年、フランクリンと親交のあったアン・セイヤーは ”Rosalind Franklin and DNA”(『ロザリンド・フランクリンとDNA――ぬすまれた栄光』草思社)を出版しました。この本は、『二重らせん』の中でフランクリンに関してワトソンが書いていることへのいわば反論として書かれたものです。セイヤーは、『二重らせん』や『ネイチャー』論文では、彼女の業績が正当に評価されていないこと、『二重らせん』でワトソンが描いているフランクリン像は一面的であり、実際のフランクリンは人間的にも素晴らしい女性であったことなどを述べています。

二重らせん発見に関するフランクリンの業績に関しては、今では正しい評価がなされていると思いますが、そのころにはアン・セイヤーの邦訳のサブタイトルにある「ぬすまれた栄光」というような反応があったのでしょう。しかし、この点についてはワトソンたちが目指していたものと、フランクリンが考えていた研究の進め方が異なっていたということに注意しなくてはなりません。ワトソンとクリックはDNA の構造を明らかにすることこそが、遺伝現象を分子レベルで解明するために最も大事であると考えていました。一方、フランクリンは当時、より鮮明なX 線回折写真を撮ることに高い優先度を置いていたように思われます。私は1981年にワトソンが来日した折に、彼にインタビューしましたが、そのとき、ワトソンは自分からフランクリンについて話をはじめ、(もしも彼女がDNA の構造解明を最優先に考えていれば)「彼女も二重らせんを発見できたはずだ」と語っています。

『二重らせん』でのワトソンの記述がフランクリンの人格を傷つけているというセイヤーの主張に、私は賛成しません。『二重らせん』の筆致には、ワトソンのあの率直で独特な性格が反映されています。ワトソンやウィルキンスを拒絶する様子が多少誇張されて書かれているとはいえ、彼女が一流の科学者であり、人間的にもすぐれた人物であったことは『二重らせん』を読んだだけでもわかるでしょう。なお、フランクリンの一生については、ブレンダ・マッドクスが2002年に、”The Dark Lady of DNA”(『ダークレディと呼ばれて 二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実』化学同人)というすぐれた伝記を出版しています。ちなみに、私はセイヤーの邦訳に加えられたサブタイトル「ぬすまれた栄光」と、マドックスの邦訳のタイトル「ダークレディと呼ばれて」については、著者の意図以上のものが感じられ、あまり気に入っていません。

さて、ここまで書いてきて、やっと『フォトグラフ51』に入れます。フランクリンを主人公に、『二重らせん』で書かれている当時の研究室での人間模様が演じられたようです。コールド・スプリング・ハーバー研究所のネットレターからリンクされている『サイエンティフィック・アメリカン』誌のブログには、11月2日に、この演劇をめぐってアンサンブル・スタジオ・シアターのすぐ近くで行われたパネル・ディスカッションの一部が紹介されています。

このパネル・ディスカッションには『ニューヨーク・タイムス』紙の科学記者マイケル・ウェイド、カリフォルニア州立大学の生物学学者リン・エルキン、ラトガーズ大学の生物学者ヘレン・バーマン、そして『フォトグラフ51』の脚本を書いたアンナ・ジーグラーが出席し、コロンビア大学の生物学者スチュアート・ファイアスタインがモデレーターとなりました。ワトソンも出席する予定だったのですが、コールド・スプリング・ハーバー研究所での会議出席のために参加できませんでした。しかし、同じ『サイエンティフィック・アメリカン』誌のブログには、『ニューズウィーク』誌のアンナ・クッシュメントが11月16日にワトソンやコールド・スプリング・ハーバー研究所のヤン・ウィトコウスキー、アレックス・ガンらと食事をしたときの会話が紹介されています。

上で紹介されている議論や会話はとても興味深いものですが、私は『フォトグラフ51』を観ていないので、これらについてあまり語ることはできません。11月2日のパネル・ディスカッションでは、かつてアン・セイヤーが提起した点が改めて議論されたようですが、もしも『フォトグラフ51』が多くの人の心を引き付けたとしたら、私には『ロザリンド・フランクリンとDNA――ぬすまれた栄光』の解説で中村桂子氏が書いている以下の文が、この演劇に最もふさわしいような気がします。

「『二重らせん』と本書は、三人のあいだの葛藤を通して、知識の追求に明け暮れる冷たい世界と思われがちな科学研究の場が、いかに人間臭い、個性と個性のぶつかり合いの場であるかを示してくれたからこそ興味深い読み物なのかもしれない」

それにしても、50年以上前のことではあるものの、科学の世界できわめて重要な発見が行われたドラマチックな出来事が、オフ・ブロードウェイの小さな劇場で演じられ、それについて科学者やジャーナリストが熱心に議論し、最後には当のワトソンまでが出かけてきて議論に参加してしまうニューヨークという街は、やはり世界の他のどこにもない魅力をもっています。
最後のフライト
注文していた “COLUMBIA:Final Voyage” が届きました。STS-107、スペースシャトル、コロンビアの最後の飛行についてまとめたフィリップ・チェンの力作です。

Columbia

2003年2月1日、コロンビアは軌道を離脱して大気圏に再突入し、ケネディ宇宙センターへの帰還の途につきました。太平洋からカリフォルニア州上空にさしかかろうとしていた午前8時52分(アメリカ東部時間、以下同じ)まで、すべては順調でした。ところがその後、ヒューストンのミッション・コントロール・センター(MCC)は、コロンビアの右車輪ブレーキ温度の急上昇にはじまる異常なテレメトリーデータを次々と受信しはじめます。コロンビアのリック・ハズバンド船長との交信は8時59分に途絶。テレメトリーデータもその直後に失われます。メリットアイランドの地上追跡局はコロンビアを捕捉することができず、予定の時刻になっても、コロンビアがフロリダ上空に姿を見せることはありませんでした。

午前9時12分55秒、フライトディレクターのリロイ・ケインはMCC のGC(地上管制官)のビル・フォスターに指示します。「ドアをロックしたまえ」。そしてMCC 内のすべてのフライトコントローラーに呼びかけます。「諸君、不測事態対応措置をとらなければならない。チェックリスト2.8-5ページを開いてほしい」。MCC から外部へのいかなる通信も禁じられ、すべての記録が保存される処置がとられました。こうしてNASA はチャレンジャー事故以来の、きわめて厳しい日々を迎えることになったのです。

その後、NASA は事故原因を徹底的に究明し、時間はかかりましたが、シャトルの飛行を再開させます。将来、誰かが大気圏再突入について改めて研究するときにも役立つように、コロンビアの残骸はすべて保存されました。事故はいたましいものではありましたが、それは未来への遺産として引き継がれていくのです。フィリップ・チェンが “COLUMBIA:Final Voyage” の最後の章を “Legacy:The Science Not Lost” とし、コロンビアで行われた微小重力実験の成果について詳しく触れたのも、そのような理由からだったのでしょう。

宇宙開発は、うまく進むこともあれば、厳しい時期を迎えることもあります。将来のために、どんなときにも前に進もうという精神に理解を示す社会でなければ、宇宙への挑戦は困難です。金星探査機の軌道投入に失敗しただけで、宇宙機関の理事長が国民に謝罪しなければならない今の日本の後ろ向きの風潮は、早く直した方がいいと、私は思っています。
ディスカバリーの打ち上げは早くても2月3日
NASA はスペースシャトル、ディスカバリーの打ち上げを早くても来年2月3日まで延期すると発表しました。修理箇所のテストと解析にまだ時間がかかるため、打ち上げを次のロンチウィンドウまで伸ばすことにしたものです。

Discovery

ディスカバリーの最後のフライトに向けて、NASA は安全性の確保を最優先に考えています。2月3日の打ち上げの場合、打ち上げ時刻は午前1時34分(日本時間午後3時34分)となります。
サハリン紀行
藤原浩著『宮澤賢治とサハリン』(東洋書店)を読みました。大正12年(1923)の宮澤賢治のサハリンへの旅を、当時の時刻表や、実際に現地を旅した経験などをもとに検証したものです。賢治のサハリン紀行についての研究では、すでに萩原昌好氏の『宮澤賢治「銀河鉄道」への旅』(河出書房新社)がありますが、鉄道・旅行ライターとして活動している藤原氏が述べている賢治の行程には、藤原氏の本と異なるところもあり、興味がもたれます。

『銀河鉄道の夜』の成立にあたって、サハリンへの旅はきわめて重要な意味をもっています。しかしながら、『青森挽歌』から『オホーツク挽歌』にいたる賢治の詩作と、実際の行程との関係についての情報は多くはありません。その意味で萩原氏や藤原氏の本は数少ない労作といえるでしょう。とくに藤原氏の本には当時の時刻表が掲載されており、とても役に立ちます。
リンの代わりにヒ素を利用する微生物を発見
NASA のヘッドクォーターで、USGS(アメリカ地質調査所)のアストロバイオロジスト、フェリサ・ウォルフ-シモン(一番左)らの研究チームが発見した微生物についての記者発表が行われました。

NASA

この微生物は、カリフォルニア州のモノレイクで発見されたGFAJ-1 という株で、ガンマプロテオバクテリアという普通に存在するバクテリアのグループに属しています。ところがこのGFAJ-1 には、これまで知られている地球上のすべての生物と異なる点がありました。生命の基本構成元素の1つであるリンの代わりにヒ素を利用していたのです。ヒ素は普通、生物にとっては毒となる元素ですが、このGFAJ-1 を、リンが存在せずヒ素を含んだ環境で培養したところ増殖することが確認されました。研究チームの論文は『サイエンス』誌の電子版に掲載されましたが、論文のタイトルは「リンのかわりにヒ素を使って生育できる微生物」となっています。

GFAJ-1

リンはDNA の材料となっている元素の1つですが、GFAJ-1 のDNA ではリンがヒ素に置き換わっていました。細胞内のエネルギー利用や呼吸に重要な役割を果たすATP やNADH、アセチルCoA などの物質でもリンが窒素に置き換わっていました。地球上の生命に必須な元素であるリンの代わりにヒ素を用いる生物が、他の天体ではなく地球で発見されたことは、宇宙における生命の形態についてさまざまな可能性があることを実証したといえるでしょう。

モノレイクは高塩分、高アルカリ、かつヒ素の濃度が高い特殊な環境にあり、こうした環境が、地球上のエイリアンともいえるGFAJ-1 という微生物を誕生させ、進化させたわけです。それがいかなるプロセスで起こったのか、非常に興味がもたれます。この研究はNASA の資金で行われました。
アストロバイオロジーに関するNASA の記者会見
NASA はアストロバイオロジーにおける発見についての記者会見を、12月2日の午後2時(日本時間3日午前4時)に行うと発表しました。どんな発表があるのか、楽しみです。

「アストロバイオロジー」とは、日本ではまだそれほど一般的にはなっていない言葉ですが、これをたとえば「宇宙生物学」と訳してしまうと、意味が少しちがってきてしまう感じがします。「宇宙生物」を研究する学問とすると、どこかSF的になってしまいますし、「宇宙」の「生物学」とすると、研究分野が生物学にかたよりすぎてしまいます。

「Astrobiology」を日本語でどうするかについて、私は以前に松井孝典さんと話をしたことがあります。松井さんの意見は、Astrobiology とは生命の普遍性を宇宙に探る学問であり、適切な日本語はないので、カタカナで「アストロバイオロジー」とするのがいいのではないか、というものでした。私もこれに賛成です。アストロバイオロジーを私なりに解釈すると、宇宙における生命のあり方を研究する学問であり、そこには生物学だけでなく、惑星科学、天文学、地質学、化学、物理学など、幅広い分野の知識が必要です。

2000年にNASA のエイムス・リサーチ・センターで、アストロバイオロジーに関する第1回目の会議が開かれ、以来、この言葉は世界中で広く使われるようになりました。NASA ではアストロバイオロジーを、「宇宙における生命の起源、進化、広がり、そして将来を研究する学問」としています。

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