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HTV、ISS から分離
9月18日からISS(国際宇宙ステーション)にドッキングしていたHTV(宇宙ステーション輸送機)が午前2時32分に、ISS から分離されました。11月2日には大気圏に再突入して燃えつき、ミッションを完了させる予定です。

ISS の廃棄物を積みこんだHTV は、ISSロボットアームでハーモニー・モジュールから分離された後、ゆっくりとリリースされました。その後、HTV はスラスターをわずかだけ噴射してISS の下方向へ、少しずつ離れていきました。ISS 側からのカメラに映るHTV が、地球を背景に次第に小さくなっていきました。

いくつかの細かいトラブルはあったものの、ISS とのランデブーについては、HTV はほぼ完璧なパフォーマンスを見せました。JAXA としては、これから大気圏再突入までも、すべて予定通りにこなし、日本の宇宙技術の高さを証明したいところです。

ここまで書いたところで、そろそろ出かける準備をしなければなりません。これから成田です。
コハクの中のモンスター
オレゴン州立大学のジョージ・ポイナーは、コハクの中に閉じめられた古代の昆虫の研究者として知られています。コハクの中の蚊から恐竜の血液を採取し、そのDNA から恐竜を復元するという『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトンの小説をスティーブン・スピルバークが映画化)は、もともとポイナーがカリフォルニア大学バークレー校にいたころに提唱していた、コハクの中の昆虫からDNA を抽出するというアイデアにもとづいたものでした。

そのポイナーが、ミャンマーで採取したコハクの中から発見された、ユニークで奇怪なハエについて報告しています。このハエは今から1億年前に熱帯域で生息していたもので、ユニコーンのように、頭の上に1本の角をもっています。しかも、その角の先には小さな眼が3つ、ついているのです。これは、現生のいかなるハエの仲間ももっていない特徴です。さらに、奇妙な形をした触覚や異常に長い脚ももっています。「3つの眼」などというと、バージェス頁岩の怪物たちを思い出してしまいます。

Cascoplecia insolitis

このハエは花の上で蜜や花粉を食べながら生活していたとみられています。大きな両眼に加え、角の先につている眼は、捕食者が接近するのをいち早く察知するのに役立ったかもしれません。長い脚は、花の間を渡り歩くのに便利だったでしょう。

このハエが生息していた白亜紀の地球は、花をつける植物が生息域を広げ、多様な進化をとげた時代でした。それにつれて、花粉を運ぶ役割をはたす昆虫も共に進化していきました。ポイナーが報告しているこの奇妙なハエも、こうした時代に登場した数多くの昆虫たちの一員だったのです。しかしこのハエの場合、環境の変化に適応できず、「進化の袋小路」に入ってしまいました。ポイナーはこのハエに、「孤立した」という意味をもつ Cascoplecia insolitis という学名をつけています。
アレスI-X 打ち上げ成功
NASA の新しい有人ロケット、アレスI の初の打ち上げ実験の模様をNASA TV で見ていました。天候の不順で打ち上げは1日延期され、今日になったわけですが、今日も気象条件は微妙でした。打ち上げ時刻は当初午前9時から9時30分(アメリカ東部時間、以下同じ)の間でしたが、T マイナス4分のホールド開始後、打ち上げ時刻は10時30分、11時、11時8分、11時20分、そして11時30分へと延ばされていきました。

今回のアレスI-X の実験はアレスI の第1段のみで、第2段と有人宇宙船オライオンの部分はダミーです。これまではスペースシャトルが打ち上げられていた39B 発射台に、まったく新しいロケットが立っているのを見るのは、少し不思議な感じがしました。打ち上げのウインドウは12時で閉じてしまうところでしたが、11時30分、アレスI-X は発射台を離れました。日本時間では日付が変わり、0時30分でした。

アレス

アレスI の第1段は2分間燃焼し、高度約40km に達しました。燃焼終了とともに第1段と第2段の切り離しが行われ、第1段はパラシュートを開いて降下、4分後に着水しました。打ち上げは成功しました。

アメリカはスペースシャトル退役後の新しい有人宇宙輸送システムの開発を、コンステレーション計画として進めています。この計画で、有人宇宙船の打ち上げに用いられるのがアレスI ロケットです。重量物の運搬にはアレスV ロケットが用いられます。

アレスI-X の打ち上げ成功は、アメリカの次期有人宇宙船打ち上げロケットの開発にとって、大きな前進といえるでしょう。
ハッブル画像の色について
ハッブル宇宙望遠鏡の画像について、いろいろなところで話をしていると、実際の天体があのようなきれいな色をしていると考えている方が多いことに気づきます。ハッブル宇宙望遠鏡のサイトでは、ハッブルの画像の色のつけ方についてちゃんと説明していますが、ハッブルの画像を紹介した本の中で、これについて説明したものはあまりないようです。

『カラー版 ハッブル宇宙望遠鏡 宇宙に挑む』(野本陽代著、講談社現代新書)には、惑星状星雲のところに、次のような記述がありました。「拡散していくガスは、中心の白色矮星が放つ紫外線に照らされ、個々の状況にあわせて色や形の異なる、美しい惑星状星雲となって私たちの目を楽しませてくれる。」「昔の小さな望遠鏡ではガスの様子が惑星のような円盤に見えたことから「惑星状星雲」と呼ばれるようになった。」

ハッブル宇宙望遠鏡での観測方法について、著者がご存知ないはずはないと思いますので、筆がすべってしまったのでしょう。しかし、このように書かれてしまうと、「昔の小さな望遠鏡」ではぼんやりしか光のかたまりにしか見えていなかった惑星状星雲を、ハッブルのような高性能の望遠鏡で観測すると、「美しい」姿が明らかになったというように解釈されかねません。もちろん、これは間違っています。

私たちがデジカメで写真を撮るとき、被写体の像は、3原色であるRGB(赤、緑、青)の3枚のフィルターを通して別々に取得された後、3色が合成されてカラー写真となります。したがって、デジカメで撮影されたカラー写真の色は「トゥルーカラー(実際の色)」です。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡(地上の光学望遠鏡も同じですが)で撮影に用いられるフィルターにはさまざまな波長のものがあり、得られた画像は人工的に着色された「フォールスカラー(偽似的な色)」です。ハッブルの画像に見られる色は人工的なものであり、実際に私たちが肉眼で見る色ではありません。

ですから、「拡散していくガスは・・・美しい惑星状星雲となって私たちの目を楽しませてくれる」というのは、誤解をまねく表現といわざるをえません。ハッブルの画像が「美しい」としたら、その意味は、観測対象の天体そのものが美しい色で輝いているのではなく、「拡散していくガスを特定の波長のフィルターを選択して観測し、そのデータに色をつけて合成した研究者の美的センスがすぐれている」ということなのです。

私が参加して制作したJST(科学技術振興機構)「理科ねっとわーく」用のデジタル教材「サイエンスファインダー」(制作:財団法人日本宇宙フォーラム)では、ハッブル宇宙望遠鏡での観測データにいかにして色がつけられていくのかを説明しました。「理科ねっとわーく」は学校の理科の先生が授業で使うことを目的としていますが、機能が少し制限された「一般公開版」もあり、こちらの方は誰でもアクセス可能です。もちろん、サイエンスファインダーも見ることができます。

このサイエンスファインダーを使って、超新星残骸である「かに星雲」の画像が、ハッブル望遠鏡でどのようにして得られたかをみてみましょう。

かに星雲

下の画面は、「かに星雲」を観測するために選ばれた3つのフィルターを示しています。ハッブル宇宙望遠鏡のWFPC2(広視野/惑星カメラ2、現在はWFC3に交換されています)には48種類のフィルターが装着されていましたが、この観測ではその中からF502N(波長501nm)、F631N(波長631nm)、F673N(波長673nm)が選ばれました。F502Nは青緑色、F631Nはだいだい色、F673Nは赤色のフィルターです。

サイエンスファインダー

これらのフィルターを使って得られたデータが、下の画面に示されています。当然のことながら、それぞれのデータはモノクロです。波長によって、明るい部分が異なっているのがわかります。F502Nは電離した酸素原子、F631Nは中性の酸素原子、F673Nは電離した硫黄原子の存在を示しています。

サイエンスファインダー

下の画面では、各フィルターのデータにRGBをふり分け、カラー合成したところが示されています。こうして、ハッブルの美しく、迫力のある画像ができあがるわけです。

サイエンスファインダー

私がこうした教材をつくったのは、最初にもふれたように、ハッブル宇宙望遠鏡の画像を実際の色と考えている生徒が多かったためです。先生方にこの教材を教室で使ってもらえれば、生徒たちはハッブル宇宙望遠鏡で行われている観測の方法を理解することができ、宇宙への関心はより深いものになるのではないかと思っています。

なお、サイエンスファインダーには、ハッブル宇宙望遠鏡だけでなく、すばるやVLTのような地上の光学望遠鏡、さらにはスピッツアー赤外線望遠鏡やチャンドラX線望遠鏡など、可視光以外の「見えない」領域の電磁波で観測した画像のつくられ方も説明してあります。興味のある方はアクセスして、使ってみてください。
10万人の宇宙飛行士
大宮のソニックシティの大ホールで、若田光一さんの帰国報告会が開かれました。若田さんの地元ということもあり、会場には2300名もの人がつめかけました。

若田さんは写真や映像を使いながら、国際宇宙ステーションでの長期滞在の経験を語りました。また、講演の最後には、子供たちの質問に1つ1つ、若田さんらしくていねいに答えていました。会場の多くの方にとって、宇宙がより身近に感じられるようになったにちがいありません。

若田さんの講演に先立って、「10万人の宇宙飛行士」DVD の返還式が行われました。このDVD には、さいたま市内全小・中学校の生徒の集合写真約10万人分が収められています。若田さんはこれを国際宇宙ステーションにもって行きました。そして今日、若田さんと一緒に宇宙に長期滞在したこのDVD が生徒たちに返還されたのです。

若田宇宙飛行士帰国報告会

宇宙で活躍する若田さんの姿を見ながら、生徒たちはきっと、自分たちも宇宙で生活したり、仕事をしている気分になったのではないでしょうか。若田さんもまた、10万人の小さな宇宙飛行士たちと一緒にいることが、大きなはげみになったに違いありません。
恐竜絶滅と「シバ・クレーター」
オレゴン州ポートランドで10月18日〜20日に開かれたアメリカ地質学会の年次総会で、テキサス工科大学の古生物学者、シャンカール・チャタージーが「シバ・クレーター」とデカン高原での溶岩噴出の関係について発表を行ったようです。シバ・クレーターに「」をつけたのは、この地形が本当に衝突クレーターかどうかは、まだはっきりしていないからです。プログラムに載っているアブストラクトを読む限り、彼がこれまで述べてきた以上の、特別新しい内容が加わっているようには思えませんが、実際に彼の話を聞いたわけではないので、なんともいえません。

今から6500万年前に、恐竜をはじめ多くの生物が絶滅した大事件は、ユカタン半島に落下した直径10km ほどの隕石によって引き起こされたと考えられています。衝突でできたクレーターは海底に埋もれており、チクシュルーブ・クレーターとよばれています。チクシュルーブ・クレーターの直径は約180km です。

世界各地で発見されているクレーターの中には、チクシュルーブ・クレーターとほぼ同年代のものがあります。そのため、6500万年前には、チクシュルーブ・クレーターをつくった隕石を含む複数の隕石が世界各地に同時に落下したという説をとる研究者もいます。複数の隕石が同時に落下したとなると、1つの超巨大隕石が地球の近くで分裂したことになります。

シャンカール・チャタージーは10年以上前に、同時に衝突した隕石のうち最大(直径約40km)のものはインド亜大陸の西に落下し、その衝突跡が、インド洋の海底に発見されている巨大なくぼみであるという説を発表しました。彼はこの衝突跡をシバ・クレーターと名づけました。ヒンドゥーの破壊と再生の神であるシバ神からとったものです。

チャタージーはチクシュルーブ・クレーターとシバ・クレーターのほか、ウクライナのボルティシュ・クレーター、さらにはメイン州沖のスモールポイント・クレーターや北海のシルバーピット・クレーターを、そのときの多重衝突跡としてあげています。ただし最後の2つはおそらく衝突クレーターではありません。いずれにしても、恐竜絶滅に大きな影響を与えたのは、チクシュルーブ・クレーターとシバ・クレーターということになります。

チャタージーによると、この巨大隕石が衝突したのは、インド・プレートとアフリカ・プレートの境界にあたる場所でした。このプレート境界では、地球内部から溶岩が湧き出してきて海底が拡大しています。そのため、プレートの移動にともなってシバ・クレーターは2つに分裂し、北東部分はインド大陸と一緒に移動し、南西半分は現在のセイシェル諸島の南側まで移動したというのです。インド側の部分は、ムンバイ(以前のボンベイ)の沖合にあります。このあたりはボンベイハイという油田となっていますが、堆積物に埋もれた下にクレーターらしい構造、すなわちクレーターのふちや円形の溝、さらには中央丘(これもボンベイハイとよばれています)のような地形が確認されるとチャタージーは主張しています。一方、セイシェル諸島の南の海底下にも同じようなクレーターらしい構造が発見されており、この2つを6500万年前にさかのぼって合体させると、600km×400km の涙滴形の巨大なクレーターが再現できるというのです。クレーターの形状が丸くないのは、隕石が南西方向から低い角度で衝突したためであるといいます。

これだけの巨大クレーターができたのですから、その衝突は想像を絶するほどで、衝突によって地殻は一瞬にして蒸発し、衝突跡はマントルにまで達したとチャタージーは述べています。

インドでは6500万年前に、もう1つ別の地質学的大事件がありました。流動性に富む大量の溶岩が地下から噴き出したのです。この溶岩はデカン高原の北西部をおおっており、デカン・トラップとよばれています。チャタージーは、このデカン・トラップの形成も、隕石衝突が引き金になったと考えています。両者の関係についての新しい考えが、今回の彼の発表に入っているのかもしれません。ただし、デカン・トラップをつくった溶岩の大量噴出は、隕石衝突よりも先にはじまっていたようです。

シバ・クレーターはまだ「仮説」の域を出ていませんが、人々の興味を引く話題であるため、マスコミではよく取り上げられます。しかし、このような衝突が実際にあったかどうかは、今後、科学的なデータによって検証されていかなければなりません。
準天頂衛星
今日は丸の内オアゾのJAXAi でのマンスリートークの日でした。前回、9月17日のマンスリートークでは、JAXA 宇宙輸送ミッション本部 事業推進部 計画サブマネージャの松村泰起さんに来ていただき、9月11日に打ち上げが成功したばかりのH-B ロケットについてお話をうかがいました。今回は、JAXA 宇宙利用ミッション本部 準天頂衛星システムプロジェクトチーム プロジェクトマネージャの寺田弘慈さんに、来年夏に打ち上げが予定されている準天頂衛星についてお話をうかがいました。「準天頂」衛星とは、「ほぼ天頂にある」衛星という意味です。

準天頂衛星は測位サービスのための衛星です。私たちはアメリカのGPS 衛星による測位データを、カーナビなどで日常的に利用しています。GPS 衛星は高度2万km のあたりをまわっており、全部で30個ほどの衛星が飛んでいます。GPS 衛星上には原子時計が積まれています。GPS 衛星から発信した信号と受信側の時間情報から、その衛星と受信機との間の距離がわかります。したがって原理的には3個のGPS 衛星からの信号を受信すれば地球上での位置が決定されますが、位置の精度を高めるためには、さらに4個目のGSP 衛星の信号が必要です。

しかしながら、都市部のビルの谷間や山間部では、同時に4個のGPS 衛星の信号を受信できないことが多くあります。そこで、日本の天頂近くに長い時間見えており、GPS 衛星とほぼ同じ測位信号を発信する衛星を打ち上げ、これを既存のGPS と組み合わせれば、正確な位置情報や時間をより早く、いつでも知ることができるというのが、準天頂衛星の考え方です。

静止軌道上の衛星は24時間で地球を1周するので、地上からはいつも同じ方向に見えています。ただし、赤道上空ですので、日本から見ると、緯度と同じ角度だけ天頂から南に下がった方向に見え、真上にくることはありません。準天頂衛星の高度は静止軌道と同じ高度3万6000km ですが、赤道に対して43度傾いた、日本の真上を通る軌道をとります。日本からこの衛星を見ると、その軌道は8の字を描いて南北に移動し、「8」の一番上のあたりで、ほぼ天頂付近に見えるようになります。この軌道を少し楕円にして、遠地点が日本上空に来るようにすると、上の丸が小さい非対称の8の字となり、天頂付近に見える時間が長くなります。1個の準天頂衛星が天頂付近に見えるのは8時間ほどなので、この衛星が3個あれば24時間、どれかの衛星が天頂付近に見えることになります。準天頂衛星の軌道は下の図のようになります。

準天頂衛星の軌道

日本では、このような3機体制の「準天頂衛星システム計画」を進めており、その第1段階として、技術実証・利用実証のため、まず初号機1機を打ち上げることにしているのです。準天頂衛星の信号を受信できるようになると、これまでよりも正確な位置をいつでも知ることができるほか、地図情報の更新、事故や犯罪の防止、環境管理、農業・漁業・建設業の作業効率の改善など、さまざまな分野への貢献ができるものと期待されています。

現在、準天頂衛星の愛称募集が行われています。
フランクフルト・ブックフェア
フランクフルトに来たのは、この時期に毎年開かれるブックフェアに参加するためです。フランクフルトのブックフェアは、世界各国の出版社からどのような本が出版されているかを情報収集する場であると同時に、世界がどのように動いているかを知る貴重な機会でもあります。

フランクフルト・ブックフェア会場

今年のフランクフルト・ブックフェアは招待国が中国だったこともあり、いろいろな面で中国のエネルギーが目立っています。ブースを運営している人たちの多くが20代、30代の若い世代です。中国が洗練された出版活動を行っていくには、まだ少し時間がかかりそうですが、世界の舞台に出て行こうとする熱気が感じられました。中国コーナーの入り口近くに立っていた中国国際航空ののぼりのキャッチコピーが、彼らの思いをあらわしているようです。「心有翼 自飛翔:The heart will fly with her wings, Give wings to dreams」。

会場の一番奥にあるホール8には、英語圏の出版社が多くのブースを並べています。当然のことではありますが、学術出版から世界的なベストセラー、子供向けの本まで、英語の出版物は世界の出版物の中で大きなウェイトを占めています。しかし、以前は世界の中心のように感じられたこのホール8も、心なしか、熱気が失われているようにも感じられました。ヨーロッパの出版社のクオリティーの高い展示を見たり、かつての東欧諸国や旧ソ連の共和国、さらにはアラブ諸国の出版社が存在感を示しているのを見たりすると、この印象はよけいに強くなりました。英語という言語によるグローバリゼーションは一定の限界に達し、多言語・多文化の世界へと、大きな流れがはじまっているようです。

私にとってさびしかったのは、ロシアの出版社にまだ勢いが感じられないことです。ずっと以前からつき合いがあり、旧ソ連の時代には、実現が難しかった宇宙関連施設や物理学の研究所の取材で協力してもらったこともあるロシア科学アカデミーの出版局であるナウカ社のブースには人影がありませんでした。

一方で、紙という媒体の出版物を電子媒体と結びつけ、いかにしてビジネスとして成立させるかという模索も、あいかわらず行われています。いろいろなことを考えさせられるブックフェアです。
ダンシング・イン・ザ・ウィンド
ダブリンのナショナル・ライブラリーには、アイルランドの有名な詩人、W.B. イェイツの特別展示コーナーがあります。トリニティー・カレッジでの会議の翌日、短い時間でしたが、そこに行ってきました。照明を落とした部屋で、イェイツに関する資料や彼が書いた詩の原稿を見た後、ギフトショップで買い物をしていて目に止まったのが、1枚のCD でした。

“Dancing in the Wind” というタイトルのこのCD は、ハープ奏者で歌手のクレア・ロシュが、イェイツの詩を音楽にしたものです。作曲だけでなく、自分で歌い、ハープを奏でています。全部で9曲が入っており、私が好きな詩、”The Song of Wandering Aengus” は2番目にありました。

Dancing in the Wind

クレア・ロシュのウェブサイトで調べたところ、彼女はダブリンのユニバーシティー・カレッジで文学を、さらにトリニティー・カレッジでアイルランド文学を学びました。その一方で、ピアノ奏者で曲も書いていた彼女はアイリッシュハープを学び、歌手としても活動していくようになったのです。こうしてアイルランドの伝統的な文学と音楽を学んでいったクレア・ロシュにとって、イェイツの詩との出会いは必然だったのかもしれません。イェイツの家族の許可を得て、彼の詩に曲をつけ、自ら演奏したのが、“Dancing in the Wind” というわけです。

ホテルに帰ってから早速聴いてみました。とても素晴らしいCD です。アイルランドの歴史や自然の中から生まれたイェイツの詩が音楽と見事に融合して、人の心をさらにゆさぶるものになっていました。
ロングルームと言語の壁
ダブリンに2日間滞在してからフランクフルトに来ています。ダブリンではトリニティー・カレッジでの会議に参加しました。

Trinity College

トリニティー・カレッジには古い歴史をもつ図書館があり、そのメインの部屋は「ロングルーム」とよばれています。その名の通り、奥行きの深い部屋で、両側には2階建ての書棚があり、ここに20万冊の本が保管されています。人類の偉大な知的遺産です。

The long Room, Trinity College, Dublin

ロングルームに来ると、もしも書棚の梯子を上って、おそらく何百年も開かれたことのない古い本のページをめくってみたらどんな気持ちになるだろうか、と想像しないわけにはいきません。しかし、私を含めたほとんどの日本人にとって、そこに書かれている内容を十分に理解することは難しいでしょう。言語の壁が厳然として立ちはだかっているからです。私が参加した会議というのは、最新のコンピューター・サイエンスやコンピューター・テクノロジーを使って、この言語の壁をいかにして乗り越えるかという会議でした。
小惑星アポフィスが地球に衝突する確率
2004年に発見された小惑星アポフィス(下の写真)は、2036年4月13日に地球に接近します。当初の計算では、地球に衝突する確率は4万5000分の1とされ、一時騒がれたことがありましたが、最近行われた精密な観測にもとづく軌道計算によって、その確率は25万分の1程度であることがわかりました。

小惑星

地球に接近する小惑星をNEO(地球近傍天体)とよびます。NEO にはアポロ型、アテン型、アモール型があります。アポロ型とアテン型は地球の軌道を横切る軌道をとっています。アモール型は地球のすぐ外側をまわっている小惑星です。このほか、地球のすぐ内側をまわっている小惑星も、地球に接近することがあります。アポフィスはアテン型の小惑星で、JPL のSmall-Body Database Browser によると、その直径は270mとされています。

アポフィスが地球に衝突する確率は非常に低く、心配する必要はありませんが、将来、地球に衝突する確率の高い天体が発見された場合、衝突を回避するためにはどうしたらよいでしょうか? NASA は2007年3月に議会に提出したNEO に関する報告書で、NEO の探索法などに加え、衝突を回避するための方法についても詳細に検討しています。

最も有効なのは、やはり核爆発を利用する方法です。小惑星の近くで核爆発をおこし、軌道をそらすのです。核爆発を利用する方法にはこの他、核爆発物を小惑星に衝突させ、その瞬間に爆発させる方法、核爆発物を表面に着陸させ、適当なタイミングで爆発させる方法、さらには小惑星の内部に突入させてから爆発させる方法もあります。これ以外に、通常の爆薬を用いる方法も考えられます。

爆発以外で軌道を変える方法もいろいろ考えられています。たとえば、巨大なミラーで太陽光を集めて小惑星の一部を蒸発させ、その時の反作用で軌道を変えようという案、宇宙船を小惑星に接近させ、レーザーパルスで小惑星の一部を蒸発させる方法、小惑星にマスドライバーを着陸させ、掘削した小惑星物質をマスドラーバーで放出して、その反作用で軌道を変える案、宇宙船を長期間にわたって何度もフライバイさせ、その際の引力で小惑星の軌道を少しずつ変える案、小惑星に宇宙船を着陸させ、小惑星を押して軌道を変える案、何らかの方法で小惑星表面に「色」を塗り、太陽光の反射率を変えることによって少しずつ軌道を変える案などです。

どの方法をとるにせよ、効果的に軌道を変更させるには、小惑星がどのような物質でできており、どのくらいの密度をもっているのかといった情報が必要です。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワは、内部に空隙が多く、がれきが積み重なったようなラブルパイル構造をしていました。小惑星については、まだわからないことがたくさんあります。

地球に衝突する潜在的危険性のあるNEO を探索したり、衝突回避の方法を研究するスペースガード活動は、世界各国で行われています。小惑星探査は、太陽系の起源や進化を探るためだけでなく、スペースガードにとっても重要な意味をもっています。
NASA のLCROSS、月面衝突に成功
NASA の月探査機LCROSS(エルクロス)が本日午後8時31分(日本時間)に、月の南極にあるカベウス・クレーターの内部に衝突しました。LCROSS ミッションは、月の南極にあるクレーターの永久影(1年中太陽の光が差さない場所)に水の氷が存在するかどうかを調べるために計画されました。衝突実験は成功しました。

私はNASA TV で、LCROSS の最後の瞬間を見守っていました。下の写真のように、画面に映っている月面が次第に近づいてきます。やがてターゲットとなるカベウス・クレーターがどんどん大きくなっていきました。とはいっても、クレーター内には光が差さないので、真黒な影が大きくなっていくだけです。LCROSS が衝突する4分前には、LCROSS から10時間ほど前に分離されたセントール・ロケットが先に衝突したはずですが、衝突の閃光やその他の兆候は、画面を見ている限りでは、確認できませんでした。

LCROSS月面衝突直前の画像

LCROSS の衝突の様子は、月を周回しているNASA の探査機LRO や地上の大型望遠鏡によって観測されました。衝突によって噴き上げられたちりや蒸発物の分析によって、クレーターの底にある物質や、水の存在の有無がわかります。水の存在が確認されれば、将来の有人基地建設にとって、非常に重要な意味をもちます。水が発見できなくても、それはそれで、大きな科学的成果となります。
地球温暖化とスーパー台風
中心気圧955hPa、最大風速45mで2年ぶりに上陸した台風18号は、日本列島を縦断し、各地に大きな被害をもたらしました。

気象庁では、台風を、最大風速(10分平均)が33m/s(64ノット)以上44m/s(85ノット)未満のものを「強い」台風、44m/s(85ノット)以上54m/s(105ノット)未満のものを「非常に強い」台風、54m/s(105ノット)以上を「猛烈な」台風と、階級分けしています。この階級でいうと、今度の台風18号は日本列島に接近した時点で、「非常に強い」台風に発達していました。

地球温暖化によって、すでに強い台風が発生しやすい状況がもたらされているのでしょうか? 温暖化が進むと、今後、強大な台風が発生するのでしょうか?

人類が排出してきた温室効果ガスによって、以前よりも強い台風やハリケーンが発生しているかどうかについては、まだ議論があるようです。

米軍のJTWC(合同台風警報センター)では、「トロピカル・ストーム(熱帯低気圧)」、「台風」、「スーパー台風」という分け方をしており、最大風速(1分平均)が130ノット(秒速67m)以上のものをスーパー台風としています。JTWCの2008年のレポートによると、1959年から2008年までのスーパー台風の発生数は下のようになっています。ここからは長期的な傾向を読みとることはできません。

スーパー台風の発生数(JTWC)

一方、下の図は、大西洋赤道域の海面水温(青色)と、ハリケーンの活動度を示すPDI(パワー散逸指数、緑色)の関係です。PDIはハリケーンの発生頻度、継続期間、強度の組み合わせた指数です。熱帯低気圧は暖かい海水からエネルギーを得て発達するわけですが、この図を見ると、海面水温とPDIの間には強い相関関係があり、海面水温が高くなると、PDIも高くなっているのがわかります。また、1995年以降は海面水温とPDIがそれ以前よりも高い水準にあるようにも見えます。

SSTとPDI

将来を考えると、今後温暖化が進むと台風やハリケーンの発生数は減るが、より強い台風やハリケーンが発生すると、多くの研究が予測しています。先日、名古屋大学や気象研究所などの研究グループは、今世紀末に日本付近に発生する台風の発達状況を予測した結果を発表しました。それによると、日本の南の海域では海面水温が2度C程度高くなり、スーパー台風の発生頻度が増すことが示されました。また、最大風速80m/sというスーパー台風も発生するとのことです。
すばる望遠鏡10周年
一橋記念講堂で開かれた「すばる望遠鏡10周年記念シンポジウム」に行ってきました。

すばる望遠鏡はハワイ島のマウナケア山頂につくられました。ここは世界で最も天体観測に適した場所の1つとして知られています。標高は4205m、気圧は平地の3分の2しかなく、快晴の日が多く、乾燥しています。1999年1月のファーストライト以来、天文学の最前線で多くの成果をあげてきたことは、みなさんもご存じのことと思います。

ファーストライトから1年後、すばる望遠鏡を訪れたときのことを思い出します。明るいうちに山頂に着き、見学をしているうちに、太陽が沈み、澄んだ空の色は青から濃紺へと変わっていきました。気がつくと、一番星が出ていました。金星です。空気が薄いため、それまで見たことのない明るさで輝く金星をみたとき、この望遠鏡の輝かしい未来が見えたような気がしたものです。

シンポジウムでは、観山正見国立天文台台長の開会挨拶の後、4つの基調講演が行われました。国立天文台の渡部潤一先生の講演では、数々の発見で見えてきた新しい太陽系の姿が説明されました。東京大学の須藤靖先生の講演は太陽系外惑星に観測に関するものでした。東京大学数物連携宇宙研究機構の村山斉先生の講演では、暗黒物質と暗黒エネルギーの観測に果たすすばる望遠鏡への期待が語られました。国立天文台の家正則先生の講演では、すばる望遠鏡による最遠の銀河の観測が語られた後、次世代30m望遠鏡(TMT)計画が紹介されました。

すばる望遠鏡10周年記念シンポジウム

天文学の進歩にともない、すばる望遠鏡が活躍する領域も広がっています。これからの10年も、すばる望遠鏡は数々の素晴らしい発見をもたらすでしょう。

エイズワクチンの臨床試験で初の成果
日本ではあまり大きく報道されませんでしたが、タイで6年間にわたって行われていたエイズワクチンの第3相臨床試験で、世界で初めてHIV の感染防止効果が確認されました。

この臨床試験は、アメリカのNIAID(国立アレルギー・感染症研究所)とアメリカ陸軍の資金援助のもと、バンコック近郊の、HIV 感染リスクの高い地域に住む18歳から30歳までの男女1万6000名以上が参加して、2003年10月に開始されました。被験者は2つのグループに分けられ、一方にはワクチンが、もう一方にはプラシーボ(偽薬)が与えられました。その結果、プラシーボを与えられた8198名のうち74名がHIV に感染したのに対して、ワクチンを投与された8197名では、HIV に感染したのは51名でした。この差は統計的に有意であり、限定的であるとはいえ、ワクチンの効果が明らかになりました。ワクチンには約30%のHIV 感染防止効果が認められたことになります。

NIAID のウェブページでアンソニー・ファウチ所長は、「この成果はエイズワクチン研究にとって大きな前進である」と述べています。「エイズワクチンがHIV 感染防止に一定の能力をもつことが、初めて示された。このワクチンがどのようにしてHIV 感染リスクを低減させたのかを理解するには、さらなる研究が必要だが、これがエイズワクチン研究を勇気づける進歩であることは間違いない」

RV144 とよばれたこの臨床試験は、それ以前に開発され、単独では効果が認められなかった2種類のワクチンを組み合わせて用い、2段階で被験者に免疫を与えようというものでした。

最初の免疫を行う「プライム」のワクチンは、フランスのサノフィ・パスツール社のALVAC-HIV です。このワクチンはカナリアポックスウイルスにHIV の遺伝子を組みこんだものです。カナリアポックスウイルスは哺乳類では増殖しないので、安全なベクターとして、他の病気のワクチンでも使用されています。追加免疫を行う「ブースト」のワクチンは、アメリカのヴァックスジェン社が開発し、サンフランシスコの非営利団体GSID にライセンスされているAIDSVAX B/E です。AIDSVAX B/E は、gp120というHIV の表面に存在し、HIV が細胞に感染する際に重要な役割をはたすタンパクを抗原として使用するものです。

HIV は変異がはげしく、現在A からK までのサブタイプ(亜型)に分けられています。今回使用されたワクチンは、このうち東南アジアで流行しているサブタイプB とE をベースとしています。

ワクチンの投与は、以下のようにして行われました。まず、被験者にALVAC-HIV を投与し、さらに1か月後、3か月後、6か月後にも投与します。AIDSVAX B/E は3か月目と6か月目に投与します。この6か月を1つのサイクルとして、これを3年間くり返すのです。この間、被験者には6か月ごとにHIV 感染テストが実施され、同時に感染予防のためのカウンセリングが行われました。

HIV が発見されてからすでに20年以上が経過していますが、ウイルスの変異がはげしい、ターゲットの1つであるgp120タンパクが糖鎖におおわれていて攻撃しにくいなどの理由で、有効なエイズワクチンの開発は困難をきわめ、失敗をくり返してきました。すでに全世界で2500万人の命を奪っているエイズの流行を食い止めるには、どうしてもワクチンが必要です。今後の研究の進展が期待されます。
ゴートはどこへ行った?
若田光一さんがISS(国際宇宙ステーション)に滞在している間の写真を見ていて、私はあるものを見つけました。何枚もの写真にそれは写っていましたが、一番よく見えているのは下の写真です。

ISSのデスティニー実験棟

これは、2009年7月2日、ソユーズ宇宙船のドッキング場所を移動させたときに撮影された写真です。写っているのは、デスティニー(アメリカの実験棟)のISS ロボットアームの操作卓のある場所です。左と真ん中上のディスプレイには飛行中のソユーズが見えていますが、このソユーズに若田さんは乗っていました。ところで、左のディスプレイの下に、フィギュアが置いてあるのがおわかりでしょうか。もちろん、無重量の宇宙空間ですから、実際は「置いてある」のではなく、ベルクロ(マジックテープ)で止めてあるのですが。

ゴートのフィギュア

このフィギュアを見て、すぐにそれが何であるかわかる方は、SF 映画に相当くわしい人といえるでしょう。これは1951年に公開された『地球の静止する日』(The Day the Earth Stood Still)に出てくる「ゴート」というロボットです。原子力を武器として利用し、破滅への道を歩みはじめた人類に警告を与えるため、円盤に乗って宇宙からやってきた地球人そっくりの主人公が、マイケル・レニー演じるクラトゥー。彼の護衛役で、いざとなれば地球を破壊できる力をもったロボットがゴートなのです。

ゴートは、アメリカではよく知られており、フィギュアが売られています。NASA の宇宙飛行士の中にこの映画のファンがいて、ゴートをISS に持ってきたのかもしれません。

『地球の静止する日』は2008年にキアヌ・リーヴス主演でリメイク版がつくられました(日本でのタイトルは『地球が静止する日』)が、残念ながら見る価値のない作品でした。ゴートもマッチョ型で、あまり魅力的ではありませんでした。アメリカでも、昔のゴートのフィギュアが売られているということは、やはり多くの人が昔にゴートに親しみをもっているのでしょう。

このゴートのフィギュアは、若田さんがISS に到着するしばらく前からあったのですが、最近のISS の写真を見ると、そのゴートが姿を消しているのです。ゴートはどこへ行ってしまったのでしょうか? どうしても知りたかったので、くだらない質問で申し訳ないと思いながらも、昨日、若田さんにお会いした折に聞いてみました。若田さんによると、ベルクロが外れて、どこかに飛んで(浮かんで)行ってしまったのではないかとのことでした。ISS では、浮かんでいたものが、いつの間にかどこかへ行ってしまうのはよくあることです。

そのようなわけで、ゴートは今も、宇宙を遊泳しているようです。
オオカバマダラの定位活動
北アメリカ大陸に生息するオオカバマダラは渡りを行うチョウとして知られています。夏の間はカナダのあたりにいますが、冬にはカリフォルニアやメキシコまで移動して越冬します。移動距離は3000kmを超えます。

オオカバマダラ

オオカバマダラの渡りの特徴は、同じ個体が渡りをくり返すのではなく、世代を超えて渡りが行われることです。南で越冬するのは、夏の間に生まれたオオカバマダラです。春になるとオオカバマダラは交尾しながら北上します。夏の生息地に達するまでに何世代もかかります。つまり、オオカバマダラは自分が見たこともない土地に向かって旅をするのです。それなのに、目的地を間違えることはなく、越冬地の森林で毎年同じ木にとまるというのですから、生物というのは、つくづく不思議です。

オオカバマダラがどうやって渡りをするのかについての新しい論文が、『サイエンス』誌の先週号(2009年9月25日号)に載っていました。鳥やチョウが渡りをするとき、定位活動、すなわち方位を正確に知るためには概日時計が使われています。概日時計というのは、約24時間周期の体内時計のことをいいます。自分の中の時計と、そのときの太陽の位置から、針路を決めるのです。これまでの研究で、鳥やチョウの概日時計は脳にあることがわかっています。

ところが、マサチューセッツ大学医学校のクリスティン・マーリンらの研究によると、オオカバマダラの場合、触覚にある概日時計の方が重要な役割を果たしているとのことです。このことは、触角を取り去ったオオカバマダラを飛行シミュレーターの中で飛ばすと、チョウが方向を見失うなどの実験で明らかになりました。脳の概日時計と触角の概日時計の関係は、まだわかっていません。マーリンらはオオカバマダラだけでなく、他の昆虫も定位活動に触角を使っている可能性があるとしています。

スマトラ沖の巨大地震とサンアンドレアス断層
9月29日に南太平洋のサモア諸島近くでマグニチュード8.0の地震がおこり、地震と津波で100人以上の死者がでました。翌9月30日にはインドネシアのスマトラ沖でマグニチュード7.6の地震が発生、死者は1100人以上との報道もあります。10月1日には、30日の震源に近い場所でマグニチュード6.6の地震が発生しています。

インドネシアでこのところ大きな地震が多発していることが、2004年12月26日にスマトラ沖で発生したマグニチュード9.1という、観測史上世界第2位の巨大地震と関係しているかもしれないということは、以前に書きましたが、『ネイチャー』誌の今週号(2009年10月1日号)には、この2004年のスマトラ沖地震が、アメリカのサンアンドレアス断層の活動に影響を与えている可能性があるという論文が掲載されています。サンアンドレアス断層はカリフォルニア州を縦に走るトランスフォーム断層(横ずれ断層)で、北アメリカ・プレートと太平洋プレートの境界です。このあたりは世界有数の地震多発地帯となっています。

「2005年と2006年には世界各地でマグニチュード8クラスの地震が多かった。これは2004年12月のスマトラ沖地震と関係があるのでは?」と考えたライス大学の研究チームは、1987年から2008年までの20年間に、パークフィールド周辺のサンアンドレアス断層で起こった地震を調べてみました。断層の「強さ」、すなわち、その断層が地震を起こすために必要なせん断応力を計算したところ、断層の強さは20年間で3度、顕著に変化していることがわかりました。最初は1992年のパームスプリングの北で起こったランダーズ地震で、この地震の後、マグニチュード4クラスの地震が頻発しました。2度目は2004年9月のパークフィールドでの地震です。そして3度目の変化は2004年12月26日のスマトラ沖地震後5日間くらいの間に起こっていました。

2004年のスマトラ沖地震がはるかに離れたサンアンドレアス断層の強度を弱め、地震を起こりやすくしていたとすれば、おそらく世界各地の他の断層にも影響を与えたにちがいありません。きわめて興味深い仮説といえるでしょう。

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