口蹄疫:ウイルスはどこから来たか?
口蹄疫のウイルスは遺伝情報をRNA の1本鎖としてもち、これがキャプシドとよばれる殻の中に入っています。キャプシドは球形で、4種類のタンパクが規則的に並んでいます。下のCG は、その様子を視覚化したものです。ウイルスの直径は21〜25nmです。

Oxford University

口蹄疫ウイルスにはいくつかのタイプがあり、アジアで流行しているのはO 型、A 型、Asia 1型です。ウイルスは牛のほか、豚、水牛、羊、山羊、鹿などにも感染します。特に豚は感染しやすく、感染すると大量のウイルスを放出するので、口蹄疫の感染拡大防止には、感染した豚の殺処分を迅速に行う必要があります。

ウイルスは感染した家畜の呼気中に含まれ、他の家畜に経口感染するほか、水泡や糞尿、乳にもウイルスが含まれます。ウイルスに汚染された物品が人間と一緒に移動することによって感染が拡大するほか、動物によってもウイルスは運ばれます。ウイルスを含む糞便などの粒子が風に乗って長距離を移動することもあるといわれています。ウイルスに感染した場合、症状があらわれるまでの潜伏期間は、牛の場合、約1週間です。

動物衛生研究所は、宮崎県の第1例のウイルスを分離し、遺伝子解析を行いました。このデータはイギリスの家畜衛生研究所に送られ、他のウイルスとの近縁関係が調べられました。同家畜衛生研究所はOIE(国際獣疫事務局)とFAO(国連食糧農業機関)が設置した口蹄疫の確定診断機関となっており、世界各地で発生したウイルスの解析を行っています。ウイルスはO 型であり、分離株はO/JPN/2010と名づけられました。

下は、O/JPN/2010に近縁なウイルスのトップ10です。一番左の欄が順位、次の欄がウイルス株の名前で、最初の「O」はO 型であることを示しています。その次はウイルスが分離された国や場所を示しており、「HKN」は香港、「Ganghwa/SKR」は韓国、江華島を示しています。その次は分離株の番号、そして分離された年です。一番右の欄の数値は、それぞれのウイルスがどれだけO/JPN/2010に近縁かを示しています。O 型のウイルスの場合、近縁関係の解析にはキャプシドタンパクの1つであるVP1の塩基配列を用います。

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ウイルス株の近縁関係の解析は、ウイルスがどこからやってきたかを明らかにする上で、重要な材料になります。上のデータを見ると、O/JPN/2010は香港の豚から分離された9つのウイルス株と99%以上同じという結果になりました。香港での豚の口蹄疫は、香港内の牧場で発生したものではなく、中国本土から入ってきた豚によるものです。したがって、香港の口蹄疫のデータは、中国本土での口蹄疫発生の状況を知るてがかりとなっています。

中国でこのところ流行していたのはA 型とAsia 1型でした。O 型は1999年に発生して以来ずっとなかったのですが、今年2月に広東省で発生したのを皮切りに、3月、4月に中国各地で発生しています。香港では2月と3月に豚でO 型の口蹄疫が発生しました。香港のウイルス株の近縁関係を、系統樹でみると下のようになります。ウイルス株の系統樹は、ウイルスの伝播経路を解明する上で重要です。

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現在、東アジアに存在しているO 型の口蹄疫ウイルスは、1998年にミャンマーで最初に分離された株(Mya-98)に属しています。上の系統樹を見ると、今年、香港で分離されたウイルス株は2009年にミャンマー(MYA)で発生した株からもたらされたもののようです。この株からは、2009年にタイ(TAI)で分離された株も派生しています。ミャンマーに存在していたウイルスが、今年初めに中国にもたらされ、それが香港に伝わったと考えられます。台湾でも今年2月、中国本土から輸入された豚でO 型の口蹄疫が発生しています。

それでは、日本のO/JPN/2010は、系統樹上でどのような位置にあるのでしょうか。下がそれです。枝分かれが少し複雑になっていますが、上に示した香港のウイルス株の位置を頭に入れておけば、その意味を簡単に読み取ることができます。

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O/JPN/2010は香港のウイルス株の間に位置しており、香港のウイルスと同じように、何らかの形で中国からもたらされたのではないかと考えられます。この系統樹にはO/JPN/2010とも近縁であった韓国の株も示されています。このウイルスも同様に中国から伝播したのでしょう。韓国では今年初め、A 型の口蹄疫が発生しましたが、3月に終息しました。ところが4月になって、仁川広域市江華島でO 型のウイルスがあらわれ、現在も発生が続いています。

系統樹からみると、今年初めに中国に伝わったミャンマー株が、2月〜3月に周辺国および中国各地に広がったというのが、今回のO 型流行のごくおおまかな構図といえそうです。ただし、実際にそうであったか、あるいは何を媒介にしてウイルスが伝播していったのかは、詳細な疫学調査の結果をまたなくてはなりません。今後の口蹄疫発生を防止する意味で、これは非常に大事なことです。

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