巨大津波は予測できたか?
福島第一原発に関し、国と東電に損害賠償を求めていた集団訴訟の判決が京都地裁でありました。「津波を予見できたのに対策を怠った」として、賠償を命じるものでした。報道によると、判決は政府が2002年に発表した「長期評価」で津波地震が起こり得ると指摘した点を重視したとのことです。
私はちょうど、東日本大震災から7年目の節目で当時の地震学の状況を振り返り、「長期評価」に関してこことこことこことここに詳しく書いたところでした。
これを読んでいただければお分かりになると思いますが、当時国や東電がマグニチュード9の地震や、それによって引き起こされる大津波を予見することは不可能でした。なぜなら、地震学者自身がそれを予測できなかったからです。東電は、既往の津波をもとに当時定められていた土木学会の「原子力発電所の津波評価技術」に基づいて津波対策を行っており、基準で定められた津波の高さをさらにかさ上げした防潮堤を設置していました。
土木学会は2011年当時、新しい津波評価技術の検討に入ろうとしていたところでした。したがって、東電がそれに先駆けて巨大津波を予見し、対策を取ることはできない状況でした。
裁判官は判決にあたって地震や津波に関していろいろと勉強したのだと思いますが、限界があります。海外の文献まで含めて当時の地震学の状況を把握し、「長期評価」自体を客観的に評価することはできないでしょう。阿蘇山が噴火した際の火砕流が海を越えて伊方原発にまで達するという昨年の広島高裁の判断の際にも感じたのですが、こうした専門的内容を扱う裁判の方法は今のままでよいのだろうかと考えてしまいます。
- 2018.03.15 Thursday
- 地球科学
- 19:05
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- by Kazuo Terakado