東日本大震災:地震学者の責任(1)

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    7年目の311日が来ました。日本の地震学者がマグニチュード9の巨大地震を予知できていれば、これだけの大災害にはならなかったことを忘れてはいけないと思います。1962年の「地震予知−現状とその推進計画」いわゆる「ブループリント」によって開始された地震予知計画には、東日本大震災が起こるまでに、3000億円以上の税金が投入されました。それでも、東北地方太平洋沖地震を予知することはできなかったのです。

     

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    東北地方太平洋沖地震において、地震学者はマグニチュード9という地震を想定することさえできなかっただけでなく、自分たちが考えていた地震発生モデルがまったく間違っていたことを知ることになったのです。

     

    北海道から房総沖にかけての太平洋沖では、ユーラシアプレートの下に太平洋プレートが1年間に約8cmのスピードでもぐり込んでいて、同じような場所でくり返し地震が起こっています。このくり返し地震がおこる仕組みは「アスペリティ」によって説明されていました。アスペリティとはプレート同士の摩擦が大きく、すべりにくくなっている場所のことです。プレートの移動にともなって、アスペリティにはひずみのエネルギーが蓄積されていきます。アスペリティが破壊されると、大きなずれが生じ、地震となります。

     

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    東北地方沖のアスペリティについては、それまでに多くの研究がありました。例えば下の図は、東京大学地震研究所の山中佳子らによって作成された東北地方沖のアスペリティ・マップです。

     

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    これらのアスペリティをよく理解することによって、地震活動の予測さらには地震の予知が可能になると、当時の地震学者の誰もが考えていました。しかし実際に起こった地震は、そのようなアスペリティ・モデルでは説明することが不可能な巨大地震でした。震源域はそれぞれのアスペリティを超えて広がり、岩手県沖から茨城県沖まで長さ約400km、幅約200kmにおよんでいました。木を見て森を見ないアスペリティ・モデルは欠陥モデルであり、地震学者は明らかな誤謬をおかしたのです。

     

    「ブループリント」の提言を受けてはなばなしくスタートした地震予知計画は、19951月の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を予知できませんでした。その後「見直し」が行われ、1998年からは「地震予知のための新たな観測研究計画」(新計画)と名称を変え、計画は存続しました。結局、東北地方太平洋沖地震が起こる前の2008年まで(第1次〜第7次、新第1次〜新第2次)だけで、約3000億円が使われたのです。2012年は大震災の翌年であると同時に、ブループリント50年の年でもありました。同年10月の地震学会では当然のことながら地震予知について議論がありました。しかし驚くべきことに、今後も予知を目指すという意見が大勢を占めました。2014年からは「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の中で「地震予測」の研究が行われています。

     

    私はブループリント自体を評価しています。これを立案した坪井忠二、和達清夫、萩原尊礼には、日本の国土を地震災害から守りたいという強い情熱がありました。ブループリントでは、全国に観測網を整備すれば、10年後には「地震予知がいつ実用化するか」の答が出ると書かれていました。しかし、10年でその答は出ず、いたずらに時間だけが過ぎていきました。予知の手がかりさえ得られなかった以上、地震予知計画はどこかで中止すべきだったでしょう。

     

    現在では「予知」と「予測」を区別して使うようになっていますが、社会的には「予知」が広く使われています。そのため、科学的に根拠のない「地震予知」が誤った情報を流し続けているという問題も生じています。「地震予知は不可能」と明言することは、地震学者が果たすべき責任といえるでしょう。



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