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トランプ政権の宇宙政策はどうなるか
Space exploration under President Trump

トランプ政権の宇宙政策がどうなるか、少し考えてみました。選挙中の演説などから推測すると、オバマ政権時代の宇宙政策は大きく方向転換するでしょう。NASA の宇宙探査計画は強化され、宇宙事業への企業参入が加速するでしょう。一方、地球科学ミッションは大幅に縮小されます。そして、月が改めて脚光を浴びることになると思われます。

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まず、2009年にオバマ大統領が就任した時のことを思い出してみましょう。オバマ大統領は有人宇宙探査に関する新たな政策を諮問するため、オーガスティン委員会を組織しました。委員会は、探査の最終目標を火星とするものの、そこに至る道筋は月を経由するだけでなく、小惑星やラグランジュ点もあるという「フレキシブル・パス」という考え方を示しました。これをもとに、オバマ大統領はブッシュ政権下で進められてきた月着陸を目指すコンステレーション計画をキャンセルし、NASA をあてどのない航海へと旅立たせたのでした。

それでもNASA は何年もかけて ”Journey to Mars” というコンセプトを確立させ、当面の目的地が月であるか小惑星であるかには深く立ち入らず、2030年代に火星を目指す準備を進めてきました。コンステレーション計画で開発されていた次世代宇宙船の開発は続けられ、今日のオライオン宇宙船となっています。コンステレーション計画の打ち上げロケットは開発中止されましたが、月や火星を目指せる次世代大型ロケットSLS が新たに開発されています。NASA はSLS に無人のオライオン宇宙船を載せて月を周回するミッションを2018年に予定しています。一方、「フレキシブル・パス」の手前、小惑星ミッションも考えざるを得ず、小惑星を捕獲して地球近くの軌道までもってくるというARM(小惑星リダイレクト・ミッション)も進めています。

オバマ大統領の宇宙政策の特徴は、未来への明確なビジョンを打ち出さなかったこと、アメリカが宇宙空間でリーダーシップを維持することに積極的ではなかったことです。これはオバマ大統領が宇宙にほとんど関心のない大統領であったことも多分に影響していると思われます。ところが、その間に宇宙では大きな地殻変動が起こっていました。スペースX社に代表される新たな民間企業の参入、そして中国の台頭です。

トランプ氏が主張する「偉大なアメリカ(Make America Great Again)」の実現には、宇宙でのリーダーシップは不可欠です。しかし、オバマ政権が続けてきた宇宙政策では、アメリカがリーダーシップを発揮することはできないと、トランプ氏は考えています。「ドナルド・トランプと私は、アメリカの宇宙政策を再び偉大なものにするプランをもっている」。10月31日、副大統領候補(当時)のマイク・ペンス氏は、ケネディ宇宙センターやケープカナヴェラル空軍基地のあるフロリダ州スペースコーストでこう演説しました。ペンス氏がここを遊説場所に選んだのには理由があります。スペースコーストは2011年のスペースシャトル退役後しばらくは閑古鳥が鳴くほどでしたが、現在はロケットや宇宙船、人工衛星など宇宙産業の工場が集中し、新たなブームを迎えているからです。

ISS(国際宇宙ステーション)への人員・物資輸送は、2018年からはボーイング社、スペースX社、シエラネバダ社が行います。このCOTS(Commercial Orbital Transportation Services)計画は、2004年のブッシュ政権の宇宙政策において、スペースシャトル退役後のISS との往復を商業サービスに任せるという方針のもとにスタートしたもので、今、それが実現しようとしています。さらに衛星打ち上げサービス(スペースX社やブルーオリジン社)、衛星サービス(ワンウェブ社)、宇宙滞在モジュール(ビゲロー社)などの分野でも、新しい企業が続々と宇宙に参入しています。

地球低軌道は民間企業にまかせ、NASA は太陽系探査をもっと強力に推進すべきというのが、トランプ政権の基本的なスタンスです。“NASA could once again reach for the stars”と、トランプ氏は述べています。2025年以降のISS の運用にも、民間企業が大幅に関与することになるでしょう。この ”private-public partnerships” の拡大により、アメリカの宇宙でのリーダーシップは揺るぎないものになります。トランプ氏は雇用創出のため橋や道路を建設するというニューディール的な公共投資を行う姿勢を示していますが、広大なフロンティアを目指す宇宙産業の振興は、多数の雇用創出にもつながります。

NASA の宇宙探査計画、特に有人宇宙探査計画を加速するための財源には、NASA の地球科学ミッションの予算が充てられるのではないかと憶測されています。共和党には、二酸化炭素排出による地球温暖化を作り話であると信じている人が多く、トランプ氏もその1人かもしれません。地球温暖化が世界的に注目されることになったきっかけの一つは、NASA のゴダード宇宙科学研究所のジェームズ・ハンセンが、1988年に議会で行った証言です。そのため、共和党の一部の人たちに、NASA の地球科学ミッションはあまり評判がよくありません。

NASA の地球科学部門の年間予算はNASA 全体の約1割で、約19億ドルです。JAXA 全体の年間予算を上回る規模です。これを探査部門に投入しようというのです。新たな財源を手当てせずに宇宙産業の振興と雇用創出を実現するという、いかにもビジネスマン的な発想です。トランプ氏らが「後方支援業務」とよぶNASA の地球科学ミッションの多くは、NOAA(海洋大気庁)とUSGS(地質調査所)に移管される可能性があります。また、地球観測衛星による環境監視の商業サービスがより活発になると思われます。

小惑星ミッションARM はキャンセルされるのではないでしょうか。そのかわり、NASA はまず月を目指すことになるでしょう。

月は将来の火星有人探査の技術を習得する上でも最適な環境です。さらに、中国は月探査計画を着々と進めており、有人月着陸も計画しています。その意図が月の資源獲得にあるとの指摘もあります。月資源の採取や利用に関する国際的な取り決めはまだできておらず、このままでは中国が既得権を握ってしまう心配があります。トランプ政権はこの問題に取り組まねばなりません。

トランプ政権の外交政策はまだよくわかりませんが、ウクライナやシリアの問題で冷え込んだロシアとの関係は改善される可能性があります。一方、中国との関係は微妙です。こうした動きや、宇宙でのリーダーシップを求めるアメリカの姿勢は、ISEF(国際宇宙探査フォーラム)やISECG(国際宇宙探査協働グループ)で検討されている国際宇宙探査計画にも影響してくる可能性があります。

トランプ政権は、軍事面でも宇宙で圧倒的な優位に立つための政策を取るでしょう。国防総省は特に、中国が開発を進める衛星破壊のための高エネルギー兵器や極超音速滑空飛翔体に神経をとがらせています。前者はレーザーや粒子ビームなどで衛星を攻撃する兵器です。アメリカでは、1980年代に進められたスターウォーズ計画(SDI)が中止されて以降、この分野の研究はほとんど行われていません。また中国が開発中の極超音速滑空飛翔体WU-14 は、マッハ10ものスピードで大気圏に再突入して核攻撃を行う兵器で、これが実現すれば、アメリカのミサイル防衛システムを突破することが可能といわれています。中国に対して遅れをとっている分野に資金が投入され、DARPA(国防高等研究開発局)や防衛産業で新たな研究開発がはじまることになるでしょう。

これまで述べたことが、来年以降どれだけ実現していくかは、今後の成り行きを見守るしかありません。しかし、トランプ政権が目指そうとしている宇宙の姿が、ここから大きく外れていくことはないと思われます。

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