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ASAT(対衛星兵器):中国が宇宙でしかける見えない戦争
Chinese ASAT weapons:”Prepare for space combat”

中国人民解放軍は軌道上の人工衛星を攻撃するASAT(対衛星兵器)の開発と実戦配備を着々と進めています。

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中国のASAT はアメリカに対抗するために開発されていますが、近い将来、中国がアメリカの衛星に攻撃をしかける可能性は低いでしょう。むしろ日本の衛星に対して、東シナ海での有事発生時にASAT が使われる可能性が高いと考えられます。

少し前のことですが、「日本の情報収集衛星が中国上空で機能不全におちいった」との記事が中国のポータルサイト「今日頭条」に掲載され、ネット上で話題になりました。この記事によると、情報収集衛星の機能不全は中国のASAT による攻撃のためだというのです。荒唐無稽な話のようですが、「火のないところに煙は立たぬ」といいます。たとえでたらめであっても、何もないところから話がつくられることはありません。何か背景があるはずです。

この記事が掲載された8月3日の前日、平成28年版の『防衛白書』が閣議了承されました。今年の『防衛白書』は東シナ海や南シナ海での中国の軍事的脅威について、昨年版よりもかなりつっこんで記述しています。中国国営新華社通信は早速、「中国脅威論と海洋の安全問題を継続して騒ぎ立てている」などと非難しました。翌3日には中国外務省が「防衛白書は中国の内政上の問題を批判しており、中国政府は断固として抗議する」との声明を発表。また国防部も「中国に対するいれなき批判を停止するよう求める」との談話を発表しました。折しも尖閣諸島周辺には連日、多数の中国船舶が集結し、接続水域に入ったり、領海侵犯をくりかえしていました。国防部の談話は、「日本自衛隊の南西方面への軍事力の配備は現状を変えることに当たる」と主張し、「われわれは日本側に対して、ブーメランで自分を傷つけないよう、間違った言行を停止するよう忠告しよう」と、武力衝突の可能性をにおわせていました。

こうした状況を見るなら、この時期に「今日頭条」に記事が書かれた背景は明らかでしょう。中国の対衛星兵器は日本の衛星もターゲットにしており、おそらくレーザー照射あるいはサイバー攻撃のシミュレーションをすでに行っているということです。将来、東シナ海で有事が発生した場合、中国はまず自衛隊が使っているXバンド通信衛星や情報収集衛星を無力化してから攻撃を開始するでしょう。GPS信号は妨害され、GPS と相互運用している準天頂衛星も無力化されるでしょう。もちろん、自衛隊のネットワークやアメリカ軍とのデータリンクには強力なサイバー攻撃がしかけられます。海上自衛隊は目や耳をふさがれた状況で中国海軍を迎え撃たねばなりません。島嶼攻防の海戦は、アメリカ軍に対応する時間を与えず、短時間で決着してしまうことは危惧されます。

中国はASAT の実験を以下の通り、これまでに8回行っています。( )内は使用されたミサイルです。

2005年7月(SC-19)ASAT用ミサイルの試験
2006年2月(SC-19)軌道上のターゲット破壊に失敗
2007年1月(SC-19)軌道上のターゲット破壊に成功
2010年1月(SC-19)弾道軌道のターゲット破壊に成功
2013年1月(SC-19)弾道軌道のターゲット破壊に成功
2013年5月(DN-2)ASAT用ミサイルの試験。
2014年7月(SC-19)弾道軌道のターゲット破壊に成功
2015年11月(DN-3)ASAT用新型ミサイルの試験

SC-19 は移動発射式の中距離弾道ミサイルDF-21(東風21)をベースにしたASAT用ミサイルです。よく知られているように、2007年のASAT 実験では、寿命がきた自国の気象衛星「風雲1C」(高度865km)を破壊しました。この実験で大量のスペースデブリが発生しました。追跡可能なサイズのデブリだけで3000個以上におよび、国際社会から大きな批判を浴びました。その後、中国は地球周回軌道に達しない弾道軌道のターゲットを破壊し、デブリが発生しない実験を行っています。中国は2010年、2013年1月、2014年の実験をミサイル防衛システムのための実験と主張しています。SC-19 はすでに相当数が実戦配備されていると考えられます。

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SC-19 は低軌道上の衛星しか攻撃できません。2013年5月に試験されたDN-2(動能2)は高高度の衛星を攻撃するために開発されたミサイルです。このとき、弾頭は高度約3万km にまで達しました。弾頭は何かに衝突することなく落下し、大気圏に再突入しました。その特殊な軌道から、アメリカ国防省筋は、この実験が高度2万6500km のGPS や高度3万6000km の静止軌道上の衛星攻撃を想定したものと考えています。一方、中国は「科学観測」と主張しています。DN-2 は2020年ごろに配備される予定で、GPS の破壊を目的としているという見方があります。

2015年には新型のASAT用ミサイルDN-3 が登場しました。DN-3 はDN-2 を高性能化したミサイルで、静止軌道の衛星攻撃が目的とみられます。中国はDN-3 の試験をミサイル防衛システムのためと主張しています。

これらの実験は、キネティック(運動エネルギー)弾頭を用いたものです。赤外線とレーダーでターゲットを捕捉し、超高速の物体を衝突させて破壊する方式ですが、こうした「ハードキル」兵器は多数のデブリを発生させます。そのため、衛星攻撃をくり返すと、自国の衛星をデブリ衝突の危機にさらすことになります。そこで、衛星を破壊せずに無力化させる「ソフトキル」兵器が考えられており、中国はこの分野にも力をいれています。高出力レーザー、荷電粒子ビーム、マイクロ波ビームなどを用いるダイレクト・エネルギー兵器、あるいは指向性エネルギー兵器といわれるものです。ビームは地上施設のほか、移動車両、航空機、衛星などからも発射可能です。

2005年にアメリカの偵察衛星に対してレーザーが照射され、偵察活動が妨害される事態が起こりました。2013年、これが中国によるものであることが、実際にこの攻撃を行った中国人技術者の話から明らかになりました。中国の対衛星レーザー兵器は急速な進歩を遂げていると考えられています。

中国は軌道上で相手の衛星を捕捉・攻撃するシステムも開発中です。共通軌道(Co-orbital)方式とよばれるものです。この対衛星兵器は通常は普通の小型衛星の姿をして軌道をまわっており、命令を受けると、軌道変更してターゲットの衛星に接近します。運動エネルギー兵器としてそれ自体が衝突して相手の衛星を破壊する方法(カミカゼ衛星)以外に、搭載している爆薬やレーザー、電磁パルスなどによって、ターゲットを破壊する方法もあります。

2008年9月、中国の有人宇宙「船舟7号」から小型光学衛星BX-1 が軌道投入されました。この衛星のイメージセンサーは地球観測に使われる他、アメリカの衛星や宇宙船に接近して偵察を行うことも可能でした。BX-1 は事前の告知なしに国際宇宙ステーションからわずか45km しか離れていないところを通過しました。この接近はオーストラリアとニュージーランド間の海域上空で行われ、その真下には中国の追跡管制艦がいました。明らかに何らかの「作戦」ないし「訓練」が行われたともみられます。

有人宇宙船を用いたこの訓練について、中国の軍事問題に関する専門家と知られる国際評価戦略センター主任研究員のリチャード・フィッシャー氏はアメリカ議会で、「中国が彼らの有人宇宙プラットフォームを戦争に使う準備ができたことを、われわれに明確に知らせるためのものであった」と証言しています。まもなく打ち上げられる「天宮2号」によって、中国の有人宇宙ステーションの軍事利用はさらに進むでしょう。

小型衛星にロボットアームをとりつけ、ターゲットを捕捉し破壊することも考えられています。2013年7月に、中国は3機の小型衛星CX-3、SY-7、SJ-15を打ち上げました。このうちの1機(おそらくSY-7)はロボットアームをもっていました。この衛星は他の衛星のうちの1機をロボットアームで捕捉し、軌道変更して2005年に打ち上げられた衛星SJ-7 の近くまで移動しました。このようなロボットアームをもつ衛星は、故障した衛星の修理やスペースデブリの除去などにも利用できますが、ASAT用兵器としても非常に有効です。

最近、中国は小型衛星の開発・利用に力を入れています。科学観測など民生分野での利用のほか、軍事的にも高い価値があると考えられるからです。2015年9月、中国は新しいロケット長征6号を打ち上げました。ペイロードは軌道上でさまざまなデモンストレーションを行う小型衛星20機でしたが、重量わずか100g という「フェムトサテライト」も4機含まれていました。中国が小型衛星のさまざまな可能性を探っているのがわかります。

サイバー攻撃もASAT の手段の1つです。2007年10月と2008年7月、USGS(アメリカ地質調査所)の地球観測衛星ランドサット7号にサイバー攻撃がかけられ、12分間以上、観測が妨害されました。ただし、衛星の指令系統は乗っ取られませんでした。2008年6月には、NASA の地球観測衛星テラに2回サイバー攻撃がかけられ、1回目は2分間以上、2回目は9分間以上、観測が妨害されました。両方のケースで、衛星にコマンドを与えるすべてのステップが破られ、衛星は外部のコントロール下に置かれましたが、敵対的なコマンドを実行することは行われませんでした。これらのサイバー攻撃には中国か関与していると考えられています。

2014年9月、NOAA(アメリカ海洋大気局)がアメリカ軍と政府機関に観測画像や気象情報を提供しているシステムがハッキングされ、NOAA は2日間、情報提供を停止しました。NOAA はこの攻撃が中国からしかけられたものである確証をもっているようです。

このように、中国は今、さまざまなASAT手段を開発し、実験を行い、実戦配備しようとしています。一方、アメリカは運動エネルギー方式のASAT手段は保有していますが、実験は1980年代に終えており、最近では2008年に1度だけ実験を行っています。このときはSM-3 ミサイルが用いられ、故障して大気圏に再突入することになった偵察衛星がターゲットとなりました。ダイレクト・エネルギー方式の兵器に関しては、1980年代に進められたスターウォーズ計画(SDI)が中止されて以降、研究はほとんど行われていません。その間に中国はさまざまなASAT手段を開発してきました。宇宙での戦争能力に関しては、もはやアメリカに対して優位に立っているといって過言ではありません。そのため、アメリカでは中国が進める宇宙空間の軍事化やASAT に対する警戒感が急速に高まっています。

はたして、宇宙空間で他国の衛星を破壊するような事態が発生する可能性はあるのでしょうか? 中国はひそかにその準備を進めていると考えらます。

フィッシャー氏はアメリカ議会の公聴会で、「習近平国家主席は2012年12月5日に、人民解放軍第二砲兵部隊(現在のロケット軍)に対して、戦闘能力のタイムリーな展開を確保するために、地上をベースとした対衛星攻撃能力の構築を強化するように指示しました」と証言しました。この習主席の指示は公にされませんでしたが、2014年末に発表された中国のあるベテラン将軍の論文中で触れられました。しかし、この論文はすぐにウェブ上から削除されました。また、この論文に注目した中国の軍事専門ブロガーの記事も、すぐに消えました。

習主席はまた、2014年4月14日に人民解放軍の空軍に、「空と宇宙の能力を統合しなければならない」と語りました。習主席はこのときさらに、「宇宙での戦争に備えよ」という指示を与えたとされています。

フィッシャー氏は「中国人民解放軍の目標は地球低軌道における他国の活動を拒否し、そこを支配し、さらにその支配を地球から月にまで広げることです」とも証言しています。また、次のようにも語っています。「中国は近い将来、紛争が起こった場合にASAT を使うと思います。特に南シナ海、台湾、そして尖閣諸島で何かが起こった時に」。

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