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新国立競技場(3):成熟都市・東京に相応しいスタジアムとは
2013年になると、日本を代表する建築家である槇文彦氏が、ザハの案に対して「巨大すぎる」と疑問を呈し、幅広い議論をよびかけました。丹下健三、清家清、黒川紀章、菊竹清訓といった大物がいなくなった今、安藤氏が審査委員長になって決めた案に表立って異論を呈することができるのは槇氏くらいしかいないのが、今の日本の建築界の現状です。槇氏は、新国立競技場敷地の隣に建つ東京都体育館の設計者でもあります。

「発表された新国立競技場案のパースが一葉、日本のメディアに公表された時、私の第一印象はその美醜、好悪を超えてスケールの巨大さであった」と槇氏は述べています。

「1912年、明治天皇崩御の翌年、民間有志─渋沢栄一、時の東京市長阪谷芳郎等の請願を受け、天皇奉祀の神社、明治神宮建設の端緒が開かれる。現在明治神宮があるところを内苑と称する。そして明治神宮外苑(以下外苑という)が提案され、内苑に対して外苑は公園、特にその後各界からの要請に応じて、市民に広く開放されたスポーツを中心とした公園として整備されていく。しかし重要なことは、当初より内苑、外苑、そして表参道、裏参道が一体として計画されてきたことにある」と、槇氏は指摘しています。「この地域が東京の風致地区第一号に指定されたのは、その背後に明治神宮との関連性を重視した姿勢の表れ」なのです。

しかしながら、ザハ案が実現すると、例えば、絵画館のすぐ背後に巨大な壁のような構造物が出現します。絵画館への並木道も、絵画館前の広場も、これでは興ざめです。

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「濃密な歴史を持つ風致地区に何故このような巨大な施設をつくらなければならないのか、その倫理性についてである。そしてその説明は現在の我々、将来の都民だけでなく、大正の市民にまで及ばなければならない」と、槇氏は述べています。

しかしながら、槇氏は歴史的観点からのみ、この計画に異論を呈しているわけではありません。8万人の常設席をもつ全天候型の巨大スタジアムは、オリンピック開会式での全世界への中継では、見栄えのいいものになるかもしれませんが、これだけの規模の施設をその後50年以上にわたって維持するのは大変なことです。「東京住民の高齢化は高いパーセンテージで進むという。そのことは税収入の退化、医療費の増加化を意味し、国家、地方自治体に大きな負担を与えるものであることは想像に難くない。それは直ちに巨大施設の維持、管理費の問題としても現れる」と、槇氏は指摘します。

ロンドン・オリンピックのメインスタジアムの座席数は、新国立競技場と同じ8万人ですが、5万5000人分は仮設として、オリンピック終了後のコンパクト化を実現しています。しかし、新国立競技場では、時代遅れの大艦巨砲主義が後々の世代にまで負担を強いることになります。

2013年10月11日には「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」というシンポジウムが、槇氏らをパネリストにして開かれました。

また同年11月7日には、槇氏を発起人代表とする「新国立競技場に関する要望書」が下村文科大臣に提出されました。ここでは「外苑の環境と調和する施設規模と形態」「成熟時代に相応しい計画内容」「説明責任」が要望されています。発起人や賛同者には多数の建築関係者が名前を連ねています。

ザハが予算を大幅に超過する建築家であることは、建築の世界では有名でした。総工費は1300億円とされていたのですが、ザハ案決定後、建設費を計算してみると、何と3000億円というとんでもない額になってしまい、2013年10月に下村文科大臣は規模を縮小すると発表しました。

建築家は多くの場合、建築物のデザインを行いますが、その建築を実現するための構造設計や施工計画は別の業者が行います。ザハはコンペに応募した時点で、実際にかかる費用を試算していなかったでしょう。コンペの期間からしても、無理と思われます。建築家にとっては、建設費の計算などよりは、CGでいかにカッコいいプレゼンテーションをつくるかが、大事なのです。拙速に行われたコンペのつけがまわってきてしまいました。

国立競技場将来構想有識者会議(建築の専門家は安藤氏のみ)は、2014年6月にザハ案を修正した「基本設計」を発表しました。下がその基本設計です。もはや世界を驚かすデザインではなくなっています。

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ザハ案の余計な周辺部分を除き、スタジアム本体のみにした設計案ですが、それでも総工費は約1600億円とされました。現在では2500億円はかかるとみられています。これだけお金がかかってしまう理由は、施設の規模の大きさだけでなく、開閉可能な屋根にあります。屋根を開閉可能にするには、スタジアムの上に2本のアーチをかける必要があります。スタジアムの上に巨大な橋をかけ、これを周囲の構造で支持するという複雑な構造が要求されるのです。

計画見直しの他、国立競技場を改修して使う案も提案されましたが、2014年12月に国立競技場の解体がはじまりました。すでにスタンド部分はすべて解体され、姿を消しています。

文部省は現在、2019年に間に合わせるように、屋根の開閉部分の工事を後回しにするなどの検討を行っているようです。新国立競技場計画には、最初から多くの問題があり、いずれかの時点でもう少し良い方向に修正することも可能でした。それができないまま、今日に至っています。一番の問題は、東京にどのようなスタジアムをつくるかについて、多くの建築専門家、そして国民と開かれた対話をしてこなかったことです。

槇氏らによる今回の提案は、こうした流れの中で検討されるべきものと、私は考えます。日本の建築家、構造設計会社、施工業者はきわめて優秀です。実現可能で素晴らしいアイデアを、必ず出してくれるはずです。

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