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新国立競技場(2):環境との調和よりインパクトを重視
ザハ・ハディドのデザイン案が最優秀案として発表されると、「美観を壊す」「巨大すぎる」など多くの批判が持ち上がりました。多くの人が私と同じ印象をもったのでした。また、このコンペの審査過程が一切明らかにされていないことも問題視されました。日本スポーツ振興センター(JSC)から「新国立競技場基本構想国際デザイン競技報告書」が発表されたのは、2014年5月30日のことでした。

この報告書によると、2012年10月16日に一時審査が行われ、11作品が選ばれました。二次審査は11月7日に行われ、この中から3作品が選ばれました。そして、ザハの案が最優秀賞となったのです。

「デザインの斬新さ、未来志向、世界に対する情報発信、日本の実力を見せる技術的部分から見ても抜きん出ている」「強烈でユニークなデザインであり、オリンピッスタジアムにふさわしい。プロムナードが祝祭の雰囲気をもたらす」といった評価がなされる一方、「技術的に解決あるいは調整しなければならない箇所はある」「日本の現状から見て、少しチャレンジブルなものがあってもおかしくない。技術的には可能だろうが、コストがかかること懸念される」という意見もありました。

優秀賞はオーストラリアのコックス・アーキテクチャーの作品でした。

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「最も完成度が高く、変更が生じてもコンセプト大きく崩れない提案である」「ナショナルスタジアムとしての品格と、イベントを行うフレキシビリティがある。完成度が高く、技術的にもギャランティーできる」と高く評価されました。しかし、一方で「モニュメント性に欠ける」といった意見があり、インパクト性を求める審査委員会の意向が反映して、最優秀賞を逃したと考えられます。

入賞はSANAA事務所+株式会社日建設計の作品でした。

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日本からの作品だけに、神宮外苑の環境との調和が考えられており、「よく調査されており、周辺環境とも調和している」「都市との一体感が感じられる」「自然との親和性に近いイメージで、成熟国家の競技場して共感できる」といった意見がありました。私もこの作品に好感をもちました。もしも、このコンペが日本の建築家に対してもっと門戸が開かれていたら、こうした素晴らしい作品がいくつも提案されたのではないでしょうか。

しかしながら、審査委員会は「強いメッセージ性と日本の技術を世界に示すことのできる最も優れた作品」として、ザハ案を選びました。「明治神宮の歴史を見ると、内苑は伝統様式でつくる。一方、外苑はヨーロッパ的な、外から来たものを積極的に取り入れている。ある種の異物、近未来的なものがあってもおかしくないという観点で評価した」という意見にもあらわれているように、神宮外苑の環境はあまり考慮されず、世界に対して日本を自慢するメッセージ性が重視されたのでした。

安藤忠雄委員長はザハ案を選んだ際、「最優秀案は相当な技術力が必要である。これが日本でできるとなれば、世界へのインパクトがある」と述べました。

コンペの審査委員の中で、建築の専門家は安藤氏のほか、鈴木博之氏、岸井隆幸氏、内藤廣氏、安岡正人氏でした。私は鈴木氏を東京大学の助教授時代から知っています。建築史の専門家で、古い建築物を大切にする方です。ザハのデザインに賛成するとは、私にはとても思えません。岸井氏、内藤氏も都市計画や都市景観に深くかかわって仕事をしてきた人ですから、神宮外苑の環境を無視する計画に賛同することはないと私は考えました。安岡氏は建築音響の専門家です。こうして考えていくと、ザハ案の決定には、審査委員長の安藤氏の意向が強く働いたというのが、私の見方です。

ザハはイギリスの建築家ですが、実現できないような建築を設計する建築家として知られていました。ザハはイラクの出身ですが、彼女の作品はまさに砂漠に建設するのにふさわしく、周囲の環境に挑戦するデザインが真骨頂です。このような建築のコンセクトは、成長著しい新興国や企業には受けがいいようです。下は、彼女の設計によるカタールのアル・ワクラ・スタジアムで、2022年のFIFAワールドカップの会場となる予定です。

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新国立競技場とデザインが似ているのは別として、砂漠の上に新しい価値をもつ社会をつくろうとするカタールのような国には良く似合ったデザインといえるでしょう。しかし、江戸時代からの伝統をもつウェットな成熟都市・東京に、彼女のデザインがマッチするとは、私には思えませんでした。

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