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エディアカラのエニグマ:陸棲説は本当か?
Ediacaran Enigma:Were they lichens?

昨年12月12日の『ネイチャー』誌電子版にオレゴン大学の地質学者グレゴリー・リタラックの論文が掲載されて以来、「エディアカラの生物は海に棲んでいたのではなく、実は陸地に棲んでいた地衣類や菌類のコロニーだった」という話題がひとしきりインターネット上をかけめぐりました。しかしながらこうした場合、きわめて断片的な、しかもほとんど同じ内容の情報が一時的に流れるだけということがよくあります。別な立場からの評価や、追加の情報がでてきません。今回もそうした状況でした。これは、科学コミュニケーションの仕事に携わっている者として、私がいつもなんとかしなければと考えている問題です。

エディアカラの生物たちは今から約6億3500万〜5億4200万年前に生きていました。いわゆるカンブリア紀の大爆発がはじまる1000万年ほど前の時代です。エディアカラの生物の多くは扁平な体をもち、海で暮らしていたと考えられています。

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一方、『ネイチャー』誌のリタラックの論文では、最も有名なディッキンソニアをはじめ、エディアカラの多くの生物は当時の土壌の表面に生きていた地衣類で、生物の移動の跡と考えられているものは変形菌がつくったものだというのです。この時代に、すでに陸上に地衣類や菌類がいたとすると、生物の陸上への進出は1億年近くさかのぼることになります。また、エディアカラ紀の海に生物がいなくなってしまうと、カンブリア紀への生物進化の道筋を考える上でも大きな変更が必要です。

エディアカラ生物が地衣類だというリタラックの主張は、今にはじまったわけではありません。私が知っている限りでは1994年の論文が最初ではないでしょうか。『パレオバイオロジー』誌に発表された「エディアカラ化石は地衣類か?」という挑戦的なタイトルの論文は、それなりの関心を集め、リタラックの主張は「エディアカラのエニグマ」としてさまざまにとりあげられました。私も当時、興味をそそられたものです。

下に示す2つの図は、リタラックの2007年の論文に掲載されていたものです。上の図が従来のエディアカラの生物を示すもの、下の図は、それらが地衣類であるとする図です。

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当然のことながら、研究者のほとんどは、リタラックの説に同意していません。地質学や地球化学などによるこれまでの研究は、エディアカラの生物たちが海洋起源であることを例外なく示しています。『ネイチャー』誌の編集部も、バージニア工科大学のShuhai Xiao とアリゾナ州立大学のL. Paul Knauth に同じ号のNews & Views 欄への寄稿を依頼し、リタラックの論文に批判的な立場の意見を紹介しています。2人によれば、リタラックが地衣類説の証拠としているものは、すべて海洋起源で説明がつきます。また、海底堆積物であることがはっきりしている場所から化石が見つかっていることは、リタラックの説に対する何よりの反論であるとしています。

リタラックの主張はまだ仮説の域を出るものではありません。しかしながら、ほとんどの研究者が反対しているからといって、その説を無視してしまうことはあってはならないことです。『ネイチャー』誌は論文審査のプロセスをへて、リタラックの論文を掲載し、それと反対の立場のコメントも掲載しました。バランスのとれた編集だと思いますが、ネット上で流れた情報は残念ながらリタラックの主張のみでした。

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