検証:WHOは中国寄りか?(3)

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    WHOがパンデミックを宣言する経緯と中国の関係を見ていきましょう。

     

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    WHOは国ごとの感染者数と死者数をシチュエーション・レポートとして毎日発表しています。このレポートには、今回の流行に関するリスク評価も記載されています。それによると、PHEICが宣言された時点で、中国は「非常に高い」となっており、リージョナル(周辺地域)では「高い」、グローバル(全世界)も「高い」となっていました。感染拡大はまだ武漢市が中心であり、中国国外での感染はまだ非常に少ない状況を反映した評価です。しかし、感染は中国国外に広がっていきます。216日のデータを見ると、世界の感染者数は51857人、うち中国は51174人。流行の中心は相変わらず中国ですが、中国国外での感染は25か国に広がり、683人の感染者が出ていました。感染の広がりはパンデミック(世界的流行)の様相を呈してきたのです。

     

    20世紀以降、パンデミックとされる世界的流行が4回起こっています。いずれもインフルエンザ・ウイルスによってひき起こされました。1918年〜1919年のスペイン風邪はその中でも最も規模の大きなパンデミックで、全世界で5000万人以上が死亡したといわれています。その後、1957年〜1958年のアジア風邪、1968年の香港風邪、そして2009年〜2010年の新型インフルエンザによるパンデミックがありました。

     

    パンデミックは多数の感染者や患者が発生する世界的流行を意味するものの、パンデミックと認定するためのはっきりした条件があるわけではありません。WHOではインフルエンザの流行が起こった場合、感染の広がりを6つのフェーズに分け、世界的な流行に至ったフェーズ6をパンデミックとしてきました。しかし、2009年の新型インフルエンザの際、パンデミックの期間の区分けについて議論がありました。そこでWHOはこの定義を2017年に改訂し、現在では流行をパンデミック間フェーズ(パンデミックがない期間)、警告フェーズ(新しい流行が確認され、地域、国、世界レベルでの警戒が必要な段階)、パンデミック・フェーズ(流行が世界的規模で広がった段階)、移行フェーズ(流行が終息に向かう段階)に分けています。

     

    WHOにおける新たなパンデミック・フェーズは、その前後の警告フェーズと移行フェーズとオーバーラップしており、各フェーズの間にはっきりした区切りを設けていません。したがって、パンデミックの認定は、WHOがどのようなリスク評価をするかにかかっているという点は変わっていません。

     

    仮にパンデミックが宣言されても、それによって何かが変わるわけでもありません。むしろパンデミック宣言の発出は、感染拡大が全世界に脅威をおよぼす深刻な段階まで来たことを示す象徴的な意味をもつことになります。それだけに、中国はパンデミックと関連づけて語られることを好みませんでした。

     

    今回の流行をいつWHOがパンデミックと認定するのかは、世界中のメディアが注目するところとなりました。217日の記者会見で、日本の記者から質問がでました。「WHOはインフルエンザが大規模に流行した段階をパンデミック・フェーズとしています。もしも新型コロナウイルスについて、WHOのグローバルのリスク評価が「高い」から「非常に高い」に変わったら、私たちジャーナリストはそれをパンデミックとよぶことができますか?」。これに対し、ライアンは以下のように答えました。

     

    「私はパンデミックという言葉の使用には非常に注意する必要があると思います。新型インフルエンザの時には、パンデミックの時期とそうではなかった時期について多くの論争がありました。注意が必要だと思います。問題は、中国国外で効率的な感染が起こっているかどうかです。現在のところそれは観察されていません。したがって今、WHOはそのような議論をする立場にはありません。私たちは今、世の中に恐怖を引き起こさないよう非常に注意深くなくてはいけません。あなたが使った言葉を使うことに、非常に注意を払う必要があると思います」

     

    WHOの感染性ハザードマネジメント部長のシルヴィー・ブライアンドも、「言葉の難しさはその解釈が変化することであり、一般の人々にとって非常にしばしば、パンデミックは最悪のシナリオを意味します。ですから、その出来事を最悪のシナリオとみなす前に、私たちにはもっと多くのエビデンスともっと多くのデータが必要であると思います」と答えました。

     

    221日の記者会見では、APの記者から「私たちはパンデミックに近づいていますか?」という質問がでました。これに対してブライアンドは次のように答えています。

     

    「どこを見るかによって、このアウトブレイクの異なるフェーズが見えてきます。たとえば武漢市には特殊な状況があります。また、中国のさまざまな省での状況があり、中国の外での感染者数はまだ非常に限られています。状況は進化していることがわかります。感染者がただ増加しているのではなく、さまざまな場所でさまざまな感染パターンが見られるのです。これこそが私たちが可能な限り多くの情報を得ようとしている理由なのです」「テドロス博士が言ったように、いくつかの場所で大きなクラスターが見られたとしても、私たちにはまだこの感染を抑えこむ可能性があります。したがって、状況が完全に変わったと言えるまで、状況を注意深く監視し続ける必要があります」

     

    224日には、テドロス事務総長がこの問題に答えています。

     

    「パンデミックという言葉を使用して流行を説明するかどうかに関する私たちの決定は、ウイルスの地理的な広がり、ウイルスが引き起こす疾患の重症度、およびそれが社会全体に及ぼす影響の評価に基づきます。今のところ、このウイルスの世界的な広がりは制御不能になってはおらず、より大規模な重症患者や死者の発生はありません。このウイルスはパンデミックになる可能性があるかと問われれば、あります。もうなっているのかと問われれば、私たちの評価では、まだです」「私は恐怖ではなく事実は必要だと一貫して話してきました。パンデミックという言葉を使うと事実には合わなくなります。そして恐怖を引き起こす可能性があります。今は、私たちが使用する言葉に集中する時ではありません」

     

    ライアンも以下のように追加しました。

     

    「インフルエンザのパンデミックは以前に発生したことがあります。ですから、インフルエンザではパンデミックが起こるかどうかを言うことは容易です。しかし新型コロナウイルスでは、感染のダイナミクスがまだわかっていないのです」「事務局長が何度も何度も言ったように、今は潜在的なパンデミックに備える準備段階にあります」

     

    228日、WHOのシチュエーション・レポートによれば、全世界の感染者数は83652人。そのうち中国が78961人、中国以外では51か国で4691人の感染者が発生していました。中国での新規感染者数は減少しつつありましたが、2日前から、中国国外の新規感染者数が中国の新規感染者数を上まわるようになっていました。この日、WHOはグローバルのリスク評価を「高い」から「非常に高い」に引き上げました。

     

    記者会見では、フォーブス誌の記者から、「われわれはパンデミックにどれだけ近づいていますか」という質問が出ました。ライアンは以下のように答えています。

     

    「パンデミックとは、地球上のすべての人々がある期間内にウイルスに感染する可能性が高い状況のことです。これがインフルエンザであったならば、私たちはおそらくこれをパンデミックとよんだでしょう。しかし、このウイルスの流行は、封じ込め対策や強力な公衆衛生対応により、その経路が大幅に変更される可能性があるのです。パンデミックを宣言することは、感染を封じ込めようとしているときに役には立ちません」「パンデミックは世界的なレベルでの出来事を説明するために魅力的な言葉ですが、もしもあなたが医療システムの脆弱な国に住んでいる20億人の中の1人だろしたら、必ずしもそうではありません。それはあなたがウイルスを封じ込めて感染を減速させる可能性をあきらめているということを意味するのです」「コロナウイルスのパンデミックが発生していると言ってしまえば、地球上のすべての人々がそのウイルスにさらされることを受け入れたことになります。しかし、データはまだそれを支持していません」

     

    このように、パンデミックの宣言に関して、WHOは一貫して慎重な姿勢をみせていました。しかし、3月に入ると、流れが変わってきます。

     

    123日に閉鎖された武漢市では、その後強力な対策がとられ、その効果が2月後半には現れてきました。3月上旬になると、対策を指揮してきた専門家の間では、武漢市での新規感染者の発生は3月末までにゼロになるという見通しが語られるようになりました(実際には3月18日にゼロとなった)。

     

    WHOのシチュエーション・レポートによると、3月に入ると、中国以外の国々での毎日の新規感染者数は1000人台から4000人台へと急増しているに対して、中国での新規感染者数は減少を続け、38日には46人と2桁台となりました。この趨勢は9日の45人、10日の20人、11日の20人と続いていきます。中国での流行が終息に向かっていることを示す数字です。

     

    こうした中、これまでパンデミックを宣言することにきわめて慎重だったテドロス事務局長は39日、「ウイルスが非常に多くの国で足場をもつようになった今、パンデミックの脅威は非常に現実的になってきた」と述べました。

     

    310日には習近平国家主席が湖北省と武漢市を視察し、「新型のウイルスを基本的に抑え込んだ」と宣言しました。

     

    311日、WHOはパンデミックを宣言しました。テドロス事務局長は記者会見で以下のように述べました。

     

    「過去2週間で、中国以外での新型コロナウイルスの感染者数は13倍に増加し、感染が発生した国の数は3倍になりました。現在、114か国で118000人を超える感染者がおり、4291人が命を落としました。今後数日から数週間で、感染者数、死亡者数、感染が発生した国の数はさらに増えると予想されます」「したがって私たちは、新型コロナウイルスはパンデミックとして特徴付けられるという評価を行いました」

     

    また、313日の記者会見で、テドロス事務局長は以下のように述べました。

     

    132000人以上の感染者が123の国と地域からWHOに報告されています。5000人が命を落としました。悲劇的なマイルストーンです。現在、ヨーロッパはパンデミックの中心地となっており、中国を除く世界の他の国々全部よりも多くの感染者と死亡者が報告されています。中国での流行の最盛期に報告されたよりも多くの感染者が、毎日報告されています。繰り返します。現在、中国での流行の最盛期に報告されているよりも多くの感染者が毎日報告されているのです」

     

    テドロス事務局長のこの発言では、世界は2つに分けられています。ウイルスの感染源でありながら、感染がほとんどなくなった中国、そしてウイルスが猛威を振るうそれ以外の国々です。WHOはきわめて巧妙に、中国をパンデミックの発生源というネガティブイメージから切り離すことに成功したのです。



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