検証:WHOは中国寄りか?(2)

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    WHO130日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。この過程を検証してみます。

     

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    120日、中国は一転して、ヒト-ヒト間の感染を認めることになります。武漢市の感染拡大は深刻化していました。中国共産党もようやくこの事態に危機感を抱くようになり、123日の武漢市封鎖につながっていきます。

     

    122日、WHOで緊急委員会が招集されました。新型ウイルスの感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に当たるかどうかを検討するためです。PHEICとは、WHOが定める国際保健規則(IHR)において、疾病の国際的拡大により、他国に公衆衛生上の危険をもたらすと認められる事態、および緊急に国際的対策の調整が必要な事態のことを指します。これまで、2009年の新型インフルエンザ、2014年の野生型ポリオウイルス、2014年のエボラ出血熱、2016年のジカ熱、2019年のエボラ出血熱でPHEICが宣言されています。

     

    この時、中国国内の感染者は合計309人。武漢市の270人の他に湖北省各地、北京、上海など中国各地で感染者がではじめていました。また、タイで2人、日本で1人、韓国で1人の感染者が発生していました。感染が武漢市から中国各地へ、そして海外へと広がりはじめていたのです。WHOが患者発生を最初に報告してから3週間。SARSに近縁なウイルスの出現、ヒト-ヒト間での感染確認、武漢市での感染拡大、武漢市以外への感染の広がりという状況からすれば、WHOは迅速に動き、世界に警鐘を鳴らすべき時期にきていました。

     

    しかし、中国からの報告で始まった会議は紛糾しました。PHEICを宣言すべきという意見に対して、中国は「ヒトからヒトへの感染が発生しているが、どのくらい効率よく感染するかは明らかではない。感染力はそれほど強くないかもしれない。データが不足しており、PHEICを宣言するのは時期尚早」と強硬に主張しました。面子にこだわる中国は、中国発のウイルスでPHEICを出したくないと考えていたのです。委員会参加者の半分は中国に同調。この日の会議で結論は出ず、翌日、改めて会議がもたれることになりました。

     

    会議の後の記者会見で、テドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は次のように述べています。

     

    「私は中国代表者のプレゼンテーションの詳細さと深さに非常に感銘を受けました。また、私がここ数日直接話し合った中国の保健大臣の協力にも感謝します。彼のリーダーシップ、および習近平国家主席と李克強首相の強力な指示は非常に貴重です」

     

    この日、緊急委員会は中国へのアドバイスとして、集団感染の封じこめと緩和のための公衆衛生対策を強化すること、春節の休み中に中国全土で監視と積極的な症例発見体制を強化すること、州の国際空港と港で出国の際のスクリーニングを実施し、発熱している旅行者を早期に発見して、国際交通への影響を最小限に抑えること、必要に応じて国内の空港、鉄道駅、長距離バスの駅でのスクリーニングを行うことを奨励しました。

     

    しかし、インフルエンザの流行に際していかなる移動制限も推奨しないという立場を以前からとっているWHOは、新たなウイルスの出現に際しても、春節の休みの大移動で感染が中国国内さらには国外にまで広がることを防止するための、移動制限を含む積極的な対策を中国側に強く求めることはありませんでした。こうして中国は春節をむかえ、感染は世界に広がっていったのです。

     

    23日の会議でも、結局意見は真っ二つに分かれたままで、PHEICを宣言するという結論には至りませんでした。WHO内での中国の影響力が大きいことがわかります。

     

    テドロス事務局長は10日以内にもう一度会議を開くことにしました。しかし、その間にも感染拡大は続き、127日には中国の感染者数は4537人、死者106人となり、海外でも14か国で合計56人の感染者が確認されました。

     

    テドロス事務局長は128日に北京に飛び、習近平国家主席と会見しました。「中国の指導者から感染拡大に関する対応について説明を受け、WHO側から技術支援を提供するため」とされていますが、実際には、中国の国際的イメージをダウンさせるPHEICを宣言せざるを得ない事情を習近平国家主席に説明することが目的だったとみられています。WHOの専門家チームは1週間前の12021日に武漢を訪問して情報収集を行っており、この時期に改めで中国を訪問して情報交換する必然性はありませんでした。テドロス事務局長は2017年、WHO事務局長のポストをイギリスのデイビッド・ナバロと争い、中国の支援を得て選挙に勝ったという経緯があります。

     

    129日、ジュネーブに戻ったテドロス事務局長は、記者会見で以下のように述べました。

     

    「私は習近平国家主席が今回のアウトブレイクについて詳しく知っており、対応に自ら関与していることに非常に励まされ、また感銘を受けました。たぐいまれなリーダーシップです。習国家主席は、彼らが取っている措置は中国だけでなく、世界の国々にとっても良いことだといっていました」「ご存じのように、現在全世界で6065人の感染者がおり、このうち中国は5997人で、世界中の全感染者のほぼ99%を占めています。中国では132人が命を落としましたが、中国以外では死亡例はありません。これまでに中国国外では68人の感染者しか見られず、死者も出ていないという事実は、中国政府が感染を国外にもち出さないためにとった異例ともいえる措置によるものです。中国の行動は私たちの感謝と尊敬に値するものです。中国は彼らの経済や他の要素を犠牲にしながら、それを行っているのです」

     

    つまり、中国が犠牲をはらってウイルスと戦っているがゆえに、世界への拡散は食い止められているのであり、世界は中国に感謝すべきというわけです。テドロス事務局長の楽観的な見通しとは裏腹に、世界各国での感染はその後急速に拡大し、中国がウイルス封じ込めに失敗したことが明らかになっていくのですが。

     

    テドロス事務局長に同行したWHO健康緊急プログラムのエグゼクティブ・ディレクター、マイケル・ライアンも、「中国への旅行中、私たちはあらゆるレベルでの中国政府の関与に非常に感銘を受けました」と、中国の対応を賞賛しました。ライアンはまた、「中国はこの疾病について透明性を持っていると思いますか」という記者からの質問に、以下のように答えました。

     

    「中国は私たちに毎日症例を報告することに非常にオープンです。透明性の欠如は見られません。私は2002年と2003年にSARSに関与しましたが、その時の経験から、当時の中国の行動と現在の中国の行動を比較することはできないと考えています」「中国を指差す前に、私たちは新しい疾病に関するデータ共有にはセンシティブな要素があることを認識する必要があると思います。今回のケースでいえば、ウイルスに感染した国々は、中国を含めて非常に透明性が高いと思います」

     

    200211月に広東省でSRASが発生した際、WHOは中国政府に対して、詳細な情報の提供と現地への調査チームを受け入れるよう要請しました。しかし、中国政府はこれを拒否。中国政府がWHOに情報を提供し、調査チームを受け入れたのは20034月でした。当時、煮え湯を飲まされたはずのライアンは、今の中国は違うと主張していますが、今回の感染でも、武漢市でのアウトブレイク直後には当局によるかん口令がしかれたことが今では明らかになっています。また、新型コロナウイルスの感染者や死亡者の統計にも不透明さが指摘されているのは、周知のとおりです。

     

    130日、緊急委員会が開催され、WHO1週間遅れでPHEICを宣言しました。テドロス事務局長は記者会見で以下のように述べました。

     

    「私が北京から帰国して以来何度も言ってきたように、中国国民に深刻な社会的および経済的影響を与えているにもかかわらず、中国政府がウイルス封じ込めのためにとっている並外れた措置は賞賛に値するものです。中国政府が自国民と世界の人々を守るために行った対応がなければ、これまでに中国以外でもっと多くの症例が見られたでしょう」「新しいコロナウイルスの世界的なアウトブレイクに対して、私は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。この宣言の主な理由は、中国で起こっていることが原因ではなく、他の国で起こっていることが原因です」「この宣言は中国への不信任投票ではありません。それどころか、WHOは中国のアウトブレイクを制御する能力に対して確信をもっています。私はほんの数日前に中国で習近平国家主席と会談しました。私は中国が透明性を保ち、今後も世界の人々を守る取り組みを続けることにまったく疑いをもっていません」

     

    テドロス事務局長はさらに、新華社の記者からの「この宣言後に各国がとりうる極端な措置は何ですか。それに対してWHOはそれにどのように対応しますか」という質問に、以下のように答えました。

     

    「私たちは中国が行っていることに対して敬意と感謝の意を表明すべきです。中国は他の国へウイルスを広めないよう信じられないほどのことをしています。どこかの国が何か措置を講じようとするなら、それは間違いです。WHOは中国に対する旅行や貿易の制限、あるいはその他の中国に対する措置を推奨しておらず、実際には反対します」

     

    中国は新型コロナウイルスの感染拡大によって世界からシャットダウンされ、中国経済に大きな影響が出ることを懸念していたのですが、WHOPHEIC宣言後も、中国への渡航制限、および中国からの旅行者の入国制限に反対する立場を改めて表明したわけです。

     

    この頃から、各国は中国にいる自国民を本国に帰還させる措置や中国への渡航制限措置を取りはじめます。次第に中国は世界から切り離されていきます。こうした動きに対して、WHO211日に「新規コロナウイルスの発生に関連した旅行者の本国帰還と検疫に関する重要な考慮事項」を発表しました。この中では本国への帰還や中国への渡航制限に関し、以下のように述べられています。

     

    2020130日、WHO事務局長は国際保健規則に基づく緊急委員会の助言にもとづいて、新規コロナウイルスの発生を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)と宣言した。その決定にしたがい、WHOは現在の情報に基づいて旅行や貿易の制限を推奨しないとした。24時間を超えて国際交通を著しく妨害するような措置は、アウトブレイク封じ込めの初期段階では、公衆衛生上意味をもっていると考えられる。そのような措置は、感染の影響を受けた国にとって対策をとるための時間をもたらし、まだ感染してない国にとっては防御の準備をする時間をもたらすからである。ただし、このような制限は期間を短くすべきで、状況の変化に応じて定期的に再検討する必要がある。

     

    テドロス事務局長のあまりの中国寄りの発言に対して、やがて記者から質問が出るようになりました。212日の記者会見では、ユーロニュースの記者から「中国政府はWHOに対して、中国がしていることを賞賛するように圧力をかけているのですか」という質問が出ました。これに対してテドロス事務局長は10分以上にわたって熱弁をふるいます。その主な内容は以下の通りです。

     

    「理事会において、ほとんどすべての加盟国が中国の功績を称賛しています。中国の行動が私たちをより安全にしていると言っています」「中国がしていることに対してWHOが感謝することに、多くの圧力があることを私は知っています。しかし、私たちは圧力に屈して真実を語らないわけにはいきません。私たちは真実を語るべきです。中国は賞賛されることを要求する必要はありません」「もう一つ追加します。私たちは習国家主席に会いました。私たちは感染発生について彼がもっている知識のレベルを知りました。私たちは、彼が直接感染拡大を防止する対策を率いていることを直接知りました。私たちが常に政府の関与、政治的なリーダーシップを要請していることをあなたもご存知でしょう。それを私たちは見たのです。あなたはそのようなリーダーシップに感謝しないのですか?」「これは非常に深刻なウイルスです。中国はウイルスの拡散を遅くするために多くの良いことを行っています。事実がそれを物語っており、私たちはそれを考えなければいけません。感染者数を見ると、中国では4万人以上ですが、世界の他の地域では400人程度です。1人しか死んでいません。ですから、真実を語り、世界が判断できるようにしましょう。世界の他の地域は武漢や湖北省に比べて安全です」



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