検証:WHOは中国寄りか?(1)

0

    トランプ大統領はWHOが中国寄りだとしてWHOへの資金拠出を停止。一方、中国は約320億円の寄付を表明しました。ここにきて、WHOはコロナ後の世界のヘゲモニーをかけた対立の場となった感があります。はたして、トランプ大統領の主張は正しいのか、主にWHOの記録を用いて検証してみました。3回に分けて掲載します。

     

    20200428_01.jpg

     

    結論を先に述べると以下のようになります。

    ・テドロス事務局長だけでなく、WHO全体が中国の影響下にある。

    WHOは中国によってマイナスになるような発言や行動をしない。

    ・長い経験をもつWHOの専門家もテドロス事務局長の意向に非常に敏感で、おそらくWHO内部にはテドロス体制とでも呼ぶべきシステムができ上がっている。

     

    中国はアメリカと対決するため、国連や国際機関での影響力を強めています。現在のWHOの状況は、そうした中国の世界戦略の中で理解すべきと思います。

     

    まず、新型コロナウイルス発生時のWHOの初動について、みていきましょう。

     

    WHOが武漢市での肺炎患者の発生を中国側から最初に報告されたのは、20191231日のことでした。これまでの調査から、未知のウイルスによる肺炎患者の発生は1117日までさかのぼることができるとされています。また、武漢市の華南海鮮市場でのアウトブレイク以前に、2つのクラスターが発生していたことも分かっています。武漢市の医師の間で、未知のウイルスによる肺炎患者の発生がもっと早い時期から知られていた状況下で、WHOの中国事務所がその情報をまったく知らなかったのかどうかは、今後検証すべき課題です。

     

    1231日に武漢市の衛生健康委員会が発表した内容は、「武漢市の海鮮市場で27人のウイルス性肺炎患者が発生。うち7人は重症。明らかなヒトからヒトへの感染は確認されておらず、医療関係者も感染していない。専門家が病原ウイルスを調査中」というものでした。

     

    同委員会は13日には、「患者は44人に増え、うち11人が重症。濃厚接触者の追跡調査が行われている。ヒトからヒトへの明確な感染は確認されておらず、医療関係者も感染していない。病因の調査が進行中であるが、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス感染などの一般的な呼吸器疾患は除外されている」と発表しました。

     

    さらに15日には、「患者は合計59人でうち7人が重症。これら59人の患者の発症時期は、最も早いものは20191212日、最も新しいものは1229日。163人の濃厚接触者の追跡調査が進行中。ヒトからヒトへの明確な感染は確認されておらず、医療関係者の感染もない。病原となるウイルスの調査が行われているが、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などのウイルスは除外されている」という発表がありました。

     

    すなわち、11月中旬には原因不明の肺炎患者の発生がみられ、患者数は年が明けた頃には急速に増加していました。症状も原因ウイルスとしてSARSMERSのウイルスが疑われるほど深刻だったわけです。

     

    中国側からの報告を受け、WHO11日にIMST(インシデント管理サポートチーム)を設置して対応を開始。14日にはツイッターに「湖北省武漢市で肺炎患者のクラスターが発生、死亡例はなかった」と投稿しました。さらに15日に、以下のような内容の、新たなウイルスによる疾病発生のレポートを発表しました。

     

    20191231日、中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎の症例がWHOの中国事務所に報告された。202013日の時点で、原因不明の肺炎患者は44人、うち11人は重症で、残りの33人は安定した状態。原因ウイルスはまだ特定されていない。すべての患者が武漢市の医療機関に隔離され治療を受けている。症状は主に発熱、数人の患者は呼吸困難で、胸部レントゲン写真では両方の肺に侵襲性の病変がみられる。予備調査によると、ヒトからヒトへの感染のエビデンスはなく、医療従事者の感染も報告されていない。120人の濃厚接触者が医学的観察を受けている。ウイルスの同定作業が進行中である。

     

    WHOの発表は中国側の発表そのものでした。

     

    このレポートにおいて、WHOの各国へのアドバイスは、インフルエンザおよび重症急性呼吸器感染症に関する勧告が適用されるというものでした。旅行者のための特定の対策は推奨しておらず、「WHOは中国への旅行または貿易の制限を推奨しない」と述べられていました。

     

    その間にも、中国では原因ウイルスの特定作業が続いており、19日、新型のコロナウイルスが原因であることが発表されました。SARSMERSのウイルスと同じ仲間だったわけです。

     

    WHO110日に、以下のような内容のトラベル・アドバイスを発表しました。

     

    20191231日、原因不明の肺炎のクラスターが中国湖北省武漢市で報告された。19日、中国当局は、このウイルス性肺炎の原因が、これまでのヒトコロナウイルスとは異なる新しいタイプのコロナウイルスだと発表した。報告された患者の症状は主に発熱で、数人の患者は呼吸困難、胸部X線写真は両肺の浸潤を示している。予備調査では、ヒトからヒトへの重大な感染はなく、医療従事者の感染も発生していない。

     

    海外旅行者は武漢市に出入りする際、以下のようなリスク軽減策をとることを勧告する。すなわち、急性呼吸器感染症の人との密接な接触を避ける、病気の人や環境に触れた後は手を洗う、生きているまたは死んでいる家禽や野生動物との接触を避ける、急性呼吸器感染症の症状がある旅行者は咳エチケットを行う。国際的な移動を制限しないことを推奨する。武漢市は国内および海外旅行の主要ハブである。現在、武漢市以外での患者の報告はない。1月の最後の週からはじまるの中国の旧正月の休み中に大幅に増加すると予想される人口移動を考えると、他の場所から患者が報告されるリスクが増加するであろう。WHOは旅行者に特定の健康対策を推奨しない。入国の際のスクリーニングのメリットはほとんどないと考えられる。WHOは中国への旅行または貿易の制限を推奨しない。

     

    このように見てくると、「感染は武漢市に限られている。死者はいない。ヒトからヒトへの感染はない。中国あるいは武漢市への旅行に問題はない」というWHOの発表は、意図的であるか、結果的にそうなったのかは別として、武漢市のアウトブレイクをそれほど重大なものではないという情報操作を行っていた中国側の意図に沿ったものだったといえるでしょう。

     

    当時、武漢市では1月6日から10日まで、武漢市の人民代表大会および政治協商会議が行われており、11日から17日まで湖北省の人民代表大会と政治協商会議が開かれることになっていました。さらにその先には35日からの北京での全国人民代表会議が予定されていました(224日に延期が決定)。これらの重要な政治日程のさなかにアウトブレイクの深刻さを表沙汰にしたくないという意図が、少なくとも武漢市や湖北省の共産党幹部に働いていたことは、想像に難くありません。

     

    112日、中国は新型コロナウイルスの遺伝子配列を公開しました。13日にはタイで患者が発生。中国国外での最初の患者でした。

     

    この時期、中国側がこだわったのは、「ヒトからヒトへの感染がない」ということでした。もしも新型のコロナウイルスがヒトからヒトへ感染するものであれば、爆発的な感染拡大という重大な局面が懸念されます。一方、ヒトからヒトへの感染がなければ、2013年から何度か起こっている鳥インフルエンザAH7N9型)の感染のように、大規模には至りません。中国としてはこの時期、どうしても「ヒトからヒトへの感染がない」としたかったのでしょう。

     

    しかし、武漢市の医師たちは新型コロナウイルスがSARSウイルスと似ていることを知った時から、このウイルスがヒトからヒトに感染すると考えていました。そして実際、この時期に患者から医師への感染が始まっていたのです。濃厚接触者の追跡から、家族への感染もすでにこの頃に確認されていました。

     

    おそらくこうした状況が背景にあると推測されますが、WHO114日の記者会見において、WHOで新型コロナウイルスのテクニカルリードをつとめるマリア・ヴァン・ケルコーフは、「限定的ではあるが、主に家族間でヒトからヒトへの感染があったとみられる。感染が拡大するリスクがある」と述べました。ところがその日のうちに、WHOのツイッターに「ヒトからヒトへの感染を示す明確なエビデンスはない」という投稿がなされました。この投稿はWHOの中間管理職クラスの人物による指示で行われたもので、ヴァン・ケルコーフの発言を否定することが目的だったといわれています。WHOの中に、中国への明らかな忖度を行う人たちが存在することを示す例といえます。

     

    SARSMERSの専門家であるヴァン・ケルコーフやその他のWHOの専門家は、新型ウイルスがヒトからヒトに感染することを最初から認識していたと思われますが、この時期、WHOはこの問題に深入りすることはありませんでした。WHOの情報発信は総じて中国側が提供する情報の通りでした。



    calendar

    S M T W T F S
          1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    3031     
    << August 2020 >>

     

    20200118_01.jpg
    『宇宙開発の未来年表』(イースト新書Q) amazonで購入

    selected entries

    categories

    archives

    links

    profile

    書いた記事数:158 最後に更新した日:2020/07/30

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM