最近のエントリー
カテゴリー
過去のエントリー
カレンダー
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< November 2017 >>
ブログ内を検索


PROFILE
モバイル
OTHERS
ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』のカラー復元版
Marie Georges Jean Méliès:A Trip to the Moon in colors

渋谷のシアター・イメージフォーラムで、ジョルジュ・メリエスの映画『月世界旅行』のカラー復元版を観てきました。

120826_01

メリエスの『月世界旅行』は、史上初のSF 映画といっていいでしょう。この作品の彩色版は長い間、幻の存在だったのですが、スペインで発見され、昨年、最新のコンピューター技術を駆使した復元版が完成したのです。メリエスの生涯と、フィルムの発見から復元までのスリリングな過程は、同時に上映された『メリエスの素晴らしき映画魔術』で紹介されています。

モノクロのフィルムに1枚1枚、手作業で着色してつくられた彩色版は、驚くほどの美しさでした。鮮やかな赤や緑色が登場人物を引き立てる一方、背景の淡い色彩がモノクロ版にはなかった奥行感を生み出していました。人工的な色彩とその濃淡が、カラーフィルムで撮影した作品とはまったくことなる世界を出現させています。『メリエスの素晴らしき映画魔術』の中で、ミシェル・アザナヴィシウスが語っているように、それは動く絵画といえるものです。

1889年、アメリカの発明王トーマス・エジソンは「キネトスコープ」とよばれる箱型の装置をつくりました。コインを入れて小窓から覗きこむと、箱の中に動く映像が再生される仕組みです。フランスでは、リュミエール兄弟が室内のスクリーンに映像を投影するシステム「シネマトグラフ」を開発し、1895年に公開しました。キネトスコープは1人でしか見ることができませんが、シネマトグラフは劇場で、大勢の人が同時に見ることができました。この生まれたてのテクノロジーの可能性にいち早く気づき、驚くべき作品をつくり続けたのが「映画の魔術師」とよばれたメリエスでした。

メリエスは1861年、パリで生まれました。父親は市内で有名な靴屋を営んでいましたが、メリエスには、兄たちのように家業を継ぐ意思はありませんでした。美術の道を志し、ギュスターブ・モローに絵画の指導を受けました。モローの作風は、のちにメリエスがつくる映画に大きな影響を与えたといわれています。

ロベール・ウーダン劇場の支配人となった若きメリエスは、この小劇場で自らマジックを行って人気を博しただけでなく、『月の戯れあるいはノストラダムスの災難』などの幻想的な舞台を次々と生み出していきました。やがて、彼はリュミエール兄弟の映画と出会います。当時上映されていた作品は、その多くが人々の日常生活や街の風景を題材にしたものでした。しかしメリエスはスタジオをつくり、物語性をもつ独自の世界を次々と映像化していきました。『シンデレラ』『クリスマスの夢』『赤ずきん』『青ひげ』『月世界旅行』『ロビンソン・クルーソー』『妖精たちの王国』『地獄のファウスト』『ファウスト博士の断罪』など、タイトルだけで、メリエスがどのような世界をスクリーンに描こうとしたかがわかるでしょう。

1902年に制作された『月世界旅行』は、彼のもっとも有名な作品になりました。ジュール・ベルヌの『地球から月へ』『月世界へ行く』、H・G・ウェルズの『月世界旅行』からアイデアがとられており、6人の男が弾丸型のカプセルに乗りこみ、巨大な大砲によって月へと打ち出されます。わずか15分の作品ですが、予算や制作期間からいって、当時の超大作でした。メリエスはこの頃すでに、現在も使われている特撮技術の基本をほとんどすべて考え出していました。

メリエスは、映画の世界にはじめてスタジオ・システムをもちこんだだけではありません。脚本をつくって映画を撮ったのも彼が最初でした。ドキュメンタリー手法の作品もつくったし、コマーシャル・フィルムもつくりました。彼の頭の中にはつきることなく新しいアイデアが生まれ、映画が誕生してからわずか10年あまりの間に、彼はこうしたアイデアを次々と実現していったのでした。

しかし、映画産業が勃興してくると、メリエスの職人気質の仕事は急速に時代遅れになっていきます。ついに彼は破産し、彼がつくりだしたフィルムをすべて焼いてしまいました。『月世界旅行』の彩色版が失われたのも、そのためでした。ですから、今、私たちがその彩色版を観ることができるのは、奇跡に近いことなのです。

ところで、『月世界旅行』のカラー復元版を観るにあたって、私には、「あれはどんな色になっているんだろう」と楽しみにしていたシーンがありました。それは、月世界に到着して喜ぶ主人公たちの向こうに、地球が昇っていくシーンです。1968年、アポロ8号によって人間がはじめて見ることになる月の地平線から昇る地球、「アースライズ」を、メリエスはこの作品ですでに描きだしていました。驚くべきイマジネーションといえます。

地球がどんな色であったのか。それは、この作品をまだ観ていない方のために、ここでは書かないでおきましょう。

▲PAGE TOP