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ブリューゲル(2):構図の幾何学的中心について
Brueghel (2):Geometric centering in composition

ペーテル・ブリューゲル(父)はバベルの塔を少なくとも3度描いたといわれています。最も知られているのはウィーンの美術史美術館所蔵の『バベルの塔』で、ブリューゲルの画集でも、まず収められるのはこの作品です。2つ目は、ロッテルダムのボイマンス美術館に所蔵されている『バベルの塔』です。3つ目は記録だけで、作品自体は残っていません。

ウィーン版の『バベルの塔』は1563年に描かれたもので、サイズは114×155cm です。バベルの塔は建設途上にあり、画面の左下には天に届く塔の建設を命じたバビロンのニムロデ王が描かれています。画面右下には大型の船がつく港があります。雄大なバベルの塔は巨大な岩山を基礎にしてつくられているのがわかります。建設には長い年月がかかっているため、上層の煉瓦はまだ赤い色ですが、下層の煉瓦はすでに変色しています。建設の様子が細かく描きこまれていて、それを見ているだけでもあきません。

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ロッテルダム版の『バベルの塔』は1568年頃の制作とされていて、ウィーン版に比べると建設工事はかなり進んでいます。ニムロデ王の姿はすでになく、画面のほとんどを塔の偉容が占めています。ブリューゲルの頭の中には、バベルの塔とその周囲の風景についてのきわめて具体的なイメージがあったに違いありません。よく見ると、ウィーン版とはアングルが少し変わっていて、ウィーン版より少し左側から描いたものであることがわかります。そのため、塔の左側の背景にも海が見えてきて、遠近感が増しています。ただし、ウィーン版で描かれていたバビロンの町は描かれていません。

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1993年に池袋のセゾン美術館で「ボイマンス美術館展」が開催された際、このロッテルダム版の『バベルの塔』が特別出品されました。60×75cm とウィーン版にくらべて小ぶりであるにもかかわらず、驚くほど細密に描きこまれたこの作品を間近からじっくりのぞきこんだとき、私にはブリューゲルという画家は構図に非常に厳格で、特に画面の幾何学的中心を重視していたのではないかという疑問が浮かびました。その疑問に対する答を追求することなく18年がたってしまったのですが、『ブリューゲルの動く絵』を見て、十字架を運ぶキリストが画面の中心に小さく描かれているのを再認識したとき(もちろん私はそれまで何度も『十字架を担うキリスト』を見ていたのですが)、18年前の疑問を思いだしたというわけです。

ロッテルダム版の『バベルの塔』の画面中心には小さく、赤い天蓋の行列が描かれていました。下の画像ではうまく表現されていませんが、天蓋の赤はきわめて鮮やかです。

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ウィーン版の『バベルの塔』では塔はまだ建設途上ですが、ロッテルダム版ではすでにスロープを登っていく人たちがいます。つまり、人間が天に足を踏み入れようとする時代に入っているのです。とすれば、これは、神が人間の言葉をばらばらにして、塔の建設を止めさせる直前の光景であるといえます。バベルの塔は人間の傲慢をあらわす象徴とされています。赤い天蓋の行列は聖職者(ローマ教皇)の一行と考えられ、当時のカトリック教会に対するブリューゲルへの批判がこめられていると指摘する人もいます。それが正しいかどうかは別にしても、ブリューゲルがこの赤い天蓋の行列に特別の意味をこめているのは間違いないでしょう。

いくら小さくとも、ブリューゲルの絵画の主題は画面の中心に描かれているという視点から他の作品を見てみると、いろいろ気づくことがあります。ここでは、いくつかの例を示しましょう。

下は『死の勝利』で、中心に痩せた馬に乗り、大きな鎌をふるう「死」そのものが描かれています。

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下は『反逆天使の転落』で、画面の中心にはこの絵の主人公の大天使ミカエルがいますが、正確な中心は剣を振り上げたミカエルのすぐ前の空間にあります。このわずかなずれが画面全体に動きを与えています。

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下は『ベツレヘムの戸籍調査』です。この作品の中心は明らかに雪の中で動けなくなった荷車であり、ここにブリューゲルの何らかのメッセージがこめられているはずです。

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下は、ブリューゲルの最後の作品とされている『絞首台の上のかささぎ』です。中心は絞首台にあります。

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伝えられている原タイトルにもかかわらず、ブリューゲルが描きたかったのは、エッシャー風に現実にはあり得ない形にねじれた「絞首台」そのものであり、かささぎは絞首台に効果的なアクセントを与える存在だったのではないでしょうか。

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