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LRO のデータ:後期重爆撃期仮説を支持
アメリカの月周回探査機LRO に搭載されていたLOLA(レーザー高度計)のデータを用いた論文が、『サイエンス』誌の2010年9月17日号に掲載されています。ブラウン大学のジェームズ・ヘッドらのグループによる論文です。

これまでの探査機で得られた月のクレーターのデータは、解像度や日照の条件がそれぞれことなっているという問題がありました。そこでヘッドらのグループは、同じ条件で取得されたLOLA の全球データから、直径20km以上のクレーターのカタログを作成しました。直径20km以上のクレーターは全部で5185個ありました。これらのクレーターの密度分布を求めたものが下の図です。

LRO

この図で真中が月の表側、両側が裏側になっています。白い部分はクレーターの密度が特に高いところで、表側の南にある高地と、裏側の北の高地にそのような領域があります。一方、青から紫色の部分がクレーターの密度が低いところです。特に、雨の海や嵐の太洋およびその周辺、表側と裏側の境界にあるオリエンターレ・ベイスンが紫色で、クレーター密度が低く、より若い地形であることを示しています。

オリエンターレ・ベイスンのような巨大衝突跡の周囲でクレーター密度が低くなっているのは、それ以前に存在していたクレーターが衝突の際の衝撃や二次クレーターによって破壊されたり、衝突にともなう大量の放出物(イジェクタ)におおわれてしまうからです。上の図で、オリエンターレ・ベイスンの周囲の青い部分が北西の方角にヘルツシュプルング・ベイスンまで、また南にメンデル-ライドベルグ・ベイスンまで伸びているのは、イジェクタによるものです。

オリエンターレ・ベイスンは直径930kmにおよぶ衝突跡です。下の画像はLRO のデータから作成されたもので、ベイスン周囲の縁(リム)が明らかです。ベイスン内部には複数のリングが形成されており、中央部は月の平均半径から約4000km も低くなっています。

mare_orientale

ヘッドらのグループはオリエンターレ・ベイスンおよび周辺の、直径20km 以上のクレーター密度を調べたところ、ベイスン内が最も密度が低く、リムから500km までは、リムから遠ざかるにしたがって密度が高くなり、500km を超えたあたりで、平均の密度と同じになっていることを見出しました。オリエンターレ・ベイスンを形成した衝突は、ベイスンの中心から半径965km におよぶ範囲(月全表面の約8%)のクレーター分布をリセットしてしまったことになります。

月が形成された直後には多数の小天体が月に衝突していました。衝突の数は時間の経過とともに減っていくと考えられますが、アポロ計画で地球にもち帰られたサンプルの分析から、39億年前ごろに、衝突数がもう一度増えているという説が登場しました。これを後期重爆撃期仮説といいます。この仮説については、2005年にアリゾナ大学のStrom や国立天文台の伊藤孝士らが、古いクレーターをつくった衝突天体と小惑星のサイズの分析から、この仮説を説明する論文を発表し、このような事件が起こった有力な原因としては、木星や土星の軌道変化にともなってメインベルトの小惑星が降り注いだことが考えられるとしています。

ヘッドらのグループは、直径8km までのクレーターを分析した結果は、Strom らの論文を支持すると述べています。また、オリエンターレ・ベイスンの形成時期は、初期の重爆撃期と後期の重爆撃期の間に位置するとしています。

ヘッドさんはアメリカの固体惑星の分野では重鎮の1人です。以前、日本に来た時にお会いし、ご自身の著書をいただいたことがありますが、常に太陽系全体へのパースペクティブをもっている視野の広い研究者です。今回も、LRO のデータを短い期間で整理し、その結果を後期重爆撃期仮説の検証にまでもっていく論文のまとめ方はさすがです。このあたりの手際の良さは、日本の若い研究者も見習うべきだと思います。

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