最近のエントリー
カテゴリー
過去のエントリー
カレンダー
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< November 2017 >>
ブログ内を検索


PROFILE
モバイル
OTHERS
まやかしの「地球温暖化スキャンダル」
『地球温暖化スキャンダル:2009年秋クライメートゲート事件の激震』(日本評論社)を読みました。2009年11月、イギリス、イーストアングリア大学の気候研究ユニット(CRU)のサーバーへ何者かが侵入し、大量のメールや文書がインターネット上で公開されるという事件が起こりました。いわゆる「クライメートゲート事件」です。本書は、その盗まれたメールを多数のぞき見て、推測にもとづくストーリーをつくりあげ、それがあたかも現実に起こったことの忠実な再現であるかのように述べていくという、あまり品の良くない本です。

著者のスティーブン・モシャーとトマス・フラーは、地球温暖化をめぐる「肯定派」と「懐疑派や否定派」という対立の構図を描き、自分たちをどちらにも属さない「どっちつかず派」としています。盗まれたメールを中立的な立場で「分析」するというスタンスをとっているわけですが、ところどころにみられる彼ら自身の主張は、きわめて強硬な懐疑派の主張であり、2人の正体は、ばりばりの懐疑派といってよいでしょう。

いわゆるクライメートゲート事件なるものが、いかに根拠のないものであったかについては、以前にここここここで書きましたので、そちらをお読みください。本書が出版されたからといって、訂正することは何もありません。

クライメートゲート事件では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による「データ捏造」なるものがクローズアップされました。それでは、本書の2人の著者の「分析」によって、「データ捏造」の存在が説明されたのでしょうか。結論を先にいってしまうと、否です。彼ら自身も、マイケル・マンらの論文を批判した論文の著者の1人であり、懐疑派サイトCA(Climate Audit)を主宰しているスティーブン・マッキンタイアも、そのようなことがあったとは考えていないことが、本書を読めばわかります。

本書で彼らが主に取り上げているのは、次の2つです。1つは、「チーム」(CRU のフィル・ジョーンズら地球温暖化を研究している科学者を、著者は1つの政治的意図をもった集団とみなし、こう名付けていますが、これも一面的な見方です)が、IPCC 第4次報告書に引用するために、特定の論文を掲載するように圧力をかけたという「ストーリー」、もう1つは、古気候の再現と地球温暖化における都市化の影響における研究において、ジョーンズらが用いたデータの開示要求を、ジョーンズらが妨害したという疑惑です。前者については、そのような経緯はなかったことが調査委員会の報告で述べられています。後者についていえば、情報の公開という問題を科学コミュニティーが十分に認識しなくてはいけないのは当然であり、この点からすると、確かに反省すべき点があったことは事実のようですが、自分の論文を攻撃するためにデータの開示を何十回と執拗に要求してくる人物に対して、研究者が人間的な対応をとるという気持ちはわからないわけではありません。

いわゆる「データ捏造」に関連して触れられているのは、第8章の最初の部分の、ブリッファの年輪のデータに関してのみです。前にも書いたように、樹木の年輪から過去の気温を復元する場合、北半球高緯度の樹木では、1960年ごろ以降は、実際の気温は上昇しているのに、年輪が示す気温が低くなっていくという傾向がみられます。そのために、ジョーンズはその部分のデータを使わなかったのですが、それを、ジョーンズはある意図をもって細工した(隠した)と著者は批判しています。しかし、この年輪が示す気温データの低下の件は、研究者の世界ではすでに広く知られたことであり、またCA 上でも以前から話題になっていたことを著者自身が明らかにしています。すなわち、「今回のメール流出によって、データ捏造が明らかになった」という一部にみられる主張は、そもそも「捏造」などというものはなかった上に、年輪データの件は今回のメール流出で初めて世に知られるようになったわけではないという二重の意味で間違っています。

著者は、今回のメール流出はCRU の内部告発だったという見方を本書で述べています。しかし、本書のストーリーはマッキンタイアがCA 上で述べてきた内容に沿っていること、盗まれたメールはCA で話題になっていたキーワードや人名で検索されていたこと、流出メールを格納したファイルは、情報公開法(FOIA)にもとづくマッキンタイアの開示要求を示す「FOIA2009.zip」というファイル名だったことなどからすると、CA に近い人物だったのではないかと考えることも可能です。

本書はメール流出後の2009年12月に、わずか1か月ほどで書かれたものであることに注意する必要があります。つまり、この後に行われた第三者機関による調査結果については本文では触れられていません。しかし、本書の訳者である渡辺正氏(東京大学生産技術研究所教授)は「あとがき」で「2010年の動き」に触れています。「あとがき」の日付は2010年4月30日となっているのですが、ここでは3月31日に発表されたイギリス下院科学技術委員会の報告について(おそらく意図的に)触れていません。つまり、本書は事実を知りたい人にとって、あまり役立つ本ではないでしょう。

▲PAGE TOP