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月面の巨大衝突跡とカンラン石の分布
月周回衛星「かぐや」で得られたデータを使った新しい論文が『ネイチャージオサイエンス』誌の2010年7月4日号で発表されました。月表面のカンラン石に富む領域の分布に関する論文です。

国立環境研究所の松永恒雄さんらの研究チームは、「かぐや」のスペクトルプロファイラ(SP)を用いて、月表面にどのような鉱物が分布しているかを調べました。同研究チームの山本聡さんらはこのデータを使って、カンラン石に富む領域を調べたところ、その場所は「雨の海」「危機の海」「モスクワの海」「シュレーディンガー・ベイスン」など、地殻の薄い部分につくられた巨大衝突跡の周囲に分布していることを発見したのです。

カンラン石は月内部のマントルに存在すると考えられている鉱物です。そのような鉱物が巨大衝突跡の周囲に分布しているということは、衝突によってマントル部分までが掘り起こされ、内部にあったカンラン石が周囲に飛び散ったためと考えられます。

こうした場所は、将来の月サンプル・リターン計画の有力な着陸候補地となるでしょう。月のマントルを構成するサンプルが得られれば、月の内部構造や、月の初期の歴史を解明する手がかりとなります。とくに、マグマオーシャン・モデルの解析に重要な役割を果たすと思われます。

月は原始地球に火星サイズの天体が衝突してできたとする説が有力です。誕生直後の月は、全球にわたって、かなり深いところまで溶けていたと考えられます。その後、このマグマの海が冷却するにつれて、地殻やマントルへの分化がおこったと考えられます。マグマオーシャンの概念は、アポロ計画によって得られた重要な科学的成果の1つです。マグマオーシャンを説明する図として、よく用いられている図は以下のようなものです。

magma_ocean

すなわち、かなり深い部分まで溶けていたマグマの海が冷却するにしたがって、岩石が析出してきます。斜長石のような密度の小さな岩石は浮上して地殻となり、カンラン石や輝石のような密度の大きな岩石は下降してマントルを構成するようになりました。「嵐の大洋」や「雨の海」付近には、カリウム、希土類元素、リンに富むKREEP とよばれる岩石が分布しています。ここにはトリウムやウランなどの元素が濃集しています。KREEP はマグマオーシャンが固結していく過程で最後まで液相で残った部分と考えられます。

しかしながら、マグマオーシャンの固結過程がどのように進んだのか、まだ詳しくは分かっておらず、いくつものモデルが提唱されています。月の地殻はなぜ表側が薄く、裏側は厚いのか、KREEP はなぜ局地的にしか存在しないのかといった問題にも答は出ていません。また、一度固化した月のマントルは、上部の方が密度が大きかったため、上下が逆転するマントル・オーバーターンが起こったとする考えもあります。今回、マントルの物質と考えられるカンラン石が表面で発見されたのは、このオーバーターンによって、カンラン石が表面に近いところまで上昇していたためと考える研究者もいるようです。

もしも、実際のマントル物質が手に入れば、こうした未解明の問題の解明に役立つでしょうが、「かぐや」のデータからでも、多くのことがわかるはずです。たとえば、月の研究者はKREEP の分布に関しては、1998〜1999年に月を観測したルナ・プロスペクターのデータを使ってきましたが、今では「かぐや」によって月の表面物質の分布について、きわめて精度の高いデータが得られています。

「かぐや」のデータはすでに公開されていますが、海外の研究者の論文はまだ少ないようです。今後、「かぐや」の成果が海外でも活用され、月の科学がさらなる発展を遂げることを期待したいと思います。

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