新型コロナウイルス:日本ではヨーロッパ株が流行

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    国立感染症研究所が、新型コロナウイルスのゲノム分子疫学調査の結果を発表しました。現在日本で流行しているウイルスは、感染の第2波としてヨーロッパからもたらされたことが分かりました。

     

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    ウイルスのゲノムは感染をくり返しながら、少しずつ変異していきます。したがって、ウイルス感染者のゲノムを解読し、他の感染者のゲノムとどのくらい近縁かを調べることによって、ウイルスの系統樹をつくったり、どのような経路で感染したかを明らかにすることができます。

     

    現在、GISAIDとよばれるデータベースには世界各地の新型コロナウイルス患者4511人のゲノム配列が登録されています。国立感染症研究所ではこのデータに、国内患者562人のゲノム配列を加えて分析し、ウイルスの親子関係のネットワーク図をつくりました。

     

    これによると、武漢でのウイルス発生後、早い時期に日本にもたらされたウイルス、およびダイヤモンド・プリンセンス号の患者のウイルスは現在では消失しており、日本は第1波を抑え込んだことが分かりました。しかし、3月にヨーロッパからの帰国者(旅行者、在留邦人)経由で新たにウイルスがもたらされました。現在、このヨーロッパ株のウイルスが日本で流行しています。「初期の中国経由(第1波)の封じ込めに成功した一方、欧米経由(第2波)の輸入症例が国内に拡散した」と、調査報告では述べられています。

     

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    上のネットワーク図で、赤色が日本、空色がヨーロッパ、黄緑色がアメリカで流行しているウイルスです。武漢の近くにある赤色のクラスターは初期の感染によるものです。中国のウイルスは波状的にヨーロッパにもたらされたことが、この図から分かります。そのクラスターの1つからウイルスはアメリカ東海岸にもたらされました。アメリカ西海岸には太平洋を横断して中国から別系統のウイルスがもたらされました。現在日本で主に流行しているウイルスは左上に位置し、ヨーロッパに発生したクラスターの1つからもたらされたことが分かります。

     

    GISAIDのデータを用いた同じようなネットワーク分析はNextstrainというウェブサイトでも行われています。

     

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    このネットワーク図では、ウイルスがヨーロッパおよび太平洋を渡ってアメリカにもたらされたことは分かりますが、日本人患者のゲノム配列データが初期のものであるため、ヨーロッパ株が日本に進入したことは分かりませんでした。

     

    ドイツのPeter Forsterらのグループも同じような研究をPNAS(米国科学アカデミー紀要)に発表しています。この論文でForsterらは、新型コロナウイルスはABC3つのグループに分けられるとしています。

     

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    A型はコウモリのウイルスに近い祖先型で、そこから東アジアに多いB型が派生しました。また、A型とC型はヨーロッパとアメリカにかなりの割合でみられるとのことです。このことは、今回の国立感染症研究所の結果と同様、ウイルスはヨーロッパに初期の段階から何度にもわたってヨーロッパにもたらされ、アメリカにはヨーロッパ経由と太平洋経由の2つのルートでもたらされたことを示しています。

     

    このように、ゲノム情報を「配列指紋」として疫学調査に利用することは、ウイルス感染を追跡し、さらなる感染拡大を防止する上で非常に有益です。

     


    検証:WHOは中国寄りか?(3)

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      WHOがパンデミックを宣言する経緯と中国の関係を見ていきましょう。

       

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      WHOは国ごとの感染者数と死者数をシチュエーション・レポートとして毎日発表しています。このレポートには、今回の流行に関するリスク評価も記載されています。それによると、PHEICが宣言された時点で、中国は「非常に高い」となっており、リージョナル(周辺地域)では「高い」、グローバル(全世界)も「高い」となっていました。感染拡大はまだ武漢市が中心であり、中国国外での感染はまだ非常に少ない状況を反映した評価です。しかし、感染は中国国外に広がっていきます。216日のデータを見ると、世界の感染者数は51857人、うち中国は51174人。流行の中心は相変わらず中国ですが、中国国外での感染は25か国に広がり、683人の感染者が出ていました。感染の広がりはパンデミック(世界的流行)の様相を呈してきたのです。

       

      20世紀以降、パンデミックとされる世界的流行が4回起こっています。いずれもインフルエンザ・ウイルスによってひき起こされました。1918年〜1919年のスペイン風邪はその中でも最も規模の大きなパンデミックで、全世界で5000万人以上が死亡したといわれています。その後、1957年〜1958年のアジア風邪、1968年の香港風邪、そして2009年〜2010年の新型インフルエンザによるパンデミックがありました。

       

      パンデミックは多数の感染者や患者が発生する世界的流行を意味するものの、パンデミックと認定するためのはっきりした条件があるわけではありません。WHOではインフルエンザの流行が起こった場合、感染の広がりを6つのフェーズに分け、世界的な流行に至ったフェーズ6をパンデミックとしてきました。しかし、2009年の新型インフルエンザの際、パンデミックの期間の区分けについて議論がありました。そこでWHOはこの定義を2017年に改訂し、現在では流行をパンデミック間フェーズ(パンデミックがない期間)、警告フェーズ(新しい流行が確認され、地域、国、世界レベルでの警戒が必要な段階)、パンデミック・フェーズ(流行が世界的規模で広がった段階)、移行フェーズ(流行が終息に向かう段階)に分けています。

       

      WHOにおける新たなパンデミック・フェーズは、その前後の警告フェーズと移行フェーズとオーバーラップしており、各フェーズの間にはっきりした区切りを設けていません。したがって、パンデミックの認定は、WHOがどのようなリスク評価をするかにかかっているという点は変わっていません。

       

      仮にパンデミックが宣言されても、それによって何かが変わるわけでもありません。むしろパンデミック宣言の発出は、感染拡大が全世界に脅威をおよぼす深刻な段階まで来たことを示す象徴的な意味をもつことになります。それだけに、中国はパンデミックと関連づけて語られることを好みませんでした。

       

      今回の流行をいつWHOがパンデミックと認定するのかは、世界中のメディアが注目するところとなりました。217日の記者会見で、日本の記者から質問がでました。「WHOはインフルエンザが大規模に流行した段階をパンデミック・フェーズとしています。もしも新型コロナウイルスについて、WHOのグローバルのリスク評価が「高い」から「非常に高い」に変わったら、私たちジャーナリストはそれをパンデミックとよぶことができますか?」。これに対し、ライアンは以下のように答えました。

       

      「私はパンデミックという言葉の使用には非常に注意する必要があると思います。新型インフルエンザの時には、パンデミックの時期とそうではなかった時期について多くの論争がありました。注意が必要だと思います。問題は、中国国外で効率的な感染が起こっているかどうかです。現在のところそれは観察されていません。したがって今、WHOはそのような議論をする立場にはありません。私たちは今、世の中に恐怖を引き起こさないよう非常に注意深くなくてはいけません。あなたが使った言葉を使うことに、非常に注意を払う必要があると思います」

       

      WHOの感染性ハザードマネジメント部長のシルヴィー・ブライアンドも、「言葉の難しさはその解釈が変化することであり、一般の人々にとって非常にしばしば、パンデミックは最悪のシナリオを意味します。ですから、その出来事を最悪のシナリオとみなす前に、私たちにはもっと多くのエビデンスともっと多くのデータが必要であると思います」と答えました。

       

      221日の記者会見では、APの記者から「私たちはパンデミックに近づいていますか?」という質問がでました。これに対してブライアンドは次のように答えています。

       

      「どこを見るかによって、このアウトブレイクの異なるフェーズが見えてきます。たとえば武漢市には特殊な状況があります。また、中国のさまざまな省での状況があり、中国の外での感染者数はまだ非常に限られています。状況は進化していることがわかります。感染者がただ増加しているのではなく、さまざまな場所でさまざまな感染パターンが見られるのです。これこそが私たちが可能な限り多くの情報を得ようとしている理由なのです」「テドロス博士が言ったように、いくつかの場所で大きなクラスターが見られたとしても、私たちにはまだこの感染を抑えこむ可能性があります。したがって、状況が完全に変わったと言えるまで、状況を注意深く監視し続ける必要があります」

       

      224日には、テドロス事務総長がこの問題に答えています。

       

      「パンデミックという言葉を使用して流行を説明するかどうかに関する私たちの決定は、ウイルスの地理的な広がり、ウイルスが引き起こす疾患の重症度、およびそれが社会全体に及ぼす影響の評価に基づきます。今のところ、このウイルスの世界的な広がりは制御不能になってはおらず、より大規模な重症患者や死者の発生はありません。このウイルスはパンデミックになる可能性があるかと問われれば、あります。もうなっているのかと問われれば、私たちの評価では、まだです」「私は恐怖ではなく事実は必要だと一貫して話してきました。パンデミックという言葉を使うと事実には合わなくなります。そして恐怖を引き起こす可能性があります。今は、私たちが使用する言葉に集中する時ではありません」

       

      ライアンも以下のように追加しました。

       

      「インフルエンザのパンデミックは以前に発生したことがあります。ですから、インフルエンザではパンデミックが起こるかどうかを言うことは容易です。しかし新型コロナウイルスでは、感染のダイナミクスがまだわかっていないのです」「事務局長が何度も何度も言ったように、今は潜在的なパンデミックに備える準備段階にあります」

       

      228日、WHOのシチュエーション・レポートによれば、全世界の感染者数は83652人。そのうち中国が78961人、中国以外では51か国で4691人の感染者が発生していました。中国での新規感染者数は減少しつつありましたが、2日前から、中国国外の新規感染者数が中国の新規感染者数を上まわるようになっていました。この日、WHOはグローバルのリスク評価を「高い」から「非常に高い」に引き上げました。

       

      記者会見では、フォーブス誌の記者から、「われわれはパンデミックにどれだけ近づいていますか」という質問が出ました。ライアンは以下のように答えています。

       

      「パンデミックとは、地球上のすべての人々がある期間内にウイルスに感染する可能性が高い状況のことです。これがインフルエンザであったならば、私たちはおそらくこれをパンデミックとよんだでしょう。しかし、このウイルスの流行は、封じ込め対策や強力な公衆衛生対応により、その経路が大幅に変更される可能性があるのです。パンデミックを宣言することは、感染を封じ込めようとしているときに役には立ちません」「パンデミックは世界的なレベルでの出来事を説明するために魅力的な言葉ですが、もしもあなたが医療システムの脆弱な国に住んでいる20億人の中の1人だろしたら、必ずしもそうではありません。それはあなたがウイルスを封じ込めて感染を減速させる可能性をあきらめているということを意味するのです」「コロナウイルスのパンデミックが発生していると言ってしまえば、地球上のすべての人々がそのウイルスにさらされることを受け入れたことになります。しかし、データはまだそれを支持していません」

       

      このように、パンデミックの宣言に関して、WHOは一貫して慎重な姿勢をみせていました。しかし、3月に入ると、流れが変わってきます。

       

      123日に閉鎖された武漢市では、その後強力な対策がとられ、その効果が2月後半には現れてきました。3月上旬になると、対策を指揮してきた専門家の間では、武漢市での新規感染者の発生は3月末までにゼロになるという見通しが語られるようになりました(実際には3月18日にゼロとなった)。

       

      WHOのシチュエーション・レポートによると、3月に入ると、中国以外の国々での毎日の新規感染者数は1000人台から4000人台へと急増しているに対して、中国での新規感染者数は減少を続け、38日には46人と2桁台となりました。この趨勢は9日の45人、10日の20人、11日の20人と続いていきます。中国での流行が終息に向かっていることを示す数字です。

       

      こうした中、これまでパンデミックを宣言することにきわめて慎重だったテドロス事務局長は39日、「ウイルスが非常に多くの国で足場をもつようになった今、パンデミックの脅威は非常に現実的になってきた」と述べました。

       

      310日には習近平国家主席が湖北省と武漢市を視察し、「新型のウイルスを基本的に抑え込んだ」と宣言しました。

       

      311日、WHOはパンデミックを宣言しました。テドロス事務局長は記者会見で以下のように述べました。

       

      「過去2週間で、中国以外での新型コロナウイルスの感染者数は13倍に増加し、感染が発生した国の数は3倍になりました。現在、114か国で118000人を超える感染者がおり、4291人が命を落としました。今後数日から数週間で、感染者数、死亡者数、感染が発生した国の数はさらに増えると予想されます」「したがって私たちは、新型コロナウイルスはパンデミックとして特徴付けられるという評価を行いました」

       

      また、313日の記者会見で、テドロス事務局長は以下のように述べました。

       

      132000人以上の感染者が123の国と地域からWHOに報告されています。5000人が命を落としました。悲劇的なマイルストーンです。現在、ヨーロッパはパンデミックの中心地となっており、中国を除く世界の他の国々全部よりも多くの感染者と死亡者が報告されています。中国での流行の最盛期に報告されたよりも多くの感染者が、毎日報告されています。繰り返します。現在、中国での流行の最盛期に報告されているよりも多くの感染者が毎日報告されているのです」

       

      テドロス事務局長のこの発言では、世界は2つに分けられています。ウイルスの感染源でありながら、感染がほとんどなくなった中国、そしてウイルスが猛威を振るうそれ以外の国々です。WHOはきわめて巧妙に、中国をパンデミックの発生源というネガティブイメージから切り離すことに成功したのです。


      検証:WHOは中国寄りか?(2)

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        WHO130日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。この過程を検証してみます。

         

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        120日、中国は一転して、ヒト-ヒト間の感染を認めることになります。武漢市の感染拡大は深刻化していました。中国共産党もようやくこの事態に危機感を抱くようになり、123日の武漢市封鎖につながっていきます。

         

        122日、WHOで緊急委員会が招集されました。新型ウイルスの感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に当たるかどうかを検討するためです。PHEICとは、WHOが定める国際保健規則(IHR)において、疾病の国際的拡大により、他国に公衆衛生上の危険をもたらすと認められる事態、および緊急に国際的対策の調整が必要な事態のことを指します。これまで、2009年の新型インフルエンザ、2014年の野生型ポリオウイルス、2014年のエボラ出血熱、2016年のジカ熱、2019年のエボラ出血熱でPHEICが宣言されています。

         

        この時、中国国内の感染者は合計309人。武漢市の270人の他に湖北省各地、北京、上海など中国各地で感染者がではじめていました。また、タイで2人、日本で1人、韓国で1人の感染者が発生していました。感染が武漢市から中国各地へ、そして海外へと広がりはじめていたのです。WHOが患者発生を最初に報告してから3週間。SARSに近縁なウイルスの出現、ヒト-ヒト間での感染確認、武漢市での感染拡大、武漢市以外への感染の広がりという状況からすれば、WHOは迅速に動き、世界に警鐘を鳴らすべき時期にきていました。

         

        しかし、中国からの報告で始まった会議は紛糾しました。PHEICを宣言すべきという意見に対して、中国は「ヒトからヒトへの感染が発生しているが、どのくらい効率よく感染するかは明らかではない。感染力はそれほど強くないかもしれない。データが不足しており、PHEICを宣言するのは時期尚早」と強硬に主張しました。面子にこだわる中国は、中国発のウイルスでPHEICを出したくないと考えていたのです。委員会参加者の半分は中国に同調。この日の会議で結論は出ず、翌日、改めて会議がもたれることになりました。

         

        会議の後の記者会見で、テドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は次のように述べています。

         

        「私は中国代表者のプレゼンテーションの詳細さと深さに非常に感銘を受けました。また、私がここ数日直接話し合った中国の保健大臣の協力にも感謝します。彼のリーダーシップ、および習近平国家主席と李克強首相の強力な指示は非常に貴重です」

         

        この日、緊急委員会は中国へのアドバイスとして、集団感染の封じこめと緩和のための公衆衛生対策を強化すること、春節の休み中に中国全土で監視と積極的な症例発見体制を強化すること、州の国際空港と港で出国の際のスクリーニングを実施し、発熱している旅行者を早期に発見して、国際交通への影響を最小限に抑えること、必要に応じて国内の空港、鉄道駅、長距離バスの駅でのスクリーニングを行うことを奨励しました。

         

        しかし、インフルエンザの流行に際していかなる移動制限も推奨しないという立場を以前からとっているWHOは、新たなウイルスの出現に際しても、春節の休みの大移動で感染が中国国内さらには国外にまで広がることを防止するための、移動制限を含む積極的な対策を中国側に強く求めることはありませんでした。こうして中国は春節をむかえ、感染は世界に広がっていったのです。

         

        23日の会議でも、結局意見は真っ二つに分かれたままで、PHEICを宣言するという結論には至りませんでした。WHO内での中国の影響力が大きいことがわかります。

         

        テドロス事務局長は10日以内にもう一度会議を開くことにしました。しかし、その間にも感染拡大は続き、127日には中国の感染者数は4537人、死者106人となり、海外でも14か国で合計56人の感染者が確認されました。

         

        テドロス事務局長は128日に北京に飛び、習近平国家主席と会見しました。「中国の指導者から感染拡大に関する対応について説明を受け、WHO側から技術支援を提供するため」とされていますが、実際には、中国の国際的イメージをダウンさせるPHEICを宣言せざるを得ない事情を習近平国家主席に説明することが目的だったとみられています。WHOの専門家チームは1週間前の12021日に武漢を訪問して情報収集を行っており、この時期に改めで中国を訪問して情報交換する必然性はありませんでした。テドロス事務局長は2017年、WHO事務局長のポストをイギリスのデイビッド・ナバロと争い、中国の支援を得て選挙に勝ったという経緯があります。

         

        129日、ジュネーブに戻ったテドロス事務局長は、記者会見で以下のように述べました。

         

        「私は習近平国家主席が今回のアウトブレイクについて詳しく知っており、対応に自ら関与していることに非常に励まされ、また感銘を受けました。たぐいまれなリーダーシップです。習国家主席は、彼らが取っている措置は中国だけでなく、世界の国々にとっても良いことだといっていました」「ご存じのように、現在全世界で6065人の感染者がおり、このうち中国は5997人で、世界中の全感染者のほぼ99%を占めています。中国では132人が命を落としましたが、中国以外では死亡例はありません。これまでに中国国外では68人の感染者しか見られず、死者も出ていないという事実は、中国政府が感染を国外にもち出さないためにとった異例ともいえる措置によるものです。中国の行動は私たちの感謝と尊敬に値するものです。中国は彼らの経済や他の要素を犠牲にしながら、それを行っているのです」

         

        つまり、中国が犠牲をはらってウイルスと戦っているがゆえに、世界への拡散は食い止められているのであり、世界は中国に感謝すべきというわけです。テドロス事務局長の楽観的な見通しとは裏腹に、世界各国での感染はその後急速に拡大し、中国がウイルス封じ込めに失敗したことが明らかになっていくのですが。

         

        テドロス事務局長に同行したWHO健康緊急プログラムのエグゼクティブ・ディレクター、マイケル・ライアンも、「中国への旅行中、私たちはあらゆるレベルでの中国政府の関与に非常に感銘を受けました」と、中国の対応を賞賛しました。ライアンはまた、「中国はこの疾病について透明性を持っていると思いますか」という記者からの質問に、以下のように答えました。

         

        「中国は私たちに毎日症例を報告することに非常にオープンです。透明性の欠如は見られません。私は2002年と2003年にSARSに関与しましたが、その時の経験から、当時の中国の行動と現在の中国の行動を比較することはできないと考えています」「中国を指差す前に、私たちは新しい疾病に関するデータ共有にはセンシティブな要素があることを認識する必要があると思います。今回のケースでいえば、ウイルスに感染した国々は、中国を含めて非常に透明性が高いと思います」

         

        200211月に広東省でSRASが発生した際、WHOは中国政府に対して、詳細な情報の提供と現地への調査チームを受け入れるよう要請しました。しかし、中国政府はこれを拒否。中国政府がWHOに情報を提供し、調査チームを受け入れたのは20034月でした。当時、煮え湯を飲まされたはずのライアンは、今の中国は違うと主張していますが、今回の感染でも、武漢市でのアウトブレイク直後には当局によるかん口令がしかれたことが今では明らかになっています。また、新型コロナウイルスの感染者や死亡者の統計にも不透明さが指摘されているのは、周知のとおりです。

         

        130日、緊急委員会が開催され、WHO1週間遅れでPHEICを宣言しました。テドロス事務局長は記者会見で以下のように述べました。

         

        「私が北京から帰国して以来何度も言ってきたように、中国国民に深刻な社会的および経済的影響を与えているにもかかわらず、中国政府がウイルス封じ込めのためにとっている並外れた措置は賞賛に値するものです。中国政府が自国民と世界の人々を守るために行った対応がなければ、これまでに中国以外でもっと多くの症例が見られたでしょう」「新しいコロナウイルスの世界的なアウトブレイクに対して、私は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。この宣言の主な理由は、中国で起こっていることが原因ではなく、他の国で起こっていることが原因です」「この宣言は中国への不信任投票ではありません。それどころか、WHOは中国のアウトブレイクを制御する能力に対して確信をもっています。私はほんの数日前に中国で習近平国家主席と会談しました。私は中国が透明性を保ち、今後も世界の人々を守る取り組みを続けることにまったく疑いをもっていません」

         

        テドロス事務局長はさらに、新華社の記者からの「この宣言後に各国がとりうる極端な措置は何ですか。それに対してWHOはそれにどのように対応しますか」という質問に、以下のように答えました。

         

        「私たちは中国が行っていることに対して敬意と感謝の意を表明すべきです。中国は他の国へウイルスを広めないよう信じられないほどのことをしています。どこかの国が何か措置を講じようとするなら、それは間違いです。WHOは中国に対する旅行や貿易の制限、あるいはその他の中国に対する措置を推奨しておらず、実際には反対します」

         

        中国は新型コロナウイルスの感染拡大によって世界からシャットダウンされ、中国経済に大きな影響が出ることを懸念していたのですが、WHOPHEIC宣言後も、中国への渡航制限、および中国からの旅行者の入国制限に反対する立場を改めて表明したわけです。

         

        この頃から、各国は中国にいる自国民を本国に帰還させる措置や中国への渡航制限措置を取りはじめます。次第に中国は世界から切り離されていきます。こうした動きに対して、WHO211日に「新規コロナウイルスの発生に関連した旅行者の本国帰還と検疫に関する重要な考慮事項」を発表しました。この中では本国への帰還や中国への渡航制限に関し、以下のように述べられています。

         

        2020130日、WHO事務局長は国際保健規則に基づく緊急委員会の助言にもとづいて、新規コロナウイルスの発生を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)と宣言した。その決定にしたがい、WHOは現在の情報に基づいて旅行や貿易の制限を推奨しないとした。24時間を超えて国際交通を著しく妨害するような措置は、アウトブレイク封じ込めの初期段階では、公衆衛生上意味をもっていると考えられる。そのような措置は、感染の影響を受けた国にとって対策をとるための時間をもたらし、まだ感染してない国にとっては防御の準備をする時間をもたらすからである。ただし、このような制限は期間を短くすべきで、状況の変化に応じて定期的に再検討する必要がある。

         

        テドロス事務局長のあまりの中国寄りの発言に対して、やがて記者から質問が出るようになりました。212日の記者会見では、ユーロニュースの記者から「中国政府はWHOに対して、中国がしていることを賞賛するように圧力をかけているのですか」という質問が出ました。これに対してテドロス事務局長は10分以上にわたって熱弁をふるいます。その主な内容は以下の通りです。

         

        「理事会において、ほとんどすべての加盟国が中国の功績を称賛しています。中国の行動が私たちをより安全にしていると言っています」「中国がしていることに対してWHOが感謝することに、多くの圧力があることを私は知っています。しかし、私たちは圧力に屈して真実を語らないわけにはいきません。私たちは真実を語るべきです。中国は賞賛されることを要求する必要はありません」「もう一つ追加します。私たちは習国家主席に会いました。私たちは感染発生について彼がもっている知識のレベルを知りました。私たちは、彼が直接感染拡大を防止する対策を率いていることを直接知りました。私たちが常に政府の関与、政治的なリーダーシップを要請していることをあなたもご存知でしょう。それを私たちは見たのです。あなたはそのようなリーダーシップに感謝しないのですか?」「これは非常に深刻なウイルスです。中国はウイルスの拡散を遅くするために多くの良いことを行っています。事実がそれを物語っており、私たちはそれを考えなければいけません。感染者数を見ると、中国では4万人以上ですが、世界の他の地域では400人程度です。1人しか死んでいません。ですから、真実を語り、世界が判断できるようにしましょう。世界の他の地域は武漢や湖北省に比べて安全です」



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