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『アート・オブ・ダイナソー』:これまで見たことがなかった恐竜たち
The Art of the Dinosaur:Illustrations by the Top Paleoartists in the World

“The Art of the Dinosaur” の日本語版である『アート・オブ・ダイナソー』がPIE Internationalから発売になりました。見本を見ていただいた方からは、「こんな恐竜は見たことがない」という反響をいただいています。世界で活躍するアーティストの描いた恐竜は、多くの方がこれまでもっていた恐竜のイメージをくつがえすインパクトをもっています。

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この本は私が編集し、9名のトップ・パレオアーティストの作品を掲載しています。最近の恐竜アートの世界では、恐竜単体を図鑑的に描くのではなく、その恐竜が生きていた環境やエコシステムも描きこむのが大きな潮流になっています。本書では背景まで細かく描きこまれた作品を多く選び、読者の方々に恐竜が生きていた時代へのタイムトラベルを楽しんでいただけるようにしてあります。また、アートとしても楽しめる完成度の高い作品を選びました。

本書では、9人のアーティストの作品を掲載しています。

ルイス・レイさんは恐竜アートの世界ではよく知られています。表紙もレイさんの作品を使用しました。彼の描く恐竜はとてもカラフルで生き生きとしています。

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中国の趙闖さんは最近、世界的に注目されているアーティストです。子供の頃、『恐竜戦隊コセイドン』の中国版が放映され、これを観たことが恐竜に興味をもつきっかけの1つだったそうです。

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ジェームス・キーサーさんは最近、自分の作品を多数使用した “The Amazing World of Dinosaurs” という本を出版しています。恐竜の生態も自ら解説できるアーティストです。

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ダヴィデ・ボナドンナさんはイタリアのアーティストらしく、デジタル画にテンペラ画を取り入れています。彼の描いたスピノサウルスは、2016年の国立科学博物館で展示されていました。

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セルゲイ・クラソフスキーさんはウクライナのアーティストで、内戦状態にあるルガンスクで制作活動を続けています。

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ロドルフォ・ノゲイラさんはブラジルのアーティストで、科学的正確さの追求には定評があります。

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服部雅人さんは、日本人アーティストとしてただ1人、本書に参加しています。図鑑的な恐竜を描いているイラストレーターは日本に何人かいますが、技量や恐竜に関する知識が彼のレベルに達している人は他にいません。

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エミリー・ウイロビーさんはデイノニクスやヴェロキラプトルなど獣脚類の恐竜に特に興味をもっています。彼女の描く羽毛恐竜には独特の魅力があり、時には詩情さえ感じられます。

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ラウル・マーチンさんも世界でよく知られたアーティストです。日本で開催された恐竜展のポスターなどで彼の作品を見た方も多いでしょう。超多忙の中、今回の本に参加していただきました。

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本書には、19世紀からの恐竜アートの系譜について、国立科学博物館の真鍋真先生と私が行った対談も含まれています。「まえがき」も真鍋先生にお願いしました。
世界の恐竜アートを集めた画集:The Art of the Dinosaur
The Art of the Dinosaur:Illustrations by the Top Paleoartists in the World

私が気に入った恐竜アートだけを集めた画集 ”The Art of the Dinosaur” ができ上がりました。

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この本には、世界で活躍する9人のパレオアーティスト(古生物アーティスト)の作品が収められています。

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ルイス・レイやラウル・マーチンのような日本でもおなじみの大家から、最近世界で注目されている中国の趙闖などが参加。日本からは世界で通用する唯一のパレオアーティストである服部雅人さんに参加してもらいました。

世界各地のアーティストと連絡を取り、掲載する作品を選び、編集を終えるまでに1年かかりましたが、楽しい仕事でした。本書は英語版をまず制作しました。現在アメリカに向けて出荷中です。今年のクリスマス商戦に向けて、10月に大々的な販売キャンペーンが開始されます。出版社はPIE International です。

本書の日本語版は来週、国内で発売になります。
顎をもつ魚の起源
Origin of jaws in vertebrates

バージェス頁岩の化石の研究で有名なケンブリッジ大学のサイモン・コンウェイ・モリスらのグループによる、Metaspriggina という魚の祖先の化石についての論文が、『ネイチャー』誌の6月11日付け電子版に掲載されています。この化石は約5億500万年前のバージェス頁岩から見つかったもので、対の鰓弓をもっていることがわかりました。鰓弓とは鰓に分化する領域のことで、顎をもつ魚、さらには脊椎動物へと進化する最初のステップであるとのことです。

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University of Cambridge

上の画像左がMetaspriggina の想像図、右が実際の化石で、眼がはっきり見えています。

Metaspriggina は以前から見つかっていましたが、化石の保存状態が悪く、体の細部について知ることはできませんでした。今回、コンウェイ・モリスらが報告した複数の化石は、2012年にカナダの王立オンタリオ博物館の調査隊がブリティッシュ・コロンビアのマーブル・キャニオン近くで発見した多数の化石の中に含まれていたもので、保存状態が非常によく、鰓弓の他、レンズをもった眼や鼻腔なども確認されました。

魚の祖先となる生物は、バージェス頁岩の生物たちより少し古い時代の中国、澄江動物群に見られます。しかし、顎へとつながる特徴をもつことが確認された最も古い生物は、このMetaspriggina ということになるようです。
アノマロカリスはプランクトンを食べていた?
Plankton feeding amomalocarids

アノマロカリスといえば、カンブリア紀の食物連鎖の頂点に立つ捕食者として知られていますが、『ネイチャー』誌3月27日号に発表された論文によると、その仲間には、現在のヒゲクジラ類と同じようにプランクトンなどの漂遊生物を食べていたものもいたようです。

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イギリス、ブリストル大学地球科学および生物科学校のJakob Vinther らは、数年前にグリーンランド北部、約5億2000万年前の地層で発見されたアノマロカリスの仲間、Tamisiocaris borealis の化石に残っていた前部付属肢を詳しく調べました。

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アノマロカリスの前部付属肢はきわめて大きく、三葉虫などの獲物を捕らえるために用いられたと考えられています。しかし、Tamisiocaris の付属肢には内側にひげのようなものが並んでおり、さらにそれぞれのひげには、より細かい繊毛のようなものが並んでいました。したがって、Tamisiocaris は海中を遊泳しながら、その付属肢で植物プランクトンおよび中型動物プランクトンをかき集め、濾して食べていたと考えられます。再現されたCG によると、Tamisiocaris は付属肢を交互に動かして、かき寄せた餌を口に運んでいたようです。

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カンブリア紀の大爆発の時代に、アノマロカリス類は多様な進化を遂げ、その一部は捕食者というよりは、より平和的な懸濁物食性の道を選んだものもいたわけです。また、このようなアノマロカリス類の存在は、カンブリア紀の海がすでに多量のプランクトンが漂泳する豊かな海であったことも示しています。
最古の鳥
Earliest bird?

少し前の話になってしまいますが、中国で発見された「最古の鳥」に関する話題をご紹介しましょう。

鳥の祖先はジュラ紀中期に獣脚類の恐竜から分かれ、ジュラ紀末期にかけて多様化したと考えられています。恐竜から分かれた鳥のグループのうち、最も古いとされているのが始祖鳥(アルカエオプテリクス)です。始祖鳥は、約1億5000万年前に生きていた生物です。

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しかしながら、羽毛恐竜の発見によって、近年では鳥に限りなく近い恐竜と、恐竜に限りなく近い鳥との間に境界線を引くことが難しくなってしまいました。今から2年前のことです。中国科学院古脊椎動物・古人類学研究所の徐星らは、『ネイチャー』誌の2011年7月28日号で、中国遼寧省で発見された新しい羽毛恐竜シャオティンギアについて報告しました。この化石は約1億5500万年前のものでした。

徐らは、シャオティンギアや始祖鳥、2009年に発見されたアンキオルニス(近鳥竜)などを含めたコンピューター系統解析を行い、これらはいずれも鳥類ではなく、ミクロラプトルやその他のドロマエオサウルス類、さらにはトロオドン科の仲間などを含むデイノニコサウリアという獣脚類の仲間であると位置づけました。つまり、始祖鳥は鳥ではなく、恐竜ということになってしまったのです。

始祖鳥は現生の鳥類の直系の祖先ではないと考えられていますが、それでもほとんどの研究者は、これまで発見された化石の中で、始祖鳥が最古の鳥であると考えていました。ところが、この論文で、始祖鳥は鳥の世界を追われてしまいました。もちろん、この解析結果について異論が出され、結論には至っていません。

今年5月29日付の『ネイチャー』誌電子版で、王立ベルギー自然科学研究所のパスカル・ゴドフロワらは、中国遼寧省で発見された新しい原鳥類の化石について報告しました(本誌では6月20日号に掲載)。アウロルニス(夜明けの鳥)と名づけられたこの化石は、約1億6000万年前のものと報告されています。

コンピューターによる系統解析の結果、ゴドフロワらは、アウロルニスが最も古い鳥であると結論づけました。この系統分析では、始祖鳥やシャオティンギア、アンキオルニスも鳥群に位置づけられています。鳥群で最も古いのがアウロルニス、次がアンキオルニス、その次が始祖鳥、そしてシャオティンギアという順番になりました。また、トロオドン科の恐竜が鳥に一番近い位置にきました。ゴドフロワらの論文によって、始祖鳥はふたたび鳥になりましたが、最古の鳥という地位に戻ることはできませんでした。

この論文が『ネイチャー』誌の電子版で発表された同じ日に、『サイエンス』誌のオンラインニュース「サイエンス・ナウ」には、「アウロルニスの化石は1億2500万年前のものかもしれない」という記事が投稿されました。実はゴドフロワらも、『ネイチャー』誌に掲載された論文ではふれていないものの、オンラインで閲覧可能な補遺では、この化石が報告された年代より3500万年若いかもしれない可能性について触れています。

『サイエンス』誌6月7日号には、「サイエンス・ナウ」の内容を補足した記事が掲載され、なぜこうした問題がでてくるかの背景について説明されています。一番の問題は、中国で次々と発見される羽毛恐竜や原始的な鳥の化石のほとんどが、研究者が地層を発掘して発見したものではなく、現地の農民が発見し、それを化石ディーラーに売ったものを、研究者が購入しているという事実です。アウロルニスも化石ディーラーからゴドフロワらの手に渡りました。化石が出土したとされる地層の情報もディーラーから得られたものでした。ゴドフロワはそれをもう一度調査し、1億6000万年前のものと結論づけたのです。

遼寧省では化石がビジネスになっており、ブラックマーケットまで存在すると『サイエンス』誌は書いています。そのため、現地では偽物の化石まで出まわっています。そのようなフェイクの化石が大きな話題になったのは、「アルカエオラプター事件」でしょう。「アルカエオラプター」の化石は中国から違法にアメリカにもちだされ、査読のある学術ジャーナルから論文掲載がリジェクトされたにもかかわらず、「鳥と恐竜のミッシングリンクを発見」として『ナショナルジオグラフィック』誌の1999年11月号に発表されました。しかし、その後、この化石は複数の生物(その中の1つはミクロラプトルといわれています)を人工的に組み合わせたものであることが明らかになりました。

研究者が化石の入手を現地の農民や化石ディーラーに依存せざるを得ない状況下では、科学的チェックが厳密に行われないと、こういう問題がでてきます。何らかの対策が必要と、『サイエンス』誌は指摘しています。

エディアカラのエニグマ:陸棲説は本当か?
Ediacaran Enigma:Were they lichens?

昨年12月12日の『ネイチャー』誌電子版にオレゴン大学の地質学者グレゴリー・リタラックの論文が掲載されて以来、「エディアカラの生物は海に棲んでいたのではなく、実は陸地に棲んでいた地衣類や菌類のコロニーだった」という話題がひとしきりインターネット上をかけめぐりました。しかしながらこうした場合、きわめて断片的な、しかもほとんど同じ内容の情報が一時的に流れるだけということがよくあります。別な立場からの評価や、追加の情報がでてきません。今回もそうした状況でした。これは、科学コミュニケーションの仕事に携わっている者として、私がいつもなんとかしなければと考えている問題です。

エディアカラの生物たちは今から約6億3500万〜5億4200万年前に生きていました。いわゆるカンブリア紀の大爆発がはじまる1000万年ほど前の時代です。エディアカラの生物の多くは扁平な体をもち、海で暮らしていたと考えられています。

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一方、『ネイチャー』誌のリタラックの論文では、最も有名なディッキンソニアをはじめ、エディアカラの多くの生物は当時の土壌の表面に生きていた地衣類で、生物の移動の跡と考えられているものは変形菌がつくったものだというのです。この時代に、すでに陸上に地衣類や菌類がいたとすると、生物の陸上への進出は1億年近くさかのぼることになります。また、エディアカラ紀の海に生物がいなくなってしまうと、カンブリア紀への生物進化の道筋を考える上でも大きな変更が必要です。

エディアカラ生物が地衣類だというリタラックの主張は、今にはじまったわけではありません。私が知っている限りでは1994年の論文が最初ではないでしょうか。『パレオバイオロジー』誌に発表された「エディアカラ化石は地衣類か?」という挑戦的なタイトルの論文は、それなりの関心を集め、リタラックの主張は「エディアカラのエニグマ」としてさまざまにとりあげられました。私も当時、興味をそそられたものです。

下に示す2つの図は、リタラックの2007年の論文に掲載されていたものです。上の図が従来のエディアカラの生物を示すもの、下の図は、それらが地衣類であるとする図です。

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当然のことながら、研究者のほとんどは、リタラックの説に同意していません。地質学や地球化学などによるこれまでの研究は、エディアカラの生物たちが海洋起源であることを例外なく示しています。『ネイチャー』誌の編集部も、バージニア工科大学のShuhai Xiao とアリゾナ州立大学のL. Paul Knauth に同じ号のNews & Views 欄への寄稿を依頼し、リタラックの論文に批判的な立場の意見を紹介しています。2人によれば、リタラックが地衣類説の証拠としているものは、すべて海洋起源で説明がつきます。また、海底堆積物であることがはっきりしている場所から化石が見つかっていることは、リタラックの説に対する何よりの反論であるとしています。

リタラックの主張はまだ仮説の域を出るものではありません。しかしながら、ほとんどの研究者が反対しているからといって、その説を無視してしまうことはあってはならないことです。『ネイチャー』誌は論文審査のプロセスをへて、リタラックの論文を掲載し、それと反対の立場のコメントも掲載しました。バランスのとれた編集だと思いますが、ネット上で流れた情報は残念ながらリタラックの主張のみでした。
北アメリカで発見された羽毛恐竜
Feathered dinosaur in North America

『サイエンス』誌の10月26日号に、北アメリカではじめて発見された羽毛を持つ恐竜についての論文が掲載されています。論文の著者にはカナダ、カルガリー大学のダーラ・ザレニトフスキー、王立ティレル古生物学博物館のフランソワ・テェリエンなどのほか、共同研究者として北海道大学総合博物館の小林快次准教授も名を連ねています。

羽毛が見つかった恐竜はオルニトミムスで、カナダのアルバータ州南部の約7000万年前の地層から3体が発掘されました。そのうち2体には羽毛とみられる痕跡が一緒にみつかり、もう1体の成体では、翼に羽毛が生えていた痕跡が見つかりました。

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発見されたオルニトミムスの羽毛は軸をもつものであることがわかりました。羽毛が1個所から何本も伸びているフィラメント状の羽毛は多くの恐竜で発見されていますが、軸をもつ羽毛は、これまでいわゆる鳥型恐竜でのみ見つかっていました。下の図で、メガロサウルス類まではフィラメント状の羽毛が見つかっています。今回のオルニトミムスを含め、軸のある羽毛をもつ恐竜は青い線で示されています。

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これまでの羽毛恐竜はそのほとんどが中国で発見されていましたが、今年の7月には、ドイツ、バイエルン州立古生物・地質学博物館のOiver W.M. Rauhut らが、ドイツの後期ジュラ紀の地層から発見したメガロサウルス類に羽毛があったことを、アメリカ科学アカデミー紀要に報告しています。

明らかに飛ぶことができなかった恐竜までが羽毛をもっていたことは、羽毛の起源についての研究に新しい光をあてています。最近では、恐竜たちは羽毛を一種のディスプレイとして使っていたのではないかと考えられるようになってきました。その中から翼をもち、飛翔する能力をもつ恐竜のグループが出現し、一部は鳥類へと進化したというわけです。
ティラノサウルスの成体にも羽毛が?
Was T. rex feathered?

先日、幕張メッセで行われている『恐竜王国2012』に行ってきました。展示のメインは、中国遼寧省で発見された大型の羽毛恐竜ユティランヌスの平面全身骨格標本とその復元模型です。

ユティランヌスはティラノサウルス類の大型恐竜です。今回展示されているのは、3体発見されたうちの、同じ場所で重なるようにして発見された2体で、1体は全長が9m もあります。もう1体は6m で、成体になる前のものとみられています。化石には明らかに羽毛とみられる個所が残っており、復元模型は全身が羽毛におおわれていました。これだけ大型の羽毛恐竜はこれまで発見されていませんでした。

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Brian Choo

このユティランヌスの全身骨格の発見は、徐星らによって『ネイチャー』誌の2012年4月5日号で報告されています。ユティランヌスが生息していた時代は、『恐竜王国2012』の図録では一部で「後期白亜紀」となっていますが、『ネイチャー』誌の論文によれば、この化石は前期白亜紀の地層から発見されており、約1億2500万年前のものとされています。下の図を見ればわかるように、後期白亜紀に栄えたティラノサウルスにいたる、より古い時代のティラノサウルスの仲間です。

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ユティランヌスがすでに羽毛をもっていたことは、これまで考えられていた以上に、大型のティラノサウルス類でも羽毛がポピュラーな存在だったかもしれません。これまで、幼体には羽毛がある可能性が指摘されていたティラノサウルスの成体にどこまで羽毛があったかも、いろいろな説がでてきそうです。最近では、竜脚類の恐竜にまで羽毛が発見されており、恐竜と羽毛の関係については、これからも大きな学問的展開があるにちがいありません。

『恐竜王国2012』の図録はとてもよくできており、恐竜に関する最前線の知識を得るのに役立ちます。私はこの図録で紹介されていた趙闖(チョウ・チン)という若いアーティストに関心をもちました。最近の海外の出版物では、古生物の素晴らしいイラストレーションが掲載されることが多くなってきており、新しい世代のアーティストが登場していることを感じさせます。私が中でもとくに注目していたのは、中国で発見される羽毛恐竜類を描いた作品でした。中国では趙さんのように、古生物の研究をしながら、それらの姿を生き生きと描ける若い世代が育っているようです。
カンブリア紀大爆発のトリガーとなった大事件
先カンブリア時代と古生代カンブリア紀との境界は今から5億4200万年前とされています。カンブリア紀になると、多細胞生物は多様な進化をとげ、いわゆる「カンブリア紀の大爆発」がおこりました。カンブリア紀大爆発の特徴の1つは、生物が殻や骨格をもつ進化の道筋が開けたことです。また、高度な視覚をもつ生物が登場し、捕食者と非捕食者の関係が生じました。捕食者はより強大になり、非捕食者は身を守る仕組みを発達させる「軍拡競争」の時代がはじまったわけです。三葉虫はこの時代の代表的な生物です。

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カンブリア紀大爆発というこの生命進化上の大イベントと、カンブリア紀とその前の時代の地層との間にみられる「大不整合」を関連づける論文が、『ネイチャー』誌の4月19日号に掲載されています。

大不整合は世界各地でみられ、先カンブリア時代の大陸でつくられた岩石層の上に、カンブリア紀に浅い海で堆積したとみられる層が乗っています。アメリカのグランドキャニオンなどでは地上に露出しています。下の写真では、断崖の一番下、コロラド川が流れる地層のすぐ上のあたりに大不整合が存在しています。

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アメリカ、ウィスコンシン大学の Shanan Peters とポモナ・カレッジの Robert Gaines は、北アメリカ大陸830か所の大不整合の地層から採取した2万点以上の岩石サンプルを分析し、この時代に何が起こったのかを調べました。すると、大不整合が形成された時代、大陸の周辺部では海進と海退がくり返され、海の化学環境が激変したことがわかりました。大陸性の地殻が浸食されて、カルシウム、鉄、カリウム、ケイ素などの成分が大量に海に流れこんだからです。その結果、生物はリン酸カルシウムの骨格や炭酸カルシウムの殻をつくったり、放散虫が骨格となる二酸化ケイ素を取りこむことができるようになったのではないかと、二人は推察しています。

カンブリア紀の大爆発がなぜ起こったのか、生物が殻や骨格をもつようになったのはなぜかなど、この時代に関する疑問はたくさんありますが、まだよくわかっていません。海水の化学成分の激変がそのトリガーになったという今回の論文は、きわめて興味深いものです。
ミクロラプトルの羽毛の色を復元
中国で見つかっている羽毛恐竜ミクロラプトルは、恐竜から鳥への進化を考える上できわめて興味深い存在です。ハトほどの大きさで、1億5000万年〜1億2000万年前に生息していました。

羽毛にはメラニン色素を貯蔵しているメラノソームとよばれる小胞が含まれています。北京自然史博物館、北京大学、アメリカ自然史博物館、テキサス大学オースチン校の研究者らは、北京自然史博物館にあるミクロラプトルの標本BMNHC PH881 の羽毛に残っているメラノソームの形状や並び方を走査型電子顕微鏡で観察し、現生の鳥類のメラノソームと比較しました。その結果、ミクロラプトルの羽毛は、現生のカラスと同じような光沢のある黒色で、構造色によって青く光るものだった可能性が高いということがわかりました。この研究成果は、『サイエンス』誌の3月9日号に発表されています。

復元されたミクロラプトルの姿は以下のようなものです。ほとんど鳥のような姿ですが、ミクロラプトルは、デイノニクスなども含まれる獣脚類ドロマエオサウルス科のれっきとした恐竜です。

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ミクロラプトルの長い尾羽は扇型をしていると考えられていましたが、細長い涙滴型であることもわかりました。

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こうした尾羽は飛行には役に立たないと考えられ、構造色とともに、異性を引きつけるためのディスプレイの役割を果たしていたと研究者らは推測しています。そうだとすると、鳥類のディスプレイは進化のきわめて早い段階から存在していたことになります。

なお、ブラウン大学のライアン・カーニーらは、始祖鳥のメラノソームを同じような方法で調べ、始祖鳥の羽毛は黒色だったという研究結果を1月24日の『ネイチャー・コミュニケーション』誌に発表しています。
アノマロカリス:高度な視覚をもった捕食者
オーストラリアのニュー・イングランド大学、サウス・オーストラリアン博物館、アデレード大学、そして大英自然史博物館の研究者らは、オーストラリア、カンガルー・アイランドの5億1500万年前の地層から発見されたアノマロカリスの化石について報告しています。アノマロカリスはカンブリア紀初期、いわゆるカンブリア紀の大爆発の時代の最強の捕食者として知られています。体長は約1m あり、10cm ほどの大きさの三葉虫を食べていたことを示す化石も残っています。

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今回発見された化石は保存状態が非常によく、直径2〜3cm もあるアノマロカリスの大きな眼が複眼であることを確認できただけでなく、その細部の構造までを調べることが可能でした。下の写真が、アノマロカリスの眼の部分で、右下の拡大写真には、複眼の各レンズの存在が明瞭に見えています。

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この複眼を走査型電子顕微鏡で調べた結果は、『ネイチャー』誌の12月8日号で発表されました。それによると、アノマロカリスの複眼は少なくとも1万6700個の個眼をもっていました。六角形をしてびっしり並んでいるそれぞれの個眼は直径が0.07〜0.11mm、長さは約3cm もありました。

大英自然史博物館のGreg Edgecombe は、今回の発見はアノマロカリスが節足動物(昆虫やエビ、カニ、クモ、三葉虫などの仲間)と近縁であることが確認された点できわめて重要であると述べています。また「節足動物の進化の過程で、複眼は硬化した外骨格や脚などよりも早い段階で発達したのであろう」とも述べています。

リチャード・フォーティは『三葉虫の謎』(早川書房)の中で、三葉虫類の最古の仲間の1つで、その化石が5億4000万年前までさかのぼるモロッコ産のファロタスピスは非常に大きな眼な眼をもっており「カンブリア紀初期の最初の三葉虫がすでに精巧な視覚系をもっていた」と書いています。初期の節足動物がいつ頃、いかにして複眼を獲得したかは、硬い骨格がなかったために化石がほとんど残されていない先カンブリア時代にまでさかのぼるきわめて興味深いテーマです。

サウス・オーストラリアン博物館のアーティスト、カトリーナ・ケニーさんの描いたアノマロカリス(一番上のイラスト)は、論文が掲載された『ネイチャー』誌の表紙を飾りました。

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アノマロカリスは私たちと同じくらいの視力をもっていたと考えられています。しかもその視野は非常に広く、動くものを見つけ出すのに適していました。高度な視覚をもったアノマロカリスの登場は、カンブリア紀初期の捕食者と被捕食者間の軍核競争に大きな影響を与えたと考えられます。
始祖鳥は鳥か、恐竜か?
今年は1861年にドイツで始祖鳥の化石が発見されてからちょうど150年目にあたります。始祖鳥の学名 Archaeopteryx は「古代の翼」というような意味です。国立科学博物館の『恐竜博2011』でも、有名なロンドン標本やベルリン標本など8つの標本の複製が展示されています。

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始祖鳥は系統樹の上で現生の鳥類には直接つながらないものの、最も原始的な鳥類とされています。始祖鳥が生きていたのは今から1億5000万年前のジュラ紀後期ですが、中国科学院の研究者らは最近のネイチャー誌に、始祖鳥よりも1000万年古く、始祖鳥と同じグループに属すると考えられる化石が発見されたと報告しました。この化石はシャオティンギアと名づけられました。

中国の研究者は始祖鳥やシャオティンギアは鳥類よりもヴェロキラプトルなどの恐竜に似ているとしています。この説によれば、始祖鳥は原始的な鳥類ではなく、当時生息していた羽毛恐竜の仲間ということになります。ただし、シャオティンギアの標本はまだ1つであり、年代についても不確定の部分があるとされています。今回の発見で、すぐに始祖鳥の系統樹上の位置が変わってしまうことはないでしょうが、恐竜と鳥類の関係については、これからもいろいろな展開がありそうです。
巨大壁画『爬虫類の時代』
国立科学博物館で開催されている「恐竜博2011」に行ってきました。ティラノサウスルやトリケラトプスをはじめとする全身骨格標本や、恐竜の羽毛など最新の話題をまじえた展示はきわめて充実していました。

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子供たちの人気はやはりティラノサウルスのようでしたが、私が一番印象的だったのは、ピーボディー自然史博物館の大壁画『爬虫類の時代』に関する説明展示でした。この壁画は同博物館のグレートホールにあり、長さ33.5m、高さは4.9m。古生代デボン紀から中生代白亜紀まで約3億年間の生物の歴史が細密に描かれています。

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化石でしか知ることができない遠い昔の動物たちを絵で復元するだけでなく、それらの動物が生きていた環境(地形や植物)も描きこんで一大パノラマとする手法はきわめて訴求力があります。じっと見入っていると、まるで恐竜たちの声や足音が聞こえそうです。この『爬虫類の時代』は、私が恐竜や古生物の記事や書籍をつくるときの原点になった絵でした。

この壁画が完成したのは1947年でした。描いたのは当時イエール大学芸術学部の4年生だったルドルフ・ザリンガーで、古生物学の教授たちから特別にレクチャーを受けてから仕事にとりかかったとのことです。今回の説明展示では、この壁画に描かれている35種の動物と26種の植物についての解説があり、さらにこれが一番大事なことですが、そこに描かれた当時の知識が、その後の学問の進歩によってどれだけ新しいものになったかが説明されています。絵に描かれていることの一部は古くなってしまいましたが、この絵は今も多くの人々の知的好奇心や古生物学への関心をかきたてています。
恐竜から鳥類への進化に新しい視点
ティラノサウルスやヴェロキラプトルなどに代表される獣脚類の恐竜というと、高度に進化した捕食者というイメージが強いのですが、最近、アメリカ科学アカデミーの紀要に発表された論文によると、獣脚類コエルロサウルス類の恐竜では、むしろ植物系の食事をしていた恐竜が多かったとのことです。コエルロサウルス類の恐竜にはティラノサウルスやヴェロキラプトルなどのほか、鳥類にきわめて近縁な恐竜、鳥類に直接つながる系統が含まれます。コエルロサウルス類の恐竜の多くは羽毛をもっていたと考えられています。

シカゴにあるフィールド博物館のZanno とMakovicky は、コエルロサウルス類の恐竜について歯や口の形、胃の内容物などを調べ、彼らがどのような食事をしているかを統計的に解析し、コエルロサウルス類が肉食だったというこれまでの説をくつがえす結論に達しました。ティラノサウルスなど肉食恐竜はむしろまれな存在だったとのことです。

この話題は日本でも報道されました。報道された内容は以上のようなものでしたが、論文をよく読んでみると、彼らの研究成果が重要なのは、その先、鳥類への進化との関連にあると思われます。彼らの研究によると、すでに獣脚類の時代にとくに鳥に近縁の恐竜たちは広範に植物食を行い、肉食から植物食への適応を果たしていたというのです。オルニトミムスやオヴィラプトルなどでは、歯を失い、くちばしを発達させていく過程が進んでいますが、これは植物食に適応するために起こったものです。すなわち、コエルロサウルス類の一部が鳥類に進化するに先だって、すでにコエルロサウルス類の間で植物食が主流となり、くちばしを形成したり、首を長くするなどの適応が進んでいたというわけです。

最近では、恐竜か鳥か判別がつかない羽毛恐竜が次々と発見されています。恐竜から鳥類への進化について、また新しい視点がもたらされたといえるでしょう。
生命の進化37億年
河出書房新社から出版された『生物の進化大図鑑』(監修:マイケル・J・ベントン他、日本語版総監修:小畠育生)を読んでいます。500ページもあり、重くて持ち歩きはできませんが、内容は充実しています。生命の歴史が通史として展開されており、各時代の大陸の配置や環境の変化など地学的歴史もおさえられています。最近の生命進化の出版物は、編集者が恣意的なバイアスをつけて特定の事象だけをとりあげる傾向が強く、本書のように生命の歴史の全体像を概観できる本は貴重です。

Prehistoric

原書の出版は2009年で、古生物学の最新の知見が盛りこまれています。細かいことですが、日本語版では第三紀と第四紀の境界が、国際地質科学連合(IUGS)の2009年の決定のもとづいて日本でも2010年1月から採用された新しい年代に改められています。

原書の出版社はドーリング・キンダースリー社です。同社は主に子供向け図鑑類の出版で有名で、日本でも多くの翻訳が出版されています。本書は一般読者を対象に、古生物学に興味のある読者にとっても読み応えのある内容になっています。多くの専門家を動員し、3000点以上もの画像を収録したこのような本ができたのは、同社が長い間つちかってきた編集力、図版制作能力、画像リサーチ力、そして自社内の画像データベースのたまものといえるでしょう。
鳥と恐竜の間
2003年に中国の白亜紀前期の地層から発見された「羽毛恐竜」ミクロラプトルは、後肢も翼になっており、前肢には風切羽がありました。以来、鳥と恐竜の関係についてホットな議論が続いています。

議論の1つは、鳥の飛行がどのようにして生じたかで、ミクロラプトルのような前肢と後肢に羽毛をもつ恐竜が樹上から滑空することから、鳥の飛行能力が獲得されたのではないかと考えられるようになってきました。

下左のイラストは、偉大なナチュラリストであったウィリアム・ビーブが1915年に描いたものです。ビーブは世界で初めて潜水球に乗りこみ、深海の生物を調べた人物として有名ですが、もともとは鳥類学者でした。その彼が、初期の鳥が滑空することによって飛行能力を獲得していったという仮説を説明するために描いたものです。このイラストとミクロラプトル(下右)の想像図は、驚くほどよく似ています。

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このビーブのイラストはオレゴン州立大学の最近のプレスリリースに載っていたのですが、そのプレスリリースの中で、同大学の動物学の教授であるジョン・ルーベンは、現在、恐竜と考えられているものの中には、鳥から進化したものがあると語っています。

実は、鳥と恐竜の関係そのものについても、いろいろ議論があるのです。鳥の祖先はティラノサウルスなどを含む獣脚類の仲間から分岐したと考えられており、系統図の上では、ミクロラプトルは鳥との分岐点からきわめて近いところにいます。ミクロラプトルを含むデイノニコサウルス類の恐竜は鳥に非常によく似ています。実際のところ、このあたりの恐竜については、どこまでが恐竜で、どこからが鳥なのかを決めるのが難しくなっています。

一部の研究者がしばらく前から唱えはじめた説によると、鳥の祖先は恐竜と共通の祖先から分岐し、現在の鳥へと進化したのですが、あるグループは飛行能力を捨てて地上で生活するようになりました。ヴェロキラプトルの仲間などに分類されている恐竜の中には、こうした「鳥」が含まれているというのです。この説が正しいかどうかは別として、こうした説まで出てくるほど、鳥の祖先が恐竜から分岐するあたりには興味深い話題が多いということなのでしょう。
コハクの中のモンスター
オレゴン州立大学のジョージ・ポイナーは、コハクの中に閉じめられた古代の昆虫の研究者として知られています。コハクの中の蚊から恐竜の血液を採取し、そのDNA から恐竜を復元するという『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトンの小説をスティーブン・スピルバークが映画化)は、もともとポイナーがカリフォルニア大学バークレー校にいたころに提唱していた、コハクの中の昆虫からDNA を抽出するというアイデアにもとづいたものでした。

そのポイナーが、ミャンマーで採取したコハクの中から発見された、ユニークで奇怪なハエについて報告しています。このハエは今から1億年前に熱帯域で生息していたもので、ユニコーンのように、頭の上に1本の角をもっています。しかも、その角の先には小さな眼が3つ、ついているのです。これは、現生のいかなるハエの仲間ももっていない特徴です。さらに、奇妙な形をした触覚や異常に長い脚ももっています。「3つの眼」などというと、バージェス頁岩の怪物たちを思い出してしまいます。

Cascoplecia insolitis

このハエは花の上で蜜や花粉を食べながら生活していたとみられています。大きな両眼に加え、角の先につている眼は、捕食者が接近するのをいち早く察知するのに役立ったかもしれません。長い脚は、花の間を渡り歩くのに便利だったでしょう。

このハエが生息していた白亜紀の地球は、花をつける植物が生息域を広げ、多様な進化をとげた時代でした。それにつれて、花粉を運ぶ役割をはたす昆虫も共に進化していきました。ポイナーが報告しているこの奇妙なハエも、こうした時代に登場した数多くの昆虫たちの一員だったのです。しかしこのハエの場合、環境の変化に適応できず、「進化の袋小路」に入ってしまいました。ポイナーはこのハエに、「孤立した」という意味をもつ Cascoplecia insolitis という学名をつけています。
「ティラノサウルス」か「ティランノサウルス」か?
千葉の幕張メッセでは「恐竜2009−砂漠の奇跡」展が9月27日まで開かれています。なんとか見に行きたいと思っているのですが、どうもその時間がとれそうもありません。

ところで、駅などに貼ってあるこの恐竜展のポスターを見て、おやっと思った人もいるのではないでしょうか。「ティランノサウルス」と書かれているからです。最も有名で、最も人気のあるこの恐竜の学名は Tyrannosaurus で、普通は「ティラノサウルス」と表記され、「ティランノサウルス」と表記されるのはまれです。

私が子供のころには「ティラノザウルス」でしたが、これはドイツ語読みにしていたためです。その後、学名はできるだけラテン語読みに忠実に表記することとなり、「ティラノサウルス」が一般的になりました。しかし、学名のラテン語読みをもっと正確に表記すべきだという立場から、これを「ティランノサウルス」とする表記が出てきたのです。この方式では、たとえば、これもよく知られた恐竜の1つであるアロサウルス(Allosaurus)は「アルロサウルス」となります。

学名のラテン語をカタカナで表記するのは、とても難しい問題を含んでいます。第一に、ラテン語は現在使われている言語ではなく、本当の発音を知っている日本人(外国人もですが)はけっして多くはありません。次に発音が正確にわかっても、それをカタカナで完全に表記することは不可能です。さらに、新しくつけられた学名の中には、たとえば英語の地名や人名などが含まれることがあります。これまでもラテン語読みにすべきなのかという問題もあります。

したがって、正確なラテン語読みを追求するといっても限界がでてきます。「ティランノサウルス」にしても、”Tyra” の部分をもっと正確に発音すれば「テュラ」になるのではないでしょうか。あまりこだわらずに、一般に使われている表記を用いるべきだと思います。

月の海の名前もラテン語です。昨年、私は月周回衛星「かぐや」のハイビジョン映像に英語のナレーションを入れる仕事をしました。台本を一読したアメリカ人のナレーターは私に言いました。「私はラテン語はわからないのです。英語(米語)風に発音します」。もちろん、私に異論はありません。天文学の世界では、まあ、こんなところで問題はおきません。しかし、恐竜の世界は少しばかりうるさいのです。

「恐竜2009−砂漠の奇跡」展で「ティラノサウルス」が「ティランノサウルス」になっている理由はとても簡単で、監修者が群馬県立自然史博物館館長の長谷川善和先生だからです。長谷川先生はずっとこの表記をとってきましたから、主催者も長谷川先生に監修をお願いした時点で、「ティランノサウルス」になることは了解済みだったでしょう。ちなみに、主催者の中の1社である日経ナショナルジオグラフィック社で出版している『恐竜図鑑』では、監修者がことなるため「ティラノサウルス」になっています。

長谷川先生と同じことを、研究歴がもっと少ない人がすると、本の編集者は苦労します。子供向けの本なので一般に用いられている「ティラノサウルス」を使おうとしても、監修者が頑としてゆずらず、泣く泣く「ティランノサウルス」にしたという本を、私は知っています。そんなことよりも、学問的業績を上げることの方が大事だと私は思います。

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