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レイ・ブラッドベリ:霧笛と原子怪獣
Ray Bradbury:The Fog Horn and The Beast from 20,000 Fathoms

先日亡くなったレイ・ブラッドベリの作品の中で、『霧笛』は私が特に好きな作品の1つです。霧の季節になって灯台の霧笛が鳴りはじめると、その声に呼び寄せられ、深い海の底に身をひそめていた太古の恐竜が姿をあらわす物語です。

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この作品は1953年に公開されたアメリカ映画『原子怪獣現る』の原作となり、1954年公開の東宝映画『ゴジラ』に大きな影響を与えたといわれています(たとえばWikipedia、朝日新聞2012年6月12日「時代越え共感呼んだSF」巽孝之)。しかし実際には、『霧笛』が『原子怪獣現る』の原作といえるかどうかについては、微妙な部分があります。

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ブラッドベリは隔月刊雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』誌の1951年6月23日号に、”The Beast from 20,000 Fathoms” という短編を発表しました。この作品が1953年に『太陽の黄金の林檎』に収められたとき、題名が ”The Fog Horn” すなわち『霧笛』に変えられたのです。

一方、ハリウッドで低予算映画を制作していたジャック・ディーツとハル・チェスターは1952年、『キングコング』のリメイク版がこの年に大ヒットしたことに刺激されて、“The Monster from Beneath the Sea” という題名の怪獣映画を企画しました。監督はユージン・ローリーに依頼しました。特撮にはレイ・ハリーハウゼンを起用しました。ハリーハウゼンはCGなど存在しない時代に、恐竜や怪獣の模型を動かし、登場人物の動きや背景と合成することでリアルな映像をつくりだした「ダイナメーション」という手法を編み出した人です。脚本は数人の作家に依頼しましたが、実際はローリーが書いたといわれています。さらにハリーハウゼンも参加したようです。

制作作業が進んでいる間に、ディーツは『サタデー・イブニング・ポスト』に掲載されたブラッドベリの作品を発見しました。それには、恐竜が灯台を壊すイラストがついていたのですが、映画の中にも同じような場面がありました。ハリーハウゼンはブラッドベリと長い間の友人でしたが、彼もこの作品を知ったのはこのときだったようです。ディーツが作品の中身を読んでいたかどうかは不明ですが、彼はさっそくブラッドベリをスタジオによんで脚本を読んでもらい、アドバイスを求めました。そこではじめてブラッドベリは、自分の作品と同じ物語がつくられていたことを知ったのです。

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ハリーハウゼンがこの映画のために製作した映像をブラッドベリに見せたときに、ブラッドベリが自分の作品と同じであることに気がついたという、別の話もあります。

監督のローリーも後にSF映画雑誌のインタビューに答えて、脚本の執筆はブラッドベリの作品とは独立に行われたと語っています。

結局、映画の題名は “The Monster from Beneath the Sea” から ”The Beast from 20,000 Fathoms” に変更になり、ブラッドベリの名前は “Suggested by THE SATURDAY EVENING POST Story by Ray Bradbury” として表記されることになりました。

ブラッドベリにとっては、自分の作品が映画化され、ハリーハウゼンにとっては友人であるブラッドベリと一緒に仕事をすることができ、ディーツとチェスターにとっては、映画の宣伝にブラッドベリの名前を使うことができるようになりました。皆がハッピーになる結末だったのです。
近代日本奇想小説史:横田順彌氏の労作
横田順彌氏の『近代日本奇想小説史』(ピラールプレス)が刊行されました。SF マガジンに連載されていたものを大幅に加筆修正したもので、40年以上にわたる横田氏の古典SF 研究の集大成といえるものです。今回出版されたのは「明治篇」ですが、それでも1200ページあります。まさに労作といえます。

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本書で紹介されている作品は、SF を中心に多岐のジャンルにわたっています。アカデミックな日本の近代文学史には登場しないものばかりというか、横田氏の古書収集によってはじめて私たちが知ることになった作品が多数あります。本書は明治という時代の精神や日本のSF の源流を理解する上で貴重な資料であると同時に、当時の出版文化の研究書としても後世に残るものといえるでしょう。

本書の刊行を記念して、昨日、東京堂本店で長山靖生氏と北原尚彦氏によるトークイベントが行われました。体調を崩している横田氏も出席し、楽しい話を聞くことができました。私も仲間に入れていただいている日本古典SF 研究会は横田氏を中心につくられたもので、初代会長が長山氏で、現在は北原氏が会長をつとめています。『偽史冒険世界』(筑摩書房)『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』(筑摩書房)『奇想科学の冒険』(平凡社)など多くの著書のある長山氏が一昨年末に出版した『日本SF 精神史』(河出書房新社)は、日本のSF の系譜を幕末・明治から戦後までたどったもので、古典SF 研究の入門書としても格好です。シャーロック・ホームズに関しては日本で一番調べている北原氏にも『SF 奇書天外』(東京創元社)があります。

横田氏には、健康に気をつけていただき、大正・昭和(20年まで)篇を期待したいと思いますが、ご本人によると20年かかるとのことです。実際、そのくらい大変な仕事です。
ゴートはどこへ行った?
若田光一さんがISS(国際宇宙ステーション)に滞在している間の写真を見ていて、私はあるものを見つけました。何枚もの写真にそれは写っていましたが、一番よく見えているのは下の写真です。

ISSのデスティニー実験棟

これは、2009年7月2日、ソユーズ宇宙船のドッキング場所を移動させたときに撮影された写真です。写っているのは、デスティニー(アメリカの実験棟)のISS ロボットアームの操作卓のある場所です。左と真ん中上のディスプレイには飛行中のソユーズが見えていますが、このソユーズに若田さんは乗っていました。ところで、左のディスプレイの下に、フィギュアが置いてあるのがおわかりでしょうか。もちろん、無重量の宇宙空間ですから、実際は「置いてある」のではなく、ベルクロ(マジックテープ)で止めてあるのですが。

ゴートのフィギュア

このフィギュアを見て、すぐにそれが何であるかわかる方は、SF 映画に相当くわしい人といえるでしょう。これは1951年に公開された『地球の静止する日』(The Day the Earth Stood Still)に出てくる「ゴート」というロボットです。原子力を武器として利用し、破滅への道を歩みはじめた人類に警告を与えるため、円盤に乗って宇宙からやってきた地球人そっくりの主人公が、マイケル・レニー演じるクラトゥー。彼の護衛役で、いざとなれば地球を破壊できる力をもったロボットがゴートなのです。

ゴートは、アメリカではよく知られており、フィギュアが売られています。NASA の宇宙飛行士の中にこの映画のファンがいて、ゴートをISS に持ってきたのかもしれません。

『地球の静止する日』は2008年にキアヌ・リーヴス主演でリメイク版がつくられました(日本でのタイトルは『地球が静止する日』)が、残念ながら見る価値のない作品でした。ゴートもマッチョ型で、あまり魅力的ではありませんでした。アメリカでも、昔のゴートのフィギュアが売られているということは、やはり多くの人が昔にゴートに親しみをもっているのでしょう。

このゴートのフィギュアは、若田さんがISS に到着するしばらく前からあったのですが、最近のISS の写真を見ると、そのゴートが姿を消しているのです。ゴートはどこへ行ってしまったのでしょうか? どうしても知りたかったので、くだらない質問で申し訳ないと思いながらも、昨日、若田さんにお会いした折に聞いてみました。若田さんによると、ベルクロが外れて、どこかに飛んで(浮かんで)行ってしまったのではないかとのことでした。ISS では、浮かんでいたものが、いつの間にかどこかへ行ってしまうのはよくあることです。

そのようなわけで、ゴートは今も、宇宙を遊泳しているようです。
ハインライン『夏への扉』の新訳
ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』の新訳版が早川書房から出版されたので、早速読んでみました。SFの古典的名作とされるこの作品が書かれたのは1956年。日本では1963年に福島正実氏の訳でハヤカワSFシリーズとして出版され、1979年にハヤカワ文庫に入りました。私たちの多くは1970年代にこの作品を読み、それからは仕事や家庭に追われて、ゆっくり読み返す暇もなかったというのが、実情でしょう。ところが2009年8月、まるで「コールド・スリープ」から目覚めたように、この作品は突然、私たちのところに戻ってきたのです。ダニーもリッキーも、ピートも!

夏への扉

今回の訳は小尾芙佐さんによるものです。『アルジャーノンに花束を』の訳でご存知の方も多いでしょう。私にとってはアーシュラ・K・ル・グィンの翻訳でおなじみの方です。小尾さんの訳がすばらしいことは、読んですぐにわかりました。本を読み終えると、私は丸の内オアゾにある丸善の洋書売り場に行き、原書を探しました。アシモフやクラークなど、同時代に活躍した作家の作品が何タイトルも並ぶ中、私を待っていたかのように、ハインラインの作品は ”THE DOOR INTO SUMMER” だけがそこにありました。ページをぱらぱらめくると、ハインラインの簡潔で格調高く、それでいて軽妙な文体に小尾さんの訳がオーバーラップしてきます。これから2〜3日は電車の中で、小尾さんの訳を頭に思い浮かべながら、原書を楽しみたいと思っています。

この作品をはじめて読まれる方のために、ストーリーについてはふれないでおきましょう。1つだけ、『夏への扉』が時代を超えて、なぜこれほどまでに愛され、人々の心を打つのかといえば、それはこの作品にこめられている、未来に対する確信と希望にあるのではないでしょうか。こんな大事なことを、私たちは今、忘れかけています。社会はいまだ閉塞した状況にありますが、この作品を読んだ人はきっと勇気づけられ、自分も「夏への扉」を探すことができるにちがいないと思いはじめることでしょう。

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