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発送電分離論の無理:垂直統合型が合理的
Power generation and transmission:Separation vs. Integration

政府は発電と送配電を分離する「発送電分離」の検討を進めています。これまでも何度か検討されてきた発送電分離論が今回また登場したのは、いうまでもなく福島第一原発事故がきっかけになっています。しかし、なぜ分離する必要があるのかについての議論がほとんどなされないまま、「国民に対する受けがいい」という考えのもと、現在の状況にいたっているのは少し心配です。

『世界』の2011年11月号で、伊東光晴先生は「続・経済学からみた原子力発電」という論文を発表し、発送電分離論について述べています。私が紹介するまでもなく、京都大学名誉教授の伊東先生は理論経済学の権威であり、電力や鉄道などの公益事業について詳しい方です。伊東先生は、原子力発電は技術的に未完成で、「実用化段階の技術ではない」という立場をとっています。また、太陽光発電も「研究段階の技術」で、太陽光発電と風力発電にとって「わが国は適地とはいいがたい」としています。

伊東先生はまず、「発送電分離の考えは、発電部門を複数の企業に分割し、互いに競争させれば発電コストが下がるという、不確かな、考えによるものである」としています。そして、ここから論理的に導かれるのは、第1 に発電部門に設備投資抑制の傾向が生まれること、第2 に電力売買の市場に投機が介入することであるとし、前者については、発送電分離を行ったカリフォルニア州では年に417分の停電、イギリスでは年に76分の停電がおこっているという毎日新聞の記事を引用し、後者についてはエンロン破綻についてふれて「分離・分割のデメリットは、論理的帰結と一致している」と述べています。伊東先生が引用した毎日新聞の記事によると、イギリスでは2020年までに約2兆6000億円の投資をしなければ電力が不足し、大規模な停電がおこる可能性があるとのことです。

今回、発送電分離論が出てきた背景には「自然エネルギーを拡大させるために必要」という主張があります。伊東先生はその代表例である環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏の「自然エネルギー普及のボトルネックがこの送電線です。自然エネルギーを放置していて、かつ独占を守りたい電力会社を今のままにしていたら、結局また邪魔されて、来た道に戻ってしまう。発送電分離をいかに実現するかが、非常に重要です」という主張を引用し、「私はこの考えがわからない」と書いています。

その理由として、第1 に、自然エネルギーが普及しないのは発電コストが高く、発電の不安定さという質の問題があるからで、「それを言わず、責任が電力会社にあるようなことを言うのがわからない」。第2 に、「送電網の独占がなくなるならば、高いものが売れるのか。それはなぜなのか。理解できる人はいないだろう」と書いています。伊東先生によれば、「電力会社の地域独占を批判する飯田氏の主張は、電力会社の独占なしには実現できないのである」。

伊東先生は、「発電・送電・配電が垂直的に統合している日本の現体制が望ましい」と考えています。電力会社では火力、原子力、水力などの電源を組み合わせて発電を行っており、それぞれの電源には、LNG 火力はコストを上昇させずに出力を調整できる、原子力は出力を一定に保つ必要があるなどの特質があります。「こうした電源の特質と新旧の設備差を考え、電力会社の運転中枢は、電力需要の増加につれて、発電コストの安い電源から稼働していく。もちろんそれには送電コストも考慮されている。逆に需要が減った場合には、コストの高い電源から順次に発電を止めていく。こうして発電コストを低く抑えている――これが電源ミックスにもとづく垂直的統合のメリットなのである」というのです。

なお、発送電分離については、日経ECO JAPAN に掲載された澤昭裕氏の論文も参考になります。

だいぶ以前、東京電力の部長の方と食事をしたときの会話を、私は今でも覚えています。それは夏の暑いさかりで、電力不足が真剣に心配されていた時期でした。「大丈夫ですか?」という私の問いに対する答は、「社員が自転車をこいで発電してでも、停電にはしません」というものでした。日本人の生活と産業を支えてきた電力マンの責任感や気概は、もうなくなってしまうのかもしれません。

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