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市場問題PT報告書:築地ブランドという幻想
市場問題プロジェクトチームの第1次報告書(案)は「築地再整備ありき」で書かれていますが、報告書に書かれている事実を客観的に眺め、豊洲移転と築地再整備を比較してみると、現在の築地市場に求められていることはすべて豊洲新市場で実現できることが分かります。

また、築地再整備は報告書のようにはいかず、多くの問題に直面することが明らかです。工期は伸びる可能性があり、アスベストを含む現在の建物を安全に解体するには市場を休業させる必要があります。報告書には書かれていない土壌汚染調査およびその対策のためにさらに工期が延びます。全体の費用ももっとかかるはずです。また、営業しながら工事を進めるのは非常に困難です。なにしろこの問題が、かつての築地再整備計画を挫折させたのですから。

実は市場問題PTの小島座長もこれらに気付いており、どうしても築地でなくてはならない理由として、最終的には「築地ブランド」に頼らざるを得なくなっています。しかし、報告書が述べている意味での築地ブランドは幻想にすぎません。

まず、報告書では「世界の生鮮市場ベスト10」で築地市場が第2位になっていると述べています。確かに築地市場は世界によく知られていますが、それはあくまで「観光スポット」として有名なだけです。床にマグロを並べてセリをするという昔ながらの風物詩を体験できる場所として有名なのです。築地市場の鮮魚が欧米で高い評価を得ているという事実はありません。なぜなら、築地市場の魚を輸出することができないからです。築地市場の魚は一部アメリカには輸出されているものの、国際標準であるHACCP(ハサップ)対応がなされていないため、EU諸国に輸出することはできません。新鮮で質の高い魚を売る市場として評価されているわけではないのです。実はこの点こそが、一刻も早く豊洲に移転して、世界に飛躍するために関係者が一丸となって努力しなければいけないことなのですが。

報告書では「築地ブランドの担い手は仲卸業者」であり、「仲卸を中心とした食材目利き(品質値段設定)の技」がブランド力を維持してきたと述べています。しかし、これは間違いです。築地ブランドは、各地から新鮮な魚を届けてくれる漁師さん、漁港、流通業者なしには成り立ちませんし、その魚を評価している消費者が一緒になって築地ブランドをつくりあげているのです。報告書はこうした面に対する配慮が欠けています。

現実問題として、鮮魚市場としての築地ブランドが意味を持つのは、これまで付き合いのある業界内にとどまるのではないでしょうか。日本人の多くは築地経由でなければ魚を買わないというわけではなく、通販サイトには築地を経由しない鮮魚があふれています。羽田空港の近くには、各地の漁港から飛行機で送られてきた魚を、市場を経由しないで流通させる業者まで出現しています。

鮮魚市場のブランドは関係者が一丸となってつくり上げていくものです。そのための場所が今、豊洲に出来上がっています。「築地」という地名に固執するのであれば、築地市場は鮮魚市場ではなく、観光スポットとして生きていく道を選択するしかないでしょう。
豊洲市場専門家会議第6回会議:科学は守られた
前回、豊洲移転反対派の妨害で休会になってしまった豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議第6回会議が6月11日に再開され、今後の安全対策に関してまとめた報告書ができあがりました。これによって、豊洲市場の安全性は改めて明らかになり、将来の安全性確保に関しても科学的知見に基づいた提言がなされたことになります。

今回も人民裁判のような長時間の質疑応答がありましたが、これに最後まで誠実に対応した平田健正座長をはじめ、駒井武先生、内山巖雄先生、そして事務局の中島誠氏に敬意を表したいと思います。

専門家会議は移転反対派のプレッシャーの中で開催されてきました。会議後の質疑応答では毎回、プロの活動家と思われる人を含む反対派から執拗な攻撃を受けました。また小池知事周辺からは、豊洲のマイナスイメージをつくるための情報リークが、会議前日に毎回のように行われました。例えば2016年10月15日の第1回会議の前日には水銀濃度に関する情報が、会議で報告される前日にメディアに流れました。2017年1月14日の第4回会議の前日には、小池知事自身がメディアで「かなり厳しい数字が出る」と発表していました。

こうしたプレッシャーを平田座長が感じなかったはずはありません。豊洲問題では科学を無視した議論がまかり通っていますが、専門家会議は一貫して科学データにもとづいた議論を行い、それを報告書にまとめました。平田座長はずいぶん苦労されたと思いますが、プレッシャーに屈することなく、専門家会議が「科学を守った」ことは高く評価されるべきことだと思います。
小池都知事が豊洲市場をつぶしたい理由
市場問題プロジェクトチームがまとめた第1次報告書(案)は、予想通り「豊洲市場つぶし」「築地再整備ありき」の内容で、小池都知事の意向を反映したものといえます。小池氏が豊洲移転の判断をせず、ここまで問題を引き延ばしてきたのは、ひとえにこの報告書を待っていたためです。豊洲市場は科学的に安全であり、舛添都知事時代に安全宣言がなされているにも関わらず、小池氏はなぜ豊洲移転の判断をしないのか。なぜ市場に再び大混乱をもたらす築地再整備を選ぼうとしているのか。合理性にかけ、不可解と感じる方は多いでしょう。小池氏は豊洲市場に対して憎しみに似た感情さえもっているように思えます。

しかしながら小池氏のこうした態度は、心理学を少しでも勉強した者には、きわめて簡単に説明できます。これは「プライドを傷つけられた人が復讐を果たそうとする際にとる行動」の典型的なパターンです。ここでいう「プライドを傷つけられた」とは、経済的あるいは物理的ではない、心に与えられた刺激に対するネガティブな反応のことで、他にもいろいろなケースを想定できます。以下のようなストーリーを考えてみてください。

主人公はある相手からプライドを深く傷つけられます。彼の心の中に相手に対する憎しみの感情が生じますが、相手は自分より強い立場にあるため、その感情はすぐには行動に表れません。しかし時が経って力関係が逆転し、自分は相手に対して復讐できる力を持ったと気がついた時、彼の心の奥底に秘められていた憎悪は突如怪物のように膨れ上がります。ここでいう力関係の逆転をもたらす要因としては、本人の成長や社会的成功、権力の入手、相手の老化や社会的地位の喪失などがあります。ここで大事なことは、相手が本当に彼を傷つけたかどうかは問題でないということです。多くの場合、こうした感情は一方的に生じることが指摘されています。憎悪の感情は通常社会生活の中で緩和されていくことが多いのですが、一方的な思い込みを内部に押し込めてしまった場合、こうした緩和過程は働かなくなります。
 今や、彼の心はあまりに大きな憎悪に支配されているため、論理的思考は成り立たなくなります。復讐がどんなに非合理なものであっても、もはや誰も止められないのです。このとき、重要なポイントがいくつかあります。第1に、彼は復讐を公の場で行おうとします。プライドを傷つけた対価を一般大衆の目の前で支払わせ、彼自身の誇りを回復しようとするのです。第2に、復讐の対象は相手自身でなく、相手が最も愛するものに向けられることがあります。第3は、周到性です。大きな不合理に駆り立てられるほど、彼はそれをエネルギーにして冷静・冷酷になり、復讐を成功させるために周到な準備をします。さらにもう1つ重要な点は、自らの行動によって第三者が不利益や損害を被ったとしても、彼はそのことに対して罪悪感をもつことがないことです。昔、自分の心に傷を与えた相手にこそ責任があると考えるからです。

この心理プロセスは古来あまたの文学や戯曲のテーマとなり、また現実のエピソードを生み出してきました。ここには、私たちが普遍的にもつ心理がいくつも組み合わされているからです。私には小池氏の心の中を推し量ることはできませんし、このストーリーをそのまま当てはめる気はありませんが、豊洲移転に関して多くの共通点があることはおわかりになるでしょう。もしかしたら、小池氏には過去のどこかの時点で、石原慎太郎氏に対する複雑な心情が生まれたのではないでしょうか。そうでなければ、私には小池氏の石原氏に対する慇懃無礼なコメント、人民裁判のような百条委員会での石原氏の証人喚問、石原氏と東京都に対する住民訴訟において同氏の個人責任を追及するという方針への変更などについて理解することができません。

小池氏にとって豊洲市場は石原氏そのものなのではないでしょうか。それは小池劇場のための舞台でさえなく、ただ否定するためにだけ存在しているように見えます。小池氏はいずれこの問題に対する自身の立場を表明するでしょう。その時、もしも小池氏が豊洲移転をやめて築地再整備を選んだとすれば、私たちは公共的利益という観点で判断できず、私怨を優先する「小池ファースト」の東京都知事をもつことになるのではないかと心配です。もしも小池氏が豊洲移転を選択すれば、小池氏は個人の感情を抑える理性をかろうじてもっていたといえかもしれません。
豊洲市場はすでに無害
5月18日に開催された豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議第6回会議では、傍聴者が会議途中で豊洲市場の「無害化」(地下水の水質を環境基準以下にする)について強引に発言し、平田座長が科学者としての厳密性から「すぐには環境基準以下にならない」と答えた言葉尻をとらえて会議を紛糾させ、休会にいたらしめました。会議の中継録画を改めて見てみると、この日の豊洲移転反対派の人たちは、会議の成立阻止を最初から考えていたようにさえ見えます。この日の専門家会議で承認されるはずの報告書は、前に書いたように、平田座長らが提案する方策を実施すれば、環境基準値以下を実現することが可能であること明らかにするものでした。

それにしても、この日の会議での豊洲移転反対派の行動は、私にとって驚きでした。いわゆる活動家が入りこんだ反原発運動や各地の住民運動でよくみられた光景と同じだったからです。あのとき、会場で発言していたのは、本当に仲卸の組合の方々だったのでしょうか。

市場問題プロジェクトチームの小島座長も「豊洲は無害化されていない」と主張しています。しかし、小島氏がそう考えるなら、同氏が提案している築地再整備案を安全なものにするには、豊洲以上の土壌汚染対策が必要になります。すなわち、まず敷地全体の土壌を深さ4.5m まで取り除き、その上で敷地全体の土壌汚染調査を10m間隔(約2300か所)で実施し、環境基準以上の汚染が発見されたら、その個所を10m×10m で掘削して汚染を取り除き、その後に敷地全体を清浄な土壌で埋め戻します。もちろん敷地は遮水壁で囲み、地下水管理システムも稼働させなくてはなりません。これに加えて何をすれば築地を無害化できるのか、小島氏は説明する必要があります。

豊洲市場はすでに安全で、事実上、無害化されています。土壌汚染対策に関しては、すでに専門家会議は安全であると結論を下しています。建物の構造設計や液状化対策の安全性は、市場問題プロジェクトチームの会議で確認されました。こうした科学的検討結果がなぜ無視されるのか、私には不可解です。
豊洲市場:科学が政治のプロパガンダに利用される危険性
築地市場111か所で行われた土壌汚染調査の結果、30か所から環境基準を上回る有害物質が検出されました。基準値の最大4.3倍の鉛、最大2.8倍のヒ素、1.8倍の水銀などです。これに関し、豊洲移転に反対する共産党の志位委員長は、テレビ取材に対して「築地は3倍くらい。豊洲の100倍とはまったく違う」と発言していました。今や科学のデータが政治の道具として誤って使われるという、きわめて憂慮すべき事態になっています。

それでは築地市場の環境基準値3倍と豊洲市場の100倍に、そんなに違いがあるのでしょうか。確かに、大きな違いがあります。

築地市場の方が豊洲市場よりはるかに危険です。

築地市場の土壌汚染調査は、深さ50cmまでのサンプルを採取して行われました。つまり、環境基準を上回る有害物質が検出されたのは、地表面に非常に近い場所です。一方、豊洲の水質調査結果のデータは地下10m あるいはそれ以深の地下水のものです。豊洲では地下4.5m までの土壌は入れ換えられていますから、この深さまで汚染物質はまったくありません。

調査を行った場所の約30%で有害物質が検出された以上、築地市場の地下には、汚染が広範囲に広がっていると考えなくてはいけません。老朽化で床コンクリートにひび割れが生じている場所もあり、築地市場ではこうした物質が地表に浸み出している可能性があります。特に水銀が心配です。働く人たちが気化した水銀に長期間さらされている危険性があります。

次に、環境基準値3倍と100倍という数値自体の違いを検討してみましょう。水道水の水質基準値は化学物質、金属など51項目が対象になっています。基準値は、私たちが1日に飲む水の量を2リットルとして、これを生涯にわたって(70年間)連続的に摂取をしても、人の健康に影響が生じない水準をもとに設定されています。

たとえば築地で基準値の2.8倍が検出されたヒ素について、計算をしてみましょう。ヒ素の基準値は1リットル中に0.001mg、すなわち0.000001g です。したがって築地の地下水には1リットル中に0.0000028g のヒ素が含まれていたことになります。この築地の地下水を1日に2リットル、25年間毎日飲み続けても健康に影響がでることはありません。これが基準値の100倍の水だとするとどうでしょう。1リットル中に含まれるヒ素の量は0.0001g です。この水を1日に2リットル、8年以上毎日飲み続けても健康に影響がでることはありません。地下水を飲料にも魚の洗浄にも用いない市場においては、どちらも現実にはありえない想定です。両者をくらべて一方だけが危険だというのは、まったく意味をなさないことがおわかりでしょう。。

ちなみに、私たちが日常的に食べている水産物の中には、高い濃度で有害物質を含むものもあります。例えば、ひじき1kg(乾燥質量)には約100mg のヒ素が含まれています。東京都は、ひじきを1週間に3回以上(1回に乾燥質量5g程度)食べなければ安全としています。逆にいえば、週に3回以上食べていると、健康影響がでる可能性があるわけです。また、マグロなどは豊洲で問題になっているレベルよりはるかに高い濃度の水銀(有機水銀)を含んでおり、日本生活協同組合連合会では、マグロなどを主菜とする食事は週に2回以内とすることを勧めています。市場では、こうした水産物も扱っているのです。

豊洲市場問題で、水質調査の結果を政治的プロパガンダに用いるべきではありません。しかし、豊洲移転に反対する人たちは測定結果を意図的に解釈して、科学的に根拠のない主張を行っており、さらに一部のメディアがそれを増長しています。科学技術立国をめざす日本として恥ずかしいことと私は考えています。
豊洲市場の地下水はいずれ環境基準値以下に
昨日開催された豊洲市場における土壌汚染対策等に関する第6回専門家会議は途中で休会となってしまいましたが、前回および今回発表されたデータ、平田健正座長はじめとする専門家のコメントから、次のことが明らかになりました。

豊洲市場の地下にわずかに残っている汚染物質は、地下水管理システムの運転によっていずれ除去され、水質は環境基準値以下に収まるということです。

豊洲市場では現在、いくつかの地点で高濃度のデータが検出されていますが、これは昨年10月から運転を開始した地下水管理システムによって、豊洲市場の下の地下水に流動が生じ、完全には除去されていなかった汚染物質や汚染水が移動をはじめたためと考えられます。地下水が流動していることは、前回発表された地下水位の等高線によって明らかになりました。地下水位が下がるにしたがって、水位の高低差が生じています。水が流れやすい場所と流れにくい場所があるためです。地下水は水位の高いところから低いところへと移動するため、結果として豊洲市場下では水位の上下方向の変化に加え、水平方向の地下水流動が広がっているのです。

豊洲市場の工事にあたっては、東京ガス工場操業時の地面から深さ2mまでの土壌を全部入れ替えました。その上に2.5mの盛り土をしています。工場操業時の地面から2m以深の土壌に関しては、敷地内を10m×10mのメッシュで区切り、全4122地点の汚染調査を行いました。ボーリング調査で地下に汚染物質が見つかった場所は10m×10mの土壌を掘削し、汚染物質を取り除いています。また汚染水が発見された場合はそれを汲み上げ、清浄な水と交換しています。これで土壌汚染対策はほぼ完全に行われたわけですが、ボーリング調査でひっかからなかった場所、およびボーリングが不透水層にまで達していなかった場所では、汚染物質が除去できなかった可能性があります。つまり、現在の地面の4.5mより深いところに、非常にわずかではあるものの汚染物質が残っていると考えられるわけです。

豊洲市場の地下は遮水壁で隔離されているため、外から地下水が流れこむことはありません。雨水が地下に浸透するため、地下水位を目標のAP+1.8mに維持するために地下水管理システムで汲み上げるわけですが、このとき、汚染物質を含む地下水も汲み上げられていきます。すなわち、長期的にみれば、地面から浸透する雨水と地下から水を汲み上げる地下水管理システムによって、わずかに残留していた汚染物質は洗い流されていくことになるのです。ただし、地下水の移動速度は1か月に数10cmといわれていますので、このプロセスには多少の時間がかかります。

注意すべきは、専門家会議で議論しているこうした問題は、豊洲市場の地下4.5m以深の層に関するものであり、地上が安全であることは言うまでもありません。専門家会議はさらに、地下空間の底に関して、ベンゼンなどが気体で上昇してこない対策も提案しています。こうした専門家会議によるデータ解析および提案をみていると、日本の環境汚染計測・除去技術が世界で最高水準にあることがわかります。

今回の専門家会議が休会になってしまった経緯を振り返ると、データをすべて公開し、市場関係者とオープンな議論を行うという平田座長の理念がもはや実現不能になってしまったことがわかります。1つの方向性をもつ政治的な発言が会場から続き、科学的な議論が中断させられたのは非常に残念です。豊洲問題はもはや科学的に安全性を検討することはできず、まったくの政治問題になってしまったということでしょうか。いずれにしても、平田座長の真摯な態度には敬服します。
イルカをめぐる世界の動きをどう考えるか
日本動物園水族館協会(JAZA)が和歌山県太地町からイルカを入手しないことを決定したニュースは、即座に世界中のイルカ保護団体のウェブサイトで取り上げられました。「JAZA の決定はイルカの追い込み漁をなくすための大きな前進」というのが、世界の論調です。下のように、これを”Huge Win”(大いなる勝利)とするサイトさえあります。JAZA は世界に誤ったメッセージを与えてしまいました。

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WAZA からの要請は、「太地町の追い込み漁で捕獲したイルカを日本の水族館が入手しないように」というものであり、日本の水産業としての追い込み漁の禁止を要請しているものではありません。つまり、背景に追い込み漁そのものの問題はあるものの、日本の水族館が追い込み漁で捕獲されたイルカを入手することがWAZA の倫理規定に反していることを主張してきただけなのです。WAZA は原則としてすべての野生生物について、保護すべき状態にある場合を除いて捕獲を認めていませんから、WAZA の要請はある意味、当然です。

しかしながら、JAZA は太地町からのイルカの入手に最後まで固執し、「追い込み漁のどこが残酷なのか」とWAZA と議論することにより、結果として、この問題を追い込み漁そのものの是非へと戦場を広げてしまいました。そのため、世界の反捕鯨団体に付け入るすきを与えてしまったのです。

太地町のイルカ漁をめぐる世界の構図は複雑で、一元的なものの見方は禁物です。シーシェパードの主張とキャロライン・ケネディ駐日大使のツイッターを同次元で論ずべきではありません。シーシェパードのような過激な行動をとる団体は、反イルカ漁や反捕鯨をビジネスにしているといってよいでしょう。彼らが活動を止めることはなく、その活動の背景には何らかの形で大口のスポンサーが存在しています。また、「イルカは知能が高い」と本気で信じて、イルカ漁に反対している団体もあります。動物はみな高い知能をもっており、イルカだけが知能が高いと考えるのは間違いです。これらの人たちと議論をすることは不可能です。

一方、世界の多くの人たちとは、イルカ漁が伝統的な食文化にもとづくものであることを話し合うことは可能であり、むしろ積極的に議論をすべきと私は考えています。多くの場合、相手を説得することはできないでしょう。しかし、自らの意見を主張するだけでなく、相手の価値観にも理解を示し、いつも的確なメッセージを発信していることが、世界を相手にする際には非常に大事なのです。
21世紀の水族館:イルカショーはそろそろ止めるべき
日本動物園水族館協会(JAZA)は、「太地町からのイルカの入手を止めるべき」という世界動物園水族館協会(WAZA)の勧告を受け入れました。これによって、日本の水族館は今後イルカを入手するのが難しくなり、イルカショーができなくなる施設もでてくると思われます。

今回のJAZA の決定に関しては、太地町の追い込み漁が話題になっていますが、この問題とは別に、日本の水族館でのイルカ展示やイルカショー自体について考えてみるべきです。イルカショーは水族館の集客に大きな役割を果たしていますが、21世紀の水族館が目指す方向からすれば、そろそろ止めることを考える時期にきています。

動物園や水族館は、かつては捕獲してきた野生生物をおりや水槽に入れて展示する「レジャー施設」でした。動物は「見世物」だったわけです。しかし1990年代からは、絶滅の危機に瀕した生物の保護や種の保存、さらには生物多様性の保全が動物園や水族館の重要な役割であることが、世界の共通認識になっています。これとともに、展示される動物を野生から捕獲することは行わず、飼育下の動物を繁殖させることが原則になりました。もちろんJAZA も、こうした目標実現のための戦略を進めています。

さらに、動物にストレスや苦痛を与えない「動物福祉」の観点から、彼らが野生で暮らしていた環境にできるだけ近く、十分な広さをもつ場所での飼育や展示が重要視されています。私は以前、ある地方都市の公園で、大型のヒョウがコンテナほどの大きさのおりに入れられて展示されているのをみてショックを受けたことがあります。JAZA に加入している動物園は89とのことですが、全国にはJAZA に加盟していない「動物園」が160以上あり、今でもこうした劣悪な環境で動物を展示している施設もあると指摘されています。

話をイルカに戻すと、太地町から野生のイルカを入手することは、上にのべたような世界の動物園や水族館が守っている原則からして問題があったのです。今回、WAZA は1か月の猶予を与えてJAZA に決断を迫るという最終手段をとりましたが、この問題はすでに何年も前から指摘されていました。「海外の反捕鯨団体からの圧力」に、問題を矮小化させてしまうのは間違っています。

そもそも各水族館が太地町からのイルカを必要とするのはイルカショーのためですが、野生のときにはしない行動をイルカにさせるのは、動物福祉の点から問題です。また、「教育」や「研究」といった水族館の役割とも無縁です。私は個人的には、イルカショーは「イルカは可愛い」「イルカは知能が高い」といった、イルカを特別視する誤った概念を子供たちに与えてしまうと思っています。

日本の動物園や水族館は、一部の大きな施設を除けば、世界の動向から切り離された環境で運営されてきました、しかし、地球環境は野生生物にとってどんどん厳しいものになっており、それにともない世界も動いています。私は反捕鯨団体や動物愛護団体の主張に同調するものではありませんが、今回の件は、動物園や水族館で展示される動物について考えてみる良い機会だと思います。
両生類を大量絶滅させるカエルツボカビ
Bd and global amphibian mass extinction

世界各地のカエルが絶滅の危機に瀕したり、個体数を大幅に減らしたりしています。例えは、コスタリカの森に生息し、「王冠の宝石」とよばれていたオレンジヒキガエルは、1989年に確認されたのを最後に姿を消し、2004年に絶滅種となりました。

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人間による開発や水質汚染、地球温暖化による環境変化などに加え、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)とよばれる真菌(カビ)が、絶滅や個体数激減の大きな原因となっています。カエルツボカビは国際自然保護連合(IUCN)によって世界ワースト100 外来種の1つにあげられています。感染したカエルの致死率は90%に達します。

『サイエンス』誌の10月18日号に、このカエルツボカビに関する興味深い論文が載っていました。カエルツボカビは両生類の免疫系をかいくぐって侵入します。アメリカ、ヴァンダーヴィルト大学生物科学部門のLouise Rollins-Smithらは、カエルツボカビが両生類の皮膚に侵入すると、マクロファージや好中球による攻撃は行われるものの、免疫系の主力部隊といえるT細胞やB細胞が活性化されないことがわかりました。これはカエルツボカビがリンパ球の増殖を抑制し、最終的にはアポトーシス(細胞死)を起こさせる物質をもっていることを示しています。

この物質が何かは、まだ突き止められていませんが、Rollins-Smithらはカエルツボカビの細胞壁に存在している物質ではないかと考えています。というのは、この菌の細胞壁ができていない遊走子とよばれる初期の段階では、リンパ球を抑制する働きがないからです。

カエルツボカビは1998年にはじめて報告されました。もともとアフリカツメガエルの中で保持されていた真菌のようです。アフリカツメガエルは1970年代に生物実験用などで輸出されるようになり、それにともない、カエルツビカビも世界各地に広がったと考えられています。カエルツボカビはカエルの皮膚の角質層に寄生し、増殖します。アフリカツメガエルやウシガエルに感染しても症状を起こしませんが、他の多くのカエルでは、感染すると皮膚の細胞が破壊されて皮膚呼吸や浸透圧調節ができなくなり、さらに菌の出す毒素によって免疫力を失い、死んでしまいます。

カエルツボカビはカエルの皮膚に遊走子嚢というものをつくります。この中の遊走子が成熟すると、たくさんの遊走子が放出されます。遊走子は鞭毛をもっており、水中を泳いで、他のカエルに侵入します。遊走子は水中だけでなく、土壌中でも長期間生存が可能で、感染力が強いのが特徴です。

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The world of frogs

日本では2006年に、輸入されたペットのカエルからはじめて感染の報告がありました。感染したカエルを発見した場合、カエルツボカビを環境中に放出しないよう注意が必要です。カエルツボカビはカエルだけでなく、サンショウウオやサラマンダー、アホロートルなどの有尾類にも感染します。

『ナイチャー』誌の2006年1月12日号には、カエルツボカビと地球温暖化の関係についての、コスタリカのオレンジヒキガエル保護研究所らのグループによる論文が載っています。生物には生息に適した気温があり、至適温度とよばれます。カエルツボカビは17〜25度Cで生育し、至適温度は23度Cといわれています。この論文では、カエルが生息していた山岳地帯の気温が温暖化によってカエルツボカビの至適温度へと移行していることが、カエルの大量絶滅の原因としており、気候変動が生物多様性にとって脅威となっていると報告しています。
共進化の秘密:一夜だけ花開く新種のラン
ラン(蘭)は最も成功した植物の仲間の1つに数えられるでしょう。現在、世界で2万種以上のランが知られています。ランの成功は、受粉を媒介する昆虫や菌根をつくる菌類との巧みな共進化の産物です。そこにはまだ私たちが知らない進化の秘密が秘められているにちがいありません。昨年11月に記載されたランの新種 Bulbophyllun nocturnum を知ったとき、私はあらためてそう思いました。

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野生のランが最も多く分布しているのはエクアドルで約3700種。2番目はニューギニア島で、約3000種といわれています。Bulbophyllun nocturnum はそのニューギニアのニューブリテン島から、オランダ、ライデン大学の研究者de Vogel が研究のために持ち帰ったランでした。ライデン大学植物園で栽培していたのですが、つぼみはつくものの、花はいつもしぼんでしまいます。ある夜、このランを自宅に持ち帰ったde Vogel は、このランが夜だけ、しかも一夜だけしか花を咲かせないことを発見しました。

de Vogel は英国王立植物園のShuiteman らとともにリンネ協会のジャーナルに新種を記載する論文を発表しました。この論文によると、de Vogel らは何度も観察しましたが、すべての花が「夜10時ごろになると開き、朝10時ごろになると閉じてしまった」とのことです。

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花が夜しか開かないのですから、受粉を媒介する昆虫も夜行性なのでしょう。しかし、どのような昆虫が受粉を媒介しているのか、なぜ一晩という短い期間に花が開くだけでいいのか、どのようなメカニズムによって昆虫は花に引きつけられるのかといったことに関してはよくわかっていません。熱帯雨林の奥地に咲く花であり、現地での観察が非常に困難だからです。

論文でも触れられていますが、熱帯の夜に花開くランが、11月のライデンという高緯度の冬の時期にも、正確に花を開かせる時刻を知っていた仕組みもなぞのままです。

Bulbophyllun nocturnum について、Shuiteman は以下のように語っています。「これは今でも驚くべき発見があるという好例である。しかし、熱帯の原始林から新しい種を見つけるという仕事は、時間とのたたかいでもある。そうした森林はどんどん消えつつあるのだから」。
アマゾン地域で多数の新種発見
アマゾンで10年間(1999〜2009年)にわたって行われた生物調査の報告書がWWW インターナショナルから発表されています。”AMAZON ALIVE!” と題されたこの報告書によると、この期間に1200種以上の植物と脊椎動物の新種が発見されました。この数は、同じ期間にボルネオ、コンゴ、東ヒマラヤなど生物多様性に富む地球上の他の地域で発見された新種の数の合計を上回るものだそうです。

発見された種は、植物が637種、魚類が257種、両生類が216種、爬虫類が55種、鳥類が16種、哺乳類が39種となっています。この他、数千種類の無脊椎動物も発見されています。

下の写真の左は、きわめて美しい色彩をもったカエル Ranitomeya amazonica 、右はモウセンゴケの仲間 Drosera amazonica です。

左:Lars K/WWF 右:Andreas Fleischmann/WWF

報告書によると、新たに発見された多くの種はアマゾン地域の固有種ないし非常に稀な種であり、この地域の生態系保全の必要性を強く示唆するものです。アマゾンは地球最大の熱帯雨林地帯で、これまで記載された生物種の1割がここに生息しているといわれています。過去50年間にその17%が失われました。現在の面積は約670万平方km です。

アマゾンの森林破壊の主な要因は、食肉、大豆、バイオ燃料のための森林伐採、持続的成長を考えない開発計画などです。今後は地球温暖化にともなう気候変動も大きな脅威になる可能性があります。
ネモフィラの丘
茨城県の阿字ケ浦海岸は、私が子供のころ、夏になると毎年のように訪れていた場所です。海岸のずっと北を見ると、そこには太平洋の波がはげしく打ちつける黒い桟橋があり、私はいつも、その向こうには何があるのだろうと思っていたものでした。

その向こう側は、かつては旧日本陸軍の水戸飛行場であり、戦後はアメリカ軍の対地射爆撃場として利用されていました。しかし、今は、国営ひたち海浜公園となり、海をのぞむみはらしの丘は、450万本のネモフィラによって一面が青く染められています。

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ネモフィラはハゼリソウ科の1年草で、みはらしの丘に植えられているのは淡い青の花をつけるインシグニスブルーです。

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土地の古い人に聞けば、ここに飛行場があったことや、長い間、一般人が立ち入ることができない場所であったことを教えてくれますが、ほとんどの来園者はそのようなことに気づかないほど、ここには穏やかな風景がひろがっています。しかし、同公園の歴史をみてみると、この場所が日本に返還されてから、公園が開園し、次第に施設が拡張されて今の姿になるまでにはずいぶん時間がかかったようです。

戦争の記憶が残る土地を、美しい花が咲く公園にするためには関係者の多くの努力があったことでしょう。射爆の標的となっていたまさにその場所には建設発生土が盛られて、みはらしの丘がつくられました。その一番高い場所には、平和への願いをこめたみはらしの鐘が立っています。
冬の貴婦人
池袋のサンシャイン60で、「クリスマスローズの世界展」を見てきました。花の少ない冬季に美しい姿を見せてくれるところから「冬の貴婦人」ともよばれるクリスマスローズには、日本にも多くの愛好家がいます。花弁に見えるのは実はがく片なのだそうで、本来の花弁は退化し、中央部分に小さな蜜腺となって集まっています。

クリスマスローズの色や模様、形は多彩ですが、現在も新しい品種が開発されています。会場には、クリスマスローズの育種で有名なイギリスのアシュウッド・ナーセリーのコーナーがありました。ここに展示されていたレッドネオンという品種は、さすがに素晴らしいものでした。

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クリスマスローズはキンポウゲ科の花で、その原種は20種。バルカン半島を中心に広くヨーロッパに自生しているそうです。会場にはその原種がいくつか展示されていました。左から、アトロルーベンス、オドルス、ニゲル、プルプラスケンスです。

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形や色は素朴ですが、こうした原種を交配していくと、華やかな品種が生まれてくるのですから、あらためて遺伝子の不思議さを感じないわけにはいきません。
危機に瀕する霊長類
『Primates in Peril:The World’s 25 Most Endangered Primates(危機に瀕する霊長類:世界の最も危機に瀕する霊長類トップ25)』の2008−2010年版が発表されたというプレスリリースが、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンから送られてきました。

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この報告書の中では、マダガスカルの5 種、アフリカの6 種、アジアの11 種、中南米の3 種が、世界で最も危機に瀕している霊長類として上げられています。特に危機の度合いが高いのは、ベトナム北東部のトンキン湾に浮かぶ島にのみ生息するゴールデン・ヘデッド・ラングールで、個体数はわずか60から70頭しか残っていないとのことです。また、マダガスカルのスポーティブ・レムールは100 頭以下、ベトナム北東部に生息するイースタン・ブラック・クレステッド・ギボンは、110 頭しか残っていません。

世界には634 種の霊長類がいるそうですが、そのうち半分近い種がIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに絶滅危惧種としてリストアップされています。危機の原因となっているのは、熱帯林の燃焼や伐採による生息地の破壊、ブッシュミート(野生生物を食料とする狩猟)、違法な野生生物取引です。

この報告書は、IUCN 種の保存委員会(SSC)、国際霊長類学会(IPS)、コンサベーション・インターナショナル(CI)の協力により作成されました。
神の庭に咲く花々
WWF(世界自然保護基金)が1998年から2008年の10年間をかけて行った東ヒマラヤ地域の調査レポートが、さきごろ発表されました。調査されたのはネパール、ブータン、中国(チベット自治区)、インド北部にまたがる広大な地域で、レポートのタイトルに ”Where Worlds Collide” とあるように、いくつものことなる生態系が境を接する生物多様性の宝庫です。もちろん、この “Collide” には、ヒマラヤ山脈がインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突によって形成されたという意味もこめられています。

レポートによると、今回の調査で353の新種の生物が発見されました。その中には、よく発達した後肢の幕を使って空を飛ぶことのできる珍しいカエルもおり、報道ではこの空飛ぶカエルがクローズアップされていましたが、私は242種の新種の植物の中に含まれていた美しい花々に興味をひかれました。

Impatiens namchabarwensis はチベットで発見されたホウセンカの仲間です。人跡未踏の地を100kmも奥に入ったことにある深い峡谷で発見されました。ウルトラマリンの花弁をもつこの花は1年中咲いており、気温と湿度によって色が変わります。寒いときは青色ですが、気温が上昇すると紫色に変わるとのことです。学名はこの花が見つかった峡谷の名からつけられました。Meconopsis tibetica はチベットで発見されたケシの仲間です。深紅の花弁の中心には黄色いおしべがリング状にならんでいます。

WWF東ヒマラヤ調査
左:Impatiens namchabarwensis(Elayne Takemoto/WWF Nepal)、真中:花弁が紫色になったImpatiens namchabarwensis(Elayne Takemoto/WWF Nepal)、右:Meconopsis tibetica(Margaret Thorne/WWF Nepal)

インドのシッキム州ではランの仲間が発見されました。シッキムは「インドラ(ヒンドゥーの神)の庭」という意味の地名でもよばれるそうですが、Coelogyne pantlingiiCalanthe yuksomnensis は神の場所にふさわしい純白のランです。Liparis dongchenii は黄色のランで、1本の枝に多くの花をつけています。

WWF
左:Coelogyne pantlingii(Sudhizong Lucksom/WWF Nepal)、真中:Calanthe yuksomnensis(Sudhizong Lucksom/WWF Nepal)、右:Liparis dongchenii(Sudhizong Lucksom/WWF Nepal)

東ヒマラヤに限らず、まだ私たちが知らない花が咲いている場所はたくさんあるはずです。しかし、その場所の自然が失われれば、それらの花は私たちが一度も見ることのないうちに、地上から姿を消してしまいます。

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