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ヒッグス粒子、ついに発見か
Higgs boson:Preliminary but consistent

CERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)はヒッグス粒子とみられる新しい粒子を、LHC(ラージ・ハドロン・コライダー:大型ハドロン衝突型加速器)での実験で発見したと発表しました。LHC でのヒッグス粒子探索は、アトラス(ATLAS)とCMS という2つの大型実験装置で行われてきました。日本の研究チームはアトラス実験に参加しています。

昨年12月13日の発表では、「ヒッグス粒子が存在するとすれば、その質量はアトラス実験によれば116〜130ギガ電子ボルト、CMS 実験によれば115〜127ギガ電子ボルトの範囲内にまでしぼりこまれた」というものでした。2012年途中までの実験結果を含めた今回の発表では、質量は125〜126GeV で、「5σ」(5シグマ)に達したと報告されています。物理学の世界ではデータの間違いの確率が0.00001%以下にならないと「発見」とはみなされず、これを5σ とよんでいます。

下の図は、アトラス実験での2011年および2012年途中までの結果です。黒い実線が、質量125〜126GeV のあたりで5σ に達しているのがわかります。

120704_01

ヒッグス粒子は生成しても、すぐに壊れてしまいます。しかし、そのときの壊れ方で、ヒッグス粒子の存在を確認することができます。下は、アトラス検出器で2012年6月10日に得られた、ヒッグス粒子が生成したと考えられるイベントの画像です。このイベントでは、衝突で生成したヒッグス粒子は4個のミューオン(赤い線)に崩壊しています。

120704_02

CERN の発表は慎重に、「ヒッグス粒子とみられる粒子」と表現しています。2012年の実験データの解析作業はまだ残っています。ヒッグス粒子の発見はほぼ確実ですが、これを最終的に報告するまでには、もう少しかかりそうです。
オームの法則は原子レベルのスケールでも成立
半導体の加工技術は1ナノメートルのオーダー、すなわち原子サイズのスケールにまで達しつつあります。このサイズにまでなると、自由電子の移動が妨げられて抵抗が増加するため、電子回路の基礎であるオームの法則が成り立たないと考えられてきました。ところが、『サイエンス』誌の1月6日号に、「オームの法則は原子レベルのスケールでも成立」という論文が発表されており、読んでみました。

オーストラリア、ニューサウスウエールズ大学量子計算および通信技術センターの研究者らは、シリコン結晶中にリン化水素をドーピングし、幅がリン原子4個分(1.5ナノメートル)、厚さがリン原子1層分(0.4ナノメートル)の「電線」を作成することに成功しました。これに電流を流したところ、抵抗値は1cm あたり約0.3ミリオームときわめて低く、電流密度は銅線と同等だったとのことです。原子レベルのスケールでも抵抗値の低い電線を作成することが可能であることは、現在の半導体回路を原子レベルにまで微細化する際にも、また量子コンピューターなどで用いる量子回路の開発にも有効であると、著者らは述べています。

作成した5本の電線について、その長さと抵抗値を計ってプロットしてみたところ、データは直線状に並び、このサイズの電線でもオームの法則が成り立っていたと、論文では報告しています。

この論文の意義は、原子レベルのスケールでも実用的な回路作成が可能になったという点にあるのでしょう。それを、タイトルを「オームの法則は原子レベルのスケールでも成立」として、『サイエンス』の編集者や読者に「おやっ? 読んでみよう」という気にさせたあたりに、「論文投稿のこつを心得ているな」という印象をもたせる論文でした。
CERN:ヒッグス粒子の探索に大きな進展
CERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)は12月13日、LHC(ラージ・ハドロン・コライダー:大型ハドロン衝突型加速器)で行われているヒッグス粒子の探索に関する最新成果を発表しました。LHC ではアトラス(ATLAS)とCMS という2つの大型実験装置でヒッグス粒子の探索が行われています。アトラス実験には日本の研究チームも参加しています。

ATLAS

今回の発表は、「ヒッグス粒子が存在するという結論を下すことはまだできないが、もしも存在するとすれば、その質量はアトラス実験によれば116〜130ギガ電子ボルト、CMS 実験によれば115〜127ギガ電子ボルトの範囲内にまでしぼりこまれた」というものです。

ヒッグス粒子は質量の起源と考えられている粒子で、1960年代にイギリスのヒッグスによって提唱されました。以来、世界の物理学者はこの粒子の探索を続けてきましたが、まだ発見されていません。ヒッグス粒子の質量が大きいため、これまでの加速器ではエネルギーが足りなかったのです。

LHC は陽子と陽子を衝突させる加速器です。陽子を加速させる地下100m のトンネルは円周が27km あり、その大きさはJR の山手線に匹敵します。2009年に本格稼働を開始し、2010年からは7テラ電子ボルトという世界最高エネルギーでの実験を続けてきました。今年の8月には、ヒッグス粒子の質量の範囲を115〜141ギガ電子ボルトまたは467ギガ電子ボルト以上と予想するところにまできていました。

20世紀の素粒子物理学がつくりあげた標準理論によれば、物質はクォークとレプトンからできています。クォークにはアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの6種類があり、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個からなっています。レプトンは電子やニュートリノの仲間で、これも6種類あります。これらの粒子の間ではたらく力には「強い力」「電磁力」「弱い力」「重力」の4種類があります。それぞれの力を媒介して粒子は、強い力がグルーオン、電磁力が光子(γ)、弱い力がウィークボゾン(W、Z)、重力を伝えるのが重力子(g)です。標準理論では、宇宙に「ヒッグス場」があまねく存在し、これにクォークやレプトン、ウィークボゾンなどが反応して質量をもつと考えます。ヒッグス場をつくっているのがヒッグス粒子です。

Higgs_boson

今回の発表によれば、ヒッグス粒子の質量は125ギガ電子ボルトあたりが有望のようです。LHC は2012年も7テラ電子ボルトでの運転を行う予定です。そこでさらにデータを集め、解析しなければ、最終的な結論にはいたらないようですが、2012年前半には結果が明らかにあるという観測が有力です。

ヒッグス粒子の存在が確認されれば、物質を構成している粒子とその間にはたらく力を説明した標準理論の正しさが証明されます。そして標準理論を超えた新たな物理学への道が切り開かれていくでしょう。私たちが観測することのできる物質は、全宇宙の質量のわずか4%しかありません。残りの23%はダークマタ―、73%はダークエネルギーです。つまり、標準理論では宇宙の96%は説明できないのです。ヒッグス粒子も、今問題になっているのは「標準理論のヒッグス粒子」であって、標準理論を超えた理論の中で、ヒッグス粒子は別の姿をとるという考えもあります。もしもヒッグス粒子が存在しないことがわかれば、それはそれで、新たな理論をつくらなくてはなりません。

2014年には、LHC は当初からの目標である14テラ電子ボルトという未踏のエネルギーを実現し、21世紀の新しい物理学を打ち建てるための実験を開始します。ヒッグス粒子の存在確認は、LHC での実験がこうしたゴールにいたるための、きわめて重要なステップなのです。
ポップアップ絵本で学ぶATLAS 実験
Papadakis 社の ”Voyage to the Heart of Matter” は、CERN のATLAS 実験を解説した、とてもよくできているポップアップ絵本です。

papadakis

加速器での素粒子実験を理解することは、子供にとっても大人にとってもなかなか難しいものですが、この絵本ではそれを楽しみながら勉強することができます。素粒子物理学の基礎や実験装置のディテールについてもていねいに説明されています。

ポップアップはかなりダイナミックです。下はATLAS が地下100メートルに設置されていることを説明しているページです。

ATLAS

下はATLAS の検出器自体を説明しているページです。ここでは中心部の飛跡検出器とカロリメーターの部分は別途自分でつくらなければなりません(内部に隠れて見えなくなってしまうのですが)。全体を組み立てるにはセロハンテープを使うなど、少し工夫が必要ですが、組み立てているうちに、ATLAS がどんな構造になっているかがわかってきます。

ATLAS

下は、ATLAS での実験は宇宙のはじまりに迫るものであることを説明しているページです。ビッグバンから現在まで、137億年の宇宙の歴史を知ることができます。

ATLAS

素粒子物理学の最先端の研究がこうした絵本になるのは、とても有り難いことです。絵本とはいいながら、細部まで配慮が生き届いており、教材としても十分使うことができると思いました。
世界最高エネルギーでの素粒子実験
New_Year_2011

2011年も、科学の世界ではいろいろなことが起こるでしょう。その中で、私が期待している大ニュースの1つは、ヒッグス粒子の発見です。

私たちの世界をつくっている物質がどのような素粒子でつくられており、そこにどんな力がはたらいているかは、標準理論によって説明されています。しかし、この標準理論では、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の存在が予想されていますが、これだけはまだ発見されていません。

現在、CERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)では7TeV(7兆電子ボルト)という世界最高衝突エネルギーでの実験が行われており、日本も参加しているATLAS 実験では、20世紀からもちこされた宿題であるこのヒッグス粒子の発見が当面の目標となっています。ヒッグス粒子はこれまでのATLAS 実験で生成されている可能性もありますが、バックグラウンド(既知の現象)が多いため、まだ見つかっていません。しかし、今年の実験でデータを集積し、解析することによって、その存在を確認できるのではないかと期待されています。ATLAS でヒッグス粒子が生成したイベントのシミュレーション例の画像を使って、上のニュー・イヤー・カードをつくってみました。

標準理論で説明できる、私たちが知っている「物質」というものは、宇宙のわずか4%でしかありません。その他のダークマターやダークエネルギーというものについて、私たちはまだ何も知りません。ヒッグス粒子を発見し、標準モデルを完成させた先には、ダークマターの有力候補といわれる超対称性粒子、さらには余剰次元やミニブラックホールといった、標準理論に枠を超えた新しい物理学の世界が広がっています。
世界初の量子機械
『サイエンス』誌の今年のブレイクスルー・オブ・ザ・イヤーに「世界初の量子機械」が選ばれました。この量子機械はカリフォルニア大学サンタバーバラ校のアンドリュー・クリーランドとジョン・マーティニスによってつくられた、きわめて小さな振動子です。

quantum_machine

クリーランドらはこの振動子を基底状態まで冷却し、単一の量子でエネルギーを励起しました。すると、この振動子は「小さく、同時に大きく」という量子論にしたがう振動をしたとのことです。つまりこの振動子は同時に2つの状態を実現したわけです。このような一見奇妙な振る舞いをする機械は、将来、量子論的世界での現象をコントロールする技術につながる可能性があります。『サイエンス』誌はこうした大きな将来性を評価し、2010年の最も重要な科学的進歩としたものです。
インフレーション宇宙論の未来
佐藤勝彦著『インフレーション宇宙論』(講談社ブルーバックス)を読みました。佐藤先生はこれまでインフレーション宇宙論の著書を何冊も書いていますが、「はじめに」で書かれているように、インフレーション宇宙論を書名に掲げたものは、本書が最初です。インフレーション理論について、一般読者にも理解できるよう、きわめて平易に書かれています。

佐藤先生とアラン・グースがほとんど同時期に独立にインフレーション理論を提唱したのは1980年代のはじめでした。1989年に打ち上げられたCOBE(宇宙背景放射探査機)は、宇宙誕生から30万〜40万年後、宇宙の晴れ上がり直後の宇宙のむら(電波のゆらぎ)を観測しました。1992年に発表されたこの観測結果はインフレーション理論が予測したものと同じであり、インフレーション理論の正しさが裏付けられました。ジョン・マザーとジョージ・スムートは、COBEによる宇宙背景放射の研究により2006年度ノーベル物理学賞を受賞しています。

2001年に打ち上げられたWMAP(ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機)はCOBEよりもはるかに高い空間分解能で観測を行い、COBEの観測結果を補強しました。WMAPの観測によって、宇宙の初期にインフレーションという現象が起こったことが、誰もが認める形で実証されたといってよいでしょう。

佐藤先生にはこれまで何回もインフレーション理論についてお話をうかがったことがありますが、WMAP以後は、インフレーション理論の未来について話されることが多くなったように思われます。『インフレーション宇宙論』でも、後半はダークマターやダークエネルギーなどの新しい謎にはじまり、宇宙の未来、マルチユニバース、さらには「人間原理」まで話が及び、最後のページまで飽きることはありませんでした。インフレーション理論に関する知識を自分の頭の中でもう一度整理してみるためにも、とても役立つ本です。
LHC での衝突実験はじまる
3月30日13時06分(現地時間)、CERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で衝突実験がスタートしました。「今日は素粒子物理学者にとって素晴らしい日だ」というロルフ・ホイヤー所長の言葉のとおり、これは世界中の多くの科学者にとって、待ちに待った瞬間でした。

LHC は、2000年に実験を終了したLEP(電子陽電子衝突型加速器)の全周約27km、地下100mのトンネルを使用し、超伝導磁石を用いた陽子と陽子を正面衝突させる加速器に改造した装置です。2008年に完成し、9月10日に運転を開始しましたが、同月19日にヘリウム漏えい事故が起こり、運転が再開されたのは2009年11月20日のことでした。同年11月30日には、アメリカのテバトロンがもっていた0.98TeV(テラ・エレクトロン・ボルト)という世界最高エネルギーを更新する1.18TeV が得られました。今年に入って、3月19日に2本の陽子ビームを3.5TeV まで加速することに成功し、30日に、このビームを正面衝突させる7Tev(3.5TeV+3.5TeV)での実験がスタートしたというわけです。

KEK(高エネルギー加速器研究機構)や東京大学ICEPP(素粒子物理国際研究センター)など日本の研究機関は、LHC の2つの大型汎用測定器のうちの1つであるATLAS での実験に参加しています。ATLAS は直径25m、長さ44m、重量約7000tの巨大な測定装置です。

atlas_black

下の写真は建設中のATLAS 測定器です。作業員と比較すると、その巨大さがわかります。

atlas

下の画像は30日にATLAS で観測された陽子衝突現象です。

7tev_event

LHC はこれから18〜24か月間、このエネルギーで連続運転をします。その後、1年ほどの休止期間に入り、その間に2008年9月に起きた事故に関する最後の修理と、最終目標である14TeV(7TeV+7TeV)での運転のための準備を行うことになっています。

LHC での実験の当面の目標は、ヒッグス粒子の検出です。標準理論によれば、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の存在が予言されていますが、これまで見つかっていません。もしもヒッグス粒子の質量が160GeV 付近にあれば、7TeV での実験期間中に発見できるとされています。この実験期間中に超対称性粒子を発見できる可能性もあります。超対称性粒子は宇宙の質量の4分の1を占めるダークマターの有力候補です。

LHC で実験を行うエネルギー領域は、ビッグバン後1兆分の1の状態に相当するといわれています。人類がはじめて足を踏み入れたこの領域で、20世紀の物理学が到達した標準理論は最終的に検証され、標準理論を超えた21世紀の物理学が生み出されていくことになります。
114番目の元素と「安定の島」
アメリカのローレンス・バークレー国立研究所の研究者によって114番目の元素の存在が確認されました。

原子番号92のウランまでの元素は天然に存在しますが、超ウラン元素、すなわち93番目からの元素は人工的につくらなければなりません。『理科年表』(丸善)には118番目までの元素が掲載されています(ただし117番目は未発見)。しかしながら、その存在が確認され、元素としての名前がつけられているのは111番目のレントゲニウムまでで、学校の理科の教科書の周期律表でもここまでが記載されています。

112番目からの元素には暫定的な名前がつけられています。112番目の元素にはコペルニクスにちなんで「コペルシウム」と命名する案があるようです。113番目の元素は、日本の理化学研究所でつくられており、その存在が確認されれば、日本に命名権が与えられそうです。

114番目の元素は、10年前にロシアのドゥブナ合同原子核研究所で発見の報告があったものです。超ウラン元素をつくるには、原子同士を加速器で衝突させなくてはなりません。ローレンス・バークレー国立研究所ではカルシウム48をサイクロトロンで加速し、ターゲットであるプルトニウム242に衝突させました。その結果、114番目の元素2個(質量数286と287の同位体1個ずつ)をつくることに成功しました。これらの元素の崩壊モード、寿命、発生するエネルギーなどはドゥブナの報告を追認するものであり、114番目の元素の存在が確かめられたとのことです。

この114番目の元素には特別な意味があります。超ウラン元素は寿命が非常に短いものが多く、人工的につくっても、すぐに崩壊してしまいます。しかしながら、ある種の元素はより安定であると予想されており、その1つが114番目の元素なのです。ローレンス・バークレー国立研究所でつくられた2個の寿命は、質量数286の方は10分の1秒ほどでしたが、質量数287の方は2分の1秒程度ありました。

安定な超ウラン元素は、不安定な海に浮かぶ「安定の島」にたとえられます。これまでもある程度寿命の長い元素がとびとびに発見されてきましたが、114番目の元素と、その先には、より大きな「安定の島」が存在するかもしれないと、研究者は考えています。下の図は、ローレンス・バークレー国立研究所のウェブサイトに掲載されていた「安定の島」のイメージです。右側が大きな「安定の島」ということでしょう。

安定の島

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