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カッシーニ・ミッション終了
Cassini ends its 13-year mission

土星探査機カッシーニは9月15日、土星大気に突入して、そのミッションを終えました。

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カッシーニは次第に濃くなる土星大気の中で分解し、燃えつきました。カッシーニからの電波は9月15日午後8時55分ごろに停止しました。土星から地球まで電波が届くのに約1時間23分かかるので、カッシーニは日本時間の午後7時32分ごろに通信機能が失われたことになります。

カッシーニ探査機は1997年10月15日に打ち上げられました。2004年に土星周回軌道に入り、以来13年にわたって土星とその衛星、そしてリングの観測を続けてきました。

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2017年4月26日、カッシーニのミッション終了に向けた軌道変更が行われました。土星を22周回後、9月15日に土星大気に突入させるための軌道変更です。タイタンやエンケラドスなど生命存在の可能性のある衛星に落下して環境を汚染しないよう、軌道変更の燃料があるうちに行われた措置でした。

カッシーニは多くの成果をあげていますが、初期の成果のハイライトは、ホイヘンス・プローブをタイタンに軟着陸させたことでしょう。これによって、オレンジ色のかすみがかかった大気の下のタイタン表面を、私たちははじめて見ることができました。

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カッシーニはその後、何回もタイタンに接近し、タイタン全体の地形を明らかにしました。

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カッシーニのもう1つの大きな成果は、エンケラドスで発見した間欠泉です。これによって、エンケラドスの内部には液体の海があることが分かりました。

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下の画像は、カッシーニが地球に送ってきた画像の中でも、特に感慨深いものです。2013年7月19日に撮影されたこの画像には、私たちの地球が写っています。矢印で示されたリングの下の小さな点が地球です。

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長期間のミッションを支えたカッシーニ・チームにはご苦労様というほかはありません。
ジュノー探査機が観測した木星のオーロラ
Juno observed Jupiter’s powerful auroras

木星を観測しているNASA のジュノー探査機が観測した木星の北極上空のオーロラです。

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ジュノーは木星の両極上空を飛ぶ軌道をとっているため、オーロラ現象を真上から観測することが可能です。この画像はジュノーの紫外線観測装置によって得られたもので、木星の北極上空を何度も飛行した結果を合成してあります。

ジュノーの高エネルギー観測装置によると、木星のオーロラは非常に強力で、木星磁気圏によって加速された電子のエネルギーは40万電子ボルトに達するということです。これは地球のオーロラの10〜30倍の強さです。

木星のオーロラを真上から観測することは、これまでの木星探査機やハッブル宇宙望遠鏡ではできなかったことで、木星のパワフルなオーロラ現象の解明が進むと期待されます。
冥王星とカロンのフライオーバー映像
Flyover Video of Pluto and its moon Charon

冥王星とその衛星カロンのフライオーバー映像がNASAから発表されています。

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冥王星のフライオーバー映像では、スプートニク平原とよばれている氷原とその西側の起伏が激しい地域との境界あたりを飛んでいきます。太陽系の他の天体には見られないきわめて特異な地形です。

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カロンのフライオーバー映像では、赤道地域に横たわっている溝ないし大峡谷とみられるあたりから北の高緯度地域へと飛んでいきます。

これらの映像はニュー・ホライズンズ探査機が取得した冥王星とカロンの高度データをもとに作成されたものです。高度は実際よりも2〜3倍に協調されています。

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上は冥王星の高度マップです。スプートニク平原(S)が青い色で示され、周囲にくらべて高度の低い地域であることがわかります。その東には尾根が連なったように見えるタルタロスとよばれる高地(T)があります。

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上はカロンの高度マップです。北の高緯度地域にはカルーチェとよばれる大きな窪地(C)があります。
木星の大赤斑のクローズアップ
Close-up of Jupiter’s Great Red Spot

木星を周回しているNASA のジュノー探査機が観測した木星の大赤班のクローズアップ画像です。

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ジュノーは7月1日に木星に接近し、搭載しているJunoCam によって大赤班の観測を行いました。観測のローデータ(未加工のデータ)はJunoCam のウェブサイトで公開されました。このデータを用いて、民間のジェイソン・メジャー氏が画像強調処理を行った画像が上のものです。

大赤班のディテールがここまで詳しく明らかになったのは、はじめてのことといってよいでしょう。大赤班は巨大な高気圧の渦と考えられ、反時計回りに回転しています。楕円形の長径は1万6350km あり、地球の直径の1.3倍です。ボイジャー探査機などが観測した頃の大赤班のサイズは地球の直径の2倍以上ありましたが、21世紀に入ってからは、大赤班が次第に縮小していることが観測されています。大赤班は1830年に観測されて以来、すでに350年以上存在しています。
ジュノー探査機が撮影した木星の南極
Jupiter’s south pole taken by Juno spacecraft

NASA の木星探査機ジュノーが撮影した画像が発表されました。

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まるで天目茶碗の模様のように見えるこの画像は、高度5万2000km から見た木星の南極です。夜の部分がなくなるように何枚もの画像をつなげて作成してあります。中心に見える青い楕円形は直径が1000km にも達する巨大ハリケーンです。

これまでの木星探査機は公転面から木星を観測していたため、このようなアングルからの画像を得ることはできませんでした。ジュノーは今後も、これまで見たこともなかった木星の姿を送ってくれるはずです。
太陽系のオーシャン・ワールド
Ocean worlds in solar system

土星の衛星エンケラドスと木星の衛星エウロパでの新しい発見について、NASA から発表がありました。これらの衛星の表面は氷におおわれていますが、その下には液体の海が存在すると考えられています。

土星を周回して観測を続けているカッシーニ探査機は、エンケラドスの南極域から噴出しているプルームをサンプリングし、質量分析器で調べました。

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プルームの成分の大部分は水ですが、そこに水素が含まれていたとのことです。エンケラドスの海の底には、地球の深海底に存在する熱水鉱床を同じような、内部から熱水やミネラル分が噴出してくる場所があり、水素もそこで発生していると考えられるとのことです。

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そうであるとすれば、水素をエネルギー源とする生命が誕生している可能性も否定できません。非常に興味深い発見です。

一方、エウロパに関しては、エンケラドスにみられるものと同じようなプルームをハッブル宇宙望遠鏡が観測しました。同望遠鏡は2014年にエウロパのプルームを観測していますが、2016年にふたたび観測に成功しました。

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ガリレオ探査機のデータを用いて調べたところ、プルームが噴出していると考えられる場所(下左)は、ガリレオの観測で表面温度が周囲より高くなっていた領域(下右)でした。氷の下のある海の暖かい水が上昇しているためと考えられます。

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NASA は2020年代にエウロパ・クリッパーという探査機を打ち上げる計画をもっています。この探査機は木星を周回しながら、いくつものセンサーを用いて主にエウロパの海に関する観測を行います。エウロパに十分接近することが可能なので、プルームが噴出している場所の氷の下をレーダーで調べたり、高性能の質量分析計でプルームの成分を観測したりすることができます。今回の発表は、エウロパ・クリッパー・ミッションに大きな期待をもたせるものとなりました。
マーズ2020の着陸候補地点
Landing Site for NASA's Mars 2020 Rover

NASA は2020年に打ち上げる火星探査機マーズ2020 の着陸候補地点を発表しました。コロンビアヒルズ、ジェゼロ・クレーター、大シルチス北東部です。

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コロンビアヒルズ
火星ローバー、スピリットが探査した場所です。スピリットはグゼフ・クレーターに着陸し、探査を行いました。多くの科学的成果を上げましたが、水が存在した証拠を見つけることができないまま、2010年に活動を停止しました。しかし、その後のデータ解析により、コロンビアヒルズの岩石に、かつて鉱泉が存在した証拠を発見しました。

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ジェゼロ・クレーター
大シルチスとよばれる地域の北東部にあります。約35億年前、ジェゼロ・クレーターには大量の水が流れこみ、湖が形成されていました。鉱物を含む粘土が周囲から運ばれてきて湖底に堆積しました。このクレーターには過去、何度か水が流れこんだと考えられ、原始的な生命が誕生した可能性があると考えられています。

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大シルチス北東部
ジェゼロ・クレーターのすぐ近くの場所です。火星にはかつて活発な火山活動がありました。こうした時代に、このあたりでは地下の熱源が表面の氷を溶かし、湖沼がつくられていました。微生物が繁殖していたかもしれません。

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マーズ2020では火星に生命が存在したかどうかを調べることが、科学ミッションの大きな目的の1つになっています。そのため、生命発生や繁殖に関連した温泉ないし鉱泉が存在したと考えられる場所が候補地点となっています。
木星の衛星エウロパから噴き出す水のプルームを確認
Water Plumes Erupting on Jupiter's Moon Europa

NASA はハッブル宇宙望遠鏡による観測によって、木星の衛星エウロパの南極域から噴き出す水のプルームを確認したと発表しました。下の画像は2015年1月26日に観測されたもので、ハッブルのデータにガリレオ探査機によるエウロパ本体の画像が合成されています。7時の方向に見られるいくつかの明るい部分が、水のプルームと考えられています。

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下の画像は、プルームの想像図です。観測されたプルームは高さ160km にも達するとのことです。

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下の画像は、エウロパ表面から見たプルームの想像図です。

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エウロパは木星の4大衛星(ガリレオ衛星)の1つで、表面は氷におおわれています。しかし、その内部には海(液体の水の層)があると考えられています。木星による潮汐力のためにエウロパがもまれて内部に熱が発生し、氷の下の層がとけて液体になっているのです。エウロパの海には生命が存在するかもしれないと考えられ、多くの科学者が関心を寄せています。

下の図は、エウロパの内部構造を示したものです。エウロパの半径は1565km で、中心部には金属のコアがあります。その上には岩石層(マントル)があり、表面は厚さ10〜30km の氷におおわれています。氷の層の下部は溶けて液体の水になっています。海の深さは160km に達するともいわれています。

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エウロパ内部の海から氷の層の亀裂をつたって液体の水が上昇し、プルームとなって宇宙空間に噴き出していると考えられます。

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エウロパの南極域から噴き出す水のプルームについては、やはりハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、別のチームが2012年に報告しています。この時にとらえたプルームは1回だけでした。今回の観測は、2013年12月に1回、2014年1月に1回、3月に2回、4月の3回、5月に1回、2015年1月に1回、3月に1回と合計10回行われ、2015年1月26日、3月17日、4月4日にプルームが観測されました。エウロパでのプルーム現象はひんぱんに起こっていると考えられます。また、南極域だけでなく、赤道に近い場所でもプルームが確認されています。

今回の報告によって、エウロパにプルームが存在することが確認されました。このことはNASA が2020年代に打ち上げを考えているエウロパ探査機にとって大きな意味をもっています。この探査機は木星を周回しながら、何度もエウロパに接近して観測を行います。かつてはエウロパの海を調べるために、表面に着陸してドリルで氷の層を掘削し、内部の海に無人潜水艇を送りこむというミッションも考えられましたが、多くの困難があり、このアイデアはなくなりました。しかし、今回の発表により、エウロパに接近してプルームの成分を調べれば、内部の海が生命に適した環境であるかどうかを知ることができることがわかったわけです。

今回、NASA は「エウロパについて驚くべき発見があった」と予告していたため、多くの人が「エウロパに生命の証拠を見つけたのではないか」と期待しました。結果はそうではありませんでしたが、惑星科学にとって非常に重要な発見であることは間違いありません。また、NASA としてはエウロパ探査の意義や、引退が近づいているハッブル宇宙望遠鏡の運用をできるだけ継続することについての一般の理解を得たいという意図もあったと考えられます。
レーダーで観測した衛星タイタンの砂丘
Dunes of Shangri-La

カッシーニ探査のSAR(合成開口レーダー)で観測した土星の衛星タイタンの新しい画像が発表されました。カッシーニは7月25日にタイタンから976km まで接近しました。その際に、かすみのかかった濃い大気を通して観測した画像です。

下は、シャングリラとよばれる低地を観測したもので、砂丘の筋が平行に何本も並んでいるのがわかります。

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砂丘をつくっているタイタンの砂は、メタンやエタンなどの炭化水素の粒と考えられています。この筋はそのような粒が風によって流されてできたものとみられています。この画像では、風は左から右(西から東)に向けて吹いています。

下の画像はザナドゥ・アネックスと名づけられた地域の画像です。

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ザナドゥは1994年にハッブル宇宙望遠鏡が発見した黒っぽい地域です。その後、カッシニーニ探査機の観測で、標高が高く山地が多い大陸のような場所であることがわかりました。ザナドゥ・アネックスはザナドゥと同じように起伏が多い地域で、ザナドゥの南に位置しています。
ジュノー探査機が撮影した木星の画像
Juno spacecraft:Images of Jupiter we have never seen before

NASA の木星探査機ジュノーが撮影した木星の近接画像が発表されました。

下の画像はジュノーのカメラJunoCam が、木星の北極域を真上から撮影した画像です。ジュノーと木星の雲頂までの距離は7万8000km です。

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木星の北極域は、これまで私たちが見てきた木星の表面とはだいぶ様相がことなっていました。赤黄褐色と白色の縞模様は存在せず、細かい渦がたくさんみられます。また全体が青みを帯びた色調になっています。土星の北極域には不思議な六角形の模様がありましたが、木星には存在しません。

下の画像は、ジュノーの赤外線オーロラ観測装置JIRAM がとらえた南極のオーロラです。

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木星のオーロラの細かい構造が明らかになりました。オーロラ発生のメカニズム解明のために貴重な情報となるでしょう。
小惑星ベヌーが地球に衝突?
Asteroid Bennu could hit the Earth?

小惑星ベヌーが地球に衝突するというニュースがネット上で流れているようです。ベヌーはNASA が9月8日に打ち上げる小惑星探査機「オシリス・レックス」の目的地です。

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ベヌーは地球に接近する軌道をもつアポロ群の小惑星で、NASA のリストでは2175年から2199年の間に地球に衝突する可能性がある小惑星とされています。もちろんその可能性は非常に低く、確率は3万7000分の1です。

ベヌーは2135年に地球と月の軌道の間を通ると予想されています。ネットに流れている話によると、この際、ベヌーの軌道が変更されて、将来地球に衝突する軌道に入るとされています。この説の根拠として、オシリス・レックスのPI(主任研究者)であるアリゾナ大学月惑星研究所のダンテ・ローレッタさんのコメントが言及されていますが、「2135年の接近の際にベヌーの軌道がどう変わるかわからない」という主旨の発言が曲解されて広まっているようです。

小惑星が地球に衝突するという話は、ネット上でくり返し登場しますが、少なくとも現時点で、地球に深刻な事態を生じさせることが間違いないとされる天体はありません。それよりは「はやぶさ2」やオシリス・レックスの小惑星探査の成果に期待しましょう。
NASA の月資源調査ミッション:着陸機を台湾が担当
Taiwan to make lunar lander for NASA’s Resource Prospector

NASA は2020年代初めに、月の資源調査のための探査機「リソース・プロスペクター」を打ち上げる予定です。この探査機は、着陸機とローバーからなります。月の極地域に着陸後、ローバーに搭載した掘削機で表面を掘り、酸素、水素、水などの存在を調べます。

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NASA はこのミッションを国際協力で行うこととしており、JAXA は着陸機を日本が担当する可能性についてNASA と協議を続けてきました。しかし、7月19日、NASA は日本ではなく、台湾と組むと発表しました。とても残念なニュースです。

最近、月の資源利用が注目されるようになってきました。特に水に関しては、月面に人間が長期滞在するようになると、生活のための水や宇宙船の燃料などを月面で調達する必要がでてくると考えられています。LCROSS やLRO などのアメリカの探査機によって、月の表面、特に極地域には水が存在する可能性が高まっています。リソース・プロスペクターは、こうした月の資源利用に向けた探査計画の第1弾といえるミッションです。

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着陸機を担当するのは台湾の中山科学研究院です。2018年末までにNASA に納入する必要があるとされています。同研究院にとって大きなチャレンジですが、今回のニュースは、日本や中国、インドだけでなく、アジアの他の国々や地域も月探査の技術をもちはじめていることを示しています。また、月の資源利用が現実の課題となっています。世界の宇宙開発は、めまぐるしく動いているといえるでしょう。
アストロバイオロジー:地球外生物はどこにいるか?
Astrobiology:Where we can find extraterrestrial life

6月27日(月)と28日(火)に日本学術会議で公開シンポジウム「フロンティアを目指す、サイエンスとアート」が開催され、数々の興味深いテーマが議論されます。

私もその1つ「地球外生物(1)人知は神の摂理(生命)を超えられるか。」に参加させていただくことになりました。京都大学大学院の木村大治先生とJAMSTEC の高井研先生とのセッションです。当日、どんな話になるのか、まったく予想はつきません。

地球外生物あるいは地球外生命について考えるアストロバイオロジーという学問に対して、最近関心が高っています。惑星探査や系外惑星の探索によって、地球外生命が存在する可能性がある場所について、いろいろなことがわかってきました。1960年代から行われているSETI(電波を用いた地球外文明の探査)も、テクノロジーの進歩によって新たな段階に入っています。しかしながら、地球以外の天体に存在する生命は、まだその痕跡すら見つかっておらず、地球外生命に関する情報を私たちはまったく手にしていないというのが現実です。

私たちは宇宙に一人ぼっちなのでしょうか。生物学者の中には、地球上の生命は非常にユニークなものであり、他の天体に同じような生命が出現する確率はきわめて低いと考える人もいます。木村資生先生はそのような考えをお持ちでした。確かに生命の巧妙なメカニズムを知れば知るほど、この考えはもっともだと思えてきます。しかし多くの科学者は、その形態はどうであれ、宇宙にはたくさんの生命が存在すると考えています。

系外惑星探査衛星「ケプラー」は、ハビタブルゾーンに存在する地球型惑星を次々と発見しています。これらの惑星では、今後、地球に似た生命の探索が行われていくでしょう。最近のNASA の発表によると、恒星に非常に近い軌道をまわる巨大ガス惑星ホット・ジュピターの中には、大気中に水蒸気を含み、雲が存在するものもあるとのことです。こうした惑星には、私たちが想像もしないような生命が存在するかもしれません。

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太陽系内での生命探査では、現在、火星で活動中のキュリオシティーの成果が待たれます。キュリオシティーは火星に大量の水が存在した時代に誕生した可能性のある原始的な生命の痕跡を探しています。

木星の衛星エウロパの内部には海があり、なんらかの生命が存在する可能性があると考える科学者もいます。木星のガニメデやカリスト、土星のエンケラドスも、内部に海があるとみられます。氷におおわれたこれらの衛星の表面下に液体の海が存在できるのは、木星や土星の重力による潮汐力が働いているためですが、海の下に熱源が存在すれば、地球の熱水鉱床と同じような場所ができているかもしれません。地球の生命は熱水鉱床で誕生したという説があります。

先日、東京薬科大学の山岸明彦先生と太陽系内の生命についてお話しする機会がありました。山岸先生は現在、宇宙での生命の起源を探る「たんぽぽ」実験を国際宇宙ステーションで行っています。

山岸先生は、エウロパをはじめ氷衛星の海に地球型の生命が誕生する可能性については否定的です。地球型生命の出発点は「RNA ワールド」ですが、有機物の材料からRNA がつくられるには水分子が抜ける反応が必要です。すなわち乾燥した環境がないと、地球型生命は生まれないと考えられるのです。

そのようなわけで、山岸先生と話が盛り上がったのが、土星の衛星タイタンの環境でした。タイタンの大気と表面ではメタンが循環しています。高層大気ではさまざまな化学反応が起こっており、それらの物質はメタンの雨と一緒に表面に降り注いでいるでしょう。カッシーニ探査機はタイタン表面にメタンの湖を多数発見しています。周囲には地球と同じような地形をもつ陸地があり、メタンが川となって湖に流れ込んでいます。下の画像は、カッシーニの観測データからつくられたタイタンの南極近くにあるメタンの湖「オンタリオ湖」の鳥瞰図です。

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タイタンのメタンの湖は、いわば生命の材料がたくさんたまったスープです。RNA の合成に必要な乾燥した場所(陸地)もあります。こうした場所で、生命がつくられているかもしれません。
冥王星の全球マップ
Global map of Pluto

ニュー・ホライズンズ探査機が送ってきた画像を合成して作成した冥王星の全球マップが発表されています。

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解像度は、ニュー・ホライズンズが接近して観測した半球(マップの中央)が235 メートル、その裏側にあたるカロンに向いた半球(マップの両側)が30キロメートルとのことです。

マップ全体を見ていえるのは、冥王星の北半球が白っぽい氷の地形でおおわれているのに対して、南半球には黒っぽい物質でおおわれた地形が広がっていること、そして、中央に広がるハート形のトンボー地域が、なにかしら特別な要因にとってつくられたものであるということでしょう。冥王星はカロンにいつも同じ面を向けています。また、カロンも同じ面を冥王星に向けています。トンボー地域はカロンの正反対に位置しており、いわば冥王星-カロン系にとって宇宙空間を向いた外側の面にあります。トンボー地域の成因とその位置には、何か関係があるかもしれません。
『まるわかり太陽系ガイドブック』
ウェッジ社から『まるわかり太陽系ガイドブック』が発売になりました。

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太陽系の各天体(水星、金星、地球、月、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、小惑星、彗星)について解説したものですが、最後の章には系外惑星の話も含めました。今年の2月中旬までの最新情報が入っています。
キュリオシティー:火星の黒い砂丘
Curiosity:Around “Namib Dune”

火星ローバー、キュリオシティーはシャープ山の麓で探査活動を行っています。このあたりはゲール・クレーターの堆積層の最下層、つまり一番古い地層がある場所で、多くの科学的成果が期待できます。

キュリオシティーは昨年12月から「ナミブ砂丘」と名付けられた場所の調査を行っています。下の画像の黒く見える場所がナミブ砂丘です。

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ナミブ砂丘の向う側には、シャープ山が見えています。

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火星表面の多くは赤茶けた岩石と砂(土壌)におおわれていますが、場所によっては黒っぽい砂が集積した砂丘や砂漠が存在しています。スピリットが観測した「エルドラド」やオポチュニティが横断した「ラブアルカーリ」などもそうした場所です。こうした場所ができるには、地形に加え、風の影響が大きいのでしょう。

ナミブ砂漠の急斜面には砂が崩れて落下した跡が見られ、これまで他の火星ローバーが観測した砂丘とは異なって、かなり「活動的」であることがわかっています。

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この砂丘に乗り入れることは危険なので、キュリオシティーはできるだけ接近した場所で科学観測やサンプルの採取を行い、火星の砂の性状を調べています。

キュリオシティーはシャープ山を登攀しながら地層を年代順に調査しようとしていますが、シャープ山の麓にはナミブ砂丘を含む「バグノルド砂漠」とよばれる黒い砂漠地帯が帯状に横たわり、キュリオシティーの行く手を阻んでいます。キュリオシティーは黒い砂漠を迂回する安全なルートを見つけなくてはいけません。
カッシーニ探査機:衛星エンケラドスのプルームに突入
Enceladus Flyby:Deepest dive through the plume

土星を観測しているカッシーニ探査機は、10月28日に衛星エンケラドスの南極域に約50km まで接近しました。エンケラドスの南極域では、割れ目から水や水蒸気が噴出しています。カッシーニは、このプルームに「ダイブ」する観測を行ったわけです。

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カッシーニが取得した生画像(処理をしていない状態の画像)の一部はすでに公開されています。下はその中の1枚です。はげしく噴き出すぷルームが見えています。

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今回の観測によって、プルームの詳細な成分や、エンケラドスの氷の表面の下で何が起こっているのかが分かってくると期待されます。
衛星エンケラドスの内部に液体の海
Global Ocean on Enceladus

土星探査機カッシーニの科学チームは、衛星エンケラドスの内部に全球にわたる液体の海があることを確認したと発表しました。下の図は、エンケラドスの内部を示したものです。エンケラドスは岩石のコアを氷の殻がおおう構造をしていますが、岩石層と氷の層の間に液体の海が存在します。

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エンケラドスの南極では殻の割れ目から噴き出す水蒸気のジェットが発見されており、内部に液体の水が存在すると考えられました。ただし、この水が局所的の分布しているのか、全球におよぶものなのかは、はっきりしませんでした。今回、科学チームは、土星のまわりをまわるエンケラドスの周期的なふらつき運動(秤動)によってエンケラドスの内部が変形するため、全球におよぶ液体の海が存在することをつきとめたとのことです。
「はやぶさ」が冥王星の地名に
New Horizons:Informal names on Pluto

ニューホライズンズの科学チームは、冥王星で一番目立つ白っぽいハート形地形に「トンボー地域」という名前をつけました。1930年に冥王星を発見したクライド・トンボーにちなんだものです。トンボーは当時、アリゾナ州のローウェル天文台で働いていました。このハート型の左半分は「スプートニク平原」とよばれています。世界初の人工衛星にちなんでいます。

今後の画像解析には、表面の各地域に名前をつけておいた方が便利です。科学チームは下のように、冥王星表面の主だった領域に名前をつけました。それらの中には、これまでの太陽系探査で大きな成果をあげた探査機の名前もつけられています。

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下はトンボー地域の右側(東側)の領域です。トンボー地域の東の地域はタルタロスと名付けられました。ギリシャ神話にでてくる冥界の名です。タルタロスの上の地域は「はやぶさ」と名付けられました。その左の紫色は「パイオニア」と名付けられています。

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下はトンボー領域の左側(西側)の領域です。緑色の大きな円形の地形は「バーニー」と名付けられたクレーターです。バーニーの右が「ボイジャー」、左が「ヴェネラ」、下が「バイキング」です。バーニーはヴェネティア・バーニーのことで、トンボーが発見した天体に「Pluto」という名をつけることを提案した女性です。彼女は当時11歳で、オックスフォードに住んでいました。

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ヴェネラの左には地溝帯があり、その左の地域は「ローウェル」と名付けられました。パーシヴァル・ローウェルはアメリカの天文学者。私財を投じて火星観測のためにつくったのがローウェル天文台で、その後、ここが冥王星発見の舞台となりました。ヴェネラのずっと下にあるクレーターには「エッジワース」、ローウェルのずっと下のクレーターには「オールト」の名がつけられています。ケネス・エッジワースはアイルランドの天文学者で、海王星の軌道の外側に小天体のベルトがあり、彗星はそこからやってくるという説を提唱しました。ヤン・ヘンドリック・オールトはオランダの天文学者で、太陽系を取り巻き、彗星の供給減となる「オールトの雲」を提唱しました。

天体の地名は国際天文連合(IAU)によって正式に承認される必要があります。したがって、現時点では、これらはまだ正式な名前ではありません。
非常に若い冥王星とカロンの表面
Close up images of Pluto and Charon

ニュー・ホライズンズによる最新の画像が公開されました。

下は、冥王星の赤道付近のクローズアップ画像です。高地にあたる場所です。地平線付近に高さが3000m を超す氷の山地が連なっています。衝突クレーターが見られず、科学チームは、表面の地形の年齢は1億年程度と非常に若いと考えています。

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下は衛星カロンです。表面はやはり非常に若く、裂け目と思われる地形が長く伸びています。北極域には黒っぽい物質が分布しています。

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冥王星やカロンは活動を停止した凍りついた天体ではなく、今でも活発な活動が続いているかもしれません。
ニュー・ホライズンズ:冥王星最接近を果たす
New Horizons:Closest approach to Pluto

ニュー・ホライズンズは7月14日午後8時49分(日本時間)、冥王星に最接近を果たしたとみられます。下の画像は、7月13日、冥王星最接近の直前に、76万8000km の距離から撮影されたものです。

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多くのクレーターが確認できます。白っぽいハート形もディテールが見えてきました。赤道付近の暗い領域やハート形の部分は平坦でなめらかなようですが、その周囲には凹凸のある地形が広がっています。

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上の写真は、最接近の瞬間に向けてカウントダウンが行われたジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)での様子です。
冥王星と衛星カロンのサイズが明らかに
New horizons:Size of Pluto and Charon

新たに発表された冥王星の画像です。7月11日に取得された高解像度望遠カメラLORRIの画像に、メインカメラであるRalphのカラーのデータを重ねてあります。

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ニュー・ホライズンズの科学チームは、観測によって得られた冥王星と衛星カロンのサイズを発表しました。

それによると冥王星の直径は2370kmでした。私も使ってきたこれまでの推定値2300kmに比べて少し大きなサイズでした。そのため、2.050g/cmとされてきた冥王星の密度は少し小さくなります。このことは冥王星の氷の量がこれまで考えられていたよりも多いことを意味しています。カロンの直径は1208kmでした。これは、これまでの推定値とほぼ同じ数字です。

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地球と比較してみると、冥王星とカロンの大きさを実感することができます。

地球を野球のボールとすると、冥王星はパチンコの玉とほほ同じ大きさになります。地球と冥王星の現在の距離は約48億劼任垢ら、そのパチンコ玉は、野球ボールの地球から10km先にあることになります。

見えてきた衛星カロンの表情
New Horizons:Charon’s chasms and craters

ニュー・ホライズンズが7月11日に撮影した衛星カロンの画像です。

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カロンの表面がくわしく見えてきました。衝突クレーターと見られる地形や割れ目のような地形を確認することができます。また、北極周辺には暗い領域が広がっています。
冥王星の裏側:不思議な地形の最後の画像
Pluto’s far side:The last shot of puzzling spots

ニュー・ホライズンズは冥王星に接近中です。新たに発表された画像は7月11日に撮影されたもので、ニュー・ホライズンズが7月14日に冥王星に最接近した時に見える半球のちょうど裏側にあたる面を撮影したものです。したがって、この画像は、冥王星の「裏側」については最後の、そして最も詳しい画像ということになります。

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赤道付近に見られた不思議な黒い斑点状の地形は、より複雑な形をしていました。「海」のような平らな地形のように見えます。また、そのすぐ上には、衝突クレーターと見られる円形の地形も見られます。

下の画像では、冥王星の自転のために左側に新しい面が見えてきています。明るいハート形の地形も姿をあらわそうとしています。

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赤道近くの暗い領域の縁には「崖」のような地形も見られます。

冥王星とはどのような天体か?
Pluto:Icy object outside of Neptune's orbit

冥王星探査機ニュー・ホライズンズは、6年半、50億kmにおよぶ飛行の後に、いよいよ7月14日に冥王星に最接近しようとしています。

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表面の地形も次第にはっきりと見えてきました。ニュー・ホライズンズがどのような冥王星の姿を送ってくるのか楽しみです。冥王星がどのような天体なのかをまとめておきましょう。

冥王星は1930年にクライド・トンボーによって発見され、以後、太陽系の一番外側をまわる惑星として親しまれてきました。

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人類がまだ間近から見たことのない最後の惑星、冥王星を探査するために、NASAのニュー・ホライズンズが打ち上げられたのは2006年1月19日のことでした。ところが、その年の8月にプラハで行われた国際天文連合(IAU)の総会で、冥王星は惑星の座を降り、「準惑星」となることが決定されました。冥王星の軌道よりも遠方に、冥王星と同等の大きさの小天体が多数存在することが分かってきたため、惑星の定義が改めて議論されたのです。

現在、準惑星には冥王星の他、小惑星の中でサイズが一番大きかったケレス、冥王星の軌道の外側をまわるエリス、ハウメア、マケマケが分類されています。冥王星を含む海王星以遠の天体はエッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)、カイパーベルト天体(KBO)、あるいは太陽系外縁天体(TNO)などとよばれています。

冥王星の直径は約2300kmで、地球の月よりも小さい天体です。太陽を1周するのに248年かかります。1日の長さは約6.4日で、地球とは逆向きに回転しています。

冥王星は氷と岩石の天体で、メタン、窒素、一酸化炭素、水などからなる氷で表面がおおわれています。冥王星の内部構造はほとんど分かっておらず、氷の層がどのくらいの厚さかも分かりません。もしかすると、氷の層と岩石のコアとの間に海(液体の層)が存在するかもしれません。木星の衛星であるエウロパ、カリスト、ガニメデ、土星の衛星のタイタン、エンケラドス、海王星の衛星トリトンにも内部に海があると考えられています。

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冥王星にかすかな大気が存在することが分かっています。冥王星表面での気圧はわずか3~100マイクロバール(地球表面の100万分の3~1万分の1)しかなく、表面の氷が気化し、宇宙空間に逃げていると考えられます。

冥王星の衛星の1つ、カロンは直径が1200kmで冥王星の約半分の大きさをもちます。内部の構造は分かっていません。岩石の上に氷の層があるのかもしれませんが、岩石と氷が均質に混ざっていて、層構造にはなっていないのではないかという考えもあります。
冥王星:はっきりと見えはじめた表面の地形
Pluto:Signs of geology

ニュー・ホライズンズから送られてきた最新画像です。高解像度望遠カメラLORRI が7月9日に撮影しました。冥王星までの距離は540万km です。冥王星のオリエンテーションは右下に示されています。上が北極、下が赤道域です。

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一番下に「クジラ」の「尾」の部分が見えています。その上(北)に複雑なパターンが帯状になっているのが分かります。また、多角形の一部のような直線状の地形も見られます。
ニュー・ホライズンズ:冥王星フライバイ観測を開始
New Horizons:Flyby sequence begins

ニュー・ホライズンズは7月14日に迫った冥王星最接近に向け、セーフモードから復旧してフライバイ・シークエンスを開始しました。下は7月8日に撮影された冥王星の最新画像です。

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冥王星までの距離は800万km です。ニュー・ホライズンズの高解像度望遠カメラ(LORRI)のモノクロ画像に、カラー画像のデータをかぶせてあります。この画像に写っている領域が、冥王星最接近時にも、ニュー・ホライズンズに対して顔を向けます。中央上が冥王星の北極、下が赤道域にあたります。赤道には暗い地形が広がっていますが、その右側にはハート形をした白っぽい領域が見えています。メタン、窒素、一酸化炭素などの「雪」が降り積もっているためとみられます。

下は、これまで得られたデータから作成された冥王星の地図です。

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冥王星はニュー・ホライズンズに対して北極を見せながら自転しているため、南半球のデータは得られていません。赤道域の一番左に暗い地形が横たわっており、その形から「クジラ」とよばれています。その右にハート形の明るい領域があります。さらにその右には、いくつもの暗い不思議な斑点が見られます。
冥王星:赤道付近の不思議な地形
New Horizons:Latest image of Pluto

下の画像はニュー・ホライズンズが7月1日から3日に撮影した画像の中の1枚です。モノクロの高解像度データにカラー画像を重ねてあります。冥王星までの距離は125万km です。

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冥王星の向きは下の通りで、上が北極、下が赤道です。ニュー・ホライズンズは冥王星の北半球を眺めながら接近しています。

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高緯度地帯が明るいのに対して、赤道近くには複雑な地形が広がり、不思議な暗い4つの斑点も見られます。

ニュー・ホライズンズは7月4日に機器の一部に異常が発生し、セーフモードになりましたが、まもなく復旧の予定です。
ニュー・ホライズンズ:見えてきた冥王星の表面
New Horizons:Two distinct faces of Pluto

ニュー・ホライズンズは順調に冥王星に接近中です。6月25日と27日に撮影された画像が発表されました。下は、7月14日の最接近時に探査機から見える半球の画像です。モノクロの高解像度データにカラー画像のデータが合成されています。

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赤道近く(下方)に黒い地形が広がっているのがわかります。

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上は、その反対側の画像です。黒いスポットが点在する興味深い表面が見えています。
カッシーニ探査機:3つの月、3つの世界
Cassini spacecraft:Three moons, three worlds

土星を観測しているカッシーニ探査機が撮影した画像です。土星をまわる3つの衛星が三日月状に見えています。

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中央の一番大きい衛星がタイタンです。直径は5150km、濃い大気におおわれているため、その輪郭はぼやけ、大気の縁に光がまわって幻想的な三日月になっています。その左上はリアです。直径1500km のリアには大気は存在しないため、輪郭がはっきり見えています。その氷の表面に多数のクレーターがうがたれている様子も見てとれます。タイタンの左下に小さく見えるのはミマスです。直径は400km で、表面には多数のクレーターがあります。中でもミマス自体の直径の3分の1に達する巨大クレーター、ハーシェルは有名ですが、この画像からはそのような姿を見ることができません。

タイタンの自転周期は16日で、土星をまわる公転周期と一致しています。したがって、地球の月と同じように、タイタンはいつも同じ面を土星に向けています。この画像はタイタンの土星を向いていない側から撮影されました。つまり、土星はこの画像の先方にあります。ミマスは土星に一番近い軌道をまわる衛星です。リアはタイタンのすぐ内側をまわっています。したがって、3つの衛星の位置関係は、一番手前にあるのがタイタン、その先にリアがあり、遠くにミマスが見えていることになります。

この画像は望遠カメラを用い、可視光域で撮影されました。タイタンまでの距離は200万km、上が北になります。

「計算されたような」という表現がぴったりの見事な構図ですが、もちろんカッシーニ・チームは実際に軌道計算を行い、このような位置関係になるのを待って、この画像を撮影したわけです。
ニュー・ホライズンズ:冥王星に接近中
New Horizons:Getting closer to Pluto

ニュー・ホライズンズは7月14日に冥王星に最接近します。探査機に搭載したカメラからの画像も、だんだんとその表面の様子をとらえるようになってきました。

下は5月29日から6月3日にかけて撮影された冥王星(中央)とその衛星カロン(左上)の初のカラー画像の中の1枚です。冥王星とカロンの表面の色調が明らかになりました。ピンク色が入っているのがわかります。

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ハッブル宇宙望遠鏡は2000年に冥王星を観測しました。その時の画像が下で、表面の模様が見えています。この時、冥王星の表面がそれまで考えられていたよりも赤いことが明らかになりました。

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ニュー・ホライズンの今回のカラー画像は、ハッブルの観測結果を裏付けるものです。

下の画像は、冥王星の自転とともに、表面の模様が変化している様子をとらえたものです。表面の模様のコントラストはかなりはっきりしているようです。

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冥王星の自転周期は6.4日で、地球とは反対方向(東から西方向)に回転しています。自転軸は公転面に対して約120度傾いており、ほぼ横倒しになっています。そのため、ニュー・ホライズンズからの画像も横倒しになった姿を北半球側から見ることになりますが、これらの画像では自転軸を上下方向にする処理が行われています。
水星探査機メッセンジャーの画像
MESSENGER ends orbital operation

NASA の水星探査機メッセンジャーは4月30日にミッションを終えました。メッセンジャーは2004年に打ち上げられ、それまで限られたデータしか得られていなかった水星を約10年間にわたって観測しました。

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上の画像は、メッセンジャーがミッションを終えた翌日に発表された画像で、左上にミッション期間である「2004-2015」が示されています。太陽系最大規模の衝突跡であるカロリス・ベイスンが写っています。手前がベイスンの中心部分で、テクトニクスによってできたと考えられるトラフ(溝)が見えています。直径41km のアポロドラス・クレーターはこうした地形が形成された後、ベイスンのほぼ中心に天体が衝突してできたものです。この画像は高度によって色分けされており、青から赤、さらに白っぽくなるにつれて高度が高くなります。このあたりでの高低差は約4km あります。

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上の画像は、水星の重力異常をあらわしたものです。ほぼ中央の赤く示されているあたりがカロリス・ベイスンです。ベイスンの地下には重い物質が集中しています。その右に、もう1つ質量が集中している領域があります。ここはソブコウ平原とよばれる場所です。こうした質量の集中は、水星の形成過程に関係しています。

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上の画像はドゥッチオとよばれるクレーターの中心部分で、上から左下にかけて巨大な崖が走っています。これは水星がごく初期に冷えて収縮したためにできた地形と考えられています。

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上の画像は水星の北半球の高度差をあらわしたものです。真ん中が北極です。深い紫色が最も低い部分、赤い色が最も高い場所を示しています。最も高い場所と最も低い場所との高低差は約10km です。月の場合、高低差は約20km ありますから、水星は月にくらべて全体に平坦な天体といえます。
月の誕生:ジャイアント・インパクト説の問題点が解決か
Origin of Moon:Similarities between Earth and the impactor

月の成因に関する重要な論文が『ネイチャー』誌の4月9日号に発表されました。

月の成因に関しては、ジャイアント・インパクト説が有力です。今から45億年ほど前、太陽系が誕生して間もない時期に、火星サイズ(質量でいうと地球の10分の1程度)の天体が地球に衝突しました。飛び散った破片は円盤となって地球をまわるようになり、それらが集積して月になったとする説です。

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しかし、この説には弱点がありました。地球と月の成分を調べてみると、いろいろな元素の同位体比がほとんど同じなのです。例えば、酸素16、酸素17、酸素18の同位体比は地球と月ではほとんど同じですが、火星や隕石とは異なっています。それ以外にクロム、ケイ素、チタン、タングステンなどの同位体比もほとんど同じであることが分かっています。

太陽系の天体ができるとき、その天体がどこでできたかによって同位体比は異なってきます。地球に衝突した天体(インパクターとよんでいます)も、よそからやってきたので、その同位体比は地球と異なっていたはずです。月誕生のシミュレーションによれば、月の材料の約80%はインパクターのマントル物質由来とされていますから、現在の地球と月の同位体比が同じという点に矛盾が生じます。

ジャイアント・インパクト説はいろいろな証拠から、現在最も有力な説になっていますが、一方では、この同位体比が最大の問題になっています。最近ではこれを解決するために、いくつものバリエーションも提唱されています。すなわち、複数の衝突によってできた、インパクターは火星サイズよりも大きかった、あるいは小さかったなどです。

イスラエル工科大学のAlessandra Mastrobuono-Battisti らの研究チームは、太陽系の天体ができてくる詳細なシミュレーションを検討しました。天体が衝突を繰り返しながら、惑星が成長していきます。サイズの大きな天体も衝突します。月はそのような衝突の、最後の大衝突でつくられたのでしょう。研究チームは、シミュレーションの過程を追いながら、成長した惑星とそれに衝突するインパクターの組成を調べてみました。すると、両者の組成はよく似ていることがわかったのです。シミュレーションで形成された惑星はそれぞれ組成が異なっていましたが、それらに衝突するインパクターはほとんどの場合、良く似ていました。

結局、今回の研究結果によれば、地球に衝突するインパクターはもともと同位体比が似ていたわけです。これによって、ジャイアント・インパクト説の最大の弱点がなくなることになります。また、火星サイズの天体が衝突したという「古典的な」ジャイアント・インパクト説で問題はなくなり、さまざまなバリエーションを考える必要はなくなりました。

はたして、この結論が正しいのかどうか、今後のさらなる研究がまたれます。
誕生直後の火星には大量の水が存在
Mars once had more water

火星には、これまで考えられていたより大量の水が存在していたとする論文が、3月6日付の『サイエンス』電子版に発表されました。NASA のゴダード宇宙飛行センターらの研究グループによると、火星が誕生して間もない時代には、火星に表面の約20%が海におおわれていたとのことです。

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この研究は、地上から火星大気に含まれる微量な水分を観測することによって得られました。使われた望遠鏡はESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT、ハワイのケック望遠鏡、そして同じくハワイにあるNASA の赤外線望遠鏡IRTF です。これらの望遠鏡で、火星大気中の水とHDO(重水の1つで、水素原子の1つが重水素に置き換わっている)の分布の変化を観測し、水素と重水素の比を求めました。さらに、南極で発見された約45億年前隕石YAMATO980459 や、キュリオシティがゲール。クレーターで観測した結果などと比較し、火星の過去の水の量を算出しました。

その結果、約45億年前には、量にして2000万立方キロメートルの水が存在しているという結果が得られました。これは火星の全表面を137メートルの深さでおおってしまうだけの量です。火星の地形は北半球が低くなっていますので、火星の古代の海は北半球に広がっており、場所によっては1600メートル以上の深さになっていたと考えられます。

火星誕生直後のノキアン期とよばれる時代(45億から36億年前)には、大量の水が存在していたことは間違いないと考えられていましたが、どのくらいの量の水が存在したかは、はっきりしていませんでした。
ニュー・ホライズンズ、冥王星に接近中
New Horizons to Pluto

NASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」は、今年7月14日に冥王星に最接近の予定です。下の画像は、冥王星に接近したニュー・ホライズンズの想像図です。冥王星の向こうにあるのは衛星カロンです。

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ニュー・ホライズンズは1月25日に距離約2億kmから冥王星とカロンを撮影しました。

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昨年までは、冥王星はかすかな光の点でしたが、今では形をもった光のかたまりになって見えてきました。これからだんだんと、表面の様子が分かってくるでしょう。

ニュー・ホライズンズは2006年1月に打ち上げられ、太陽系最遠の惑星への旅に出発しました。ところが、その年の8月に行われた国際天文連合の会議において、冥王星は準惑星に降格してしまいました。下の画像は、2006年から現在までのニュー・ホライズンズの経路です。

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最新情報はNASAのツイッター NASA New Horizons と、PIのアラン・スターンさんのツイッター NewHorizons2015 でチェックしましょう。
New Year's Greeting
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キュリオシティ:シャープ山の麓で火星の過去を探る
Curiosity:Sedimentary layers of Mount Sharp

火星のゲール・クレーターに着陸したキュリオシティは、現在、シャープ山の麓まで移動し、活動を続けています。ゲール・クレーターは直径が約154キロメートルあり、中央にシャープ山がそびえています。シャープ山の高さはクレーターの底から5.5キロメートルあります。

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シャープ山の形状は独特です。小天体が衝突してクレーターが形成される際にクレーターの底が盛り上がってつくられる中央丘(セントラル・ピーク)の尖った形ではなく、巨大な山塊となっています。しかも、その山塊が堆積層でできているらしいことが、火星周回機の観測で以前からわかっていました。下の画像は、マーズ・オデッセイのTHEMIS のデータから作成されたシャープ山の画像です。クレーター内から南西方向を見ており、左奥にシャープ山が見えます。手前に堆積層が広がっているのがわかります。

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キュリオシティがシャープ山の麓で見つけた岩石は興味深いものでした。下の画像のように、明らかに水の存在下でできた堆積岩が見られます。堆積岩は薄い層が多数重なっており、この地域に長い間水が存在し、繰り返し土砂が堆積したと考えられます。この地層の観測によって、ゲール・クレーター内の一番古い時代の情報が得られるでしょう。

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こうした堆積岩の地層がどのようにしてつくられたのかに関して、キュリオシティのサイエンス・チームのAshwin Vasavana は、火星表面に水が存在した時代に、ゲール・クレーターは湖であったという考えを述べています。

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雪解けの水がクレーターの北側から流れこみ、それにともなって運ばれた土砂が堆積して、キュリオシティが観測した堆積層がつくられたというわけです。さらに、こうした堆積が長い間継続した結果、クレーターの中央にそびえるシャープ山もつくられ、現在の地形になったというのです。

ゲール・クレーターのリム(縁)の高さは南側では5.5キロメートルありますが、北側は4.5キロメートルほどです。つまり、シャープ山は北側のリムよりも高いことになり、Vasavana が述べているように、湖での堆積物の集積によってシャープ山ができたとすると、山体をさらに押し上げる何らかのメカニズムが必要です。このあたりがどのように説明されるのか、興味がもたれます。

ゲール・クレーターができたのは38億〜36億年前と考えられています。たび重なる小天体の衝突で多数のクレーターがつくられたノアキス期が終わる頃、あるいは終わった時代です。ゲール・クレーターにはこれまでも多くの研究者が興味を示してきました。これまでの研究で、クレーター全体が堆積物でおおわれた時代があり、その後の浸食でシャープ山ができたという説が発表されています。また、別の説では、クレーター内に氷と土砂の層が何度も形成され、氷が融けるにしたがって、セントラル・ピークにキャップをかぶせるようにして堆積物が集積していったという説もあります。

いずれにしても、シャープ山の基盤は衝突でできたセントラル・ピークであるものの、その上には何億年もの間に形成された地層が存在すると考えられます。つまり、シャープ山は火星の遠い過去の地層でできていると考えられるのです。実は、この点こそが、キュリオシティの着陸地点にゲール・クレーターが選ばれた理由でした。

キュリオシティは近いうちに、当初の目的であるシャープ山の登攀をはじめることになります。それは、麓の地層ができた時代から、より新しい時代へと、火星の歴史をたどる旅になります。火星の環境がいかに変化したかがわかってくるでしょう。過去の火星には生命に適した環境があったかもしれません。そこで生命が誕生したとしたら、その痕跡――有機物を、キュリイシティは見つけてくれるかもしれません。
はやぶさ2、宇宙へ旅立つ
Asteroid explorer Hayabusa 2 launched

小惑星探査機「はやぶさ2」が宇宙へと旅立ちました。

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13時22分04秒にH-A ロケットで打ち上げられた「はやぶさ2」は、地球周回軌道に入って地球を1周した後、第2段エンジンの再噴射により、広大な太陽系空間へと旅立ちました。

来年には地球スイングバイを行って小惑星1999 JU3 をめざし、2018年に目的地に到達。科学観測やサンプル採取を行い、2019年に小惑星を出発、2020年末に地球帰還の予定です。

「はやぶさ2」がどのような科学的成果をもたらしてくれるのか楽しみですが、ミッションはまだはじまったばかり。これからどのような難関が待ち受けているかわかりません。「はやぶさ2」の宇宙大航海を見守っていきたいと思います。
衛星タイタンの表面下にメタンハイドレート?
Titan’s subsurface hydrocarbon reservoirs

土星の衛星タイタンでは、北極に近い場所で、メタンの海(メタンを含む炭化水素の湖)がたくさん発見されています。

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これらの湖にはメタンの他にエタンやプロパンなどが含まれています。一方、この湖に炭化水素を供給している雨はほとんどがメタンです。なぜ、こうしたことがおこるのでしょうか?

タイタンの大気と表面そして内部の間で、メタンがどのように循環しているのかは、まだわかっていませんが、フランス、フランシュコンテ大学のOliver Mousis らのグループは、これを説明するモデルを発表しています。下の図が、それを説明するものです。

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タイタンの炭化水素の湖は、表面をおおっている多孔質の氷の層のくぼみにできています。Mousisらによると、ここに降ったメタンは多孔質の氷の層に浸透していき、表面下に貯留層をつくっています。メタンはさらにその下の氷の層では、水分子の網状構造の中にメタン分子が入り込んだ、いわゆるメタンハイドレートの状態になっています。ここでメタンはプロパンやエタンなどに変化し、それらが湖の成分に反映しているとしています。
衛星エンケラドスの間欠泉
Geysers on Enceladus

土星を周回しているカッシーニ探査機は、衛星エンケラドスの南極付近から、水蒸気や氷が噴き出していることを発見しています。

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これに関して、コロラド州ボルダーの宇宙科学研究所のCarolyn Porco らによる論文が発表されました。Perco らによると、エンケラドスの南極付近の内部は以下のようになっています。

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エンケラドスは岩石の上を厚い氷がおおっている天体ですが、氷の層の下には液体の塩水の海が存在しています。氷の層には対流が存在し、亀裂がいくつも生じています。この亀裂から氷の粒子や水蒸気が「間欠泉」のように噴き出してくるようです。下の画像は、カッシーニがエンケラドスを2010年に観測したときのもので、南極付近の明暗境界線が見えています。

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この画像を説明したのが下の画像で、「バグダッド」と「ダマスカス」という亀裂がとらえられていることを示しています。亀裂からの薄い噴出物もわかります。

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ちなみに、下の画像は、南極付近の亀裂と、これまで観測された「間欠泉」の位置を示しています。

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バグダッドとダマスカスの他、「カイロ」、「アレクサンドリア」と名付けられた亀裂もあります。間欠泉は100以上も見つかっています。
中国の月探査機、嫦娥3号の着陸地点
Landing site of Chang'e-3

中国の月探査機、嫦娥3号は12月14日午後9時11分(北京時間)、月面への軟着陸に成功しました。着陸地点は北緯44.12度、西経19.51度(東経340.49度)。「雨の海」の北端で、これまでの報道で着陸目標とされてきた「虹の入江」の東の地域でした。

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極軌道をとっていた嫦娥3号は、南から目標地点にアプローチし、着陸を果たしました。下は、嫦娥3号の着陸までの経路です。

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下は、NASAの月周回衛星LROが以前に取得していた画像の上に、嫦娥3号が地球に送ってきた着陸直前の画像のフレームを示したものです。小さな四角に囲まれたあたりが、着陸地点とみられています。

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嫦娥3号は12月6日に月を周回する極軌道に入りました。高度は約100km、月を1周するのにかかる時間は約2時間です。その後、着陸を試みるまで8日間かかっていますが、これにはいくつかの理由がありました。1つは、12月6日の月齢は3日、いわゆる三日月で、雨の海にはまだ太陽の光が差していませんでした。目標地域が朝になるのを待つ必要があったのです。ちなみに、月では昼と夜は2週間ずつ続きます。また、12月6日頃には、嫦娥3号の軌道面は、まだ目標地域の上を通っていませんでした。着陸のタイミングを待つ間、軌道の微調整や機器の点検などが行われていたと思われます。

嫦娥3号は12月10日に、月の裏側で軌道変更のためのエンジン噴射を行い、近月点高度15km、遠月点高度100kmの楕円軌道に入りました。嫦娥3号の着陸目標としては、下の画像のように、実際に着陸した場所を含み、さらに西側の虹の入江までの長方形の地域が設定されていたようです。

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月はゆっくり自転しているので、嫦娥3号の軌道面は、経度にすると、1日に約12度しか西にずれていきません。したがって、嫦娥3号には着陸目標内に降下する機会が十分にあり、何か不具合が発生しても、対応をとる余裕があったでしょう。ただし、着陸機とローバーを午前中に分離したいという事情があったため、できるだけ早い着陸機会に降下を行ったとみられます。真昼になると、月面の温度が急激に上昇してしまうからです。

着陸後、翌15日に、ローバー「玉兎」が月面に降りて活動を開始しました。

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雨の海は、約38億年前の衝突によって生じた巨大なくぼみを、内部から噴出してきた溶岩が埋めてつくられました。嫦娥3号が雨の海を着陸地点に選んだ一番の理由は、ここにはきわめてなめらかな溶岩原が広がっており、高地のような起伏の激しい地形はなく、着陸の障害になるクレーターや大きな岩石も少ないため、着陸に安全な場所だったことにあると思われます。

科学的な見地からいうと、雨の海を埋めた溶岩は、月での火山活動が活発であった30〜38億年前に噴出したもので、これを調べることによって、月の進化についての新しい知見が得られるものと期待されます。
中国の月探査機、嫦娥3号、打ち上げ
Chang'e 3 launch to the Moon

中国の月探査機、嫦娥3号が12月2日午前1時30分(北京時間)に、四川省の西昌衛星発射センターから長征3B ロケットによって打ち上げられました。12月6日には月を周回する軌道に入る予定です。

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嫦娥1号と2号は月を周回するオービターでしたが、嫦娥3号は「雨の海」の北西の端にある「虹の入り江」への着陸を目指しています。着陸は12月14日の予定です。ロケットエンジンを噴射しながらで降下する嫦娥3号の着陸機は月面から100m の高度でホバリングし、センサーで着陸に適した平地を探します。クレーターや斜面を避けて着陸地点まで水平移動した後、最終的な降下を開始、高度3m でエンジン噴射を停止して着陸します。

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着陸機は重量3.8t で、4本の脚には着陸時の衝撃をやわらげるダンパーが入っています。電源は太陽電池ですが、約2週間続く月の夜の間、機器類を暖めておくヒーターのために、プルトニウム238 を用いた原子力電池も備えています。可視・紫外線望遠鏡で天体観測を行う他、別の紫外線望遠鏡で地球の高層大気を観測する予定です。

着陸機の上部には、月面ローバー「玉兎」が搭載されており、着陸後、月面に下ろされます。

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玉兎は重量140kg です。玉兎も発電用の太陽電池パネルと越夜用の原子力電池のヒーターを備えています。駆動には6輪のロッカー・ボギー(Rocker-Bogie)方式を採用しており、NASA の火星ローバー、スピリットやオポチュニティーをかなり研究しているように見受けられます。マスト上には地球へのデータ送信用のアンテナとナビゲーションカメラ2基、パノラマカメラ2基が設置されています。ボディ前面にはアルファ粒子X線分光計と赤外分光装置が設置されています。また、スピリットやオポチュニティーと同じようなアームをもっており、先端に研磨機を取り付けられています。地下構造を調べるためのレーダーも備えています。玉兎の運用期間は3か月(月面では3昼夜)とされています。

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嫦娥とは中国の伝説にでてくる月の女神です。玉兎は、その嫦娥が連れている兎の名前で、今回、ローバーの名前を公募したところ、玉兎が一番多かったとのことです。
NASA の火星探査機MAVEN 打ち上げ
MAVEN launches towards Mars

NASA の火星探査機MAVEN が、11月18日午後1時28分(アメリカ東部時間)にケープカナヴェラル空軍基地から打ち上げられました。MAVEN の打ち上げウィンドウは20日ほどしかないため、10月1日からアメリカの政府機関が閉鎖された間も、MAVEN 打ち上げの準備は続けられました。

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MAVEN は今後4週間をかけて8機の観測機器のチェックを行う予定です。火星到着は2014年9月の予定です。火星に到着すると、MAVEN は150km×6200km という非常に細長い周回軌道に入ります。また、5回の「ディープ・ディップ」の際には、火星表面から125km まで近づきます。こうした軌道をとりながら、火星大気のサンプル採取や全球の紫外線観測などを行います。

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MAVEN の目的は、火星大気の散逸過程の解明にあります。現在の火星は非常に乾燥した環境で、薄い大気しかありません。しかし、火星が誕生してから5億年ほどは、火星表面に海が存在したとみられています。液体の水が存在するには、二酸化炭素を含んだ大気による温室効果が必要です。その頃の大気がいかにして失われたかを解明することは、火星の進化を考える上できわめて重要です。

火星の質量は地球の10分の1ほどで、脱出速度が小さいので、水素などの軽い原子は古い時代に宇宙空間に逃げていったと考えられます。水素よりも重い酸素や窒素、炭素などの原子は、太陽風や太陽輻射による作用で散逸していったと考えられます。火星の磁場は今から37億年くらい前に失われたと考えられており、その後、火星大気は太陽風に直接さらされる環境にありました。太陽風との相互作用による大気散逸過程は現在も存在しており、それをMAVEN は調べようとしているのです。

MAVEN はさらに、火星に着陸して活躍しているキュリオシティーの地球との通信を中継する役割も果たすことになっています。
チェリヤビンスク隕石と小惑星イトカワの母天体は同じ?
Chelyabinsk airburst:Where did it come from?

去る2月15日にロシア、チェリヤビンスク上空で爆発した隕石に関する報告が、『サイエンス』誌の電子版に掲載されています。ロシア科学アカデミーのオルガ・ポポーワ、NASA のピーター・ジェニスキンズら国際調査チームによるものです。

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当日撮影されたビデオ映像の解析などから、火球が最初に記録されたのは高度96km で、このときのスピードは秒速約19km であることがわかりました。高度90km で衝撃波が発生し、高度83km までくるとダストの発生と分裂がはじまりました。爆発が起こったのは高度29.7km で、このとき太陽よりも明るい光を発しました。また、強烈な紫外線も発生し、日焼けの症状が出た人もいたとのことです。爆発で大きな分裂片が2個生じました。そのうち1個は高度18.5km まで落下し、もう1個は高度13.6km まで残っていたことがわかっています。

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チェバルクル湖の凍った水面に明いた直径7m ほどの穴は、当初、隕石が落ちたにしては不自然との見方がありました(私もそう思っていました)が、その後、隕石によるものであることが確認されたようです。このような穴が明くには200~1000kg の隕石が必要とみられていました。その後、湖底からは650kg ほどの隕石が回収されました。

現在では合計4~6t の隕石が落下したと推定されています。調査チームは、これは隕石の元の質量の0.03~0.05%に過ぎないと述べています。とすると、隕石は最初1万3000~2万t の質量を持っていたことになります。そのうち76%は蒸発してしまい、残りのほとんどはダストになってしまいました。

落下した隕石は普通コンドライトのLL に分類され、S型の小惑星に由来するものでした。この隕石の母天体は11億5000万年前頃に急激な加熱か衝突を経験しているようです。

調査チームは、この隕石が、「はやぶさ」が微粒子を持ち帰った小惑星イトカワに似ている点を指摘しています。JAXA の吉川真先生らは、イトカワの軌道の解析から、イトカワは小惑星帯の内側から来た可能性が高いとしています。チェリヤビンスクの隕石もイトカワと同じような軌道をもっています。調査チームは、この隕石やイトカワは同じ母天体に由来するもので、それはフローラ族に属する小惑星の母天体かもしれないと述べています。

月面ローバー、ルノホート1号
Lunokhod 1 on the surface of the moon

『ファイナル・フロンティア』では1960年代の米ソの月着陸競争について書きましたが、本自体のテーマが有人宇宙飛行であったために、当時の月のサイエンスについてはあまり書くことができませんでした。

アポロ計画が月の起源や進化の解明にどれだけ貢献したかはすでに多くの文献に書かれていますが、ソ連のルナ計画で得られた科学的成果については、あまり知られていないのが実状です。そこで、私は今、これについてもう一度勉強しています。

ルナ1号が打ち上げられたのが1959年、ルナ計画最後の探査機となったルナ24号が打ち上げられたのは1976年です。この間に月のリモートセンシングのほか、3度のサンプル・リターンと2度のルノホートによる月面探査が行われました。ルノホートは8個の車輪を持つ無人ローバーで、1号は月面で約10か月活動し、10キロメートルを移動しました。2号は月面で約4か月活動し、37キロメートルを移動しました。

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当時の研究論文をなかなか入手できなかったのですが、ロシアの比較惑星学の第一人者であるアレクサンドル・バジレフスキー先生からたくさんの資料を送っていただきました。その中には、1970年11月に雨の海に着陸したルノホート1号に関する論文がありました。1972年に発表されたもので、バジレフスキー先生も著者の1人になっています。「ルノホート1号による月面探査の結果は、雨の海の探査域に多数のクレーターと岩石片が存在することを示している」とはじまるこの論文からは、当時の月面探査の興奮が伝わってきます。

ルノホートは、搭載されたナビゲーション・カメラで撮影した月面の画像を地球に送ってきました。クリミアのシンフェロポリにあったミッション・コントロール・ルームでは、ルノホートのパイロットが数秒間隔で送られてくる月面の画像を見ながら、操縦をしていました。送られてくるのが連続した映像でない上に、月から地球まで信号が届くのに3秒ほどかかるため、パイロットは障害物を避けながら慎重にルノホートを移動させる必要がありました。

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このコントロール・ルームは軍の管轄で、科学者は立ち入り禁止になっていました。しかし、若かりし頃のバジレフスキー先生は自分の椅子を持って毎日この部屋に入りこみ、その様子を見ていました。「そのときどんな気持ちでしたか?」とメールを送ったところ、バジレフスキー先生からは、次のような返信が来ました。「月面から送られてくる画像を見るのはとてもエキサイティングでした。しかし、同時にそれは自分の仕事でもありました。私は自分がモニター画面で見たもの、岩石やクレーター、あるいはそれらの関係などをずっとノートに書き止めていました」。

ルノホートは多数の月面のパノラマ写真も撮影しました。

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それらの写真からは、何ともいえない月面のリアリティーが感じられます。
ほとんど真上から見た土星
Saturn from high above

カッシーニ探査機が10月10日に撮影したデータから作成された画像です。土星とその環をほとんど真上から見下ろしています。

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この画像は12枚の画像をモザイク合成したものです。作成したのはゴーダン・ウガコヴィックというアマチュアの人で、使用したソフトも市販の画像処理ソフトのようです。各画像の幾何学的補正は完全ではないとのことですが、普通では見ることのできないアングルからの土星とその環の見事なプロポーションを楽しむことが出来ます。
海王星に新しい衛星を発見
New Neptune moon discoverd

海王星に新しい衛星が発見されました。海王星にはこれまで13個の衛星が確認されており、この新しい衛星S/2004 N 1 は14個目となります。

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S/2004 N 1 の直径は約20km で、海王星でこれまで発見された衛星の中で一番小さいものです。海王星から約10万4600km の距離を、1周約23時間でまわっています。衛星ラリッサとプロテウスの間の軌道です。

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7月1日、カリフォルニア州マウンテンビューにあるSETI 研究所のマーク・ショワルターは海王星のかすかなリングの観測を行っている最中に、衛星らしい小さな点を発見しました。そこで、ショワルターはハッブル宇宙望遠鏡が2004年から2009年の間に海王星を観測した150枚以上の画像を調べてみなした。すると、同じ点がくりかえし出現していました。これらのデータから、S/2004 N 1の軌道がわかったのです。
ロシアに落下した隕石:破片の採集と分析が進む
What exploded over Russia?

2月15日、ロシアのチェリャビンスク近郊に隕石が落下したようすは、まるでSF映画を観ているようでした。落下場所の地名をとり、チェバルクル隕石と名づけられています。

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隕石は直径が15〜17メートル、質量7000〜1万トンのコンドライト(石質隕石の仲間)とみられています。コンドライトは太陽系誕生直後の状態を保持した始原天体です。チェバルクル隕石は、約20度という低い角度で大気圏に突入しました。このときの速度は秒速約18キロメートルとみられています。隕石が落下するにつれて進行方向の空気が圧縮され、高温が発生しました。大気圏突入から32.5秒後、高度約20〜24キロメートルで多数の破片に分裂し、そのときの衝撃波が地上に到達して多くの被害をもたらしました。

下は、チェバルクル隕石の落下経路です。

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『ネイチャー』誌の3月7日号によると、専門家チームがロシア科学アカデミーに協力しながら調査を進めており、0.5〜1センチほどの隕石をすでに50個ほど発見したとのことです。また、ロシアの別のチームも調査を行っており、50個以上の隕石を発見しました。その中には重量が約2キログラムのものもあるといいます。初期分析では、大気圏に突入の際の高温で生じた溶融物が観察されています。

今回落下した最大の隕石はチェバルクル湖の湖底にあるとされています。凍結したチェバルクル湖には隕石落下による穴があいており、その周囲から細かい隕石が発見されたと報道されています。

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しかし、この穴に違和感をもった方もいたのではないでしょうか。私たちは木星のガニメデ、カリスト、エウロパなどの氷の衛星の観測から、凍結した場所に小天体が衝突したときに、どのようなクレーターが生じるかを知っています。

『ネイチャー』誌はチェバルクル湖の穴について、「写真で見る限り、隕石落下のクレーターらしくはない。誰かが斧であけた穴のように見える」という専門家のコメントを伝えています。

チェバルクル隕石落下のようすを、大気圏突入時からずっと観測していたのは、CTBTO(包括的核実験禁止条約機関)の核実験監視ネットワークでした。CTBTOの監視ネットワークは大気中で発生した異常な振動をインフラサウンド(人間の耳には聞こえない超低周波音)の領域で高感度に検出することができます。隕石落下はCTBTOの17の観測ステーションで観測されました。

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下はCTBTOのネットワークで得られたデータです。上は検出されたインフラサウンドの波形で、中央の大きく振れているところで、隕石が爆発しました。下は周波数スペクトルです。

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チェバルクル隕石は小惑星帯からやってきた隕石と考えられています。金星の軌道近くにまで達する楕円軌道をとっていました。

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2月15日には小惑星2012 DA14 が地球の近くを通過しました。2012 DA14 とチェバルクル隕石は軌道は下のようなっていました。

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この図からも明らかなように、両者の間に関係はありませんでした。
SELENE シンポジウム 2013
SELENE Symposium 2013

23日からJAXA の相模原キャンパスで開かれているSELENE シンポジウム2013 に来ています。「かぐや」(SELENE)は月の総合的観測を行い、大量の観測データを取得することができました。現在、多くの研究者がこのデータを用いて論文を発表しています。

23日は「グローバル・データ」、24日は「海の形成」、今日は「内部構造」のセッションを聞き、これを書いています。これから「極域」と「今後のミッション」のセッションンがあり、6時30分からは隣の相模原市立博物館で「月・惑星探査講座」が開かれます。

各セッションでの発表を聞いていて私が感じたのは、「日本でもやっと月のサイエンスができるようになった」ということでした。武田弘先生のように、月の石の研究を早くから手がけた研究者もいますが、長い間、日本の月のサイエンスはそれほど活発とはいえない時期がつづきました。その一番大きな理由は、自分たちのデータをもてなかったことです。アポロ計画の石をもち、クレメンタインをはじめいくつもの月探査機のデータをもっているアメリカの研究者と同じ土俵で研究をするのは大変でしたし、若い研究者が育つのも難しい状況でした。

しかし、今や日本の研究者は「かぐや」で得られた世界に誇れるデータをもっています。日本の若い研究者がこれを使って次々と研究成果をあげているのは心強い限りです。また、シンポジウムには海外の研究者も参加し、日本と海外との緊密な交流もみられました。
逆光に輝く土星:カッシーニ探査機からのグリーティング
Glorious view of Saturn for the holiday season

2004年から土星を周回しているカッシーニ探査機からの、素晴らしい土星の画像が公開されました。

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この画像は土星を太陽のちょうど反対側から、さらに土星の環の下側から撮影したものです。太陽も地球も、土星のために隠されています。このアングルで土星をとらえることができたのは、カッシーニのこれまでの観測ではじめてでした。逆光のため、土星の環と大気を細かく観測することができます。

撮影は今年の10月17日に行われました。カッシーニのチームはホリデーシーズンに合わせて、60枚のデータからなるこのモザイク画像を作成してくれました。
NASA の新しい火星ローバー
NASA will launch a new Mars rover in 2020

NASA は2020年に新しい火星ローバーを打ち上げると発表しました。

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現在、火星ではキュリオシティーが本格的な探査活動のために観測装置の試験を行っています。また、オポチュニティーも活動を計画しています。NASA は2018年にMAX-C とよばれる火星ローバーの打ち上げを計画していました。MAX-C は火星の生命探査のためのローバーで、NRC(国家研究評議会)が昨年発表した今後10年間(2013〜2022年)の惑星探査構想、いわゆる「ディケーダル・サーベイ」でも火星探査の大型ミッションとして、木星エウロパ・オービター(JEO)ミッション、天王星オービター・プローブ・ミッションとともに、最優先に位置づけられていました。ESA の火星ローバーExoMars と同時打ち上げを目指していましたが、2011年に、NASA は予算削減のために計画をキャンセルし、ExoMars からも手を引くこととしました。

NASA は2013年に火星大気の散逸過程を調べる周回機MAVEN を打ち上げ、2016年には火星の内部構造を調べるInSight を打ち上げ、火星に着陸させる予定です。2018年に大型の火星ローバーを打ち上げることはできなくなってしまいましたが、キュリオシティーの着陸成功を踏まえ、2020年に新しいローバーを打ち上げることにしたようです。ローバーはマーズ・サイエンス・ラボラトリー(キュリオシティー)をベースにつくられますが、搭載する科学機器はまだ決まっていません。

NASA が火星探査に力を入れているのは、2030年代半ばに、人間を火星周回軌道に送ることを目指しているためです。火星探査の分野では常に世界の最前線を進んでいたいと考えているわけです。
月の成因:ジャイアント・インパクト説を支持
Zinc isotope:Consistent with Giant Impact Theory

『ネイチャー』誌10月18日号に、月がジャイアント・インパクトによってできたとする説を支持する論文が発表されています。

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月の成因については、古くからいくつもの説がだされています。|狼紊鳩遒聾胸和斥朷榔瀏廚ら同じ時期に、同じようなプロセスで誕生した、月は太陽系の別の場所で誕生したが、その後、地球の引力によって捕獲された、7遒話狼紊琉貮瑤分裂して誕生した、などです。しかし、アポロ計画によって、これらの説では説明できないことがいろいろわかってきました。現在有力なのは、今から約45億年前に、火星ほどのサイズの天体が原始地球に衝突して月ができたとするジャイアント・インパクト説です。天体は地球に斜めに衝突したために、岩石は溶融し、一部は蒸気となって地球を周回する円盤を形成しました。そこから物質が再度集積して月ができたというわけです。

月の岩石は地球の岩石にくらべて、水やナトリウムなどの揮発性成分がきわめて少ないことが明らかになっています。衝突によって揮発性成分が宇宙空間に逃げて行ってしまったと考えれば、これを説明できます。

ワシントン大学のRandal C. Paniello らは、中程度の揮発性をもつ亜鉛に着目し、アポロ計画でもち帰られた月の石、火星から飛来した隕石、および地球の火成岩にふくまれる亜鉛の同位体(亜鉛64、亜鉛66、亜鉛68)の量を精密に測定しました。その結果、亜鉛64と亜鉛66 の比をみると、月の岩石では重い同位体である亜鉛66 の量が多いことがわかりました。また、月の岩石の亜鉛の量は、地球や火星の火成岩にくらべて、少ないことがわかりました。これらの結果は、月が衝突によって形成されたとき、亜鉛の軽い同位体である亜鉛64 が亜鉛66 よりも多く宇宙空間に逃げていったと考えることで説明できます。
火星の青い日没
Sunset on Mars:A Moment Frozen in Time

火星の景色が実際にどんな色に見えるのか、多くの方が関心をもたれる点だと思います。科学者がこの問題をどう解決しているかは、先日書きましたが、今日はあるテレビ局から、「昼間の火星の空はピンク色なのに、夕焼けが青くなるのはなぜか」という質問の電話をいただきました。

下の画像は、オポチュニティーが2004年に撮影した火星の日没の画像です。確かに、火星に夕焼けは青色でした。

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スピリットとオポチュニティーのパノラマカメラは、対象物を3色のフィルターで撮影し、人間の目で見たものに近い色調を再現しています。この場合、可視光の赤・緑・青ではなく、750nm(近赤外)、530nm(緑)、430nm(紫)のフィルターを使って撮影します。したがって、上の画像は、正確にはフォールス・カラーなのですが、できる限り人間の目に近い色になるような処理をしています。

なぜ、このような青色になるのでしょう。

地球では、太陽からの光は大気分子によって散乱されます。このとき、散乱される度合いは青い光の方が赤い光より大きいため、私たちには空が青く見えます。一方、太陽からの直射光には、散乱によって青い色の成分がなくなっています。夕焼けになると、太陽光は大気層を長く通ってくることになります。その間に、青い光はなくなってしまうため、夕焼けは赤くなります。

火星の大気は地球にくらべて150分の1程度と非常に薄いので、大気分子により散乱はほとんどありません。一方、大気中に浮かんでいるダストが太陽光を散乱させているのですが、ダストは赤い色をより散乱させます。そのため、火星に空はピンク色ないしオレンジ色に見えるのです。太陽が傾くと、太陽光は火星の大気層をより長く通ってきます。その間に赤い光はなくなってしまいます。そのため、太陽を真正面から見ると、太陽の方向からくる青い光が散乱され、夕焼けが青く見えるのです。

下の画像は、スピリットが2005年5月19日に撮影した火星の日没です。やはり夕焼けが青く写っています。太陽から離れた空に少し赤みが入っていますが、これは、近赤外・緑・紫のフィルターの組み合わせのためです。

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“A Moment Frozen in Time” と題されたこの画像は、スピリットが撮影した画像の人気投票で1位になりました。私もこの画像が大好きで、長い間、PCの壁紙に使っていたものです。
火星探査機キュリオシティー:火星の過去を語る地層の重なり
Mount Sharp:strata above and below

マストカメラが撮影した高解像度の画像が発表されるようになりました。軌道上からの観測ではわからなかったゲール・クレーターのさまざまな地形が、これから明らかになっていくでしょう。

下の画像は、ゲール・クレーターの中央にそびえるシャープ山の裾野のクローズアップで、まるでグランドキャニオンのような地層の重なりが見られます。このような地層の堆積には、おそらく何億年もの長い時間がかかります。しかも、その間、液体の水が存在しなければなりません。シャープ山の地層の調査は、火星の過去を解き明かす上で貴重な情報を与えてくれる可能性があります。

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下の画像は、やはりシャープ山の裾野を撮影したものです。この画像では、白い点で結ばれる線にそって、地層が不連続になっていることがわかります。このような地層の不連続は「不整合」とよばれます。不整合面の下では、地層はほぼ水平に重なっていますが、不整合面の上の地層は斜め(左上から右下)になっています。こうした不整合ができるには、地質学的に何か大きな出来事が必要です。いったい、この不整合ができたとき、火星では何がおこったのでしょうか。

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これらの画像は、キュリオシティーから送られてきた画像(Raw image)の色調を強調したり、ホワイト・バランシングを行って、地球の自然光で見たときの色調にしています。下が加工前の Raw image の例です。

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下の画像は、これを私がカラー補正したものです。RGB のバランス、コントラスト、ガンマ値などを調整し、スピリットやオポチュニティーのパノラマカメラの画像と同じような色調にしてみました。


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私たちがゲール・クレーターに立ってシャープ山を眺めると、きっとこのように見えるでしょう。
火星探査機キュリオシティー:マーズダイアル(2)
Mars Dial (2):We wish a safe journey and the joy of discovery

キュリオシティーのマーズダイアルには、いくつかのメッセージが描かれています。下は、マーズダイアルを上からみた図です。

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円盤の一番外側には「MARS 2012」「TO MARS」「TO EXPLORE」と書かれています。同心円は、完全な円ではなく、中心の位置が少しずれているのがわかります。これは、一番外側の円が火星の軌道をあらわしているからです。その内側の円が地球の軌道をあらわしています。火星が赤の点で、地球が青の点で示されています。この円盤に丸い影を落とす真ん中の球が、太陽です。円盤の周囲には、16の言語で火星を意味する言葉が書かれています。もちろん漢字の「火星」もあります。

マーズダイアルの四角い基盤の各側面には、下のような絵が描かれています。火星探査の歴史を示したものです。

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大昔から、火星は人間の想像力をかきたて、赤い不思議な星、ときには戦争をもたらす星と考えられていました。天体望遠鏡の時代になると、火星には四季が存在するのではないかと考えられるようになりました。探査機が火星に到達すると、火星にはかつて水が存在したことが明らかになりました。最後の絵では、火星探査は新しい段階に入り、キュリオシティーが火星に生命の痕跡を探しに来たことが示され、安全な旅と発見を願っています。
火星探査機キュリオシティー:マーズダイアル(1)
Mars Dial (1):The true color

マストカメラでのカラー撮影に重要な役割をはたすのが、マーズダイアルです。マーズダイアルは基本的には日時計(サンダイアル)で、キュリオシティーのデッキに取り付けられています。

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マストカメラのクリア・モードで撮影を行うと、人間の目で見て自然なトゥルーカラー画像が得られます。しかし、その色が厳密に「本当の色」なのかどうかを考えてみると、難しい問題があることに気がつきます。火星の風景を実際に自分の目で見た人間はまだいないからです。

地球の空はレイリー散乱によって青く見えますが、火星では大気中を舞っている細かいダストが赤い光をより散乱するため、空はピンク色に見えます。そのため、火星の風景も赤みをおびて見えます。また、太陽の明るさは地球の半分以下です。地球上では自然な色に撮れるカメラであっても、こうした条件下で同じように自然な色を再現できるという保証はありません。

この問題を解決する方法は、あらかじめわかっている色を火星にもっていくことです。こうした考えから、1976年に火星に着陸したバイキング探査機にはカラーチャートが取り付けられていました。地球に送られてきた写真を、このカラーチャート通りに再現させれば、実際の火星の色が得られます。

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1997年に火星に着陸したソジャーナー、2004年に着陸したスピリットとオポチュニティー、そしてキュリオシティーで色の補正に用いられているのが、マーズダイアルです。下は、スピリットのマーズダイアルで、今回もほとんど同じものがキュリオシティーに搭載されました。

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マーズダイアルの基盤の四隅は、赤、青、緑、黄色に塗られており、これをカラーバランスの調整に用います。また日時計部分は、同心円状のグレーの円盤に、丸い影が落ちるようになっています。これは日影の色を見るためのもので、火星の空の色の影響を除く際に有効です。

こうしたカラー調整は、当然のことながら、マストカメラの他のフィルターを用いた特定の波長での撮影にも必要です。先日も紹介したマストカメラのフィルターのチェック画像で、どの画像にもマーズダイアルが写っていたのはそのためです。

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マストカメラでの実際の撮影では、まずマーズダイアルを撮影した後、対象物の撮影を行い、撮影終了後、もう一度マーズダイアルを撮影します。

なお、今回発表されているマストカメラの画像では、「ホワイト・バランシング」を行った画像も一緒に公開されています。ホワイト・バランシングは市販のデジカメでも使われている、色のかぶりを取り除く処理です。ホワイト・バランシング後のキュリオシティーの画像は、火星の地形を地球にもってきて、自然光の中で見たときの色を示しています。
キュリオシティー着陸地点の名はブラッドベリに
Bradbury Landing:Science team named the location where Curiosity touched down

NASAはキュリオシティーの着陸地点がブラッドベリと名づけられたと発表しました。キュリオシティー科学チームの案を了承したものです。

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NASAの惑星探査計画の熱心な支持者であった作家のレイ・ブラッドベリは、今年6月に亡くなりました。NASAのキュリオシティー計画プログラム・サイエンティストのマイケル・メイヤーは、「これは科学チームにとって難しい選択ではなかった」と述べています。

NASAのサイトには、1971年11月12日にJPL で行われたパネル・ディスカッションでの彼の映像が再びアップされています。
火星探査機キュリオシティー:マストカメラ
Curiosity’s Mastcam:New views on Mars

マストカメラは左右2台のカメラで構成されています。右側に置かれたマストカメラ-100(下の写真右)は、焦点距離100mm、f/10で、解像力は距離2m で0.15mm、1km で7.4cm です。左側に置かれたマストカメラ-34(下の写真左)は、焦点距離34mm、f/8で、解像力は距離2m で0.45mm、1km で22cm です。両者とも1200×1200ピクセルの画像を取得できます。

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スピリットとオポチュニティーに搭載されたパノラマカメラでは、3原色のフィルターで別々に撮影を行い、カラー画像を生成していました。マストカメラではベイヤー配列のカラーフィルターが用いられ、1回の撮影でカラー画像が得られます。マストカメラは私たちが日常使っているデジカメと基本的に同じカメラということができます。

赤外域をカットするフィルターを用いた「クリア」の状態で撮影すると、人間の目で見て自然な色に近い「トゥルーカラー」の画像が得られます。マストカメラではさらに8種類のフィルターを使った撮影も可能です。マストカメラ-100 のフィルターの波長は440nm、525nm、550nm、800nm、905nm、935nm、1035nm、ND(太陽撮影用)です。マストカメラ-34 のフィルターの波長は440nm、525nm、550nm、675nm、750nm、865nm、1035nm、ND(太陽撮影用)です。440nm は青、525nm と550nm は緑、675nm は赤に該当します。750nm以上は近赤外の領域です。各フィルターは、受光部の前に置かれたフィルター・ホイールという円盤状の装置に装着されています。

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マストカメラでは、トゥルーカラー以外に全部で10の特定の波長で地形を撮影することが可能ということになります。左右のカメラで共通しているのは440nm、525nm、550nm、1035nmです。これらの波長は観測にとって特に重要と位置づけられており、どちらかのカメラが故障した場合を想定して、両方のカメラに採用されました。

下はsol 3(火星着陸3日目)に送られてきたマストカメラの画像です。各フィルターのチェックを行っているのがわかります。

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マストカメラは3D 撮影、および1280×720ピクセル、1秒あたり10フレームのハイビジョン撮影もできます。

マストカメラによって、ゲール・クレーターの地形の詳細や地層の細部構造、岩石層の特徴など興味深い観測結果が得られるでしょう。今まで見たことのない素晴らしい火星の風景が送られてくるのも楽しみです。
火星探査機キュリオシティー:科学観測装置
Curiosity’s ten science instruments

火星に着陸したキュリオシティーには、10種類の科学観測装置が搭載されています。それらについて、説明しましょう。マストカメラについては、別に詳述します。

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Mastcam(マストカメラ)
火星の地形や地層をカラーで観測するためのカメラです。

ChemCam(化学分析カメラ)
レーザー光を使って化学分析を行う装置です。

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ChemCam は大きく2つの部分から構成されています。1つは、レーザー光を発射し、分光観測を行う装置LIBS です。測定を行う対象物に5ナノ秒間隔でレーザーパルスを当て、照射された個所の原子やイオンをプラズマ化させます。そのプラズマの発する光を望遠レンズでとらえ、光ファイバーで分光計に導き、どのような原子であるかを調べます。結果がすぐにでる点が特長で、水や含水物の発見にも威力を発揮すると考えられます。
 もう1つの装置は、撮像装置BMI です。このカメラの役割は、測定対象物を撮影し、レーザー光を照射した個所を撮影することにあります。

APXS(アルファ粒子X線スペクトロメーター)
火星の岩石や土壌の成分分析に用いるAPXS はスピリットやオポチュニティーでも活躍しました。キュリオシティーにはその改良型が搭載されています。

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センサー部分は、キュリオシティーのロボットアーム先端にあり、これを測定対象物に接近させて測定を行います。アルファ粒子源にはキュリウム244 が用いられています。アルファ粒子が衝突して発生したX 線を検出します。分析装置自体はローバー本体内にあります。

MAHLI(高解像度接写撮像装置)
ロボットアームの先端に取り付けられた高解像度のカラー撮像装置で、地質学者が用いるルーペのかわりになって、岩石や土壌の拡大画像を撮影します。

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解像度は2.5cm 離れた場合で15マイクロメートルです。ハイビジョン映像の撮影も可能です。白色のLED を用いて夜間に撮影することや、紫外光LED を用いて蛍光物質の測定を行うことも可能です。

CheMin(化学・鉱物測定装置)
採取した火星の岩石や土壌のサンプルを分析し、どのような鉱物から構成されているかを測定する装置です。

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ロボットアームの先端にはSA/SPaH(サンプル採取・処理・ハンドリングシステム)が搭載されています。これによって採取されたサンプルはCheMin の小さなセル内に装荷されます。これをX 線回折装置で分析します。セルはサンプルホイールとよばれる円盤の外周部分に32個並んでいます。このうち27個のセルは再利用が可能で、ミッション期間中に74回のサンプル分析が行われることになっています。

SAM(サンプル分析装置)
火星の岩石や土壌のサンプルを採取し、生命に関係する物質を検出するために用いる装置です。キュリオシティーによる探査目標の1つは、火星に存在したかもしれない生命の痕跡を調べることであり、今回のミッションで非常に重要な観測装置の1つです。SAM には質量分析計、ガス・クロマトグラフィー、レーザー・スペクトロメーターが搭載されています。

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粉状にした岩石のサンプルや土壌は、SAM 内の小さなサンプル容器に装荷されます。サンプル容器は全部で74個あり、再利用が可能。容積は0.78立方cm です。容器内のサンプルは約1000度C まで加熱されます。これによって発生したガスはガス・クロマトグラフィーにかけられ、有機物の検出が行われます。検出された有機物は質量分析計でくわしく調べられます。質量分析計は、サンプルからのガスに含まれている炭素以外の生命の関係した元素、たとえば窒素、リン、硫黄、酸素、水素なども測定します。レーザー・スペクトロメーターで同位体比の測定も行います。
 SAM には火星大気の取り入れ口もあり、ここから採取した大気サンプルをレーザー・スペクトロメーターで分析することも行われます。大気中の二酸化炭素の酸素同位体比(酸素18と酸素16)や炭素同位体比(炭素13と炭素12)の測定、微量に含まれるメタン濃度の測定などを行います。こうしたデータは火星環境の変遷を知るために有用です。

REMS(環境モニタリング・ステーション)
火星環境を毎日モニタリングする気象観測ステーションといえるものです。

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風向、風速、気圧、相対湿度、気温、地表面温度、紫外線量を測定します。紫外線測定装置以外のセンサーは、マストの途中に取り付けられています。紫外線のセンサーは、ローバーのデッキにあります。

RAD(放射線測定装置)
火星表面での放射線被ばくを調べるための装置です。

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太陽や宇宙から飛んでくる高エネルギー粒子の量を測定し、将来の火星有人探査に必要なデータを取得することを目的としています。また、火星にかつて存在したかもしれない生命と放射線との関係を解明するデータとしても期待されています。

DAN(中性子反射率測定装置)
表面下に含まれる水分(氷、含水物)を調べる装置です。

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水素に中性子が当たると減速することを利用して、水の検出を行います。DAN は宇宙線中性子の反射を検出するほか、自らも中性子源をもっているので、アクティブおよびパッシブの両方のモードで測定を行えます。

MARDI(火星降下撮像装置)
火星の着陸する直前に、真下の地形をとらえるための撮像装置です。

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着陸時の映像取得に成功しました。

MARDI 以外は今後活躍する装置で、現在は初期チェックが行われています。
火星探査機キュリオシティー:初期チェック進む
New view from Mars

マストカメラのサムネイル画像から作成したカラーパノラマ画像が発表されました。本番の解像度の画像は、これよりはるかに鮮明になるはずですが、それでも、このカラー画像を見ると、「やはりここは火星だ」と感じます。スピリットが着陸したグゼフ・クレーターやオポチュニティーが着陸したメリディアニ平原とはまた別の風景が広がっていました。

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キュリオシティーに搭載されている科学観測機器の初期チェックも順調に進んでいます。

火星を周回するNASA のMRO は、パラシュートを展開して降下するキュリオシティーの姿を軌道上からとらえました。この画像はすでにご覧になった方も多いでしょう。

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これを撮影したカメラHiRISE のサイトでは、これをより鮮明に処理した画像が発表されています。

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8月6日のキュリオシティー火星着陸の詳しいタイムラインも発表されました。いずれも日本時間にしてあります。

火星での時刻
大気圏突入 午後2時10分45.7秒
パラシュート展開 午後2時15分04.9秒
ヒートシールド分離 午後2時15分24.6秒 
スカイクレーン開始 午後2時17分38.6秒
タッチダウン 午後2時17分57.3秒

地球で受信した時刻
大気圏突入 午後2時24分33.8秒
パラシュート展開 午後2時28分53.0秒
ヒートシールド分離 午後2時29分12.7秒
スカイクレーン開始 午後2時31分26.7秒
タッチダウン 午後2時31分45.4秒
火星探査機キュリオシティー:火星からの初期画像
Early images from Curiosity

キュリオシティーは目的地であるゲール・クレーター内に着陸しました。着陸地点は、設定された着陸楕円の中心からわずか2km しかはなれていない場所(下の画像の緑色の点)で、まさにピンポイントの着陸に成功したことになります。下の画像で、右下の矢印は、ゲール・クレーターの中央丘であるシャープ山(Mt. Sharp)の方向を示しています。

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下の画像は、後部左側の障害物回避カメラが撮影したものです。最初に送られてきた画像に比べて鮮明になっているのは、ダストが付着していた保護カバーを外したためです。この画像を見ると、キュリオシティーが着陸した場所はかなり平坦です。車輪の状態からすると、表面は固いようで、多くの小石が見られます。キュリオシティーは現在、初期チェックの段階で、画像の多くは本来より低い解像度で送られてきます。この画像も、本来の解像度の2分の1で送られてきました。

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下の画像は、前部左側の障害物回避カメラが撮影したものです。魚眼レンズで撮影した画像を、地平線が水平になるように処理してあります。こちらは本来の解像度で撮影されました。そのため、着陸地点の表面の様子は鮮明で、キュリオシティーが今後その斜面を登攀することになる高さ5400m のシャープ山もくっきり見えています。

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着陸地点とシャープ山の位置関係は下の画像の通りです。

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下の画像は、キュリーシティーのロボットアームの先端についているMAHLI が撮影したものです。MAHLI は本来、サンプルの近接撮影に用いるものですが、焦点距離は無限大まであるので、火星の風景を撮影することも可能です。着陸地点の北の方向、ゲール・クレーターの縁が写っていますが、ダストカバーを付けたままなので、画像は鮮明ではありません。

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下の画像は、キュリオシティーが着陸する直前に、MARDI が撮影したものです。画像の右半分に見える楕円形の模様は、キュリオシティーの降下段のエンジン噴射によって、火星の細かい砂が吹き払われてできたものです。このとき、キュリオシティーの高度は約20mでした。これはサムネイル画像で、実際はもっと鮮明な画像が得られているはずです。

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MARDI のサムネイル画像297枚をつないだ、着陸の瞬間までの2分半の動画も発表されていますが、残念ながら画面が鮮明ではありません。いずれ、鮮明な動画が発表されると思います。
火星探査機キュリオシティー:17個のカメラ
Seventeen Cameras on Curiosity

今後火星から送られてくる画像がどのカメラで撮影されたものであるかを理解するために、キュリオシティーが搭載しているカメラとその位置について説明しましょう。キュリオシティーには全部で17個のカメラが搭載されています。

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キュリオシティーには本体からマストが立っており、その先端には3種類のカメラがついています。マスト先端は火星表面から約2mの高さになります。

マストカメラ(Mastcam)は、火星表面を高解像度でカラー撮影するカメラで、右側のカメラ(M-100)は焦点距離100ミリ、左側のカメラ(M-34)は焦点距離34ミリです。両者ともハイビジョン動画の撮影が可能なほか、両者を同時に用いて3D 画像を取得することも可能です。地形や地層の科学観測に威力を発揮するでしょう。

マストカメラの隣には、それぞれ2個のカメラをもつナビゲーションカメラ(Navcams)があります。このカメラはキュリオシティーが移動する際の地形情報取得に用いられます。

マストの一番高いところにあるのがChemCam です。岩石にレーザー光を照射し、プラズマ化させたガスから、対象物の成分を調べるための装置です。

キュリオシティーの本体下部には、前後に障害物回避カメラ(Hazcams)が搭載されています。それぞれ左右2個ずつのカメラが配置されています。上の図では後部カメラは見えていません。キュリオシティーの走行の邪魔になる障害物を検知したり、車輪と砂の噛み具合を見たりします。火星から最初の画像を送ってきたのは、このカメラでした。

キュリオシティーは科学観測機器を搭載したロボットアームをもち(上の画像では、アームはたたまれた状態)、その先端にMAHLI があります。これは岩石や砂のクローズアップ画像を撮るための高解像度接写カメラです。

MARDI は、キュリオシティーが火星着陸した際に最後の4分間作動し、着陸地点周辺を高解像度で撮影したカメラです。このデータによって、着陸場所およびキュリオシティーが移動する場所の地形を詳しく知ることが可能です。着陸までの連続動画は、きっとエキサイティングなものでしょう。
火星探査機キュリオシティー:着陸に成功
Curiosity has landed!

NASA のマーズ・サイエンス・ラボラトリー「キュリオシティー」が、火星着陸に成功しました。日本時間の午後2時32分に着陸が確認されました。NASA の惑星探査技術のレベルの高さを見せつけられた、見事な着陸でした。

前にも書いたように、火星からの信号が地球に届くには約14分かかります。火星大気への突入から着陸までを、NASA の関係者は「恐怖の7分間」とよびます。キュリオシティーが火星大気に突入した信号を地球が受信したときには、キュリオシティーがこのクリティカルな7分間をうまく切り抜けて着陸に成功したか否かの結果は出ているという中で、JPLの管制室で多くの関係者が手に汗をにぎって信号を見守ったわけです。

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下はキュリオシティーが着陸直後に送ってきた最初の画像です。左は、キュリオシティーの後部左側の障害物回避カメラが撮影したものです。魚眼レンズのため、火星の地平線が丸く写っています。また、右にキュリオシティーの車輪が見えています。右は前部左側の障害物回避カメラが撮影したものです。火星表面にキュリオシティーの影が落ちているのがわかります。両者の画像とも、火星のダストからレンズを保護するカバーがまだ外されていないため、ダストも一緒に写っています。

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火星着陸の様子は、NASA からライブ配信され、キュリオシティーの様子が刻々と画面に表示されました。下は、キュリオシティーが火星大気に突入したエントリー・インターフェイス直後(14.6秒後)の画面です。CG 画像にキュリオシティーのデータが表示されています。着陸予定地点までの距離は367.93マイル(約590km)、高度は70.38マイル(約110km)、速度は時速1万3099マイル(秒速5800m)、タッチダウンまでの時間は6分56秒と表示されています。

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下は、カプセルが誘導降下を行っているところです。秒速900m、10G をこえる加速度がかかっています。

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下は、パラシュートを展開して降下をはじめたところです。秒速194m まで速度は落ちており、高度は約11km となりました。

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下は、スカイクレーンによる降下段階です。降下速度は秒速0.82m と、計画とほぼ同じ速度になっています。高度は17m です。

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キュリオシティーが着陸した場所に関する情報が確認されるには、もう少し時間がかかるようです。
火星探査機キュリオシティー:8月6日に火星に着陸
Curiosity’s seven minutes:Entry, Descent, & Landing

2011年11月26日に打ち上げられたNASA のマーズ・サイエンス・ラボラトリー「キュリオシティー」が、日本時間で8月6日午後2時31分に火星に着陸します。

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着陸予定地点は直径約150km のゲール・クレーターで、設定されている着陸楕円は長さ20km、幅7km です。

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キュリオシティーの火星大気突入・降下・着陸(EDL:Entry, Descent and Landing)は以下のように行われます。

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火星大気突入10分前に航行段が分離され、キュリオシティー内のEDL 装置が作動します。火星大気突入9分前、スラスターを噴射してキュリオシティーのスピンをとめ、大気突入姿勢に入ります。さらに、キュリオシティーの中心軸上に重心を設定するために用いていた2個のウェイトを分離します。これによって、キュリオシティーのカプセルは火星大気内で揚力を生むことが可能となります。

火星大気突入から着陸までの時間は7分間です。キュリオシティーの高度が火星中心から3522km になったところで、EDL モードが開始されます。このときのキュリオシティーの速度は秒速5900m。火星の大気は地球の100分の1程度の薄さですが、猛スピードで突入してくるキュリオシティーが大気を圧縮し、高温のプラズマが発生します。その温度は突入後75秒で2100度C に達します。その10秒後には最大加速度(10〜11G)となります。キュリオシティーはスラスターの噴射で姿勢を微調整しながら降下します。また速度を落とすためにS 字ターンも行います。もちろん、これらはキュリオシティーのコンピューターによって自動で行われます。

誘導降下マヌーバーが終わると、さらに別のウェイトが分離され、キュリオシティーの重心はふたたび中心軸に戻ります。その直度、直径16m のパラシュートが開きます。このとき、キュリオシティーは高度約11km、速度は秒速約400m です。その24秒後、キュリオシティーを高熱から保護していた前面ヒートシールドが分離されます。このとき、高度約8km、秒速125m です。前面ヒートシールド分離と同時にMDI(火星降下イメージャー)が着陸地点の高解像度映像を撮影しはじめます。撮影は着陸まで続けて行われます。また、レーダーが作動し、高度の計測を開始します。

前面ヒートシールド分離の85秒後、キュリオシティーと降下段はパラシュートと背面ヒートシールドを分離して、さらに降下を続行します。このとき、高度1.6km、秒速80m。降下段の8基の逆噴射ロケットが点火され、動力降下がはじまります。秒速が0.75m になったところで、降下段はこの速度を維持します。4基のロケットが停止され、キュリオシティーはナイロンのケーブルで降下段から降ろされていきます。これが「スカイ・クレーン」です。着陸まであと12秒です。

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着陸の直前、キュリオシティーのサスペンションと車輪が作動し、所定の位置につきます。センサーが着陸を検知すると、ケーブルが分離され、降下段は着陸地点から飛び去ります。

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キュリオシティーは重量約900kg で、スピリットやオポチュニティーの約5倍の重さです。この探査機をピンポイント着陸させるためには、高度な技術が必要です。

着陸の様子はNASA からウェブ配信される予定です。火星からの信号が地球に届くために、約14分かかることに留意してください。
衛星タイタンの赤道域にメタンの湖が存在
Titan:Methane lakes in Shangri-La

カッシーニ探査機が観測した土星の衛星タイタンの新しい画像が発表されています。上が北で、土星とは反対側の面が見えています(土星をまわるタイタンの公転周期は自転周期と同じなので、地球の月と同じように、タイタンはいつも同じ面を土星に見せています)。背景の白い線は、ほぼ真横から見た土星の環です。

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この画像は波長938ナノメートルの近赤外域でとらえた姿です。タイタンの大気は可視光から赤外域では不透明で、表面を見ることはできませんが、波長930ナノメートルあたりは、表面を見ることが可能ないくつかの「窓」の1つです。赤道域に黒く見えているのは「シャングリラ」と名付けられた領域で、ホイヘンス・プローブは、この領域のすぐ西に軟着陸しました。シャングリラの東には、ザナドゥーと名づけられた大陸があります。

『ネイチャー』誌の6月14日号には、このシャングリラに、メタンの湖が存在するらしいという論文が発表されています。

タイタンには全球に分布させると深さ5メートルになる量のメタンが存在しますが、ほとんどは大気に含まれています。これまでのレーダー観測では、液体のメタンは北極域および南極域にしか発見されていませんでした。赤道域の液体のメタンは蒸発して、風によって極域に運ばれ、そこで冷却されて凝結して表面に降り、メタンの湖をつくるというのが、これまでのタイタンの大気モデルで説明されてきたことです。

アリゾナ大学月惑星研究所のケイトリン・グリフィスらのグループは、シャングリラの北緯20度から南緯20度の間の領域について、近赤外スペクトルの画像を解析し、液体のメタンが存在するとみられる40キロメートル×60キロメートルほどの楕円形の領域を見つけました。下の画像の黄色の矢印(一番右側)がその場所です。このような場所は、それ以外にも4か所見つかっており、下の画像には、それらの場所も矢印で示されています。

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これらのメタンの湖の深さは、1センチメートルから2メートル程度です。上に述べた楕円形の領域は、カッシーニによって2004年から観測されており、少なくとも1万年にわたって永続的に存在しているとみられます。湖をつくるメタンが大気から供給されたとは考えられず、おそらく地下になんらかの供給源があるものと、グリフィスらは考えています。タイタンはこれまで考えられていた以上に、複雑な天体のようです。
哀悼:レイ・ブラッドベリ
Ray Bradbury:A mindless abyss of stars ask to be discovered

SF作家で詩人のレイ・ブラッドベリが亡くなりました。91歳でした。私も彼の大ファンでした。

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ブラッドベリはNASA の惑星探査のよき理解者でした。JPL(ジェット推進研究所)のイベントにはよく顔を出していたといわれます。1971年11月12日、マリナー9号が火星周回軌道に入る前夜に、JPL では ”Mars and the Mind of Man” というパネル・ディスカッションが行われました。パネラーは、レイ・ブラッドベリ、アーサー・C・クラーク、カール・セーガン、ブルース・マーレイ、ウォルター・サリバンなど、超豪華な顔ぶれでした。

現在、このときのブラッドベリの大うけしたスピーチの一部がネット上に公開されています。『火星年代記』の作者である彼は、ここで、こんなふうに語っています。「僕は今、何をしようとしているのかな。ここに集まっている人の中で、一番科学知識がない人間なんだ」「数年前、10歳の少年がやってきて『ブラッドベリさん、『火星年代記』の92ページに、火星の月は東から上ると書いてありますが、本当ですか?』と聞いた。僕が『そうです』というと、『ちがいますよ』といわれてしまった」(笑)。(衛星フォボスは火星の自転速度よりも速く火星をまわっているので、火星表面から見ると、フォボスは西の空からのぼり、東に沈んでいく)「火星の表面が明らかになってきたここ数日というもの、僕は、たくさんの火星人が大きなサインの横に立って、『ブラッドベリは正しかったぞ!』といっているところを期待していたんだ」(笑)。

NASA のウェブサイトには、ブラッドベリが2000年にNASA のArt Program のために書いたエッセイが紹介されています。

「私たち人間がいなければ、NASA がなければ、宇宙は見られず、知られず、触れられることがない。星々の深淵は発見されることを求めている」
「地球上の生き物はいつか暑さか寒さのために滅びてしまうだろう。私たちは他の世界へ、他の星へ旅立つ準備をしなくてはいけない」
「最初は月、次は火星、そしていつの日かアルファ・ケンタウリの近くの星に」
「NASA はそれができるだろうか? どちらが先に来るとしても、私たちはNASA と一緒に歩み、何百万年も生きながらえることができるだろうか?」
「私たちはできる、そうしたいと思う、そうしなくてはならない!」

私にとってブラッドベリは、惑星探査や人類の宇宙への進出を、人類の未来という広い視野に立って考えていくべきであることを教えてくれた作家でした。
カロリス・ベイスン:太陽系最大級の衝突跡
Caloris Basin:One of the Largest Impact Basins in the Solar System

太陽系の一番内側をまわる水星の探査は、1974〜75年のマリナー10号以来しばらく行われませんでしたが、2004年に打ち上げられたNASA の水星探査機メッセンジャーは3回の水星フライバイ(2008年1月、2008年10月、2009年9月)をへて、2011年3月に水星を周回する軌道に入り、興味深いデータを次々と送ってきています。

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最近、カロリス・ベイスン(カロリス盆地)の全貌を示す高解像度モザイク画像が発表されました。

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カロリス・ベイスンは太陽系最大級の衝突跡です。今から約38億年前の後期重爆撃期の大衝突でできたと考えられています。月の巨大ベイスンと同じように、衝突によってできたくぼみを、その後溶岩が埋めたために、平坦な地形ができました。ただし、衝突跡を埋めた溶岩は月のように暗くはなく、アルベド(反射能)は周囲よりも高く、明るく見えます。カロリス・ベイスンのほぼ中央には放射状に溝が分布した地形があり、パンテオン・フォッサとよばれています。この溝はカロリス・ベイスンの拡大によってできたと考えられています。パンテオン・フォッサの中心にはアポロドーロスという直径40km のクレーターがあり、このクレーターがパンテオン・フォッサをつくったように見えますが、両者は関係なく、パンテオン・フォッサの方が古い地形です。アポロドーロスの南東には直径100km のアジェというクレーターがあり、その周囲は衝突の際の噴出物でおおわれています。古い地形のわりに、クレーターが少なく、平らな表面が残っているのもカロリス・ベイスンの特徴です。

下の画像は、カロリス・ベイスンの画像を色処理したもので、ベイスンとその周囲の物質の違いが際立って示されています。

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カロリス・ベイスンは1974年にマリナー10号によって発見されました。下の画像がそのときのものです。このとき、マリナー10号はカロリス・ベイスンの東の部分をとらえただけで、ベイスン本体は影の部分に入っていて、撮影することができませんでした。

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2008年にメッセンジャーによってカロリス・ベイスンの全体像が明らかになりました。その結果、ベイスンの直径はマリナー10号の画像からの推測値である1300km よりも大きく、1550km であることが明らかになりました。水星の直径の約4分の1の大きさです。

マリナー10号の画像の画像でよく見えているように、カロリス・ベイスンは衝突によってできた多重リングをもっており、直径930km の月のオリエンターレ・ベイスンに似ています。

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しかし、カロリス・ベイスンは月の巨大クレーターやベイスンとはことなる特徴を多くもっているようです。パンテオン・フォッサのほかにもいくつかのタイプの地溝があり、月の海にみられるようなリンクルリッジもあります。

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これらの複雑な地形は、水星初期の歴史を反映していると思われます。また、ベイスン内のクレーターの中には、内部が暗く見えているものもあり、ベイスンを埋めた溶岩の下の物質が衝突によって表面にあらわれているようです。
衛星イオの地質マップが完成
アメリカのUSGS(地質調査所)は、ボイジャー1号、2号およびガリレオ探査機によって取得されたデータをもとに、木星の衛星イオの地質マップを作成しました。

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木星の重力による潮汐作用によって、イオには活発な火山活動が存在しています。イオの火山活動は地球の25倍もアクティブといわれ、その表面に衝突クレーターは発見されていません。火山から流れ出てきた溶岩が、すべてのクレーターをおおっているからです。今回、全部で425の火山が確認されました。

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下の画像は、イオ最大の火山の1つであるロキのクローズアップです。黒く丸い部分は溶岩がカルデラを埋めてつくった溶岩湖で、真ん中の島の部分には亀裂が走っているのが見えています。ガリレオ探査機による温度の測定で、溶岩湖と亀裂部の温度が周囲にくらべて顕著に高いことがわかりました。亀裂部はとくに高温で、その下に新しく熱い溶岩が存在していることを示しています。ロキは上の画像では中央やや右上に見えています。

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USGS の地質マップでは、流出した溶岩、イオウや二酸化イオウに富む平原、山など、イオの表面物質が19のタイプに分けられています。この地質マップでロキを見てみると、下のようになっていました。

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pfd が溶岩湖にあたる部分です。同じ時代の溶岩がその右上の2個所にも見られます。このpfd と、溶岩湖の左下のpfb はきわめて新しい溶岩です。pfu はそれよりも古い溶岩ですが、それでも今から数百万年前以降につくられたものです。fu は溶岩流、pbw とpl はいずれも平原に分類される場所です。

こうした地質マップは、イオの表面をよく知るだけでなく、内部構造を理解するためのモデルをつくる上でも役に立つと考えられています。
フォボス・グルント落下:日本近くを通過する日時
フォボス・グルントは高度を下げており、まもなく地球に落下するものとみられます。

1月15日から17日までの間で、フォボス・グルントが日本の近くを通過する日時と経路は以下のようになると思われます。

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地球落下がいつになるのかは、直前まで明らかになりません。
フォボス・グルント:地球落下は1月15〜16日か
昨年11月9日に打ち上げられたロシアの火星探査機フォボス・グルントは、地球周回軌道からの離脱に失敗しました。現在、次第に高度を下げており、しばらくすると地球に落下します。

Phobos Grunt

昨年12月16日に、FSA(ロシア連邦宇宙庁)は1月6〜19日に地球に落下すると発表しましたが、最近の軌道解析によると、落下は日本時間で1月15日か16日になりそうです。ただし、正確な日時と落下の場所は直前にならないとわかりません。
フォボス・グルント:1月に地球に落下
ロシア連邦宇宙庁は火星探査機フォボス・グルントが来年1月に地球に落下すると発表しました。落下する日は今のところ6〜19日とされていますが、いつ、どこに落下するかは直前までわからないでしょう。下の写真は11月29日に地上から撮影されたフォボス・グルントです。

Phobos_Grunt
R.VANDEBERGH

フォボス・グルントは11月9日にバイコヌール宇宙基地からゼニット・ロケットによって打ち上げられ、地球周回軌道に入りました。計画では2012年9月に火星周回軌道に入り、2013年2月にフォボスに着陸してサンプルを採取した後、2014年8月にサンプルの入ったカプセルを地球に帰還させる予定でした。

Phobos_Grunt

しかし、フォボス・グルントのMDU 推進ユニットによる軌道変更と火星への軌道投入のための2度のエンジン噴射は行われず、地球を周回する低軌道にとどまっています。

フォボス・グルントは通信途絶の状態がずっと続いています。ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のパース地上局が一時、フォボス・グルントからの信号を受信しましたが、地上との交信は確立されませんでした。火星に到達するためのウインドウはすでに閉じてしまいました。最近、RIA ノーボスチはフォボス・グルントを開発したNPO ラボーチキンのチーフデザイナー、ヴィクトル・カルトフの「ミッションは失敗」との声明を伝えており、ロシア連邦宇宙庁が正式にコメントを発表するのは時間の問題とみられていました。

フォボス・グルントの重量は約13t で、そのうち200kg 程度が大気圏内で燃えつきず、20〜30個の破片となって落下するとのことです。12月16日現在のフォボス・グルントの高度は近日点が201.3km、遠日点が275.7kmです。軌道傾斜角は51.4度なので、北緯51.4度から南緯51.4度までの地球上のどこかに落下する可能性があります。フォボス・グルントは約7.5t の推進剤を積んでいます。推進剤は毒性のある非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素ですが、アルミニウム製のタンクは大気圏内で破壊され、推進剤はすべて燃えてしまいます。また、観測機器に放射性物質であるコバルト57 が搭載されていますが、0.00001g ときわめて微量なので、人体に影響が及ぶことはありません。
火星探査機キュリオシティー、打ち上げ成功
11月26日午前10時02分(アメリカ東部時間、日本時間27日午前0時02分)に、NASA の火星探査機キュリオシティー(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)がケーブカナベラル空軍基地からアトラスV ロケットによって打ち上げられました。

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キュリオシティーは2012年8月に火星のゲール・クレーターに着陸し、火星の古い時代の地層を調べ、生命が存在した痕跡を探す予定です。ミッション期間は1火星年(687日)です。下の画像はキュリオシティーがレーザービームを照射して、火星の岩石の化学組成を調べているところです。

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キュリオシティーは全長3m、重量890kg で、ちょっとした車ほどのサイズがあります。スピリットやオポチュニティーにくらべると、かなり大型の探査機です。6つの車輪をもち、1火星日(24時間40分)に200m 移動が可能です。

スピリットやオポチュニティーの電源は太陽電池でしたが、キュリオシティーにはプルトニウム238 の崩壊熱を利用する原子力電池が採用されました。この原子力電池には二酸化プルトニウムが4.8kg 内蔵されています。NASA は打ち上げが失敗してプルトニウムが大気中にまき散らされたとしても、個人が受ける平均放射線量は0.05〜0.1ミリシーベルト(集団検診でのX線撮影1回分程度)で、健康に影響を与えることはないとしています。アメリカ人が1年間に受ける自然放射線量は3.6ミリシーベルトとのことです。

1997年に打ち上げられた土星探査機カッシーニにも、原子力電池が使われていました。このときには、一部で打ち上げ反対の運動がありましたが、今回は何もなかったようです。
木星の衛星エウロパの表面下に液体の水が存在か?
木星の衛星エウロパに液体の水が存在する証拠がみつかったという、テキサス大学のシュミットらによる論文が、11月16日の『ネイチャー』誌オンライン版で発表されています。

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エウロパは木星の4大衛星の1つで、直径は1560km、木星から約67万km の軌道をまわっています。

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1979年に木星を通過したにボイジャー1号と2号によって、エウロパは全球が氷でおおわれており、表面には氷の活動による複雑な地形があることが明らかになりました。1995年から2003年まで木星を周回しながら科学観測を行ったガリレオ探査機は、エウロパには地球上の海水量を上まわる膨大な量の水が存在し、表面は凍っているが、内部には塩分を含む液体の海が存在する可能性があることを示しました。水が完全に凍結せずにいられる熱源は、木星の重力による潮汐力です。

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今回発表された論文で、シュミットらはガリレオ探査機のデータによって得られたエウロパのDEM(デジタル高度マップ)を用い、ドーム状の形状をもつConamara Choas と、周囲より低くなっているThera Macula という2つの場所について詳細に検討しました。さらに、氷河の下の火山や南極の棚氷の崩壊など地球上で見られる例も参考にしながら、こうした地形ができるモデルを提唱しています。

Model

このモデルによると、まず液体の海水層からの熱源が上昇してきて、氷の表面を押し上げます(a)。やがてこの熱源によって表面下の氷がレンズ状に融けます。融解によって体積が減るため、表面は陥没してクレーター状の形状となり、内部に亀裂が生じます(b)。亀裂によって生じた氷の断片が落下し、レンズ状の水の層を崩壊させます(c)。水が再凍結すると、体積が増して表面から盛り上がり、表面に複雑な構造が残ります(d)。

この「lens-collapse モデル」によれば、Thera Macula はc の状態であり、表面から3kmほどのところに、北アメリカ大陸の五大湖と同じくらいの量の液体の水が存在するとのことです。下の画像はThera Macula の高度を示したものです。赤色は周囲(黄緑色)より高い場所、青色は周囲より低い場所を示しています。Thera Macula は全体として楕円形で、内部が落ちこみ、その周辺の一部がクレーターの縁のように盛り上がっていることがわかります。

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最初に示したイラストは、このThera Macula の断面の想像図です。また、水が再凍結したd の状態が、ドーム状の形状をもつConamara Choas であると、シュミットらは考えています。

このlens-collapse モデルが正しいとすると、エウロパでは現在でも内部の海と表面の氷との間でエネルギーのやりとりがあり、もしかすると、物質の循環も行われている可能性があります。エウロパの海に何らかの生命体が存在するかもしれないという説を支持する証拠の1つになるかもしれません。
フォボス・グルント、地球脱出は困難か?
11月9日に打ち上げられたロシアの火星探査機フォボス・グルントは、まだ地球を周回する軌道にあり、交信ができない状態がつづいています。RIA ノーボスチが伝えた最新情報によると、フォボス・グルントが火星に向かうためのウインドウは今日で閉じてしまうとのことで、これが事実なら、火星の衛星フォボスのサンプル・リターンを目指す野心的なミッションはもはや実現不可能ということになってしまいます。

Phobos-Grunt

フォボス・グルントはバイコヌール宇宙基地から2段式のゼニット・ロケットによって打ち上げられました。打ち上げ後688秒でゼニット第2段からの切り離しが行われ、フォボス・グルントは207×347kmの地球周回軌道に入りました。この後、フォボス・グルントのMDU 推進ユニットは、250×4170kmへの軌道変更と火星への軌道投入のため、2度のエンジン噴射を自動で行うことになっていました。しかし、エンジン噴射は行われませんでした。

MDU は、人工衛星の軌道投入に用いられフレガット上段ロケットを惑星間航行用に増強した推進ユニットです。フレガットは先日、フランス領ギアナのクールー宇宙センターから打ち上げられたソユーズ2ロケットの第4段として搭載されていました。

ロシア連邦宇宙庁によると、フォボス・グルントは姿勢制御ができない状況にあるとのことです。太陽電池板が太陽の方向を向いておらず、そのため電源が低下し、セーフモードに入っているようです。原因はフォボス・グルントのフライト・コンピューター「BKU」にあるとの見方もあり、地上からBKU を再起動させるコマンドも送られていますが、まだ反応はありません。

フォボス・グルントは火星の衛星フォボスからのサンプル・リターンを目指しています。計画では2012年9月に火星周回軌道に入り、MDU と中国の火星周回衛星を切り離し、2013年2月にフォボスに着陸。サンプルを採取した後、探査機上段の帰還機がフォボスを離れて地球に向い、2014年8月にサンプルの入ったカプセルを地球大気圏内に投下させる予定です。

フォボス・グルントは以下のような構成になっています。

Phobos-Grunt

ロシア科学アカデミーの宇宙科学研究所(IKI)がこのミッションを進めており、探査機自体はこれまでロシアの多くの惑星探査機を開発してきたNPO ラボーチキンが担当しています。

IKI は1988年に、フォボスをターゲットとした2基のフォボス探査機を打ち上げました。フォボス表面に接近し、レーザー照射などによって、フォボスの組成を調べる計画でした。しかし、フォボス1 は1988年9月2日に通信が途絶しました。フォボス2 は1989年1月に火星周回軌道に入り、火星やフォボスの写真撮影を行いましたが、3月27日にやはり通信が途絶しました。1996年には、国際協力による火星探査機マルス96 が打ち上げられましたが、これも打ち上げ後すぐに通信が途絶してしまいました。

ロシアの惑星探査計画はソ連の崩壊とその後の経済事情の中で、非常に厳しい時代を経験してきました。フォボス・グルントはフォボス96 以来久しぶりの惑星探査ミッションです。IKI はこの成果に大きな期待をかけられていたと思われるだけに、このミッションが失敗に終わるようなことになれば、とても残念です。

このままでは、フォボス・グルントは1月には地球に落下してきます。ロシア連邦宇宙庁は、それまでに交信を確立することが可能という見方をしています。
イトカワ微粒子の初期分析結果
『サイエンス』誌の2006年6月2日号が、”The Falcon Has Landed”(もちろんこれはアポロ11号の “The Eagle has landed” からとられています)という編集部の紹介記事とともに、小惑星イトカワの特集号を組んだころ、「はやぶさ」は絶望的な通信途絶からようやく立ち直り、翌年のイトカワ出発をめざして準備を進めているところでした。その後の困難な旅の末に「はやぶさ」が地球にもち帰ったイトカワの微粒子について、『サイエンス』誌は8月26日号でふたたび特集を組みました。この号には、イトカワ微粒子の初期分析についての日本人研究者の論文が6編紹介されています。

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どんなに小さな粒子であっても、小惑星からサンプルをもち帰って地上で分析すれば、多くのことがわかることを、イトカワ微粒子の初期分析の結果は示しました。改めてサンプルリターン・ミッションの重要性が証明されたといえるでしょう。

地上に落ちてきた隕石は小惑星からやってくると考えられてきましたが、S型小惑星であるイトカワ微粒子の酸素同位体比は普通コンドライトの1種ときわめてよく似ており、隕石が小惑星からやってきたものであることがはじめて証明されました。イトカワの母天体は直径20km ほどで、これが衝突によってばらばらになり、再集積してイトカワになったこともわかりました。イトカワ表面での宇宙風化についてもくわしい分析がなされ、宇宙風化によってイトカワ表面の物質が失われるスピードが推定されました。イトカワがあと10億年ほどでなくなってしまうことがわかったのは驚きでした。

また、PERSPECTIVES の欄では、ハワイ大学のAlexander N. Krot が「はやぶさ」ミッションの成果を簡単に紹介し、さらに「はやぶさ」以後の小惑星探査ミッションにふれています。

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2014年打ち上げ予定の「はやぶさ2」は、C型の小惑星1999 JU3 をめざします。また、2016年打ち上げ予定のNASA のオシリス・レックスは、B型の小惑星1999 RQ6 をめざします。C型やB型小惑星の物質には、S型小惑星にはない水に関する情報が含まれていると考えられています。これらの小惑星の探査によって、地球のような天体の水に起源について貴重な情報が得られるであろうと、Knot は述べています。
火星探査機キュリオシティーの着陸場所はゲール・クレーターに
NASA の火星探査機キュリオシティー(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)の着陸地点は、ゲール・クレーターに決定しました。ゲール・クレーターは赤道近くにある直径約150km のクレーターです。

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Nature 誌によると、4か所に絞られた着陸候補地の中で、ゲール・クレーターは河口デルタらしい地形をもつエバースワルド・クレーターと最後まで競っていたとのことです。どちらもキュリオシティーの目的である火星の水の歴史を調べるのに適した場所と考えられていました。古い時代の出来事を知るには、できるだけ昔の地層を調べる必要があります。MOLA の高度地図でもわかるように、ゲール・クレーターの底は周囲にくらべてかなり低くなっており、クレーターが形成された際に、深いところまで掘り返されたとみられます。この点は、ゲール・クレーターが選ばれた大きな要素だったのではないかと思われます。

Gale_crater

ゲール・クレーターは少し不思議な形をしています。中央にはクレーターの底から5km ほどの高さをもつ大きな山があります。衝突によってできたセントラル・ピークはこの山の中にかくれています。ゲール・クレーターができたのは38億〜35億年前です。その後、このクレーターは水の存在下で一度堆積物におおわれ、その堆積物が水の流れで取り去られてクレーターがふたたび顔を出したようです。こうしたサイクルが数回繰り返された可能性もあります。

Gale_crater

ゲール・クレーターには古い地層に刻まれた谷がいくつも走っており、キュリオシティーはここを移動しながら過去の水の状態を調べることになります。キュリオシティーが着陸するのはクレーターの一番低い場所である北西の底で、南緯4.5度、東経137.4度、着陸楕円は長さ20km、幅7 と設定されています。

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このピンポイント着陸を行うため、キュリオシティーはパラシュートで降下後、最終局面で逆噴射ロケットと懸吊機構を組み合わせた「スカイクレーン」という方法で軟着陸します。

NASA の火星探査は、生命の探査を念頭におきながらも、まず生命誕生の必要条件である水の存在を調べる ”follow-the-water” という戦略で行われてきました。キュリオシティーは生命の痕跡の可能性がある有機物の観測も行うことになっており、これまでの ”Follow the Water” から一歩踏み出すミッションといえます。2013年にNASA との協力のもと、ESA が打ち上げを予定しているExoMars では、火星生命の探査そのものが目的になっています。

キュリオシティー打ち上げのウインドウは11月25日〜12月18日です
火星探査機キュリオシティーの着陸候補地
NASAの火星探査機キュリオシティー(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)の打ち上げは11月25日に予定されています。火星着陸は2012年8月6日の予定です。

現在、着陸地点の候補は下の4か所にしぼられています。いずれも過去に水が存在していたことが明らかになっている場所です。キュリオシティーは移動しながら堆積物の地層を調査し、水に関係した硫黄や酸素を含む鉱物や、水の存在下で生成される粘土などを分析しながら、火星に水が存在していた時代の環境やその後の歴史を調べます。

Curiousity_landing_sites

北半球にあるMawrth 谷(下)は、過去に大量の水が流れた地形が存在する広大な地域にある、水の流れでつくられた谷です。火星で最も古いとみられる谷の1つで、古い時代の火星の水環境を調べるのに適した場所の1つと考えられています。

Mawrth

赤道近くにあるGale クレーター(下)は、かつて水が存在したと考えられているクレーターの1つです。中央には高さ4.8km もの高地があり、キュリオシティーが平地に着陸した後、高地を登りながら地層を調べます。

Gale

南半球のHolden クレーター(下)は直径160kmです。30億年以上前には川が流れこみ、水で満たされていたと考えられています。キュリオシティーは水の歴史を示す露頭を調べます。

Holden

直径64kmのEberswalde クレーター(下)はHoldenの近くにあります。ここも古い時代には水が流れこんでいたとみられています。

Eberswalde

キュリオシティーの飛行経路を最終的に決定するため、NASAは7月末までに着陸地点を決定するとしています。
火星に生命の痕跡をさぐる
金曜日にスルガ銀行のd-labo セミナーで、東京大学総合研究博物館准教授の宮本英昭さんの話を聞いてきました。テーマは火星探査で、主に火星の生命の可能性について話をされましたが、最後には質問が相次ぎ、多くの方がこの話題に興味をもっていることがわかりました。

火星表面には水が流れたような地形があり、形成されて間もないころの火星は温暖で、表面には大量の液体の水が存在したと考えられてきました。2004年に火星に軟着陸した火星ローバー、スピリットとオポチュニティーは、火星表面に実際に水が存在した証拠を見つけました。過去に存在した水の、少なくともある部分は、今でも高緯度地域の地下に氷の状態で存在するとみられています。

火星が温暖で、海が存在したころには、火星にも原始的な生命が誕生した可能性があります。そのような微生物の痕跡は、今も火星の地層のどこかに残っているかもしれません。宮本さんは、そのような生命の痕跡を探す場所の1つとして、Hebrus 谷をあげていました。下の画像の矢印の場所です。

hebrus_crater

Hebrus 谷はエリシウム山の南西にある谷です。エリシウム山は火山だったので、地下には熱源があり、生命が誕生しやすい環境だったかもしれません。また、このあたりではメタンの発生が観測されています。メタンは無機的にも合成されますが、これが生物由来であり、今も微生物が何らかの形で存在している可能性も0%でなないでしょう。

NASA が今年打ち上げる火星探査機キュリオシティー(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)は、かつて火星に存在した水の歴史をくわしく調べることが大きな目的になっていますが、ESA がNASA との協力のもと、2018年に火星着陸をめざしている火星ローバーExoMars は火星の生命探査を行うための探査機です。火星の生命を科学的にさぐる時代が、もう少しでやってくると思われます。
火星ローバー、スピリットのミッション完了
NASA は5月25日、火星ローバー、スピリットがミッションを完了したと発表しました。

Spirit

このブログでも何度か紹介してきた通り、トロイと名付けられた場所で走行不能となったスピリットは、2010年3月22日の交信を最後に、通信が途絶えていました。スピリットは火星の冬を迎えましたが、JPL のローバー・チームは夏に向かうにつれて太陽電池による発電が回復し、交信が可能になるかもしれないと考え、スピリットとの交信の試みを続けてきました。しかし、スピリットのいる場所は今や夏を迎えており、交信が復旧する可能性はきわめて低くなったため、ミッション完了が発表されたわけです。

「昨夜、最後のリカバリー・コマンドがスピリットに送られた。これは、とても意義深い瞬間だったと言える」。2006年からマーズ・エクスプロレーション・ローバー計画のミッション・マネージャーをつとめているジョン・カラスは、JPL のブログに ”A Heartfelt Goodbye to a Spirited Mars Rover” という一文を寄せています。”Spirited” にはローバーの名前である「スピリット」と、「元気づけてくれる、勇気を与えてくれる」という2つの意味が込められています。「これまでリカバリー・コマンドを1200回以上送ったが、返事がないということは、スピリットが永遠の眠りについたことを示している」。

2004年に火星に軟着陸したスピリットとオポチュニティーは、3 か月間のミッションを行うローバーとして設計されました。しかし、ミッション期間は延長され、今日にいたっています。オポチュニティーは現在も活動中です。スピリットは6年以上にわたって火星で活動を続け、7730.5m を移動、12万4000枚以上の画像を地球に送ってきました。

「スピリットがもたらした発見の中で最も重要なものの1つは、土壌中に濃集している二酸化ケイ素を発見したことだ。これによって、そこがかつて熱水や高温の水蒸気が吹き出す場所であり、原始的な生命が誕生するのにふさわしい場所であることが示された」と、火星ローバーの主任研究者であるコーネル大学のスティーブ・スクワイヤーズは語っています。「初期の火星には活発な火山噴火があり、そこでは水とマグマがはげしく反応していた。現在の冷たく乾燥した火星とは劇的にことなった世界だった」。

カラスは「スピリットが着陸したグセフ・クレーターは、オポチュニティーが着陸したメリディアニ平原よりも過酷な環境だった。冬はより寒く、暗かった。ダストも多く、太陽電池板に降り積もった」と書いています。スピリットはハズバンドヒルと名付けられた山地を下っているときに右前の車輪が動かなくなってしまいました。しかし、その後も前輪を引きずりながら、残りの5輪で後ろ方向に進み、約1km を移動しました。二酸化ケイ素の濃集を発見したのはその際でした。スピリットは3度の過酷な火星の冬を生き抜きましたが、4度目の越冬から目覚めることはありませんでした。

「スピリットは科学的成果に加え、多くの無形の財産ももたらした。火星はもの珍しく遠い未知の場所ではなくなった。火星はもはや近所になった。われわれは毎日火星に仕事をしに行っている。ありがとう、スピリット。小さいローバーよ、よくやった」と、カラスは彼の文を結んでいます。もちろん、彼は最後に、ローバー・チームに対して、”And to all of you, well done, too” と付け加えるのを忘れてはいませんでした。
はやぶさ、そうまでして君は
川口淳一郎先生の『はやぶさ、そうまでして君は』(宝島社)を読みました。川口先生が自ら語る「はやぶさ」の物語は興味深いものです。

この本の中で、川口先生は「はやぶさ」のようなハイリスクのプロジェクトも必要であることを述べています。日本人は自分で天井をつくってしまいがちだが、「天井を突き抜けられない限り、決して独創的な成果は得られません」と、川口先生は書いています。

惑星探査の分野では、先端的でリスキーなプロジェクトがときに必要です。「はやぶさ」はその典型といえるでしょう。これについては以前に書きましたが、多くの専門家があまりにリスキーであり、実現不可能と考えていたマーズ・パスファインダー計画と同じように、「はやぶさ」も提案当初は「開発要素が多すぎる」「あまりにもリスクが大きい」という意見があったと、川口先生は書いています。しかし、そのリスクの高さは認識されながらも、「工学実験機の新しい挑戦」として計画は認められたのです。

『はやぶさ、そうまでして君は』で、私が一番印象に残ったのは、「はやぶさ」の通信が途絶して、川口先生が台東区の飛不動尊に「神頼み」に行くところでした。「やれることはすべてやり尽くした。あとはもう、神仏の力にゆだねるしかない」という心境だったというのですが、その後に書いてある言葉が感動的でした。

「自分は神頼みしなくてはいけないほど、全力を尽くしたのか、それを自己点検するよい機会にもなったと思います。」

最後の最後まで、全力を尽くす。これが「はやぶさ」成功の最大の要因だったことがよくわかりました。
リンの代わりにヒ素を利用する微生物を発見
NASA のヘッドクォーターで、USGS(アメリカ地質調査所)のアストロバイオロジスト、フェリサ・ウォルフ-シモン(一番左)らの研究チームが発見した微生物についての記者発表が行われました。

NASA

この微生物は、カリフォルニア州のモノレイクで発見されたGFAJ-1 という株で、ガンマプロテオバクテリアという普通に存在するバクテリアのグループに属しています。ところがこのGFAJ-1 には、これまで知られている地球上のすべての生物と異なる点がありました。生命の基本構成元素の1つであるリンの代わりにヒ素を利用していたのです。ヒ素は普通、生物にとっては毒となる元素ですが、このGFAJ-1 を、リンが存在せずヒ素を含んだ環境で培養したところ増殖することが確認されました。研究チームの論文は『サイエンス』誌の電子版に掲載されましたが、論文のタイトルは「リンのかわりにヒ素を使って生育できる微生物」となっています。

GFAJ-1

リンはDNA の材料となっている元素の1つですが、GFAJ-1 のDNA ではリンがヒ素に置き換わっていました。細胞内のエネルギー利用や呼吸に重要な役割を果たすATP やNADH、アセチルCoA などの物質でもリンが窒素に置き換わっていました。地球上の生命に必須な元素であるリンの代わりにヒ素を用いる生物が、他の天体ではなく地球で発見されたことは、宇宙における生命の形態についてさまざまな可能性があることを実証したといえるでしょう。

モノレイクは高塩分、高アルカリ、かつヒ素の濃度が高い特殊な環境にあり、こうした環境が、地球上のエイリアンともいえるGFAJ-1 という微生物を誕生させ、進化させたわけです。それがいかなるプロセスで起こったのか、非常に興味がもたれます。この研究はNASA の資金で行われました。
アストロバイオロジーに関するNASA の記者会見
NASA はアストロバイオロジーにおける発見についての記者会見を、12月2日の午後2時(日本時間3日午前4時)に行うと発表しました。どんな発表があるのか、楽しみです。

「アストロバイオロジー」とは、日本ではまだそれほど一般的にはなっていない言葉ですが、これをたとえば「宇宙生物学」と訳してしまうと、意味が少しちがってきてしまう感じがします。「宇宙生物」を研究する学問とすると、どこかSF的になってしまいますし、「宇宙」の「生物学」とすると、研究分野が生物学にかたよりすぎてしまいます。

「Astrobiology」を日本語でどうするかについて、私は以前に松井孝典さんと話をしたことがあります。松井さんの意見は、Astrobiology とは生命の普遍性を宇宙に探る学問であり、適切な日本語はないので、カタカナで「アストロバイオロジー」とするのがいいのではないか、というものでした。私もこれに賛成です。アストロバイオロジーを私なりに解釈すると、宇宙における生命のあり方を研究する学問であり、そこには生物学だけでなく、惑星科学、天文学、地質学、化学、物理学など、幅広い分野の知識が必要です。

2000年にNASA のエイムス・リサーチ・センターで、アストロバイオロジーに関する第1回目の会議が開かれ、以来、この言葉は世界中で広く使われるようになりました。NASA ではアストロバイオロジーを、「宇宙における生命の起源、進化、広がり、そして将来を研究する学問」としています。
はやぶさの微粒子はイトカワ由来
JAXA は「はやぶさ」のサンプルキャッチャーA 室から採取された微粒子約1500個がイトカワ由来のものであったと発表しました。微粒子の成分比率が隕石の特徴と一致すること、「はやぶさ」が観測したイトカワ表面の物質のデータと合致することなどが、その理由とされています。

「はやぶさ」ミッションの主な目的は5つありました。.ぅンエンジンによる惑星間飛行、⊆分がどこにいるかを自分で知って、自ら航法を行う自律誘導航法、小惑星のサンプル採取、ぅぅンエンジンの飛行に地球の重力による加速を併用する地球スイングバイ、ゥ汽鵐廛襪鮴僂鵑瀬プセルの地球帰還です。このうち0奮阿呂垢戮得功しています。採取された微粒子がイトカワ由来であることが明らかになったことで、プロジェクタイル発射による本来の方法でのサンプル採取ではなかったにしろ、も達成されたことになります。多くの困難があったものの、「はやぶさ」は見事にその任務を完遂したわけです。

これまで地球以外の天体から持ち帰られたサンプルは、NASA のアポロ計画や旧ソ連のルナ計画による月の石、ジェネシス計画による太陽風の粒子、スターダスト計画による彗星のちりです。小惑星のサンプルが持ち帰られたのは、世界で初めてのことです。

今後、SPring-8 などでの微粒子の分析が進めば、イトカワの表面物質がどのようなものであるか、イトカワはいかにしてつくられたか、採取された微粒子はいかにして生成されたか、イトカワの表面物質は宇宙風化をどのくらい受けているか、イトカワ表面にどのような太陽系物質が降り注いだかなどが明らかになってくるでしょう。太陽系の歴史を解明する上で貴重な情報が得られるに違いありません。

アメリカの惑星協会のブログもこの快挙を伝えています。

PlanetarySociety

このブログではこんな小さな粒子の分析は困難に思えるかもしれないが、スターダスト計画で持ち帰った彗星のちりを分析した経験がいかされるだろうと述べています。
はやぶさサンプル:太陽系ダストのサイエンス
「はやぶさ」のサンプル容器から「地球外物質の可能性のある微粒子が見つかった」という報道が一部で流れ、JAXA は本日午後5時30分から緊急に記者会見を開き、宇宙科学研究所ミッション機器系グループ副グループ長の上野宗孝さんが、キュレーション作業の進捗状況について説明しました。記者会見場には多くのメディアがつめかけ、「はやぶさ」サンプルに対する関心の高さがうかがえました。

上野さんによると、サンプルキャッチャーA 室内壁をテフロン製の小さな「へら」でぬぐい、電子顕微鏡で観察したところ、光学顕微鏡では見えない10ミクロン以下のサイズの微粒子が100個ほど付着していたとのことです。多くは1ミクロン以下でした。アルミ粉末など明らかに人工物であるものを除けば、このサイズの粒子になると、電子顕微鏡での観察では地球起源のものか、地球外の物質なのかは判別することは困難で、12月ごろから予定されているSPring-8 などによる初期分析の結果をまたなくてはなりません。

どちらともいえないのですから、その可能性はあるとはいえ、「地球外物質の可能性のある微粒子が見つかった」という読売新聞や朝日新聞の報道は、誤解をまねきかねないものであったといえます。

これまでに光学顕微鏡で見つかっている粒子も含め、「はやぶさ」サンプルの分析は、こうした微小な粒子について行われることになります。これらの粒子が地球外起源のものであるとすれば、それらは太陽系空間に存在する惑星間ダストということになります。採取されたサンプルがある程度のサイズの「かけら」であれば、イトカワ由来と考えられます(もちろん、他の天体からきた可能性もないわけではありません)が、ミクロンサイズのダストは、たとえイトカワ表面で採取されたとしても、それがイトカワで生成されたとは限りません。太陽系空間をただよっていた彗星や他の小惑星起源のダストがイトカワ表面に降りつもったものである可能性も大でしょう。ダストの中には太陽系外から来たものもあります。

「はやぶさ」のサンプルキャッチャーに入っていたダストが地球外起源であれば、どこから来たものであれ、それは太陽系初期に何が起こったかを知るための貴重な材料になるでしょう。惑星間ダストについて、われわれはまだ多くのことを知っているわけではありません。なぜなら、宇宙から持ち帰られたサンプルが、まだあまりないからです。とはいっても、「はやぶさ」サンプルを分析する日本の研究者が、この分野にまったく未経験というわけではありません。

1999年に打ち上げられたNASA の彗星探査機スターダストは、ヴィルト第2彗星が放出するダストを採取し、2006年に地球に帰還しました。スターダストによって採取されたダストのサイズも10ミクロン以下でした。これらのサンプルの分析には日本の研究者も参加し、高エネルギー加速器研究機構やSPring-8 の放射光施設、二次イオン質量分析計などを用いた分析で世界に誇る成果を上げています。「はやぶさ」サンプルの分析では、このときの経験が大いに役立つでしょう。

サンプルキャッチャー内の微粒子に地球外起源のものが含まれており、これを機会に、太陽系ダストの科学が進むことを期待したいと思います。
LRO のデータ:後期重爆撃期仮説を支持
アメリカの月周回探査機LRO に搭載されていたLOLA(レーザー高度計)のデータを用いた論文が、『サイエンス』誌の2010年9月17日号に掲載されています。ブラウン大学のジェームズ・ヘッドらのグループによる論文です。

これまでの探査機で得られた月のクレーターのデータは、解像度や日照の条件がそれぞれことなっているという問題がありました。そこでヘッドらのグループは、同じ条件で取得されたLOLA の全球データから、直径20km以上のクレーターのカタログを作成しました。直径20km以上のクレーターは全部で5185個ありました。これらのクレーターの密度分布を求めたものが下の図です。

LRO

この図で真中が月の表側、両側が裏側になっています。白い部分はクレーターの密度が特に高いところで、表側の南にある高地と、裏側の北の高地にそのような領域があります。一方、青から紫色の部分がクレーターの密度が低いところです。特に、雨の海や嵐の太洋およびその周辺、表側と裏側の境界にあるオリエンターレ・ベイスンが紫色で、クレーター密度が低く、より若い地形であることを示しています。

オリエンターレ・ベイスンのような巨大衝突跡の周囲でクレーター密度が低くなっているのは、それ以前に存在していたクレーターが衝突の際の衝撃や二次クレーターによって破壊されたり、衝突にともなう大量の放出物(イジェクタ)におおわれてしまうからです。上の図で、オリエンターレ・ベイスンの周囲の青い部分が北西の方角にヘルツシュプルング・ベイスンまで、また南にメンデル-ライドベルグ・ベイスンまで伸びているのは、イジェクタによるものです。

オリエンターレ・ベイスンは直径930kmにおよぶ衝突跡です。下の画像はLRO のデータから作成されたもので、ベイスン周囲の縁(リム)が明らかです。ベイスン内部には複数のリングが形成されており、中央部は月の平均半径から約4000km も低くなっています。

mare_orientale

ヘッドらのグループはオリエンターレ・ベイスンおよび周辺の、直径20km 以上のクレーター密度を調べたところ、ベイスン内が最も密度が低く、リムから500km までは、リムから遠ざかるにしたがって密度が高くなり、500km を超えたあたりで、平均の密度と同じになっていることを見出しました。オリエンターレ・ベイスンを形成した衝突は、ベイスンの中心から半径965km におよぶ範囲(月全表面の約8%)のクレーター分布をリセットしてしまったことになります。

月が形成された直後には多数の小天体が月に衝突していました。衝突の数は時間の経過とともに減っていくと考えられますが、アポロ計画で地球にもち帰られたサンプルの分析から、39億年前ごろに、衝突数がもう一度増えているという説が登場しました。これを後期重爆撃期仮説といいます。この仮説については、2005年にアリゾナ大学のStrom や国立天文台の伊藤孝士らが、古いクレーターをつくった衝突天体と小惑星のサイズの分析から、この仮説を説明する論文を発表し、このような事件が起こった有力な原因としては、木星や土星の軌道変化にともなってメインベルトの小惑星が降り注いだことが考えられるとしています。

ヘッドらのグループは、直径8km までのクレーターを分析した結果は、Strom らの論文を支持すると述べています。また、オリエンターレ・ベイスンの形成時期は、初期の重爆撃期と後期の重爆撃期の間に位置するとしています。

ヘッドさんはアメリカの固体惑星の分野では重鎮の1人です。以前、日本に来た時にお会いし、ご自身の著書をいただいたことがありますが、常に太陽系全体へのパースペクティブをもっている視野の広い研究者です。今回も、LRO のデータを短い期間で整理し、その結果を後期重爆撃期仮説の検証にまでもっていく論文のまとめ方はさすがです。このあたりの手際の良さは、日本の若い研究者も見習うべきだと思います。
月面の巨大衝突跡とカンラン石の分布
月周回衛星「かぐや」で得られたデータを使った新しい論文が『ネイチャージオサイエンス』誌の2010年7月4日号で発表されました。月表面のカンラン石に富む領域の分布に関する論文です。

国立環境研究所の松永恒雄さんらの研究チームは、「かぐや」のスペクトルプロファイラ(SP)を用いて、月表面にどのような鉱物が分布しているかを調べました。同研究チームの山本聡さんらはこのデータを使って、カンラン石に富む領域を調べたところ、その場所は「雨の海」「危機の海」「モスクワの海」「シュレーディンガー・ベイスン」など、地殻の薄い部分につくられた巨大衝突跡の周囲に分布していることを発見したのです。

カンラン石は月内部のマントルに存在すると考えられている鉱物です。そのような鉱物が巨大衝突跡の周囲に分布しているということは、衝突によってマントル部分までが掘り起こされ、内部にあったカンラン石が周囲に飛び散ったためと考えられます。

こうした場所は、将来の月サンプル・リターン計画の有力な着陸候補地となるでしょう。月のマントルを構成するサンプルが得られれば、月の内部構造や、月の初期の歴史を解明する手がかりとなります。とくに、マグマオーシャン・モデルの解析に重要な役割を果たすと思われます。

月は原始地球に火星サイズの天体が衝突してできたとする説が有力です。誕生直後の月は、全球にわたって、かなり深いところまで溶けていたと考えられます。その後、このマグマの海が冷却するにつれて、地殻やマントルへの分化がおこったと考えられます。マグマオーシャンの概念は、アポロ計画によって得られた重要な科学的成果の1つです。マグマオーシャンを説明する図として、よく用いられている図は以下のようなものです。

magma_ocean

すなわち、かなり深い部分まで溶けていたマグマの海が冷却するにしたがって、岩石が析出してきます。斜長石のような密度の小さな岩石は浮上して地殻となり、カンラン石や輝石のような密度の大きな岩石は下降してマントルを構成するようになりました。「嵐の大洋」や「雨の海」付近には、カリウム、希土類元素、リンに富むKREEP とよばれる岩石が分布しています。ここにはトリウムやウランなどの元素が濃集しています。KREEP はマグマオーシャンが固結していく過程で最後まで液相で残った部分と考えられます。

しかしながら、マグマオーシャンの固結過程がどのように進んだのか、まだ詳しくは分かっておらず、いくつものモデルが提唱されています。月の地殻はなぜ表側が薄く、裏側は厚いのか、KREEP はなぜ局地的にしか存在しないのかといった問題にも答は出ていません。また、一度固化した月のマントルは、上部の方が密度が大きかったため、上下が逆転するマントル・オーバーターンが起こったとする考えもあります。今回、マントルの物質と考えられるカンラン石が表面で発見されたのは、このオーバーターンによって、カンラン石が表面に近いところまで上昇していたためと考える研究者もいるようです。

もしも、実際のマントル物質が手に入れば、こうした未解明の問題の解明に役立つでしょうが、「かぐや」のデータからでも、多くのことがわかるはずです。たとえば、月の研究者はKREEP の分布に関しては、1998〜1999年に月を観測したルナ・プロスペクターのデータを使ってきましたが、今では「かぐや」によって月の表面物質の分布について、きわめて精度の高いデータが得られています。

「かぐや」のデータはすでに公開されていますが、海外の研究者の論文はまだ少ないようです。今後、「かぐや」の成果が海外でも活用され、月の科学がさらなる発展を遂げることを期待したいと思います。
「はやぶさ」その次にくるもの
「はやぶさ」の帰還は劇的でした。私にとって一番印象的だったのは、「はやぶさ」本体がディスインテグレートして光のかけらになっていく先を、小さく鋭い光を放って飛んでいくカプセルの姿でした。その毅然とした光跡に、「はやぶさ」ミッションのすべてが凝縮していたとように思えます。

NASA

私が「はやぶさ」ミッションについて書くべきことは、以前に書きました。これから「はやぶさ」の成果をどう生かしていくかが、大きな課題となっていくでしょう。

「はやぶさ2」は、いつでもスタートできる段階にきています。「はやぶさ2」では、より始原的な小惑星の観測とサンプル回収をめざすほか、小惑星に衝突体を発射してクレーターをつくり、小惑星内部の物質の観測とサンプル回収をめざすことも検討されています。小惑星の表面物質は宇宙風化によって変性したり、他天体からの物質で汚染されている可能性があります。「はやぶさ2」によって、クレーター内部の「新鮮な」物質の分析が可能になれば、太陽系の起源の研究に貴重なデータをもたらしてくれるでしょう。

「はやぶさ」の成果とは、太陽系天体のサンプルリターン技術が実証されたということにとどまりません。日本の太陽系探査が世界の研究の最前線に大きな足跡を残したのです。「はやぶさ2」をスタートさせて「はやぶさ」の技術を継承していくことは大切ですが、この機会に、日本の太陽系探査計画全体をどのように進めていくかの広い議論が必要ではないでしょうか。

チャレンジングな惑星探査ミッションは「はやぶさ」だけではありません。土星を周回するカッシーニ探査機は、6月21日、衛星タイタンへの71回目の接近「T70フライバイ」で、高度880kmまで降下し、タイタンの大気上層に突入しました。これまでで最もタイタンに近づいた接近でした。火星では、火星ローバー、スピリットとオポチュニティーの火星滞在日数が2200火星日を超えています。スピリットはきびしい冬の寒さと闘っています。冬至は過ぎたものの、極寒のため、その機能は停止したままです。一方、オポチュニティーは長い間とどまっていたビクトリア・クレーターから、直径21kmのエンデバー・クレーターへ少しずつ移動を重ねています。オポチュニティーの累積移動距離は21kmを超えました。

「はやぶさ」のカプセルの光跡にように、迷いのない、しっかりとした持続的な探査計画が求められています。
「はやぶさ」帰還、そして後継機への期待
2007年4月にはじまった小惑星探査機「はやぶさ」の地球への帰還の旅は、最後の局面を迎えようとしています。「はやぶさ」のカプセルは、6月13日午後11時(日本時間)頃に大気圏に再突入する予定です。カプセルの着陸場所はオーストラリア南西部のウーメラ立入制限区域です。

「はやぶさ」のイオンエンジンによる第2期軌道変換は3月27日に終了、4月6日にはTCM-0を実施して、地球外縁部への初期誘導を行いました。TCM とは軌道修正(Trajectory Correction Maneuver)のことです。今後、さらに4回のTCM が行われます。
TCM-1:再突入39日前頃までに実施。地球外縁部への誘導。
TCM-2:再突入15日前頃までに実施。地球外縁部への誘導。
TCM-3:再突入7日前頃までに実施。オーストラリア、ウーメラへの誘導。
TCM-3:再突入3日前頃までに実施。オーストラリア、ウーメラへの精密誘導。
カプセルは再突入3時間前頃に「はやぶさ」本体から分離されます。再突入後、1時間で着陸の予定です。

JAXA

「はやぶさ」ミッションの目的は、以下の5つにまとめられます。
(1)イオンエンジンを用いた地球と小惑星との往復飛行
(2)イオンエンジンでの加速と地球スイングバイの併用
(3)自律航法の実現
(4)イトカワのサンプル採取
(5)サンプルを積んだカプセルの回収

このうち(1)〜(4)はすでに達成されました。
(1)イオンエンジンを用いた地球と小惑星との往復飛行
「はやぶさ」のイオンエンジンは、マイクロ波によるプラズマ生成や炭素複合材を用いた電極の採用など、これまでのイオンエンジンにない特徴をもつ先進的なエンジンです。エンジンの寿命もこれまでに比べて飛躍的に向上しました。「はやぶさ」はこのエンジンを合計4万時間作動させ、イトカワとの往復を実現させました。
(2)イオンエンジンでの加速と地球スイングバイの併用
地球の重力を利用して探査機を加速する地球スイングバイは、これまでの探査機でも行われていますが、イオンエンジンで加速しながらの地球スイングバイは初めてのことでした。イオンエンジンでの加速はゆっくりしているため、地球スイングバイには精密な誘導が必要でした。
(3)自律航法の実現
イトカワ付近にいる「はやぶさ」と地球との交信には往復で40分間もかかってしまいます。そのため、「はやぶさ」は自分で自らの位置を知り、自分の判断でイトカワに接近していかなくてはなりません。「はやぶさ」はこのような自律航法を行ってイトカワに着陸しました。
(4)イトカワのサンプル採取
イトカワの重力はきわめて小さいため、サンプル採取にあたって、「はやぶさ」をイトカワ表面に固定することはできません。そこで、「はやぶさ」の底部に伸びているサンプラーホーンがイトカワ表面に接触すると、弾丸が撃ちこまれ、飛び散った破片を回収するという方法がとられました。弾丸が実際に発射されたかどうかは確認されていませんが、少量ではあれ、サンプルは採取されたと考えられています。

「はやぶさ」はこれから(5)に挑戦することになります。最後までの最後まで、難関が続きますが、私はそろそろ「はやぶさ」の後継機も応援したいと思います。少し気が早いといわれそうですが、「はやぶさ」はあくまで、イオンエンジンを使ったサンプルリターンの工学実証ミッションであり、小惑星の本格的探査はこれからはじまるのです。

イトカワのサンプルは太陽系の起源を解明する貴重な材料となるでしょうが、小惑星についてはまだわからないことがたくさんあります。小惑星はどのような母天体からつくられたのか、太陽系の誕生以来どのような歴史をたどってきたのか。こうしたことは、これから何度も探査機を送らなくては解明することはできません。

「はやぶさ」の後継機はすでに検討が進められています。イトカワはS型というグループに含まれる小惑星ですが、「はやぶさ」後継機は、より始原的なタイプの小惑星の探査を考えています。「はやぶさ」の成果をふまえた後継機のミッションは、「はやぶさ」と同じようにきわめてチャレンジングなものになるでしょう。
「はやぶさ」、カプセル回収へ
小惑星探査機「はやぶさ」は第2次軌道制御を終え、イオンエンジンの連続運転を終了しました。これによって、イオンエンジンによって地球と小惑星を往復するという「はやぶさ」の大きな目的は達成されました。今後は、小惑星イトカワのサンプルを収めたカプセルの回収という最後の難関に挑むことになります。

現在「はやぶさ」は地球をかすめる軌道にあります。これは万が一、「はやぶさ」の制御が不能になった場合に、地球に落下することがないようにする措置です。今後、6月の大気圏再突入に向けて、何度か軌道を修正し、オーストラリアのウーメラへカプセルを着陸させるための精密誘導を行います。

「はやぶさ」本体から分離された直径約40cmのカプセルは秒速12km以上で大気圏に突入します。大気との摩擦温度は3000℃に達する見通しです。そのため、「はやぶさ」のカプセルの耐熱カバーは高温に耐える特殊な炭素複合材でつくられています。

大気圏再突入後、「はやぶさ」のカプセルの耐熱カバーは分離され、イトカワのサンプルを収めた容器は、パラシュートで降下していきます。アポロ計画を別とすれば、太陽系物質の地上への回収は、過去2回、NASA によって行われています。彗星のちりを採集して地球に持ち帰ったスターダストのカプセルは無事回収されましたが、太陽風物質を集めて地球に持ち帰ったジェネシスのカプセルは、大気圏再突入後、パラシュートが開かず、地上に衝突して大破しました。原因は、加速度を検知してパラシュートを開かせるための「Gスイッチ・センサー」が作動しなかったためと考えられています。下の写真は、左がスターダストのカプセル、右がジェネシスのカプセルです。

earth_return

太陽系の天体からのサンプルリターン・ミッションでは、「宇宙検疫」の問題をクリアすることが義務づけられています。宇宙検疫(Planetary Protection)とは、地球上の生命体が他の天体を汚染すること(Forward Contamination)、および他の天体の生命体が地球を汚染すること(Back Contamination)を防止するための措置です。宇宙検疫についてはCOSPAR(宇宙空間研究委員会)という国際組織で検討されています。

火星やエウロパなど、生命の存在の可能性がある天体からのサンプルリターンでは、回収されたサンプルはエボラウイルスやマールブルグウイルスのような危険性がきわめて高い病原体をあつかうバイオセイフティー・レベル4と同等あるいはそれ以上の施設に収容することが義務づけられています。SF 映画『アンドロメダ病原体』のようなことが絶対起こらないようにするためです。ただし、S型の小惑星であるイトカワはこのような範疇の天体となみなされておらず、サンプルを収容する相模原の施設にはこれだけの条件は要求されていません。

衛星タイタンの素顔
カッシーニ探査機は今年の1月28日に、土星の衛星タイタンへの67回目の接近を行いました。タイタンへの継続的な観測によって、この衛星について興味深い事実が次々に明らかになっています。

最近発表された論文によると、タイタンの内部は氷と岩石がミックスされた状態とのことです。タイタンは低温だったため、内部が層状の構造に分化することはなかったようです。下の図は、タイタンの内部の想像図です。オレンジ色の大気の下には、地殻にあたる氷の層(灰色)があります。その下には液体の海が存在するという仮説もあり、この図ではそれが青色で示されています。その下にも氷の層(灰色)があり、さらにその下は氷と岩石が未分化のままミックスされた状態になっています。

titan

一方、タイタンの表面の様子も次第に明らかになってきました。フランク・ハーバートのSF『デューン』シリーズに登場する惑星の名前からとられたシクン・ラビリンサス(シクンの迷宮)とよばれる地形は、地球のカルスト地形によく似ています。氷に有機物が混じったタイタンの表面を液体のメタンやエタンが流れて侵食してできた地形かもしれません。

sikun
スピリット、4度目の冬へ
火星ローバー、スピリットは4度目の冬を越すための態勢に入りつつあります。太陽電池板をできるだけ太陽の方向に向けるため、機体の傾きを変える操作が行われました。それでも、太陽電池板は南に9度ほど傾いた状態にあるため、北方向にある太陽のエネルギーを受けづらくなっています。越冬中には電力が不足するため、スピリットは間もなくハイバネーション(省電力)モードに入り、冬眠して厳しい火星に冬を乗り切る予定です。

下の画像は、現在のスピリットの状況で、後部障害物回避カメラから足元を撮影したものです。

spirit
火星ローバー、スピリットに新しい任務
火星ローバー、スピリットは昨年4月以来、砂に車輪をとられて立ち往生しています。これまで、砂地から脱出させるための作戦が行われてきましたが、NASA はスピリットを移動させる試みはこれ以上行わず、今後は定点観測ステーションとして運用していくことを決定しました。

この決断は、冬の到来を前にして下されました。スピリットは赤道から少し南の地点にいますが、火星の南半球は現在秋で、5月がもっとも寒くなります。この時期には気温はマイナス40℃ 以下になるため、スピリットの電子機器類をヒーターで暖めておかなくてはなりません。スピリットの背中についている太陽電池板はわずかに南を向いた状態にあります。太陽の高度は次第に低くなりつつあり、発電量はどんどん減っています。砂地から脱出させるために車輪を駆動して電力を使ってしまうと、冬を生き延びるための最低限の電力もなくなってしまう心配があるのです。

スピリットには新しい科学観測の任務が与えられたといってよいでしょう。スピリットは今後、火星の自転にともなう微少な揺れの観測などを行うことになります。わずかな揺れのデータから、火星の金属コアに融けた部分があるかどうかが分かるかもしれません。

車輪を動かすかわりに、太陽電池板の角度をできるかぎり太陽の方向に向ける措置がとられることになっています。きびしい冬を生き抜くための、スピリットの新しい挑戦がはじまります。
アナザーワールド
『タイム』誌の「イヤー・イン・ピクチャーズ 2009」の1枚に、カッシーニ探査機が撮影した土星の写真が選ばれました。「アナザーワールド」と題された下の写真がそれです。

カッシーニ探査機が撮影した土星

この写真は今年の8月12日、太陽の光が真横から土星に差したときに撮影されました。そのため、土星の表面には環の影が落ちていません。このような現象は15年ごとにおこります。自然の色を再現するため、赤、緑、青のフィルターを用いて撮影されました。暗黒の宇宙空間に浮かぶ土星の繊細な美しさが見事に表現されていて、まるで1枚の絵画を見ているようです。

土星の印象的な写真として、これに匹敵するのは、ボイジャー1号が1980年11月16日に撮影したものしかないでしょう。土星に最接近後4日目にとられたもので、人類がこうしたアングルから土星を見たのは、これが初めてでした。カメラの解像度は今ほどではありませんが、それだけに光と影のコントラストが強烈で、土星とその環の美しいプロポーションが完璧に表現されています。

ボイジャー1号が撮影した土星

恒星間空間を目指すボイジャー・ミッションは今も継続中です。同ミッションのウェブサイトによると、2009年12月20日現在、ボイジャー1号は太陽から167億5347万kmの彼方を飛行中です。

カッシーニのニューイヤー・カードです。皆さん、良いお年を。
カッシーニのニューイヤーカード
カッシーニ・ミッションのクリスマスカード
土星とその衛星の探査を続けているカッシーニ探査機からのクリスマスカードです。贈り物の箱を開けると、中から土星と衛星が飛び出してくるというデザインです。

カッシーニクリスマスカード

カッシーニ探査機は1997年に打ち上げられ、2004年に土星に到達しました。それ以来、数多くの興味深い発見をしています。その中の1つは、衛星エンケラドスから噴き出すジェットです。また、かすみにおおわれている衛星タイタンの表面も観測しており、次第に全球の地図ができあがりつつあります。

そのカッシーニ探査機からの洒落たデザインのカードを、私はいつも楽しみにしています。その中の何枚かを紹介しましょう。左上は今年のハロウィーン、右上は去年のハロウィーンのカードです。左下は今年のバレンタイン、右下は去年のクリスマスカードです。

カッシーニカード

カッシーニ探査機は地球から12億km以上も離れたところで観測をしていますが、こうしたカードがミッションチームから送られてくると、カッシーニがとても身近に感じられるから不思議です。
「はやぶさ」とスピリット:2つの探査機
一時、地球への帰還があやぶまれた小惑星探査機「はやぶさ」は、満足に働かなくなった4基のイオンエンジンのうち、まだ動いているスラスターA の中和器と、スラスターB のイオン源を組み合わせることによって、1基のイオンエンジン分の推進力を得るという離れ技で、ふたたび地球への帰還を開始しました。まさに、「立ち直りの早い」そして「型破り」な探査機の面目躍如といったところです。もちろん、予断を許さない状況は続いており、「はやぶさ」チームにとっては、息の抜けない日々が続いています。

火星では、もう1つの型破りな探査機が、砂からの脱出を試みています。NASA の火星ローバー、スピリットは、双子の探査機オポチュニティーとともに、すでに6年近く火星の探査を続けています。3度のきびしい火星の冬にも耐えてきました。スピリットのこれまでの移動距離は合計で7.73km に達していますが、トロイとよばれる場所で砂に車輪をとられ、立ち往生しています。

スピリットのチームは、砂からスピリットを脱出させるため、慎重に検討を重ねた上で、11月17日に、スピリットを前進させるコマンドを送りました。しかし、スピリットが動きはじめたとたんに、姿勢(傾き)の変化が設定限度の1度を超えてしまったため、1秒もたたずに停止しました。11月19日に行われた2度目の試みでは、スピリットは12mm 進みました。11月21日の3回目の試みでは、スピリットは4mm 進みましたが、右の後輪がストールしたため、停止しました。11月24日には状況を診断するために前進のコマンドが送られ、スピリットは2.1mm 進みました。11月28日にも前進のコマンドが送られましたが、やはり右の後輪がストールし、0.5mm しか進みませんでした。

スピリットのチームはこうした結果を慎重に検討しながら、次の対策を立てています。スピリットの状況を判断するには、テレメトリーデータ以外に、スピリットのカメラからの画像が重要な役割をはたしています。しかし、データの伝送に時間がかかるため、状況をすぐに把握できない状態が続いています。

下は、スピリットの前部障害物回避カメラが撮影した、11月28日の前進が終わった後の写真です。真中に黒く見えているのは、顕微鏡カメラなどの観測装置を取り付けてあるロボットアームの影です。スピリットの右前輪は2006年に動かなくなっています。そのため、スピリットはこのところずっと、後向きに移動してきました。写真に両輪のわだちが見えており、右前輪のわだちが引きずったように見えるのはそのためです。

スピリット

スピリットのマストの上についているパノラマ・カメラとナビゲーション・カメラは360度の撮影が可能です。またローバーの胴体下部についている障害物回避カメラは前と後ろについているので、スピリットは後ろ向きの場合でも、カメラで進行方向を確認しながら進むことができます。現在、「前進」のコマンドが送られているのは、砂に車輪をとられた場所から後退して脱出することを意味しています。
スピリット救出作戦、スタートへ
NASA の火星ローバー、スピリットは今年の4月23日、今ではトロイと呼ばれている場所で車輪を砂にとられ、移動不能な状態におちいりました。下の画像は、スピリットの状態を示しています。スピリットの6つの車輪のうち、以前から作動していない右前の車輪を除き、残りの5つの車輪は砂に埋もれてしまい、もう少しでローバーの腹が砂に接しそうになっています。

スピリットの状態

ジェット推進研究所では、スピリットを脱出させるための検討作業が懸命に続けられてきました。この作業は火星と同じ性状の砂をつくることからはじまり、この砂を使ったトロイの環境を室内につくり、ここでローバーの実物大模型を動かして、いかにすればスピリットを脱出させられるかが調べられました。

脱出方法の検討

NASA はこれまでの検討を踏まえ、月曜日から、スピリットを救出するための作業を開始すると発表しました。この作業はまず、スピリットの生きている5つの車輪をそれぞれ前進方向に少しだけ回転させてみることからはじまります。その結果をみて、実際にスピリットを脱出させる手順を来年はじめまでに作成するとのことです。いずれにしても、この救出作戦は時間がかかりそうです。

火星ローバー、スピリットとオポチュニティーは2004年1月に火星に着陸しました。ミッション期間は90日の予定でしたが、2機のローバーは現在も生存しており、火星での滞在期間は2000火星日(1火星日は約24時間37分)を超えています。私はこの2基のローバーが地球に送ってきた驚くべきパノラマ写真を紹介した本『火星からのメッセージ』(ランダムハウス講談社)の翻訳監修をしました。そのような縁もあって、スピリット救出作戦の行方には特別の関心をもっています。
型破りで、ハイリスクで、想像力に富む探査機
小惑星探査機「はやぶさ」にイオンエンジンの異常が発生し、2010年6月の地球帰還とサンプル回収があやぶまれる状況になっています。

2005年9月に小惑星「イトカワ」に到着した「はやぶさ」は、同年11月20日と26日に「イトカワ」への着陸を敢行し、26日の2回目の着陸では「イトカワ」のサンプル採取に成功しました。ところがその後の姿勢制御中に化学推進ロケット燃料のリークが発生し、12月9日には「はやぶさ」を運用できない事態に至りました。このため当初計画されていた2007年6月の地球への帰還は困難となり、2010年6月の帰還へと計画が変更されました。

はやぶさ

その後、「はやぶさ」は満身創痍の状態ながら航行を続け、地球帰還へもう少しのところまで来ていました。しかしながら2回目の軌道変換を行っている最中に、イオンエンジンの1基が停止してしまったのです。「はやぶさ」には4基のイオンエンジン(スラスターA〜D)が搭載されていますが、このうちスラスターA は打ち上げ直後に異常が発生して運用を停止、スラスターB も中和器の劣化により運用を停止しています。残りのスラスターC とD で地球への帰還を目指していたのですが、両者にも中和器の劣化が生じており、いつ異常が発生してもおかしくない状態でした。

「はやぶさ」運用チームでは、現在、探査機の状況を確認し、地球帰還に向けた対策を検討中とのことです。なんとか、小惑星のサンプル回収という「はやぶさ」ミッションの最終目標を達成してもらいたいところです。

もしも現在のきびしい状況が解決されず、「はやぶさ」の最終目標が達成されなくても、「はやぶさ」が世界の惑星探査ミッションに与える影響はきわめて大きいといえるでしょう。この点について私が思い出すのは、2005年12月、「はやぶさ」運用チームが地球帰還に向けて悪戦苦闘しているときに、アメリカのジャーナリスト、ジェームズ・オバーグ氏が送ってきた電子メールです。

オバーグ氏はNBCで宇宙関係のコメンテーターをつとめています。その彼が「はやぶさ」についてNBC とMSNBC に書いた記事を、私にぜひ読んでほしいと送ってきたのです。”The real promise of Japan’s asteroid mission” というタイトルのその記事には、次のように書かれていました。

「太陽の反対側で、日本の探査機は危機的状況と戦っている。計画のゴールは、小惑星のサンプルとともに、何年にもわたる惑星間空間のオデッセイから帰還することである。危機はこれまで何度もあったが、コントロールチームはそのたびに切り抜けてきた。・・・もしもゴールがチームの手からすべり落ちてしまったとしても、このきわめて革新的で立ち直りの早いミッションは、おそらくもっと大事なものを地球に持ち帰るだろう。型破りで、ハイリスクで、想像力に富む宇宙技術に対する新たな関心である。NASA やロシア宇宙庁のような巨大宇宙機関は、何十年も前のアイデアにお金を使い続けてきた」

オバーグ氏がいいたかったのは、限られた予算ではあっても、「はやぶさ」のような「型破りで、ハイリスクで、想像力に富む」探査機こそが、これからの惑星探査の世界を切り拓くのだということです。日本の月・惑星探査計画が進むべき道を、「はやぶさ」は身をもって示しているといえるでしょう。

「型破りで、ハイリスクで、想像力に富む」探査機がいかに大切であるかは、NASA の火星探査計画でも証明されています。NASA は1976年に2基のバイキング探査機を火星に着陸させました。バイキングは、いわば重量級の探査機の典型といえるでしょう。しかしながら、その後のNASA は長い間、火星に探査機を送ることはなく、1992年に打ち上げたマーズ・オブザーバーは火星に到達する直前に失われました。こうした中で1996年に打ち上げられたのがマーズ・パスファインダーです。

マーズ・パスファインダーは、バイキングの15分の1という低予算で、「ソジャーナー」と名づけられた小型ローバーを火星に送るという計画でした。着陸には逆噴射ロケットではなくエアバッグを使用し、火星表面に「軟着陸」させるというよりは、「落とす」という方式をとりました。現在も活動している火星ローバー、スピリットとオポチュニティーを運用しているコーネル大学アテナ・サイエンス・チームは、マーズ・パスファインダー計画について、次のように述べています。「マーズ・パスファインダー・ミッションの最大の危険は、打ち上げでも、惑星間飛行でも、火星表面の過酷な環境でもなく、打ち上げ前にキャンセルされることにあった。評価者はミッションをあまりにもリスキーなものとみなしており、多くの専門家が不可能だと考えた。しかし、パスファインダー・チームはいくつものチャレンジを克服し、最も成功した火星ミッションの1つを生み出した」

マーズ・パスファインダーの成功によって、約2年ごとに訪れる火星への打ち上げ機会のたびに、火星探査機が打ち上げられるという時代がはじまりました。惑星探査機にとって一番大事なのは予算ではなく、先進的なアイデアと困難への挑戦なのです。
小惑星アポフィスが地球に衝突する確率
2004年に発見された小惑星アポフィス(下の写真)は、2036年4月13日に地球に接近します。当初の計算では、地球に衝突する確率は4万5000分の1とされ、一時騒がれたことがありましたが、最近行われた精密な観測にもとづく軌道計算によって、その確率は25万分の1程度であることがわかりました。

小惑星

地球に接近する小惑星をNEO(地球近傍天体)とよびます。NEO にはアポロ型、アテン型、アモール型があります。アポロ型とアテン型は地球の軌道を横切る軌道をとっています。アモール型は地球のすぐ外側をまわっている小惑星です。このほか、地球のすぐ内側をまわっている小惑星も、地球に接近することがあります。アポフィスはアテン型の小惑星で、JPL のSmall-Body Database Browser によると、その直径は270mとされています。

アポフィスが地球に衝突する確率は非常に低く、心配する必要はありませんが、将来、地球に衝突する確率の高い天体が発見された場合、衝突を回避するためにはどうしたらよいでしょうか? NASA は2007年3月に議会に提出したNEO に関する報告書で、NEO の探索法などに加え、衝突を回避するための方法についても詳細に検討しています。

最も有効なのは、やはり核爆発を利用する方法です。小惑星の近くで核爆発をおこし、軌道をそらすのです。核爆発を利用する方法にはこの他、核爆発物を小惑星に衝突させ、その瞬間に爆発させる方法、核爆発物を表面に着陸させ、適当なタイミングで爆発させる方法、さらには小惑星の内部に突入させてから爆発させる方法もあります。これ以外に、通常の爆薬を用いる方法も考えられます。

爆発以外で軌道を変える方法もいろいろ考えられています。たとえば、巨大なミラーで太陽光を集めて小惑星の一部を蒸発させ、その時の反作用で軌道を変えようという案、宇宙船を小惑星に接近させ、レーザーパルスで小惑星の一部を蒸発させる方法、小惑星にマスドライバーを着陸させ、掘削した小惑星物質をマスドラーバーで放出して、その反作用で軌道を変える案、宇宙船を長期間にわたって何度もフライバイさせ、その際の引力で小惑星の軌道を少しずつ変える案、小惑星に宇宙船を着陸させ、小惑星を押して軌道を変える案、何らかの方法で小惑星表面に「色」を塗り、太陽光の反射率を変えることによって少しずつ軌道を変える案などです。

どの方法をとるにせよ、効果的に軌道を変更させるには、小惑星がどのような物質でできており、どのくらいの密度をもっているのかといった情報が必要です。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワは、内部に空隙が多く、がれきが積み重なったようなラブルパイル構造をしていました。小惑星については、まだわからないことがたくさんあります。

地球に衝突する潜在的危険性のあるNEO を探索したり、衝突回避の方法を研究するスペースガード活動は、世界各国で行われています。小惑星探査は、太陽系の起源や進化を探るためだけでなく、スペースガードにとっても重要な意味をもっています。
NASA のLCROSS、月面衝突に成功
NASA の月探査機LCROSS(エルクロス)が本日午後8時31分(日本時間)に、月の南極にあるカベウス・クレーターの内部に衝突しました。LCROSS ミッションは、月の南極にあるクレーターの永久影(1年中太陽の光が差さない場所)に水の氷が存在するかどうかを調べるために計画されました。衝突実験は成功しました。

私はNASA TV で、LCROSS の最後の瞬間を見守っていました。下の写真のように、画面に映っている月面が次第に近づいてきます。やがてターゲットとなるカベウス・クレーターがどんどん大きくなっていきました。とはいっても、クレーター内には光が差さないので、真黒な影が大きくなっていくだけです。LCROSS が衝突する4分前には、LCROSS から10時間ほど前に分離されたセントール・ロケットが先に衝突したはずですが、衝突の閃光やその他の兆候は、画面を見ている限りでは、確認できませんでした。

LCROSS月面衝突直前の画像

LCROSS の衝突の様子は、月を周回しているNASA の探査機LRO や地上の大型望遠鏡によって観測されました。衝突によって噴き上げられたちりや蒸発物の分析によって、クレーターの底にある物質や、水の存在の有無がわかります。水の存在が確認されれば、将来の有人基地建設にとって、非常に重要な意味をもちます。水が発見できなくても、それはそれで、大きな科学的成果となります。
火星大気の散逸過程を探るMAVEN ミッション
NASA の火星大気探査ミッション MAVEN のPI(主研究者)であるコロラド大学のブルース・ジャコースキー教授と、何度かメールのやりとりをしました。MAVEN ミッションと太陽活動の極大期の関係について、少し教えてもらいたいことがあったからです。

火星探査機MAVEN

現在の火星の大気は希薄ですが、かつて火星には温暖で大量の水が存在した時代があり、そのころには今よりも濃い大気があったと考えられています。火星の大気が宇宙空間に失われていくことを、火星大気の「散逸」とよんでいます。かつて火星にはどれだけの大気があったのか、その組成はどうだったのか、いかにして現在のような大気になったのか、というような火星大気の進化を考える上で、火星大気の散逸過程や散逸率を知ることはきわめて重要です。もちろんそれは、現在の火星大気で何がおこっているのかを知ることにもなります。

火星が誕生して間もない時期には、多数の小天体による衝突が原始大気を散逸させた可能性があります。しかし現在にいたる火星の歴史を通じて最も重要な役割を果たしているのは、太陽の放射と太陽風(太陽からのプラズマ)であると考えられています。MAVEN は、この火星大気の散逸過程における太陽の役割を調べるためのミッションなのです。

よく知られているように、太陽活動には約11年の活動周期があります。火星大気の散逸に太陽がどのように影響を与えているかを調べるのであれば、太陽活動が極大期に近いあたりで観測を行う必要があるでしょう。一方、火星への探査機の打ち上げ時期は約2年に1度しかめぐってきません。そのようなわけで、MAVEN ミッションと太陽活動の極大期の関係をジャコースキー教授に聞きたかったのです。

ジャコースキー教授によると、次の太陽活動の極大期は2013年とみられており、MAVEN はこの2013年に打ち上げられ、2014年に火星に到達し、1年間の観測活動を行います。すなわち、MAVEN が観測を行うのは、太陽の活動が極大期から急速に落ちていく時期にあたるわけですが、この時期に観測を行うのが重要なのだとジャコースキー教授はいいます。MAVEN ではミッション中に、このような太陽の活動度がことなる時期の観測を行うと同時に、「ディープ・ディップ」とよばれる一時的な軌道降下を5回行って、火星の高層大気だけでなく、下層大気の観測も行うことになっています。

NASA は小型で安いコストででき、科学目的を絞った探査機を火星にシリーズで送り込むスカウト計画を進めており、MAVEN は、2008年に火星の北極に着陸したフェニックス・マーズ・ランダーに続くスカウト計画第2弾のミッションです。2008年9月に、20のプロポーザルの中から選ばれました。

MAVEN ミッションにはコロラド大学の他、カリフォルニア大学バークレイ校、NASA のゴダード・スペース・フライト・センターなどがチームに加わってサイエンスをしっかり固め、ロッキード・マーチン社が参加してマーズ・オデッセイやマーズ・リコネッサンス・オービターと基本的に同じ探査機本体を製造します。軌道の解析はジェット推進研究所が担当します。

今後のスケジュールは2011年に設計を完了して機体の製造に入り、2013年11月18日〜12月7日に打ち上げ、2014年9月に火星周回軌道に到達します。その後1年間観測を行って2015年中に運用を終了し、2016年はじめにはプロジェクト全体を完了させる予定です。スカウト計画応募のための作業をはじめてから計画完了まで10年というフットワークの軽さは、今後の惑星探査の1つの方向性を示しているように思えます。

3D MOON の試写会
月周回衛星「かぐや」のプラネタリウム向け全天周映画「3D MOON」の試写会に行ってきました。3人の子供たちが月からやってきたウサギに導かれて、月を旅する物語です。「かぐや」の観測成果が随所にもりこまれており、3Dメガネをかけて迫力のある映像を楽しめます。今後、全国のプラネタリウムで上映される予定ですが、それに先立ち、9月22日から30日(26日を除く)の午後3時30分から、東京の科学技術館で一般上映されます。

3D MOON

「かぐや」は2009年6月に運用を終了しましたが、その観測成果は論文として今後も続々と発表されるでしょう。最近『ネイチャー』誌に掲載された論文は、マルチバンドイメージャによる成果で、月の高地の各所で斜長石の純度が非常に高い斜長岩が発見されたというものです。月の地殻の形成プロセスを考える上で、興味深い論文です。
ヨーロッパとロシア、火星探査で協力
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が計画中の火星探査機「ExoMars」が、2016年にロシアのプロトンロケットで打ち上げられることになりました。ExoMarsは火星に着陸し、表面を移動しながら、火星にかつて生命が存在したかどうかを調べることになっています。当初は2013年に打ち上げられることになっていましたが、計画は遅れていました。

ExoMarsはもともとアリアン5ロケットで打ち上げの予定でしたが、今回、火星探査に関するロシアとの協定がまとまり、コストが格段に安いプロトンでの打ち上げになったというわけです。

また、ロシアが2009年にソユーズ2ロケットで打ち上げを予定している「Phobos Grunt」がESAの地上ネットワーク施設を利用することも合意されました。Phobos Gruntは火星の衛星フォボスに軟着陸し、試料を地球にもち帰ることを目的としています。また、Phobos Gruntと一緒に中国初の火星探査機「蛍火1号」も打ち上げられます。

今後の火星探査に関しては、アメリカやヨーロッパに加え、ロシア、インド、中国などが、さまざまな国際協力も含めて計画を進めています。それにくらべると、日本の火星探査計画は一歩遅れているという感じは否めません。できるかぎり早く、戦略的観点から日本の火星探査計画を見直す必要があります。

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