1816年の夏:映画『メアリーの総て』

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    The Year of 1816Haifaa al-Mansoor’s Mary Shelley

     

    『フランケンシュタイン』の作者であるメアリー・シェリーを描いたハイファ・アル=マンスール監督の『メアリーの総て』の試写会に行ってきました。

     

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    © Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

     

    素晴らしい映画でした。自らの道を切り開いていくメアリーの魅力的な女性像については、ここに書くより実際に映画を見ていただく方がいいでしょう。

     

    1816年は気象学者には「夏のなかった年」(The year without a summer)として知られています。前年のインドネシア、タンボラ火山の大噴火で大量の二酸化硫黄ガスが成層圏に達して硫黄の雲を作り、太陽の光を遮りました。そのためヨーロッパや北アメリカでは寒冷な夏となったのです。雨の日が続くその1816年の6月、ロマン派の詩人であるジョージ・ゴードン・バイロン卿とパーシー・ビッシュ・シェリー、そのパーシーと駆け落ちをしていたメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン(まだシェリーと結婚していなかった)、メアリーの異母妹であるクレア・クレモント、そしてバイロンの医師ジョン・ポリドーリの5人は、レマン湖畔のバイロンの館、ディオダティ荘に滞在していました。メアリーはこの時、18歳でした。

     

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    © Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

     

    ある夜、バイロン卿はそれぞれがゴーストストーリー(幽霊小説)を書こうと提案します。この夜の出来事から、フランケンシュタインとドラキュラという私たちが誰でも知っているSF・ホラー界の2大スーパースターが誕生することになります。それ自体がまるで文学作品のようですが、これは実際にあった出来事であり、「1816年の夏」(The summer of 1816)として語り継がれています。

     

    ディオダティ荘での出来事を描いた映画には、1986年の『ゴシック』をはじめ、いくつかの作品がありますが、メアリー・シェリーに焦点をあて、史実にかなり忠実に、少女時代から『フランケンシュタイン』出版までを描いた作品はこれが最初ではないでしょうか。

     

    メアリー自身が書いているように、ディオダティ荘でのある夜、メアリーは突然驚くべきイマジネーションにとらわれます。青白い顔をした科学者が死体をよみがえらせる場面です。「ぞっとするような恐怖をよびさます物語」を書こうと思っていたメアリーに『フランケンシュタイン』の発想が舞い降りてきた瞬間でした。『メアリーの総て』には、メアリーが堰を切ったように「11月のとあるわびしい夜のことでした」と書き始めるシーンが登場します。この文章はフランケンシュタインがつくりだした怪物が生命を与えられ、体の一部が動き出す章の書き出しとなりました。

     

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    © Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

     

    ディオダティ荘から帰ってきてからも、メアリーは執筆を続け、作品を完成させます。『フランケンシュタイン――あるいは現代のプロメテウス』の初版が出版されたのは1818年で、今年は出版から200年にあたります。この時、作者は匿名とされ、1831年の第3版で、ようやくメアリーの名が作者として明らかにされました。

     

    『フランケンシュタイン』はゴシックロマンスの代表作とされていますが、それにとどまらず、SF文学の原点となる位置を占めています。米国でエドガー・アラン・ポーがメアリーやゴシックロマンスの世界を引き継ぐ作品を書き始めるのは1830年代です。その作風に関心をもったともいわれるフランスのジュール・ヴェルヌがSF作品を発表するのは1860年代から。英国でHG・ウェルズがSF作品を書くのは1890年代からのことです。また、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズの第1作『緋色の研究』が発表されたのは1886年、チャレンジャー教授が活躍する『ロスト・ワールド』が発表されたのは1912年です。今日の豊かなSF世界をつくりあげたこれらの源流のさらにその源に、『フランケンシュタイン』は位置しているのです。

     

    『フランケンシュタイン』では、本文が始まる前にミルトンの『失楽園』の以下の引用があります。

    「土くれからわたしを、創り主よ、人の姿に創ってくれと

    わたしがあなたに求めたろうか? 暗黒より

    起こしてくれと、あなたにお願いしただろうか?――」

     

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    © Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

     

    自分はなぜ生まれてきたのか? これは人工的につくられた生命体にとってきわめて切実な問いです。フランケンシュタインの怪物の孤独や絶望、苦悩は、『ブレードランナー』をはじめとするレプリカントもののSF作品に受け継がれ、今日でもその意義を失っていません。

     

    なお、ポリドーリも夏の間に吸血鬼に関する物語を完成させます。吸血鬼のモデルはバイロン卿だったといわれるこの作品も評判になり、これが1897年のブラム・ストーカーの『ドラキュラ』を生み出すことになりました。

     

    『メアリーの総て』では、ディアダティ荘にヨハン・ハインリヒ・フューズリの絵画『夢魔』がかかっていました。バイロン卿はフューズリの作品が気に入っていたので、この設定はあながち不自然ではありません。この絵画は『フランケンシュタイン』に影響を与えたといわれています。メアリーの母であるメアリー・ウルストンクラフトはフューズリの恋人だった時期もありました。『ゴシック』にもこの絵画が登場しますが、実はユニバーサル映画のフランケンシュタイン・シリーズ第1作『フランケンシュタイン』(1931年)にも、この絵画をモチーフにした場面がありました。

     

    フューズリが『夢魔』を発表したのは1781年でしたが、当時非常な評判になり、その後同じ作品を何枚も描いているようです。現在確認されているのは4点で、オリジナルはデトロイト美術館にあります。フランクフルトの「ゲーテの家」にある『夢魔』はデトロイト美術館の作品とは左右が反転した構図になっています。私はブックフェアの際に何度か見に行きました。残りの2点は個人蔵とのことです。

     

    メアリーの生きた時代の英国を、もう少し広い視野でみてみましょう。

     

    当時はロマン派の時代であり、ウィリアム・ワーズワースやサミュエル・テイラー・コールリッジ、バイロン、シェリー、ジョン・キーツなどの詩人が活躍しました。ロマン派とは古典主義に対して個人の感情や想像力、自由などに重きを置く芸術の潮流です。メアリーの父であるウィリアム・ゴドウィンはロマン派の人々との交流があり、メアリーも少女時代からその世界に親しんでいたと考えられます。

     

    『フランケンシュタイン』にはシェイクスピアやミルトン、ゲーテなどの影響が指摘されており、メアリーは若くして高い文学的素養を身に着けていたことがわかります。メアリーの作家としての活動は、女性が小説を書くことが珍しかった時代に優れた文学作品を生みだしたジェーン・オースティンやブロンテ姉妹などと一緒の系譜に位置づけられるものです。こうした伝統は時代を下って1930年代の英国の主婦たちに受け継がれました。彼女たちがキッチンで書いたハッピーエンドのロマンスはミルズ&ブーン社から次々と発表され、それが現在のハーレクイン・ロマンスにつながっていきます。

     

    美術の分野でいえば、当時は「美」と「崇高」という概念を規範とするピクチャレスクの時代でした。ピクチャレスクは湖水地方の美しい風景画や庭園設計に影響を与えながら、一方でゴシックロマンスの世界とも親和性をもち、ユベール・ロベールなどの廃墟の美学にもつながっていました。

     

    さらに1848年にはダンテ・ゲイブルエル・ロセッティらによってラファエル前派が結成されました。日本でも人気のあるラファエル前派の画家たちはロマン派の詩人から大きな影響を受けました。特にキーツは彼らのお気に入りでした。ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスにはキーツの「つれなき乙女」や「レイミア」を題材にした作品があります。「聖アグネス祭前夜」はアーサー・ヒューズやジョン・エヴァレット・ミレイが題材にしています。

     

    『メアリーの総て』には、ラファエル前派の絵画を思わせるシーンが何回か登場します。

     

    メアリーが生きた時代の詩人や作家や画家たちは、誰をとってもとても魅力的です。『メアリーの総て』を見た後、この時代の文学や美術に触れてみると、この映画がより興味深く、より身近に感じられるのではないでしょうか。


    RACER:エアバス社が開発中の高速ヘリ

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      RACER High Speed Demonstrator

       

      エアバス社では高速ヘリコプターRACERを開発中です。

       

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      今年中に設計審査を行い、来年には機体組み立てを終えるとのことですので、2020年早々にはデモ飛行が実現すると思われます。

       

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      RACERは従来のヘリコプターとボックスウイングの固定翼機を融合させた設計になっています。垂直離着陸時にはメインローターを使い、巡航時にはメインローターとプロペラを使います。プロペラは後方に向けたプッシャー式で、左右に1基ずつ設置されます。プロペラはテイルローターの役目も果たします。

       

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      RACERはこれまでのヘリコプターの15倍の速度で飛行できるとのことです。将来の都市圏交通に新たな可能性をもたらすでしょう。また、大災害発生時にはいわゆる「72時間の壁」があり、この時間内に救出ができないと生存率が激減します。RACERが実現すれば、救出率は格段に改善されます。また、緊急患者の搬送などにも活躍するでしょう。


      オライオン宇宙船の太平洋での回収試験

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        Recovery Test of the Orion Capsule in the Pacific Ocean

         

        111日に行われたオライオン宇宙船の太平洋での回収試験の様子です。美しい夕日を背景にしたオライオンのカプセルとその奥のアメリカ海軍のドック型揚陸艦ジョン・P・マーサが印象的です。

         

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        オライオン宇宙船はNASAが開発中の深宇宙探査用有人宇宙船です。


        小惑星ベンヌの超高解像度画像

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          "Super-resolution” View of Asteroid Bennu

           

          NASAの小惑星探査機オサイレス・レックスが目指す小惑星ベンヌの最新画像が公開されました。

           

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          ベンヌはそろばんの珠の形をしており、リュウグウとよく似ていることがわかっていました。今回発表された画像は、オサイレス・レックスが1029日に330kmの距離から撮影したものです。ベンヌは1分間に1.2度のスピードで自転しています。自転につれて少しずつ姿が異なる8枚の画像を特別のアルゴリズムで処理して超高解像度にしたものです。表面にたくさんのボールダー(岩塊)がある点も、リュウグウに似ています。

           

          オサイレス・レックスは現在、ベンヌへの最終アプローチをしているところで、123日に距離20kmのホームポジションに到着する予定です。

           


          ソユーズMS-10打ち上げ失敗の原因はセンサーの異常

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            Soyuz MS-10 Launch Failure Caused by an Errant Sensor

             

            ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター所長のセルゲイ・クリカリョフは、1011日のソユーズMS-10の打ち上げ失敗はセンサーの異常によるものだと述べました。第1段の4本のブースターが第2段ロケットから切り離される際、1本のブースターでセンサーが働かず、うまく分離しませんでした。そのため、このブースターが第2段ロケットに衝突して損傷させてしまったのです。これは、ソユーズMS-10 のオンボードカメラからの映像で確認することができます。

             

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            上の画像は打ち上げ直後の映像で、ロケットは順調に上昇しています。しかし、ブースター切り離しの際に異常が起こりました。下の画像はブースター切り離しの瞬間ですが、カメラに写っている3本のブースターのうち、左のブースターが離れていません。

             

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            これは、通常のブースター切り離しの際の映像(下)と比べてみれば、よくわかります。

             

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            左のブースターは下部のストラットは火薬で分離していると思われますが、先端部は第2段に付いたままです。先端部を分離させるために圧搾酸素を噴射するベントバルブが作動していないとみられます。この事象にセンサーの異常が関連しているのでしょう。ブースターは第2段ロケットの燃料タンクの隔壁を破壊したとみられます。下の映像では炎が発生しています。

             

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            次の瞬間、第2段ロケットは炎に包まれました。この直後、緊急脱出システムが作動し、クルーの乗ったカプセルはフェアリングごと切り離されました。

             

            下の画像は、それから1秒もしない時点の映像ですが、左上に地球の縁が写っており、煙を吐く第2段ロケットはあらぬ方向を向いており、制御を失っているのがわかります。

             

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            失敗の原因が明らかになったことを踏まえ、ロシアは12月半ばには次のクルーの打ち上げを考えていると思われます。NASAも、ロシア側の対応に問題がないとすれば、12月の打ち上げに同意するでしょう。国際宇宙ステーションが無人になる事態は避けられるかもしれません。


            ソユーズ・ロケット第1段の分離システム

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              Booster Separation of the Soyuz Rocket

               

              ソユーズMS-10の打ち上げ失敗は、第1段切り離しの際に、第1段の4本のブースターのうちの1本がうまく分離せず、第2段に衝突したことが原因とみられています。第1段のブースターは下の画像のようにコア・ロケット(第2段)にとりつけられています。

               

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              以下はソユーズ第1段分離の際の地上からの映像です。

               

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              左は以前の打ち上げで、分離の様子がわかるように夜間打ち上げの映像から選びました。5つの光の点のうち、中心が第2段エンジンの光、その周囲が分離直後の第1段エンジンの光です。分離したロケットが点対称にきれいに広がっています。右は今回の分離の際の映像で、第2段分離の様子が明らかにおかしいことが分かります。

               

              1段のブースターは2か所で第2段と結合しています。ブースターの下部では2本のストラット(支柱)で第2段と結合しており、分離の際には火薬で切り離すようになっています。

               

              ブースターの先端部は下の画像のようにボールジョイントになっています。

               

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              この先端部は下の画像のように、第2段の出っぱりに挿入されています。ブースターが燃焼中、その推力はこの箇所から第2段に伝えられます。先端部の少し下の内側には、先端部を分離させるために圧搾酸素を噴射するベントバルブがあります。

               

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              ブースターが分離される際には、まずブースター下部のストラットが分離されます。

               

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              その後、先端部のベントバルブが作動して、ブースターは切り離されます。

               

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              今回は4本のブースターのうちの1本のベントバルブが作動しなかった可能性があります。そのため、不具合の起こったブースターが第2段を破損させてしまったのではないでしょうか。



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